ローザリンデの第二の人生

梨丸

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二章:人生の再出発

髪飾り

とある辺境の村に生まれた娘、ニコルはいつも不安だった。

彼女は自分の顔が大嫌いだった。絡みあった髪に目立つそばかす。村の人間はもちろん、両親にさえも貰い手がつかないと嘲笑の笑みを浮かべられた。
周りの娘は年頃になると当然のように村の男たちと結婚する。そう、決められているのだ。結婚は女の幸せ。村の娘は皆そう思っているし、ニコルもそう思っていた。だから、彼女の中にはいつも不安が渦巻いていた。私に貰い手がつくのだろうか、と。

──あの時までは。
ニコルが目覚めると、なぜか村が騒がしかった。なんでだろう、と外に出てみると自分に滅多に話しかけても来ない少女が話しかけてきた。

『魔導師がやって来たの!あなたも見にいったら?』

魔導師。その言葉に聞き覚えはあった。彼らはいわゆる“外の人間”だ。
この村の女は基本的に村の外に出ずに生涯を終える。だから、月に一度だけ届く王都新聞や、各地を放浪している旅人などが来るとお祭り騒ぎになる。そんな女たちを男たちは踏ん反り返って見ているのだ。

ニコルは浮き足立つ気持ちを抑えながらも、馬小屋の物陰から広場にいる魔導師たちを窺い見た。

眉目秀麗な男女が集まっている中、一際目立つ存在がいる。彼女は思わず見惚れていた。
艶やかな紺の髪に蜂蜜のような甘い瞳。
初恋だ。自分でそう自覚するまでに、彼女の胸は高鳴っていた。

彼らは魔物を討伐する途中にこの村に立ち寄ったらしい。村の人から食料と激励を貰い受けた彼らは颯爽と去って行こうとした。ニコルもそれを物陰からじっと見守ろうとした。女がでしゃばると碌なことにならない、と村の男たちにしつこく言われていたから。

『ねえ、そこの

いざ帰ろう、という魔導師たちが腰を上げた時、紺の髪をした男がいきなりニコルの方に振り向いた。
ビクン、と肩が跳ねる。

『髪を留めな、せっかく可愛いんだから』

男は優しく言ってから、ニコルに向かって歩いてきた。オロオロしていると彼はしゃがみ、慣れた手つきでニコルの髪を紐で束ね──髪飾りを留めた。

小さく手を振り、そばにいた短髪の赤髪の男に向かって歩いていく彼。その背中を見てニコルは思わず呟いていた。

『私が、可愛い……?』

村の男たちは皆私を不細工だとわらうのに、どうして。
呆然としていると、いつの間にか魔導師たちの姿は消えていた。

『お前にそんなの似合わねーよ』

一部始終を見ていた同年代の少年が彼女の髪飾りを掠め取ろうとする。ニコルはそれを振り払うように、彼の手を弾いた。彼女の手のひらから出た風で。

ニコルには風を操ることのできる魔法が使えた。そのことを目障りだと思った男たちは彼女が魔法を使おうとすることを禁じたけれど。

手を勢いよく弾かれ、積み重なっていた木材に手をぶつけた少年は、小さく悲鳴をあげた。
それを横目で見たニコルは、人知れず決心した。
私は可愛い、自分でそう思える人間になってからに会いにいくことを。



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