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二章:貴方に報復を
愚かな貴方
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「ようこそお越しくださいました」
エーデルが深々と礼をし、フレイア達を出迎える。
(バルツァー公爵が出迎えてくれる訳ではないのね)
ロベルトの兄エーデルとフレイアは何度かあったことがあるが、良識ある人間だという印象は受けている。
フレイアはエーデルと婚約していれば大切にしてくれたのかもね、などという絵空事を思い浮かべながら、エーデルについて行く。
連れられた先は広々とした庭園だった。
フレイアが驚きを隠せずにいるとエーデルは苦々しい顔をしながら、こう言った。
「私の愚弟がどうしても此方でお話がしたいと申しておりまして……申し訳ございません」
婚約破棄などの話をするならば、正式な場でするのが普通だろう。室外なんて論外である。
常識のない弟を持つと、大変ね。
「いえ、大丈夫ですわ。お話は直ぐ終わるでしょうから」
にこやかに笑うフレイアにエーデルは再び頭を下げた。
「この度は本当に、申し訳ございませんでした。フレイア公爵令嬢にも多大なる心労をおかけして……」
そう言うエーデルの顔色が悪い。あまり眠れていないのだろう。
フレイアはエーデルに同情しながらも、彼に囁いた。
「一つ、お願いしたいことがあるのですが……」
フレイアの姿を確認すると、ロベルトの顔が一気に輝いた。庭に用意してある椅子から立ち上がり、叫ぶ。
「フレイア!」
「……、ロベルト公爵令息、お久しぶりですね」
「そんなに余所余所しい呼び方をしないでくれ」
艶っぽい、優しい声色。以前はこの声が大好きだったフレイアだが、今は気持ちの悪さしか感じない。
(どの面下げて言ってるのかしら)
コレットとセレストの冷たい視線にも気づかず、ロベルトはにこやかに笑う。そしてもう一つの椅子を手で示した。
フレイアは椅子に座り、ロベルトと向かい合う。
「君とこうやって話をしたのは、いつぶりかな」
「さあ、いつぶりでしょうね」
素っ気ないフレイアに焦りを感じたのか、ロベルトが慌ててこう言った。
「僕は君を愛しているんだ。君も、……だろう?」
子供の機嫌を直すようにフレイアの髪を撫でようとする。
その瞬間。
パシン、と乾いた音が庭に響いた。
「ふ、フレイア……?」
フレイアはロベルトの手を強く払い除けていた。ロベルトは何が起こっているのか理解ができない、とでもいうように硬直する。
「あら、ごめんなさい。手が当たってしまいましたわね」
フレイアがにこっと笑うのでロベルトも釣られて笑う。
「ぼ、僕もいきなり触ろうとして、すまなかったね」
ロベルトの瞳が大きく揺れている。予想外のことだったのだろう。
愚かな貴方は自分が嫌われていることにすら気づいていない。
本当に、虫唾が走る。
そうだ、とフレイアは明るい調子で切り出した。
「ロベルト様に紅茶を持って来たのでしたわ」
すかさずコレットがトランクから紅茶を出し、淹れる。ロベルトは先程の動揺がまだ残っているようでどこか上の空だ。
「どうぞ、ロベルト様」
「あ、ああ、ありがとう」
フレイアが渡した紅茶にあっさりと口をつけた。
「とてもおいしいね」
「そうですか?私、ロベルト様の為に特製の紅茶を用意しましたの」
「嬉しいな。“特製の紅茶”って?」
ロベルトの問いかけにフレイアは恐ろしいほど完璧な笑みを浮かべた。
「これをいれたの。気に入って貰えたようで嬉しいわ」
フレイアは小瓶をことり、とテーブル上に置いた。透明な液体が瓶の中で揺れる。
ロベルトの瞳が大きく見開かれた。壊れた人形のようにぎこちなくコレット達に目をむける。
ロベルトと目が合ったセレストが小さく手を振った。
「久しぶりですね」
がちゃん。
ロベルトの持っていたティーカップが地面へ吸い込まれるように落ちた。
エーデルが深々と礼をし、フレイア達を出迎える。
(バルツァー公爵が出迎えてくれる訳ではないのね)
ロベルトの兄エーデルとフレイアは何度かあったことがあるが、良識ある人間だという印象は受けている。
フレイアはエーデルと婚約していれば大切にしてくれたのかもね、などという絵空事を思い浮かべながら、エーデルについて行く。
連れられた先は広々とした庭園だった。
フレイアが驚きを隠せずにいるとエーデルは苦々しい顔をしながら、こう言った。
「私の愚弟がどうしても此方でお話がしたいと申しておりまして……申し訳ございません」
婚約破棄などの話をするならば、正式な場でするのが普通だろう。室外なんて論外である。
常識のない弟を持つと、大変ね。
「いえ、大丈夫ですわ。お話は直ぐ終わるでしょうから」
にこやかに笑うフレイアにエーデルは再び頭を下げた。
「この度は本当に、申し訳ございませんでした。フレイア公爵令嬢にも多大なる心労をおかけして……」
そう言うエーデルの顔色が悪い。あまり眠れていないのだろう。
フレイアはエーデルに同情しながらも、彼に囁いた。
「一つ、お願いしたいことがあるのですが……」
フレイアの姿を確認すると、ロベルトの顔が一気に輝いた。庭に用意してある椅子から立ち上がり、叫ぶ。
「フレイア!」
「……、ロベルト公爵令息、お久しぶりですね」
「そんなに余所余所しい呼び方をしないでくれ」
艶っぽい、優しい声色。以前はこの声が大好きだったフレイアだが、今は気持ちの悪さしか感じない。
(どの面下げて言ってるのかしら)
コレットとセレストの冷たい視線にも気づかず、ロベルトはにこやかに笑う。そしてもう一つの椅子を手で示した。
フレイアは椅子に座り、ロベルトと向かい合う。
「君とこうやって話をしたのは、いつぶりかな」
「さあ、いつぶりでしょうね」
素っ気ないフレイアに焦りを感じたのか、ロベルトが慌ててこう言った。
「僕は君を愛しているんだ。君も、……だろう?」
子供の機嫌を直すようにフレイアの髪を撫でようとする。
その瞬間。
パシン、と乾いた音が庭に響いた。
「ふ、フレイア……?」
フレイアはロベルトの手を強く払い除けていた。ロベルトは何が起こっているのか理解ができない、とでもいうように硬直する。
「あら、ごめんなさい。手が当たってしまいましたわね」
フレイアがにこっと笑うのでロベルトも釣られて笑う。
「ぼ、僕もいきなり触ろうとして、すまなかったね」
ロベルトの瞳が大きく揺れている。予想外のことだったのだろう。
愚かな貴方は自分が嫌われていることにすら気づいていない。
本当に、虫唾が走る。
そうだ、とフレイアは明るい調子で切り出した。
「ロベルト様に紅茶を持って来たのでしたわ」
すかさずコレットがトランクから紅茶を出し、淹れる。ロベルトは先程の動揺がまだ残っているようでどこか上の空だ。
「どうぞ、ロベルト様」
「あ、ああ、ありがとう」
フレイアが渡した紅茶にあっさりと口をつけた。
「とてもおいしいね」
「そうですか?私、ロベルト様の為に特製の紅茶を用意しましたの」
「嬉しいな。“特製の紅茶”って?」
ロベルトの問いかけにフレイアは恐ろしいほど完璧な笑みを浮かべた。
「これをいれたの。気に入って貰えたようで嬉しいわ」
フレイアは小瓶をことり、とテーブル上に置いた。透明な液体が瓶の中で揺れる。
ロベルトの瞳が大きく見開かれた。壊れた人形のようにぎこちなくコレット達に目をむける。
ロベルトと目が合ったセレストが小さく手を振った。
「久しぶりですね」
がちゃん。
ロベルトの持っていたティーカップが地面へ吸い込まれるように落ちた。
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