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一章:さようなら、私の愛したひと
彼にとっての女神様
枯れかけたネモフィラを撫でながら魔力を注いでいくと、変色した花に色が戻ってきた。
クロツィア邸はリーゼグリュン王国の東端の辺境に建っている。ここ一帯の性質上、草木は一瞬にして枯れてしまうのだ。クロツィア家は結界を張ってその性質を中和させたものの、やはりというべきか植物はちゃんと世話をしていても一週間ほどで萎れてしまう。なんでこんなに不便なところに住居を建てたんだ……という思いがないでもないが、それには触れないでおこう。
初めてこの庭を見たときは本当に驚いた。せっかく広大な土地があるというのに草木は愚か、池さえもなかったここは、庭と言っていいのかと悩むほど。そこで毎月一度来て食料を売っていく行商人に声をかけ、白樺の苗などを買い取って【ローザリンデ・ワールド】(私が今命名した)を作り上げたのだ。ちょうどいいことに魔力は有り余っていたし、枯れた草木を再生させるなんて朝飯前のことだった。水も行商人から買い入れ、池も自作してしまった。魔力を注ぎ込んで潤いを保ってさえいれば池が枯渇することもない。
結婚当初からラインハルト様は私のすることに興味を持っていなかったので庭を改造しても何も言われなかった。あの時の私は彼に綺麗な花を見せたい、という今では考えられない純粋すぎる気持ちで庭を作っていたのだが彼がそれに気づくはずもなく。
花壇全部の花に魔力を注ぎ込んだのを確認した後、不意に上を見る。
私の目に映ったのはラインハルト様の後ろ姿。小さくため息をついて手元に視線を戻す。書斎がある二階の真下にあるここに花壇を設置したのは、彼の姿を少しでも見ていられるから。彼は私と顔を合わせることさえ嫌ったから、彼をゆっくりと見ることができるのはこの場所だけだった。
……花壇の場所変えようかな。
本気でそう考えた時、私を呼ぶ明るい声が耳に届いた。
「奥様、お客様ですよ!」
「ああ、トム。ありがとう」
トムは私に懐いてくれている使用人の一人だ。彼のふわふわとした柔らかな栗色の髪と垂れた目は幼さを感じさせる。姉弟でこの家に仕えていて、両親の代わりに自分を養ってくれていた姉には感謝しかないと言っていた。
「とても美しい人でしたよ!あんな人初めて見ました!まるで女神様みたいで……」
「素直だね」
「え、いや、その……えへへ」
茶化すと彼は照れくさそうに笑った。流石お年頃の男の子。初々しい。
応接間に入るとトムの言う女神──フィニルタお兄様が革椅子から勢いよく立ち上がった。
「ロザリー!」
確かに、中性的な顔立ちのお兄様は女に見える……のかもしれない。
女の人だったら紹介してあげたのにな、なんて考えながら椅子に腰掛ける。
「お兄様、わざわざ来てくれてありがとうございます」
「僕の愛する妹のためだ。兄が一肌脱がなくてどうする。で、話したいことって?」
お兄様がテーブルの上で手を組み、怪しい笑みを浮かべる。
私も最上級の笑みを返した。
クロツィア邸はリーゼグリュン王国の東端の辺境に建っている。ここ一帯の性質上、草木は一瞬にして枯れてしまうのだ。クロツィア家は結界を張ってその性質を中和させたものの、やはりというべきか植物はちゃんと世話をしていても一週間ほどで萎れてしまう。なんでこんなに不便なところに住居を建てたんだ……という思いがないでもないが、それには触れないでおこう。
初めてこの庭を見たときは本当に驚いた。せっかく広大な土地があるというのに草木は愚か、池さえもなかったここは、庭と言っていいのかと悩むほど。そこで毎月一度来て食料を売っていく行商人に声をかけ、白樺の苗などを買い取って【ローザリンデ・ワールド】(私が今命名した)を作り上げたのだ。ちょうどいいことに魔力は有り余っていたし、枯れた草木を再生させるなんて朝飯前のことだった。水も行商人から買い入れ、池も自作してしまった。魔力を注ぎ込んで潤いを保ってさえいれば池が枯渇することもない。
結婚当初からラインハルト様は私のすることに興味を持っていなかったので庭を改造しても何も言われなかった。あの時の私は彼に綺麗な花を見せたい、という今では考えられない純粋すぎる気持ちで庭を作っていたのだが彼がそれに気づくはずもなく。
花壇全部の花に魔力を注ぎ込んだのを確認した後、不意に上を見る。
私の目に映ったのはラインハルト様の後ろ姿。小さくため息をついて手元に視線を戻す。書斎がある二階の真下にあるここに花壇を設置したのは、彼の姿を少しでも見ていられるから。彼は私と顔を合わせることさえ嫌ったから、彼をゆっくりと見ることができるのはこの場所だけだった。
……花壇の場所変えようかな。
本気でそう考えた時、私を呼ぶ明るい声が耳に届いた。
「奥様、お客様ですよ!」
「ああ、トム。ありがとう」
トムは私に懐いてくれている使用人の一人だ。彼のふわふわとした柔らかな栗色の髪と垂れた目は幼さを感じさせる。姉弟でこの家に仕えていて、両親の代わりに自分を養ってくれていた姉には感謝しかないと言っていた。
「とても美しい人でしたよ!あんな人初めて見ました!まるで女神様みたいで……」
「素直だね」
「え、いや、その……えへへ」
茶化すと彼は照れくさそうに笑った。流石お年頃の男の子。初々しい。
応接間に入るとトムの言う女神──フィニルタお兄様が革椅子から勢いよく立ち上がった。
「ロザリー!」
確かに、中性的な顔立ちのお兄様は女に見える……のかもしれない。
女の人だったら紹介してあげたのにな、なんて考えながら椅子に腰掛ける。
「お兄様、わざわざ来てくれてありがとうございます」
「僕の愛する妹のためだ。兄が一肌脱がなくてどうする。で、話したいことって?」
お兄様がテーブルの上で手を組み、怪しい笑みを浮かべる。
私も最上級の笑みを返した。
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