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ネコ娘、パンダの戦いを見届ける
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ダンジョンを出ると、その日はテントに泊まって休んだ。
次の日、ギルド職員が施設を撤去するのに合わせて、一緒に魔導バスでジスゴロスの街に戻った。
「やっと酒が飲めるっス――!!!」
ササミは大はしゃぎで、バスから降りてすぐに酒場に走っていった。
「……元気すぎやしないかい?」
「まあ、アタシたちもこれから飲みに行くんだから、似たようなもんだろ」
馴染みの居酒屋には、レトリー姉ちゃんとシセンも来ていた。
「一緒にボスと戦ったのだもの、打ち上げも一緒にしなくちゃね」
「手伝ってくれてありがとう。おかげで怪我なくボスを倒せた」
「ふふん。大船に乗った気でおれ。すぐにA級に上げてやる」
クラーケン討伐メンバー5人でテーブルを囲んだ。
「いらっしゃいませ。お通しのアジのお刺身です」
テーブルに料理を持ってきたのは、ルイスだった。
「ルイス、何でここにいるの?」
白いエプロン姿のルイスは様になっているけど、ダンジョンから帰ってきてすぐに、何で酒場で給仕しているんだ?
「ここの店主に、不慣れな魚の調理を手伝ってほしいと頼まれたんです」
「へえ~。お勧めはある?」
「アジフライです。ビールによく合いますよ」
「ビールに合う……」
ルイスの言葉に、メリーが反応した。
「じゃあ、アジフライを人数分、頼む」
「はい。すぐ持ってきますね~」
居酒屋でまでルイスの手料理が食べられるとは、今日は良い日だ。
「ところで、デブパンダよ」
「んん?」
シセンが、酒に夢中のササミに話しかけた。
「ボス戦の前だから中断しておったが、どちらが真なるパンダにふさわしいか、決着をつけようぞ」
「望むところっス」
シセンの幼いくりくりとした瞳と、隈に囲まれたササミの眼玉がぶつかり合う。
いや、ここで2人が争ったって、真なるパンダは決められないだろうに。
「拙者、旅を続けながら、見つけたデブパンダには必ず勝負を挑み、決着をつけて参った。いまだ負けはなし。パンダの頂点を極める者だ」
この子そんなことのために旅してたのかよ。
「ほう。だが、チビパンダは刀持ちでウチは盾持ち。最強の矛と盾が争っても、矛盾が生まれるだけっス」
「むぅ、たしかに」
酔っぱらったササミが適当なことを言うのを、シセンが真に受ける。
「真なるパンダに必要なのは強さだけではないっス。相応の品格こそが大切っス」
「それはそうだ」
シセンは素直に頷いた。
「ここは居酒屋。食事のマナー対決といくっス。どちらが上手に箸を使えるか勝負っス」
「なるほど。いい案だ」
そこへ、ルイスが人数分のアジフライを持ってきてくれた。
「ルイス、サンマと鯛の塩焼きを2人分頼むっス。魚を上手に食べられるのは箸使いを極めた者のみっス。アジフライ、サンマ、鯛の塩焼きの3本勝負っス」
「わかった」
「ご注文、すぐお持ちします~」
ルイスはくるくるとホールを回ったかと思うと、厨房に入って調理もしているようだった。1人で5人分くらい働いているんじゃないかな。
「それじゃあ、勝負開始だ!」
真剣な表情でアジフライを箸でほぐす2人を見ながら、アタイは自分のアジフライを丸かじりした。
一口噛むと、カリっと音がする。衣の下には、ふっくらジューシーなアジの身がある。
「これは……最高にゃ。こんなの食べちゃったら、もうトンカツにも、唐揚げにも、満足できない身体になっちゃうにゃーっ」
表情が緩みまくってしまう。
「ぷはーっ。ビールがますます美味くなるよっ」
メリーも上機嫌だ。しかし、
「あぁ、衣が……、テーブルに飛んで……」
上品ぶってアジフライの身を箸でほぐそうとしていたシセンが、衣の一部をテーブルに散らしてしまった。
「ふはは。チビパンダのお里が知れるっス」
ササミの方は魔法のように少しもこぼさずアジフライを食っていた。
「そういや、ササミって、名家育ちの家出娘だったよな……」
まったくそうは見えないが、小さいときにテーブルマナーの訓練を受けていたのかもしれない。
「ひょほほ……。1戦目はウチの勝ちっス。チビパンダは、ウチの上品さにひれ伏すがいいっス」
ひょほほとか言ってガブガブ酒飲んでるやつが上品?
どれだけ箸使いが上手でも、ササミは下品のかたまりだろうがっ。
「ぐぬぬ……。何たる屈辱……」
シセンは本気で悔しそうだった。
その後の、サンマも鯛も、ササミの方が上手に食べきってしまった。
「くぅ。拙者、修行が足りなかった。鍛えなおしでござる」
「ふははは。よーう反省するがよい、レッサー」
「ぐふっ……」
賑やかなテーブル席で、シセンだけお通夜みたいになってしまった。
「ちょっと、打ち上げの席なんだから、みんな仲良く、楽しくやりましょ」
レトリー姉ちゃんが2人をたしなめている。
その時、店に入ってきた男が厨房に声をかけ、何か聞いたらしいルイスが店の外に出ていった。
急な用事だろうか。
気になるなぁ。
次の日、ギルド職員が施設を撤去するのに合わせて、一緒に魔導バスでジスゴロスの街に戻った。
「やっと酒が飲めるっス――!!!」
ササミは大はしゃぎで、バスから降りてすぐに酒場に走っていった。
「……元気すぎやしないかい?」
「まあ、アタシたちもこれから飲みに行くんだから、似たようなもんだろ」
馴染みの居酒屋には、レトリー姉ちゃんとシセンも来ていた。
「一緒にボスと戦ったのだもの、打ち上げも一緒にしなくちゃね」
「手伝ってくれてありがとう。おかげで怪我なくボスを倒せた」
「ふふん。大船に乗った気でおれ。すぐにA級に上げてやる」
クラーケン討伐メンバー5人でテーブルを囲んだ。
「いらっしゃいませ。お通しのアジのお刺身です」
テーブルに料理を持ってきたのは、ルイスだった。
「ルイス、何でここにいるの?」
白いエプロン姿のルイスは様になっているけど、ダンジョンから帰ってきてすぐに、何で酒場で給仕しているんだ?
「ここの店主に、不慣れな魚の調理を手伝ってほしいと頼まれたんです」
「へえ~。お勧めはある?」
「アジフライです。ビールによく合いますよ」
「ビールに合う……」
ルイスの言葉に、メリーが反応した。
「じゃあ、アジフライを人数分、頼む」
「はい。すぐ持ってきますね~」
居酒屋でまでルイスの手料理が食べられるとは、今日は良い日だ。
「ところで、デブパンダよ」
「んん?」
シセンが、酒に夢中のササミに話しかけた。
「ボス戦の前だから中断しておったが、どちらが真なるパンダにふさわしいか、決着をつけようぞ」
「望むところっス」
シセンの幼いくりくりとした瞳と、隈に囲まれたササミの眼玉がぶつかり合う。
いや、ここで2人が争ったって、真なるパンダは決められないだろうに。
「拙者、旅を続けながら、見つけたデブパンダには必ず勝負を挑み、決着をつけて参った。いまだ負けはなし。パンダの頂点を極める者だ」
この子そんなことのために旅してたのかよ。
「ほう。だが、チビパンダは刀持ちでウチは盾持ち。最強の矛と盾が争っても、矛盾が生まれるだけっス」
「むぅ、たしかに」
酔っぱらったササミが適当なことを言うのを、シセンが真に受ける。
「真なるパンダに必要なのは強さだけではないっス。相応の品格こそが大切っス」
「それはそうだ」
シセンは素直に頷いた。
「ここは居酒屋。食事のマナー対決といくっス。どちらが上手に箸を使えるか勝負っス」
「なるほど。いい案だ」
そこへ、ルイスが人数分のアジフライを持ってきてくれた。
「ルイス、サンマと鯛の塩焼きを2人分頼むっス。魚を上手に食べられるのは箸使いを極めた者のみっス。アジフライ、サンマ、鯛の塩焼きの3本勝負っス」
「わかった」
「ご注文、すぐお持ちします~」
ルイスはくるくるとホールを回ったかと思うと、厨房に入って調理もしているようだった。1人で5人分くらい働いているんじゃないかな。
「それじゃあ、勝負開始だ!」
真剣な表情でアジフライを箸でほぐす2人を見ながら、アタイは自分のアジフライを丸かじりした。
一口噛むと、カリっと音がする。衣の下には、ふっくらジューシーなアジの身がある。
「これは……最高にゃ。こんなの食べちゃったら、もうトンカツにも、唐揚げにも、満足できない身体になっちゃうにゃーっ」
表情が緩みまくってしまう。
「ぷはーっ。ビールがますます美味くなるよっ」
メリーも上機嫌だ。しかし、
「あぁ、衣が……、テーブルに飛んで……」
上品ぶってアジフライの身を箸でほぐそうとしていたシセンが、衣の一部をテーブルに散らしてしまった。
「ふはは。チビパンダのお里が知れるっス」
ササミの方は魔法のように少しもこぼさずアジフライを食っていた。
「そういや、ササミって、名家育ちの家出娘だったよな……」
まったくそうは見えないが、小さいときにテーブルマナーの訓練を受けていたのかもしれない。
「ひょほほ……。1戦目はウチの勝ちっス。チビパンダは、ウチの上品さにひれ伏すがいいっス」
ひょほほとか言ってガブガブ酒飲んでるやつが上品?
どれだけ箸使いが上手でも、ササミは下品のかたまりだろうがっ。
「ぐぬぬ……。何たる屈辱……」
シセンは本気で悔しそうだった。
その後の、サンマも鯛も、ササミの方が上手に食べきってしまった。
「くぅ。拙者、修行が足りなかった。鍛えなおしでござる」
「ふははは。よーう反省するがよい、レッサー」
「ぐふっ……」
賑やかなテーブル席で、シセンだけお通夜みたいになってしまった。
「ちょっと、打ち上げの席なんだから、みんな仲良く、楽しくやりましょ」
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その時、店に入ってきた男が厨房に声をかけ、何か聞いたらしいルイスが店の外に出ていった。
急な用事だろうか。
気になるなぁ。
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