冒険者ギルド受付の癒し枠~ネコ娘は追放系主人公が気になるようです

八華

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ネコ娘、彼の名前を知る

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 翌日、大姐さんの家へ行く前に、市場に寄った。

「焼肉、やっぱ野菜も要るよなぁ」

 近隣の農家が売りに来る露店市で、メリーが野菜を吟味ぎんみしだす。

「えー、アタイは肉だけでいいけど……」
「それはダメっス」

 虎獣人のアタイは肉だけ食ってれば幸せなのだけど、羊のメリーとパンダのササミは野菜もきっちり食べるタイプだ。

「玉ねぎとかニンジンは、大姐さん家にあるよな。トウモロコシとピーマンを買っとくか」
「にゃ……、ピーマン……」
「エルザ姐さんは苦い野菜が食えないお子様舌っス」
「なんだと、ササミぃっ」

 アタイとササミがわーきゃーやっている間に、メリーがテキパキと野菜を買い込んでいった。

「オッケー。それじゃ、行くよ」

 準備ができたので、アザレア大姐さんの家へと向かう。

 その時、ふいにアタイの目が一点で固定された。

「あ……!」

 瞳孔どうこうが全開になる。

「どうしたんだい、エルザ?」

 メリーがアタイの視線の先を確認して、

「あ、なるほど」

 アタイたちの前を、あのギルドのイケメン受付が、買い物かご片手にこちらに向かって歩いてきていた。
 アタイはほうけた顔のまま、突っ立って動けなくなった。

「おや? あなたがたは……」

 彼は無言で通り過ぎるかと思ったら、アタイに声をかけてきた。
 そりゃそうだ。
 アタイは馬鹿面ばかづらで、穴が開きそうなほど彼を見つめていたのだから。

「す……すまない。ジロジロ見て」

 と、アタイは声を絞り出す。
 最近治ったと思っていた人見知りが再発していた。
 荒くれ者の冒険者のくせにコミュ障とか、恥ずかしいから何とかしたいよ。でも、彼を前にしてはどうにもならなかった。

「いえ。ギルドで見た顔だから、気になりました? たしか、エルザさん、ですよね」
「…………!!」

 彼に名前を呼ばれて、アタイの尻尾がぶわりと膨らむ。
 硬直するアタイの肩に、メリーがポンと手を置いた。

「アタシらの名前、もう覚えたのかい? ギルド受付の鏡だね」
「ありがとうございます、メリーさん」

 彼がメリーに向かってほほ笑む。
 意外と気さくなキャラなのかな。
 受付で座っていると気づかなかったけど、彼はけっこう体幹がしっかりしているみたい。戦ったらそこそこ強そうだ。

 そんなことを考えていると、メリーに頭をはたかれた。

「こら、人さまをにらみながら戦力分析するんじゃないよ」
「ご……ごめ、つい、職業病みたいなもんで」

 アタイが腕をあたふた振り回しながら謝ると、彼は笑顔で、

「お気になさらず。冒険者さんですからね」

 かわいい。
 かっこいい。

 顔面の崩れるアタイを、となりのササミが気持ち悪そうに見ていた。……あとで覚えてろ。

「今日は、お仕事がお休みの日ですか?」
「あぁ。毎日働く冒険者なんて、あんまいないだろ?」

 タジタジのアタイと、それを見てニヤニヤするササミの前で、メリーは彼とよどみなくお喋りを続けた。

「アンタもこの時間に買い物ってことは、休みなのかい?」
「はい。まだ街に不慣れなので、買い物しながら歩き回っていました」
「こっちに引っ越したのは、最近?」
「そうです。ギルドに就職して越してきました」

 メリーがするすると彼から情報を引き出していく。このコミュ力、知り合いの姐さんたちのモーレツな交渉力に近づいてる。同じ場所で育ったアタイは、まだ人見知りが抜けないってのに。いつもメリーの方が先に大人になるんだよな。

「ふむ……。なあ、兄さん、アタシたちはこれから大人数で焼肉をするんだけど、アンタも一緒にどうだい? こっちに来て間もないなら、知り合いを増やすチャンスだよ」

 メリーはさらっと彼を昼食に誘ってしまった。

「お願いします。一人でご飯は寂しいと思っていたところなんです」

 彼は喜んで、すぐにメリーの誘いに乗った。

「お、いい返事。アンタ、さっさとこの地区に馴染んだほうがいいよ。ちょっと浮いているし」

 恐いもの知らずのメリーは、彼にダメ出しまで始める。アタイはメリーの上着の裾を引っ張って小声でとがめた。

「ちょっと、メリー。グイグイいきすぎだって」
「感謝しろよ、エルザ。礼は酒でいい」

 感謝……。うん、感謝する。ありがとう、メリー。



 マーケットから出て、住宅街を連れ立って歩いた。

「改めて自己紹介しますね。冒険者ギルドの新人職員、ルイスといいます」
「おう、よろしく、ルイス」
「よろしくっス」

 彼の名前はルイスというのか。

「よろしく、ルイス君」

 アタイの挨拶に、メリーとササミが吹き出した。

「君付けっ!? エルザが人を君付けしてるの初めて聞いたよ」

 メリーが馬鹿にしたようにケラケラ笑った。

「呼び捨てでいいですよ。敬称をつけられると、距離を置かれているみたいです」

 ルイス君……ルイスが眉をさげてアタイの方を見る。

「わ…わかった。ルイス、よろしく」
「はい、よろしくお願いします」

 ルイスはまたニコッと笑った。アタイの言動に合わせて、彼の表情がコロコロと変わる。アタイはそれだけで感激してしまうのだった。
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