18 / 41
二章:貴方に報復を
父の資格
しおりを挟む
「それは結構だ」
エーデルの言葉に反応したように周囲に風が舞い、一人の男が姿を現した。
「え、エーメリー公爵……!」
バルツァー公爵が驚きのあまり、声を出す。そんな父とは対照的にロベルトはほっとしたように胸を撫で下ろした。
「エーメリー公爵、僕は──」
「君のことは聞かせて貰った」
「フレイアのことならなんとかすると仰っていましたよね。今回も公爵様のお力で……」
ロベルトが媚びるような目線をエーメリー公爵に向ける。
エーデルの背に悪寒が走った。こいつは何を言っているんだ、と。相手方の前で堂々と開き直るなんて、通常の感性を持っている者ならばできたことではない。
「ロベルトッ……!」
両親二人の止めにも応じず、ロベルト達の会話は進んでいく。
「君はフレイアのことをどう思っているのだ?」
エーメリー公爵の問いにエーデル達の顔が青くなる。
エーデルたちは余計なことを言うな、という視線を必死で送るがその努力も虚しく、ロベルトは曇りなき眼でこう答えた。
「フレイアは素敵な女性だと思います。但し……彼女の真面目さが僕には重荷だったのです」
「……そうか」
エーメリー公爵は微かに笑った。
ロベルトは至って真剣な様子で彼を見つめる。しかし、彼は気づかなかった。エーメリー公爵の笑みが嘲笑だということに。
「純愛、とは言いません。けれど彼女ととの事は穢いものではない!これだけは忘れないで頂きたいです」
「……」
ロベルトの言葉一つ一つを噛み締めるように聞いていたエーメリー公爵が微笑みを浮かべた。ロベルトが安心したように笑う。
「フレイアの事をとりなしてくれるのですね」
「安心してくれ」
彼の言葉にロベルトは頬を緩めた。
「公爵には分かっていただけると思っていました。勿論、フレイアの事も幸せにします」
「君が私の家と懇意にすることは二度とないだろうからな。君は君で穢くない恋愛を続けてくれ」
エーメリー公爵が放った言葉にロベルトの頰が引き攣った。
「今、なんと仰ったのですか……?」
「君のような愚かな人間には利益が見込めないと判断したまでだ」
ロベルトから滝のように汗が噴き出す。
「僕の家との商談もありますし、利益が見込めると思うのですが」
「君はもう必要ないんだ。開拓の件も失敗したようだし、な」
ちらりとエーデルの方を見る。エーデルは背筋を伸ばし、頭を下げた。
「私の愚弟が申し訳ございませんでした」
「エーデル、何言って……」
狼狽えるロベルトの横にエーデルが立ち、頭を掴んで下げる。
そして拳を弟の顔面目掛けて振り上げた。ロベルトの美しい顔に拳がめり込む。
「なッ……」
「申し訳ありませんが、お帰りください。公爵様にこれ以上醜いものを見せたくはありませんので」
ポタポタ、と血が地面に落ちる。
エーメリー公爵はあまりの痛みに動かなくなったロベルトを一瞥し、こう言った。
「近々私の娘が君に会いに行くだろう。一枚の紙を持って」
“一枚の紙”それが何を意味しているのか、皆分かりきっていた。婚約破棄書。貴族なら皆が持ちたがらない紙。
エーメリー公爵は続けた。
「それでは帰らせていただこう」
呆然としていたバルツァー公爵は慌てて頭を下げる。イライザも静かに礼をした。
屋敷を出たエーメリー公爵は帰るため魔法陣を描き始めた。そして一瞬その手を止める。彼の脳裏に幼かった頃の娘の笑顔が浮かんだのだ。
失ったものは戻らない。かつて愛した妻のように。
私がどれだけ欠片を積み上げても“父の資格”を取り戻す事は一生ないのだろう。
エーメリー公爵家の当主──ハインツは空を見上げた。
彼の瞳に映ったのはどこまでも暗い灰色の澱んだ空だった。
エーデルの言葉に反応したように周囲に風が舞い、一人の男が姿を現した。
「え、エーメリー公爵……!」
バルツァー公爵が驚きのあまり、声を出す。そんな父とは対照的にロベルトはほっとしたように胸を撫で下ろした。
「エーメリー公爵、僕は──」
「君のことは聞かせて貰った」
「フレイアのことならなんとかすると仰っていましたよね。今回も公爵様のお力で……」
ロベルトが媚びるような目線をエーメリー公爵に向ける。
エーデルの背に悪寒が走った。こいつは何を言っているんだ、と。相手方の前で堂々と開き直るなんて、通常の感性を持っている者ならばできたことではない。
「ロベルトッ……!」
両親二人の止めにも応じず、ロベルト達の会話は進んでいく。
「君はフレイアのことをどう思っているのだ?」
エーメリー公爵の問いにエーデル達の顔が青くなる。
エーデルたちは余計なことを言うな、という視線を必死で送るがその努力も虚しく、ロベルトは曇りなき眼でこう答えた。
「フレイアは素敵な女性だと思います。但し……彼女の真面目さが僕には重荷だったのです」
「……そうか」
エーメリー公爵は微かに笑った。
ロベルトは至って真剣な様子で彼を見つめる。しかし、彼は気づかなかった。エーメリー公爵の笑みが嘲笑だということに。
「純愛、とは言いません。けれど彼女ととの事は穢いものではない!これだけは忘れないで頂きたいです」
「……」
ロベルトの言葉一つ一つを噛み締めるように聞いていたエーメリー公爵が微笑みを浮かべた。ロベルトが安心したように笑う。
「フレイアの事をとりなしてくれるのですね」
「安心してくれ」
彼の言葉にロベルトは頬を緩めた。
「公爵には分かっていただけると思っていました。勿論、フレイアの事も幸せにします」
「君が私の家と懇意にすることは二度とないだろうからな。君は君で穢くない恋愛を続けてくれ」
エーメリー公爵が放った言葉にロベルトの頰が引き攣った。
「今、なんと仰ったのですか……?」
「君のような愚かな人間には利益が見込めないと判断したまでだ」
ロベルトから滝のように汗が噴き出す。
「僕の家との商談もありますし、利益が見込めると思うのですが」
「君はもう必要ないんだ。開拓の件も失敗したようだし、な」
ちらりとエーデルの方を見る。エーデルは背筋を伸ばし、頭を下げた。
「私の愚弟が申し訳ございませんでした」
「エーデル、何言って……」
狼狽えるロベルトの横にエーデルが立ち、頭を掴んで下げる。
そして拳を弟の顔面目掛けて振り上げた。ロベルトの美しい顔に拳がめり込む。
「なッ……」
「申し訳ありませんが、お帰りください。公爵様にこれ以上醜いものを見せたくはありませんので」
ポタポタ、と血が地面に落ちる。
エーメリー公爵はあまりの痛みに動かなくなったロベルトを一瞥し、こう言った。
「近々私の娘が君に会いに行くだろう。一枚の紙を持って」
“一枚の紙”それが何を意味しているのか、皆分かりきっていた。婚約破棄書。貴族なら皆が持ちたがらない紙。
エーメリー公爵は続けた。
「それでは帰らせていただこう」
呆然としていたバルツァー公爵は慌てて頭を下げる。イライザも静かに礼をした。
屋敷を出たエーメリー公爵は帰るため魔法陣を描き始めた。そして一瞬その手を止める。彼の脳裏に幼かった頃の娘の笑顔が浮かんだのだ。
失ったものは戻らない。かつて愛した妻のように。
私がどれだけ欠片を積み上げても“父の資格”を取り戻す事は一生ないのだろう。
エーメリー公爵家の当主──ハインツは空を見上げた。
彼の瞳に映ったのはどこまでも暗い灰色の澱んだ空だった。
910
あなたにおすすめの小説
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
「10歳の頃の想いなど熱病と同じ」と婚約者は言いました──さようなら【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子フリードリヒの婚約者として、幼い頃から王妃教育を受けてきたアメリア・エレファウント公爵令嬢。
誰もが羨む未来を約束された彼女の世界は、ある日突然1人の少女の登場によって揺らぎ始める。
無邪気な笑顔で距離を(意図的に)間違える編入生ベルティーユは、男爵の庶子で平民出身。
ベルティーユに出会ってから、悪い方へ変わっていくフリードリヒ。
「ベルが可哀想だろ」「たかがダンスくらい」と話が通じない。
アメリアの積み上げてきた7年の努力と誇りが崩れていく。
そしてフリードリヒを見限り、婚約解消を口にするが話は進まず、学園の卒業パーティーで断罪されてしまう……?!
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました
鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」
そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。
王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。
私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。
けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。
華やかな王宮。
厳しい王妃許育。
揺らぐ王家の威信。
そして――王子の重大な過ち。
王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。
離縁を望んでも叶わない義妹。
肩書きを失ってなお歩き直す王子。
そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。
ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。
婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる