41 / 41
エピローグ
幸せな未来へ
しおりを挟む
「それではお父様、行ってらっしゃいませ」
フレイアは港でハインツに礼をした。コレット達もそれに続く。
「……、行ってくる」
ハインツは帽子を深く被り直し、船へと乗り込んで行った。
ハインツは隣国、リーゼグリュンへと出向くこととなった。彼は隣国で近頃増加している違法宗教への対策を講じるらしく、何年かは帰ってくることがないそうだ。そのため、エーメリー家の屋敷の主は正式にフレイアのものとなった。
ハインツを見送った後、セレストが心底可笑しそうに笑った。
「そういえば、フレイア様にまた縁談が来てましたよー」
「全て断っておいて頂戴」
フレイアの婚約破棄後「心の傷を癒やしてあげたい」などという内容の縁談が舞い込むようになっていた。高嶺の花だった令嬢が一度婚約破棄したことで、ハードルが下がったとでも思われているのだろうか。
少し複雑な心境である。
「あの……、新聞如何ですか?」
フレイアが考え込んでいると、一人の少女が遠慮がちに新聞を差し出した。紙面には興味深い文が並んでいる。
「頂くわ」
フレイアが新聞売りの少女に代金とチョコレートを数粒握らせる。少女は目を輝かせ、近くにいた兄弟達に向かって駆け出した。
それを目ざとく見ていたルーが羨ましいそうな声を出す。
「あっ、狡い!私も欲しいです」
「屋敷に帰ってからですよ」
コレットの冷たい言葉にルーが頬を膨らます。
二人を諌めていると、ふとフレイアの目に紅茶専門店が映りこんだ。
「お土産を買って帰ろうかしら」
「マーガレットちゃんは紅茶大好きって言っていたし、きっと喜びますよ!」
自分で気分を持ち直したようで、ルーが頬を緩めた。
マーガレット・ロベリア男爵令嬢改め、マーガレット。
彼女はロベリア男爵家と縁を切り、一人慰謝料を背負うこととなった。しかし、それをフレイアが拾い上げたのだ。
マーガレットの薬学の知識には目を見張るものがあり、エーメリー公爵家に必要な人材だとフレイアが雇用したのだ。
(少なくとも、慰謝料を払い切るまでは私の元で働いてもらわないとね)
くすり、と笑ったフレイアを見てコレットも釣られて笑う。
「何笑ってるんですか」
セレストが辛辣な感想を述べていると、紅茶専門店から出たルーが焦茶の袋を持ち、駆け足でやって来た。
「フレイア様、あの人がいました!」
げ、とセレストが声を漏らした。フレイアの顔も引き攣る。
足早に紅茶専門店を離れる。
すると黒猫がフレイアの前を過ぎった。
「ヴィクトル様には私が此処にいることは言わないで。秘密よ」
フレイアが囁きかけると黒猫はにゃあ、と可愛らしい鳴き声を出して消えた。
「求婚も度重なると……ね」
フレイアが大きなため息をつく。
ヴィクトル──後に判明したのだが、とある名門の公爵家の令息──は会うたびにフレイアに婚約を申し込んでくる。申し出を全て断っているのにも関わらず、懲りずに求婚してくるのだ。
「フレイア様、早く帰りましょう」
「早くチョコレート食べたいです」
「さっさと行こうz……行きましょう」
心地よい風が吹き抜ける。
フレイアは軽い足取りで歩き始めた。
アルカーヌムにて。
エッカルトが一枚の新聞を広げ、興味深そうに呟いた。
「“とある貴族の破談により婚約破棄が相次ぐ”、かあ」
エッカルトが大きく伸びをした。
「世の中愚かな人が沢山いるから情報屋も安泰だよ」
からんころん、と軽やかなベルの音が鳴る。
今日も、情報屋には客が絶えない。
鼠が油染みのついた壁を駆け回る。
濁った蒼い目をした男がふらつき、壁に寄りかかる。真珠のようだった肌は油で汚れ切り、黄ばんだ作業衣を纏った男は変わり果て、見る影も無い。
男は嗄れた声で記憶の片隅にあった歌を小さく口ずさんだ。
「ま…い……つきが…かか…る……」
男は静かに、目を閉じた。
───
完結いたしました!
応援してくださった読者の方々に厚く御礼申し上げます。
また機会があれば番外編を追加するかもしれません(しないかもしれない)。
恋愛大賞応募作品も投稿しているので、そちらも読んでいただけたら幸いです。
完結までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
フレイアは港でハインツに礼をした。コレット達もそれに続く。
「……、行ってくる」
ハインツは帽子を深く被り直し、船へと乗り込んで行った。
ハインツは隣国、リーゼグリュンへと出向くこととなった。彼は隣国で近頃増加している違法宗教への対策を講じるらしく、何年かは帰ってくることがないそうだ。そのため、エーメリー家の屋敷の主は正式にフレイアのものとなった。
ハインツを見送った後、セレストが心底可笑しそうに笑った。
「そういえば、フレイア様にまた縁談が来てましたよー」
「全て断っておいて頂戴」
フレイアの婚約破棄後「心の傷を癒やしてあげたい」などという内容の縁談が舞い込むようになっていた。高嶺の花だった令嬢が一度婚約破棄したことで、ハードルが下がったとでも思われているのだろうか。
少し複雑な心境である。
「あの……、新聞如何ですか?」
フレイアが考え込んでいると、一人の少女が遠慮がちに新聞を差し出した。紙面には興味深い文が並んでいる。
「頂くわ」
フレイアが新聞売りの少女に代金とチョコレートを数粒握らせる。少女は目を輝かせ、近くにいた兄弟達に向かって駆け出した。
それを目ざとく見ていたルーが羨ましいそうな声を出す。
「あっ、狡い!私も欲しいです」
「屋敷に帰ってからですよ」
コレットの冷たい言葉にルーが頬を膨らます。
二人を諌めていると、ふとフレイアの目に紅茶専門店が映りこんだ。
「お土産を買って帰ろうかしら」
「マーガレットちゃんは紅茶大好きって言っていたし、きっと喜びますよ!」
自分で気分を持ち直したようで、ルーが頬を緩めた。
マーガレット・ロベリア男爵令嬢改め、マーガレット。
彼女はロベリア男爵家と縁を切り、一人慰謝料を背負うこととなった。しかし、それをフレイアが拾い上げたのだ。
マーガレットの薬学の知識には目を見張るものがあり、エーメリー公爵家に必要な人材だとフレイアが雇用したのだ。
(少なくとも、慰謝料を払い切るまでは私の元で働いてもらわないとね)
くすり、と笑ったフレイアを見てコレットも釣られて笑う。
「何笑ってるんですか」
セレストが辛辣な感想を述べていると、紅茶専門店から出たルーが焦茶の袋を持ち、駆け足でやって来た。
「フレイア様、あの人がいました!」
げ、とセレストが声を漏らした。フレイアの顔も引き攣る。
足早に紅茶専門店を離れる。
すると黒猫がフレイアの前を過ぎった。
「ヴィクトル様には私が此処にいることは言わないで。秘密よ」
フレイアが囁きかけると黒猫はにゃあ、と可愛らしい鳴き声を出して消えた。
「求婚も度重なると……ね」
フレイアが大きなため息をつく。
ヴィクトル──後に判明したのだが、とある名門の公爵家の令息──は会うたびにフレイアに婚約を申し込んでくる。申し出を全て断っているのにも関わらず、懲りずに求婚してくるのだ。
「フレイア様、早く帰りましょう」
「早くチョコレート食べたいです」
「さっさと行こうz……行きましょう」
心地よい風が吹き抜ける。
フレイアは軽い足取りで歩き始めた。
アルカーヌムにて。
エッカルトが一枚の新聞を広げ、興味深そうに呟いた。
「“とある貴族の破談により婚約破棄が相次ぐ”、かあ」
エッカルトが大きく伸びをした。
「世の中愚かな人が沢山いるから情報屋も安泰だよ」
からんころん、と軽やかなベルの音が鳴る。
今日も、情報屋には客が絶えない。
鼠が油染みのついた壁を駆け回る。
濁った蒼い目をした男がふらつき、壁に寄りかかる。真珠のようだった肌は油で汚れ切り、黄ばんだ作業衣を纏った男は変わり果て、見る影も無い。
男は嗄れた声で記憶の片隅にあった歌を小さく口ずさんだ。
「ま…い……つきが…かか…る……」
男は静かに、目を閉じた。
───
完結いたしました!
応援してくださった読者の方々に厚く御礼申し上げます。
また機会があれば番外編を追加するかもしれません(しないかもしれない)。
恋愛大賞応募作品も投稿しているので、そちらも読んでいただけたら幸いです。
完結までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
764
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(11件)
あなたにおすすめの小説
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
「10歳の頃の想いなど熱病と同じ」と婚約者は言いました──さようなら【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子フリードリヒの婚約者として、幼い頃から王妃教育を受けてきたアメリア・エレファウント公爵令嬢。
誰もが羨む未来を約束された彼女の世界は、ある日突然1人の少女の登場によって揺らぎ始める。
無邪気な笑顔で距離を(意図的に)間違える編入生ベルティーユは、男爵の庶子で平民出身。
ベルティーユに出会ってから、悪い方へ変わっていくフリードリヒ。
「ベルが可哀想だろ」「たかがダンスくらい」と話が通じない。
アメリアの積み上げてきた7年の努力と誇りが崩れていく。
そしてフリードリヒを見限り、婚約解消を口にするが話は進まず、学園の卒業パーティーで断罪されてしまう……?!
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました
鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」
そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。
王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。
私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。
けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。
華やかな王宮。
厳しい王妃許育。
揺らぐ王家の威信。
そして――王子の重大な過ち。
王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。
離縁を望んでも叶わない義妹。
肩書きを失ってなお歩き直す王子。
そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。
ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。
婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
素敵なご感想、ありがとうございます。
承認不要とありましたが、最終回の山場に誤字をしていたという事実を教えてくださったので感謝を伝えるために承認させていただきました。直ぐ修正致します。
ご感想、ご報告、本当にありがとうございました。