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二章:人生の再出発
我が家
「明日には寮を出ないといけないの?」
ニコルが机に頬杖をつきながら、不満そうに尋ねた。寮から出ていた魔導師達が遠征から帰ってくるのが、明日の夜。明日の朝には出るため、私は急いで荷造りをしていた。その途中でニコルが部屋に遊びにきたというわけだ。
「寂しいの?」
ふざけて言ってみると、ニコルは顔を真っ赤にし、語気を荒くして否定してきた。
彼女が照れ隠しで言葉が強くなる癖を持っていることを、髪飾り探しの件から数日経って発見した。我ながら観察眼が冴えていると思う。
「別にローザリンデが居なくても私には関係ないしね。せいせいするわ」
そう言いながらも荷造りを手伝ってくれる彼女は本当にありがたい。感謝を伝えながら衣類をどんどん詰めていく。
「ロザリー、荷造りの途中だよね」
二人で話しているとお兄様が皮でできた鞄を持ってやって来た。中には乾燥させた果物や肉などがぎっしりと詰まっている。
「お兄様、これは……?」
「見た通り、乾燥食品だよ。新鮮なものは直ぐ腐るか、枯れてしまうからね。住んでいる途中にロザリーの望むものができたらいつでも送るよ」
お兄様は小さな紙でできた鳥をポケットから取り出した。
この鳥──簡易伝書鳩という──は魔力を込めると指定した場所にものを運んでくるという代物だ。嘴で手紙やものを挟んで飛ぶので落ちてしまわないか不安になる。
「当分は食材を入手することが困難だろうから、僕が送らせてもらう」
「ありがとう、お兄様」
“当分は”。お兄様は私が荒れた土地を開拓できることを知っているのだろう。
「ローザリンデさん、魔物の対策は大丈夫なのですか?辺境では、結界などの整備が十分にされていないと文献で読みましたが」
いつの間にか部屋の中に来ていたウィッチが問う。
それに関しては、大丈夫。私の移り住む辺境には魔物がいない。いない、というかお兄様が直接結界を張ってくれたそうだ。周辺にいた魔物はケリーさんと全て一掃したとのこと。
荷造りが終わったところでシュカーツァさんとケリーさんが焼きたてのパンを皆に振る舞った。部屋で食べる食事はなんだか特別感があってワクワクしてしまう。
パンをちぎりながら、そういえばエファウさんに会ったことがないな、とふと思った。なんとなく聞いてみるとお兄様曰く、エファウさんはずっと寝ているらしい。会話をしていたのに“ずっと寝ている”とはどういうことだろう、と思ったがお兄様はなんだか苦々しい顔をしたので、必要以上には聞かないことにした。
お腹が満たされた私たちは、色んな話をした。
お兄様の任務失敗話、ニコルの化粧術、シュカーツァさんの秘伝のレシピ──。
色々な可笑しな話をして笑い疲れた私たちはそのまま各自で眠りについた。
──
街がまだ起きていない早朝。
私は皆に見送られて寮を後にした。名残惜しそうなお兄様に念を押すように別れを告げて、馬車に乗り込む。
「また近いうちに会いにいくよ」
近いうち、とはどのくらい経ってからだろう。少し気になったが、考えないようにして手を振ることにした。
──
西の辺境に続く道には森があり、馬車から降りて歩くことになる。
地図と睨めっこしながら長い時間根気強く歩いた結果、予定より早く着いた。
荒れた土地と森の境目にお兄様の言ったとおり、大きな屋敷が建っていた。
荒れた土地に足を踏み入れると、土埃が舞う。周りを見渡すと、乾燥した土、土、土。ここ一帯は私の土地ということになっているらしい。
私は興奮のあまり、大きく腕を広げた。
「ここが、我が家……!」
お兄様に持たされた皮でできた鞄から干し肉を数枚取り出す。
それを少し齧り、私はこれからのことに思いを馳せた。
ニコルが机に頬杖をつきながら、不満そうに尋ねた。寮から出ていた魔導師達が遠征から帰ってくるのが、明日の夜。明日の朝には出るため、私は急いで荷造りをしていた。その途中でニコルが部屋に遊びにきたというわけだ。
「寂しいの?」
ふざけて言ってみると、ニコルは顔を真っ赤にし、語気を荒くして否定してきた。
彼女が照れ隠しで言葉が強くなる癖を持っていることを、髪飾り探しの件から数日経って発見した。我ながら観察眼が冴えていると思う。
「別にローザリンデが居なくても私には関係ないしね。せいせいするわ」
そう言いながらも荷造りを手伝ってくれる彼女は本当にありがたい。感謝を伝えながら衣類をどんどん詰めていく。
「ロザリー、荷造りの途中だよね」
二人で話しているとお兄様が皮でできた鞄を持ってやって来た。中には乾燥させた果物や肉などがぎっしりと詰まっている。
「お兄様、これは……?」
「見た通り、乾燥食品だよ。新鮮なものは直ぐ腐るか、枯れてしまうからね。住んでいる途中にロザリーの望むものができたらいつでも送るよ」
お兄様は小さな紙でできた鳥をポケットから取り出した。
この鳥──簡易伝書鳩という──は魔力を込めると指定した場所にものを運んでくるという代物だ。嘴で手紙やものを挟んで飛ぶので落ちてしまわないか不安になる。
「当分は食材を入手することが困難だろうから、僕が送らせてもらう」
「ありがとう、お兄様」
“当分は”。お兄様は私が荒れた土地を開拓できることを知っているのだろう。
「ローザリンデさん、魔物の対策は大丈夫なのですか?辺境では、結界などの整備が十分にされていないと文献で読みましたが」
いつの間にか部屋の中に来ていたウィッチが問う。
それに関しては、大丈夫。私の移り住む辺境には魔物がいない。いない、というかお兄様が直接結界を張ってくれたそうだ。周辺にいた魔物はケリーさんと全て一掃したとのこと。
荷造りが終わったところでシュカーツァさんとケリーさんが焼きたてのパンを皆に振る舞った。部屋で食べる食事はなんだか特別感があってワクワクしてしまう。
パンをちぎりながら、そういえばエファウさんに会ったことがないな、とふと思った。なんとなく聞いてみるとお兄様曰く、エファウさんはずっと寝ているらしい。会話をしていたのに“ずっと寝ている”とはどういうことだろう、と思ったがお兄様はなんだか苦々しい顔をしたので、必要以上には聞かないことにした。
お腹が満たされた私たちは、色んな話をした。
お兄様の任務失敗話、ニコルの化粧術、シュカーツァさんの秘伝のレシピ──。
色々な可笑しな話をして笑い疲れた私たちはそのまま各自で眠りについた。
──
街がまだ起きていない早朝。
私は皆に見送られて寮を後にした。名残惜しそうなお兄様に念を押すように別れを告げて、馬車に乗り込む。
「また近いうちに会いにいくよ」
近いうち、とはどのくらい経ってからだろう。少し気になったが、考えないようにして手を振ることにした。
──
西の辺境に続く道には森があり、馬車から降りて歩くことになる。
地図と睨めっこしながら長い時間根気強く歩いた結果、予定より早く着いた。
荒れた土地と森の境目にお兄様の言ったとおり、大きな屋敷が建っていた。
荒れた土地に足を踏み入れると、土埃が舞う。周りを見渡すと、乾燥した土、土、土。ここ一帯は私の土地ということになっているらしい。
私は興奮のあまり、大きく腕を広げた。
「ここが、我が家……!」
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それを少し齧り、私はこれからのことに思いを馳せた。
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