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一晩中、ユーグとエリザベスの行為は続いた。
ただ、己の熱を吐き出すために――求められる熱に応えるように、何度も彼女に身を重ね、果てた。
エリザベスの指が、ゆっくりとユーグの髪を撫でる。
柔らかな吐息とともに、耳元で囁かれた。
「ねえ、ユーグ……あなたのすべてが欲しかったの」
その声は、遠くで響く水音のように、届いたようで届かない。
(……ああ、セレナ。俺は、もう君のものだ……)
媚薬が効きはじめた頃、ユーグは確かに相手がエリザベスだと分かっていた。
だが、熱が全身を侵し、意識がゆらぎはじめるにつれ、次第にその輪郭は溶け、抱きしめる感触も、耳に届く吐息も、いつしかセレナのものだと錯覚していった。
*
朝の光が、カーテンの隙間から静かに忍び込んでくる。
重たく沈んだ室内に、淡い光が満ち始めた。
ユーグはすでに目を覚ましていた。
眠ったのは、ほんのわずかな時間。脳の奥にこびりつく甘ったるい夢の残滓が、まだ神経をじわりと蝕んでいる。
視線を横に動かす。
隣にいるのは――エリザベスだった。
白い肩がシーツの端から覗き、細い背が呼吸に合わせて静かに上下している。
美しい女だ。才気、家柄、そしてあの妖艶な笑み。誰もが羨む存在だろう。
確かに、昨夜――
何度も深く、彼女を抱いた。
隣に眠るのがエリザベスだと知った瞬間、胸の奥が冷たく凍りついた。
歪んだ視界の中で見ていたのはセレナの面影。抱き締めたのは、愛しい人ではなかった。
(セレナ……)
罪悪感が喉を塞ぎ、激しい後悔が胃を締めつける。
それでも声を荒らげはしなかった。紳士としての理性が、怒りを抑え込んだ。昨夜の異様な熱と昂ぶりを思い返せば、媚薬を盛られたという確信が胸を刺す。
そして、その事実が何よりも、彼女への不信感と静かな怒りを燃え上がらせていった。
エリザベスが身じろぎをし、目を覚ました気配があった。
二人の間に、しんとした沈黙が落ちる。
やがて、彼女が上体を起こした。ユーグを見ず、裸の肩に黒髪を流し、白い肌が朝日に照らされる。
「……おはよう、ユーグ」
その声は、硬さと強がりを含んでいた。
「昨夜はあんなに激しく求めてくださったのに、今朝は随分と静かね?」
「……エリザベス」
「私は初めてだったのに、あなたは獣のように求めたわ。まだ身体のあちこちが痛いの。ふふっ」
ユーグは目を閉じ、苦しげに息を吐いた。
「身体は……大丈夫か」
シーツの赤い染みが目に入り、言葉が続く。
「昨夜は……媚薬のせいで、君を乱暴に抱いてしまった。……なぜ、そんな物を盛った?」
本来なら感情をぶつけたかった。だが、必死に抑えて問いかけた。
エリザベスは感情の読めない瞳で彼を見つめ、一言。
「あなたを愛しているから」
「……これが愛か? 相手を騙し、薬まで使って抱かれるのが? 君は俺の気持ちなんて考えてない」
「おかしなことを言うのね。……それはお互い様でしょう?」
「何が言いたい」
重たい沈黙が落ちる。
やがて、エリザベスは諦めたように息をつき、口を開いた。
「セレナ……それが、あなたの愛する人?」
「っ……!」
「昨夜は一晩中、セレナ、セレナと私を呼んでいたわ」
「………」
エリザベスは何も言わなかったが、視線を逸らされ、名前すら呼ばれなかった事実を、すべて感じ取っていた。
「あなたの心に誰かいるのはわかっていた。婚約すれば私だけを見てくれると期待していたのに……」
ユーグの頭は真っ白になった。セレナの存在が、とうに見抜かれていた。
「でも違った。おそらく結婚しても、あなたは変わらない」
「……エリザベス」
「媚薬を盛ったことは謝るわ。でも――ベッドで他の女の名を呼んだことは、許さない」
彼女の肩が震えていた。涙こそ流れなかったが、深く傷ついているのは明らかだった。
「……それは…すまなかった」
「ユーグ、もう一度抱いて。今度は私の名前を呼んで」
悲しみを湛えた瞳に懇願され、ユーグは断れなかった。
――妻となる相手を愛せない。それが、こんなにも残酷なことだとは。
エリザベスに対する情愛はない。
それでも、目の前で懇願する姿を前にすれば、突き放すことなどできなかった。
セレナを裏切ったという罪悪感が胸を締めつけたが、今、ここでエリザベスを拒むことは、また別の罪を重ねるように思えた。
静かに腕を伸ばし、エリザベスの華奢な身体を抱き寄せる。
そっと唇を重ね、昨夜の激しさとは対照的に、ゆるやかに身体を重ねていった。
ーーそれは愛ではなく、ただ、彼女に対して、償いのような気持ちであった。
ただ、己の熱を吐き出すために――求められる熱に応えるように、何度も彼女に身を重ね、果てた。
エリザベスの指が、ゆっくりとユーグの髪を撫でる。
柔らかな吐息とともに、耳元で囁かれた。
「ねえ、ユーグ……あなたのすべてが欲しかったの」
その声は、遠くで響く水音のように、届いたようで届かない。
(……ああ、セレナ。俺は、もう君のものだ……)
媚薬が効きはじめた頃、ユーグは確かに相手がエリザベスだと分かっていた。
だが、熱が全身を侵し、意識がゆらぎはじめるにつれ、次第にその輪郭は溶け、抱きしめる感触も、耳に届く吐息も、いつしかセレナのものだと錯覚していった。
*
朝の光が、カーテンの隙間から静かに忍び込んでくる。
重たく沈んだ室内に、淡い光が満ち始めた。
ユーグはすでに目を覚ましていた。
眠ったのは、ほんのわずかな時間。脳の奥にこびりつく甘ったるい夢の残滓が、まだ神経をじわりと蝕んでいる。
視線を横に動かす。
隣にいるのは――エリザベスだった。
白い肩がシーツの端から覗き、細い背が呼吸に合わせて静かに上下している。
美しい女だ。才気、家柄、そしてあの妖艶な笑み。誰もが羨む存在だろう。
確かに、昨夜――
何度も深く、彼女を抱いた。
隣に眠るのがエリザベスだと知った瞬間、胸の奥が冷たく凍りついた。
歪んだ視界の中で見ていたのはセレナの面影。抱き締めたのは、愛しい人ではなかった。
(セレナ……)
罪悪感が喉を塞ぎ、激しい後悔が胃を締めつける。
それでも声を荒らげはしなかった。紳士としての理性が、怒りを抑え込んだ。昨夜の異様な熱と昂ぶりを思い返せば、媚薬を盛られたという確信が胸を刺す。
そして、その事実が何よりも、彼女への不信感と静かな怒りを燃え上がらせていった。
エリザベスが身じろぎをし、目を覚ました気配があった。
二人の間に、しんとした沈黙が落ちる。
やがて、彼女が上体を起こした。ユーグを見ず、裸の肩に黒髪を流し、白い肌が朝日に照らされる。
「……おはよう、ユーグ」
その声は、硬さと強がりを含んでいた。
「昨夜はあんなに激しく求めてくださったのに、今朝は随分と静かね?」
「……エリザベス」
「私は初めてだったのに、あなたは獣のように求めたわ。まだ身体のあちこちが痛いの。ふふっ」
ユーグは目を閉じ、苦しげに息を吐いた。
「身体は……大丈夫か」
シーツの赤い染みが目に入り、言葉が続く。
「昨夜は……媚薬のせいで、君を乱暴に抱いてしまった。……なぜ、そんな物を盛った?」
本来なら感情をぶつけたかった。だが、必死に抑えて問いかけた。
エリザベスは感情の読めない瞳で彼を見つめ、一言。
「あなたを愛しているから」
「……これが愛か? 相手を騙し、薬まで使って抱かれるのが? 君は俺の気持ちなんて考えてない」
「おかしなことを言うのね。……それはお互い様でしょう?」
「何が言いたい」
重たい沈黙が落ちる。
やがて、エリザベスは諦めたように息をつき、口を開いた。
「セレナ……それが、あなたの愛する人?」
「っ……!」
「昨夜は一晩中、セレナ、セレナと私を呼んでいたわ」
「………」
エリザベスは何も言わなかったが、視線を逸らされ、名前すら呼ばれなかった事実を、すべて感じ取っていた。
「あなたの心に誰かいるのはわかっていた。婚約すれば私だけを見てくれると期待していたのに……」
ユーグの頭は真っ白になった。セレナの存在が、とうに見抜かれていた。
「でも違った。おそらく結婚しても、あなたは変わらない」
「……エリザベス」
「媚薬を盛ったことは謝るわ。でも――ベッドで他の女の名を呼んだことは、許さない」
彼女の肩が震えていた。涙こそ流れなかったが、深く傷ついているのは明らかだった。
「……それは…すまなかった」
「ユーグ、もう一度抱いて。今度は私の名前を呼んで」
悲しみを湛えた瞳に懇願され、ユーグは断れなかった。
――妻となる相手を愛せない。それが、こんなにも残酷なことだとは。
エリザベスに対する情愛はない。
それでも、目の前で懇願する姿を前にすれば、突き放すことなどできなかった。
セレナを裏切ったという罪悪感が胸を締めつけたが、今、ここでエリザベスを拒むことは、また別の罪を重ねるように思えた。
静かに腕を伸ばし、エリザベスの華奢な身体を抱き寄せる。
そっと唇を重ね、昨夜の激しさとは対照的に、ゆるやかに身体を重ねていった。
ーーそれは愛ではなく、ただ、彼女に対して、償いのような気持ちであった。
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