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二章:人生の再出発
薬屋
それから、リステグは街を案内すると言ってから私の手を引いて、意気揚々と歩き出した。煉瓦でできた住居が道の端に立ち並び、その前に商店が並んでいた。リステグ曰く、この商店街は自分の家の前に折りたたみ式の商店を置いて晴れの日に商売する仕組みのようだ。雨の日は濡れてしまうものね、と納得しながらも進んでいく。
リステグの営んでいる薬屋は雨の日でも営業できるように宿屋の一階を借りているらしい。商店街を突き進んでいると、一際目立つ紫の塗装をされた煉瓦でできた宿屋が見えた。
「着きましたよ!」
リステグが嬉しそうに真っ白な看板を示した。【リステグの薬屋】。安直なネーミングセンスに親近感を覚える。一つの建物にドアが二つあり、宿屋と薬屋に分かれているようだ。大きな宿屋のドアに比べ、薬屋のドアはなんだかこじんまりとしている。
「後付けでドアを作ってもらったんです。もちろん部屋は繋がってますよ」
リステグの言葉通り、宿屋と薬屋は申し訳程度のパーテーションで区切られているだけで同じ空間に在った。薬屋のカウンターの後ろにある棚には小瓶が並んでいる。それぞれに貼られているラベルを見て、思わず声が出た。
「あれって、リモング……?」
リモング。簡単に言えば風邪薬の原料となる薬草である。薬草の中でも比較的育てやすいリモングは私も結婚前に屋敷でこっそり育てていた。たくさん育てまくって商会に売り払ったものなので、懐かしい。
「リモングを知っているの!?」
思ったよりも大きなリアクションをいただき、後ずさる。年下で童顔とはいえ背丈はかなりあるので迫力がすごい。リステグは興奮したように棚から数本の小瓶を取り出して、私に見せた。
「じゃ、じゃあこれは?」
「エルンカイア。麻酔薬の元!」
「これは?」
「イネン、確か……睡眠剤の元だったような」
「正解っ!」
この後も何度か同じようなやり取りをした後、お互いかなりの薬草マニアだということがわかった。
「ま、魔の森には珍しい薬草とか、ありませんでしたっ?」
「見たことのないものばかりで……毒があるといけないから不用意に触らなかったの」
私の言葉を聞いても尚、リステグは未知なるものへの探究心を抑えられなかったらしく、目を輝かせてから一つの手袋を差し出した。レースで出来た素材の手袋はすぐ破れてしまいそうな危うさを感じさせた。
なぜか手渡された手袋に戸惑っているとリステグは自慢げに言った。
「これはね、ワベルトの繊維を一本一本編んだものなんです」
ワベルトとは、毒や瘴気を一切通さない綿毛のような花だ。お金を持っている魔導師などはわざわざ魔力を纏わずともワベルトで出来た装備を全身に纏うと聞いたことがある。お金に物を言わせることはできるものの、値段がとにかく高いため富裕層しか購入できない。
「僕が手作りしたんです。と言っても、兄さんから貰ったワベルトを使っただけなんですけど。良かったらこれ、貰ってください」
えへへ、と頭を掻くリステグの背中から眩いほどの光が見えた、気がした。
リステグの営んでいる薬屋は雨の日でも営業できるように宿屋の一階を借りているらしい。商店街を突き進んでいると、一際目立つ紫の塗装をされた煉瓦でできた宿屋が見えた。
「着きましたよ!」
リステグが嬉しそうに真っ白な看板を示した。【リステグの薬屋】。安直なネーミングセンスに親近感を覚える。一つの建物にドアが二つあり、宿屋と薬屋に分かれているようだ。大きな宿屋のドアに比べ、薬屋のドアはなんだかこじんまりとしている。
「後付けでドアを作ってもらったんです。もちろん部屋は繋がってますよ」
リステグの言葉通り、宿屋と薬屋は申し訳程度のパーテーションで区切られているだけで同じ空間に在った。薬屋のカウンターの後ろにある棚には小瓶が並んでいる。それぞれに貼られているラベルを見て、思わず声が出た。
「あれって、リモング……?」
リモング。簡単に言えば風邪薬の原料となる薬草である。薬草の中でも比較的育てやすいリモングは私も結婚前に屋敷でこっそり育てていた。たくさん育てまくって商会に売り払ったものなので、懐かしい。
「リモングを知っているの!?」
思ったよりも大きなリアクションをいただき、後ずさる。年下で童顔とはいえ背丈はかなりあるので迫力がすごい。リステグは興奮したように棚から数本の小瓶を取り出して、私に見せた。
「じゃ、じゃあこれは?」
「エルンカイア。麻酔薬の元!」
「これは?」
「イネン、確か……睡眠剤の元だったような」
「正解っ!」
この後も何度か同じようなやり取りをした後、お互いかなりの薬草マニアだということがわかった。
「ま、魔の森には珍しい薬草とか、ありませんでしたっ?」
「見たことのないものばかりで……毒があるといけないから不用意に触らなかったの」
私の言葉を聞いても尚、リステグは未知なるものへの探究心を抑えられなかったらしく、目を輝かせてから一つの手袋を差し出した。レースで出来た素材の手袋はすぐ破れてしまいそうな危うさを感じさせた。
なぜか手渡された手袋に戸惑っているとリステグは自慢げに言った。
「これはね、ワベルトの繊維を一本一本編んだものなんです」
ワベルトとは、毒や瘴気を一切通さない綿毛のような花だ。お金を持っている魔導師などはわざわざ魔力を纏わずともワベルトで出来た装備を全身に纏うと聞いたことがある。お金に物を言わせることはできるものの、値段がとにかく高いため富裕層しか購入できない。
「僕が手作りしたんです。と言っても、兄さんから貰ったワベルトを使っただけなんですけど。良かったらこれ、貰ってください」
えへへ、と頭を掻くリステグの背中から眩いほどの光が見えた、気がした。
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