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二章:人生の再出発
三大侯爵② sideラインハルト
「有り得ない……。女性に辺境を譲って惨事が起きたらどうする?」
まさかの発言に、ラインハルトが呆れたように言うとカルロは否定するように首を振った。
「俺の尊敬するひとのご家族が住むそうだ。……あのひとは信頼できる」
カルロは余程自信があるようで「うん、信頼できる」と繰り返して小さく頷く。リスティヒは怪訝な表情をしているラインハルトとは対照的に頬を赤らめて身を乗り出した。
「実に興味深い!その女性はどんな方なんだ?まさか魔導師局の人間かい?そうだとしたら、よっぽどの無鉄砲か自分の魔力量に自信がある人物だ。
……それとも、きみの話ぶりからして一般人かい?」
リスティヒは興奮したように捲し立てた。
リスティヒは薬学や医学など頭脳面に特化した科学者であり、三大侯爵のうちの【心】だ。優れた頭脳を生かし、三侯爵の行う活動の策を練る中心人物──いわゆる核の部分を担っている。
「リスティヒの言う通り、一般人だ」
「素晴らしいね。是非一回会ってみたいものだよ」
にこにこしながらカルロの手を握るリスティヒを見て、ラインハルトの頭痛が増した。
「いや、少し待ってくれ二人共。冷静な判断ができていないとしか言えない」
「…………。冷静でないのはラインハルトも、じゃないのかい?」
リスティヒが突然無表情になってラインハルトを覗き込んだ。
「さっきから全然目線が合っていない。ずっと宙を見ているような感じで定まっていないんだ。
それに──さっきから汗の量が異常だ」
リスティヒの言葉を聞き、ラインハルトは咄嗟に自分の顔を触った。見ずとも分かる。汗が、滝のように流れ落ちている。自分の状態の悪さに気づいた途端、心拍数が一気に増す。
苦しい。誰かに助けて欲しい。
そう思った時、一人の女性の姿が思い浮かんだ。
最愛のひとグラツィアではなく──ローザリンデの姿が。
──
「ラインハルト・クロツェル!」
カルロの張り上げた声で、ふわふわと宙に浮いていたラインハルトの意識は現実に引き戻された。
「おそらく、寝不足だろうね。ラインハルト、きみって奴はどれだけ寝れていないんだ」
淡々としたリスティヒの様子に逆に安心したのか椅子にもたれかかったラインハルトはポツリと言った。
「妻と、離縁したんだ……」
評議室の時が止まった、ように感じられた。カルロは呆然としており、リスティヒは口をあんぐりと開けていた。
「り、えん……?」
捻り出すように発せられたカルロの言葉に違和感を感じる。リスティヒは「いや、でも、そうか……?」などと呟いている。
「……どうか、したのか?」
横目でリスティヒを見ると、彼はハッとした表情をしてから慰めるようにこう言った。
「別れを切り出したのは奥さんの方からかい?ラインハルト、縁談をあんなに喜んでいたものな、辛いな。睡眠不足になるのも無理はない」
よしよし、と体をさするリスティヒの手を退けてラインハルトは違和感をそのまま口にした。
「俺が、ローザリンデとの縁談を喜んでいた……?」
そんなはずはない。
だって、俺は……。
「健康状態が悪いと記憶が錯乱するのか。だって、嬉々として縁談を持ちかけたのはきみだろう?」
リスティヒの放った言葉に酷く大きい耳鳴りが鳴った。
まさかの発言に、ラインハルトが呆れたように言うとカルロは否定するように首を振った。
「俺の尊敬するひとのご家族が住むそうだ。……あのひとは信頼できる」
カルロは余程自信があるようで「うん、信頼できる」と繰り返して小さく頷く。リスティヒは怪訝な表情をしているラインハルトとは対照的に頬を赤らめて身を乗り出した。
「実に興味深い!その女性はどんな方なんだ?まさか魔導師局の人間かい?そうだとしたら、よっぽどの無鉄砲か自分の魔力量に自信がある人物だ。
……それとも、きみの話ぶりからして一般人かい?」
リスティヒは興奮したように捲し立てた。
リスティヒは薬学や医学など頭脳面に特化した科学者であり、三大侯爵のうちの【心】だ。優れた頭脳を生かし、三侯爵の行う活動の策を練る中心人物──いわゆる核の部分を担っている。
「リスティヒの言う通り、一般人だ」
「素晴らしいね。是非一回会ってみたいものだよ」
にこにこしながらカルロの手を握るリスティヒを見て、ラインハルトの頭痛が増した。
「いや、少し待ってくれ二人共。冷静な判断ができていないとしか言えない」
「…………。冷静でないのはラインハルトも、じゃないのかい?」
リスティヒが突然無表情になってラインハルトを覗き込んだ。
「さっきから全然目線が合っていない。ずっと宙を見ているような感じで定まっていないんだ。
それに──さっきから汗の量が異常だ」
リスティヒの言葉を聞き、ラインハルトは咄嗟に自分の顔を触った。見ずとも分かる。汗が、滝のように流れ落ちている。自分の状態の悪さに気づいた途端、心拍数が一気に増す。
苦しい。誰かに助けて欲しい。
そう思った時、一人の女性の姿が思い浮かんだ。
最愛のひとグラツィアではなく──ローザリンデの姿が。
──
「ラインハルト・クロツェル!」
カルロの張り上げた声で、ふわふわと宙に浮いていたラインハルトの意識は現実に引き戻された。
「おそらく、寝不足だろうね。ラインハルト、きみって奴はどれだけ寝れていないんだ」
淡々としたリスティヒの様子に逆に安心したのか椅子にもたれかかったラインハルトはポツリと言った。
「妻と、離縁したんだ……」
評議室の時が止まった、ように感じられた。カルロは呆然としており、リスティヒは口をあんぐりと開けていた。
「り、えん……?」
捻り出すように発せられたカルロの言葉に違和感を感じる。リスティヒは「いや、でも、そうか……?」などと呟いている。
「……どうか、したのか?」
横目でリスティヒを見ると、彼はハッとした表情をしてから慰めるようにこう言った。
「別れを切り出したのは奥さんの方からかい?ラインハルト、縁談をあんなに喜んでいたものな、辛いな。睡眠不足になるのも無理はない」
よしよし、と体をさするリスティヒの手を退けてラインハルトは違和感をそのまま口にした。
「俺が、ローザリンデとの縁談を喜んでいた……?」
そんなはずはない。
だって、俺は……。
「健康状態が悪いと記憶が錯乱するのか。だって、嬉々として縁談を持ちかけたのはきみだろう?」
リスティヒの放った言葉に酷く大きい耳鳴りが鳴った。
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