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モーリスに爵位を譲ることが決まると、エドモンたちはモントレー領の北に位置するラナ村へ移り住むことになった。
ラナ村は冬の寒さが厳しく、決して暮らしやすい土地ではない。
それでも領民の一人が、自分の持っていた小さな家を格安で譲ってくれたという。
それが、彼らの新しい住まいだった。
寝たきりのアデルを伴っての移動は容易ではないはずだった。それでもエドモンは迷わなかった。
これ以上、伯爵家としての負担を残したくなかったのだ。
かつて伯爵邸で働いていた使用人たちは、リセラを除いて皆辞めていった。
給金を十分に支払えなくなっていたため、引き留めることもできなかった。
それでもリセラだけは残った。
「わだすは、お嬢様の傍を離れねえだ!」
そう言って、一歩も引かなかった。
その日――
ルイはモントレー邸の執務室の窓から、その光景を見ていた。
寝台から移されたアデルを、リセラが慎重に抱え上げる。
細くなった身体は軽く見えたが、その重みは計り知れないはずだった。
アデルは何も知らないまま、眠り続けている。
粗末な馬車が屋敷の前に止まっていた。
かつて伯爵令嬢だった女性を乗せるには、あまりにも質素なものだった。
リセラは何度も姿勢を整えながら、丁寧にアデルを座席へ寝かせる。
エドモンとソフィアが寄り添うように乗り込む。
馬車の扉が閉まる。
馬がゆっくりと動き出した。
ルイは窓辺に立ったまま、動くことができなかった。
(……ああ……アデル……)
胸の奥に、重たい石を落とされたようだった。
呼吸が浅くなる。
けれど、苦しむ資格すら自分にはない気がした。
拳を握りしめても、何も変わらない。
ただ、馬車が遠ざかっていく。
あの中にいるのは、かつて、守ると誓った妻であり――
同時に、自分が失った未来そのものだった。
その姿が視界から消えるまで、ルイはそこに立ち尽くしていた。
モーリス一家がモントレー邸へ移り住むことが正式に決まると、それまで滞り続けていた改築工事は、驚くほどの速さで完成した。
まるで、最初から問題など存在しなかったかのようだった。
廊下の装飾は華美になり、壁紙は濃い色調へと変わり、金の縁取りを施した調度品が並んでいる。
以前この邸にあった落ち着いた気品は跡形もなく消え、代わりに見栄と誇示の空気だけが漂っていた。
(……趣味が悪いな)
胸の奥に浮かんだ感想を、ルイは表情に出さなかった。
ここはもう、自分の知っているモントレー邸ではない。
かつてアデルが笑い、歩き、領民を迎えていた家は――完全に別の場所へ変わってしまっていた。
「邸の雰囲気がずいぶん変わったな」
アデルを見送るため窓辺に立っていたルイの背後から、低い声がかかった。
振り返ると、そこにはノクスが立っていた。
三か月前に去ったときと変わらぬ旅装姿で、いつの間に現れたのか気配すら感じさせなかった。
「……戻っていたのか」
「ああ。ヤツらの趣味か?」
ノクスは周囲を見回し、あからさまに顔をしかめる。
「悪趣味だな。前のほうがよかった」
「同感だ」
短く答えると、ノクスは視線を細めた。
「裏切った連中への仕返しはできたのか?」
「できた……と言いたいところだが、難航している。俺の命を奪えるほどの手練だ。そう簡単にはいかない」
「大丈夫なのか」
「ふっ……心配してくれるのか?」
ノクスは小さく笑った。
「ああ。お前には、こちらの協力をしてもらいたいからな」
「分かってるよ。今日は久しぶりに戻ってきたんだ。何か手伝ってやろう」
肩をすくめながら言うノクスに、ルイはわずかに笑みを深めた。
「ちょうど良かった」
今夜は、リゼットと籍を入れてから初めて過ごす夜だった。
「私の代わりに初夜を頼みたい」
「はぁ??」
普段は飄々としているノクスが、思わず声を裏返す。
「私は……リゼットを抱くことができない」
「俺だって、あんな醜い女はごめんだ」
ノクスは即座に拒絶した。
「本当に抱くかどうかは、お前の判断に任せる。ただ……形だけ整えたい」
しばらく考え込んだあと、ノクスはゆっくりと口を開いた。
「……分かった。なら、ルイ。俺の指示に従ってもらう」
「ああ。抱かずに済むなら、何だってする」
ノクスの口元に、獲物を前にしたような笑みが浮かんだ。
*
夫婦の寝室には柔らかな灯りが灯され、空気にはほのかに香が漂っていた。
すべて、ルイ自身が整えたものだった。
緊張を解くため。
警戒心を緩めるため。
そして――主導権を握るために。
視線を上げると、天蓋の影が静かに揺れている。まるで、この空間だけが現実から切り離されているかのようだった。
初々しい花嫁を装ったリゼットは寝室のソファに腰掛け、やがて口を開く。
「ルイ様……至らぬ点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたしますわ」
声音は慎ましく、態度は理想的だった。
ルイは「こちらこそ」と穏やかに答え、わずかに微笑む。そして自然な流れで言葉を続けた。
「少し、酒でもどうかな?」
差し出したのは赤ワインだった。
「香りが良くてね。苦手な人でも飲みやすい」
リゼットは素直に杯を受け取る。
一杯、二杯と重ねるうちに頬が赤く染まり、瞳がゆっくりと潤んでいった。
空気には白檀に似た香が広がっている。
「気づいたかい?香を焚いたんだ。君が緊張しないように」
嘘ではない。
ただし理由は別にあった。
香りも、酒も、環境も――すべてノクスの指示通りだった。
やがてリゼットの視線は焦点を失い、身体の力が抜けていく。
「……緊張は、解けたかな?」
「……はい……」
声が遠くなっていた。
(……十分だ)
ルイは静かに判断し、腕を回してリゼットの身体を支えながら寝台へ横たえた。
リゼットはそのまま深く眠りに落ちた。
「どうだ?薬は効いているようだな」
いつの間にか、背後にノクスが立っていた。
彼はリゼットの額に手を当て、低く聞き取れない言葉を呟く。その仕草はどこか呪術めいて見えた。
リゼットがわずかに身じろぐ。
「起きたのか?」
「いや。これは明日の朝まで目を覚まさない。今頃、初夜の夢でも見てるさ」
そう言うと、ノクスはリゼットの夜着を手早く脱がせ、掛布で身体を覆った。
続いて短刀で自分の小指をわずかに切り、シーツへ血を落とす。
「これで初夜の演出は終わりだ」
得意げに言うノクスに、ルイは短く頷いた。
「あとは、お前の演技力だ」
「分かった」
ノクスは窓辺に歩み寄り、月の位置を確認する。
「そろそろ俺は行く。また顔を出す」
「……次は三か月後か?」
「さあな。俺が現れるのを楽しみにしててくれ」
そう言うと、気配がふっと消えた。
静寂が戻る。
ルイは寝台で眠るリゼットに視線を向けた。
その眼差しには、温度と呼べるものが一切なかった。
リゼットが眠る寝台には近寄らず、ソファーに深く腰掛けた。
今夜、形式の上では、ルイとリゼットは夫婦になった。
だがーー。
ルイの内側では、何一つ成立していなかった。
心は完全に冷え切り、外界から切り離されていた。感情を感じる領域そのものが、壊れてしまったようだった。
残っているのは、ただ一つ。
静かに燃え続ける執念だけだった。
ラナ村は冬の寒さが厳しく、決して暮らしやすい土地ではない。
それでも領民の一人が、自分の持っていた小さな家を格安で譲ってくれたという。
それが、彼らの新しい住まいだった。
寝たきりのアデルを伴っての移動は容易ではないはずだった。それでもエドモンは迷わなかった。
これ以上、伯爵家としての負担を残したくなかったのだ。
かつて伯爵邸で働いていた使用人たちは、リセラを除いて皆辞めていった。
給金を十分に支払えなくなっていたため、引き留めることもできなかった。
それでもリセラだけは残った。
「わだすは、お嬢様の傍を離れねえだ!」
そう言って、一歩も引かなかった。
その日――
ルイはモントレー邸の執務室の窓から、その光景を見ていた。
寝台から移されたアデルを、リセラが慎重に抱え上げる。
細くなった身体は軽く見えたが、その重みは計り知れないはずだった。
アデルは何も知らないまま、眠り続けている。
粗末な馬車が屋敷の前に止まっていた。
かつて伯爵令嬢だった女性を乗せるには、あまりにも質素なものだった。
リセラは何度も姿勢を整えながら、丁寧にアデルを座席へ寝かせる。
エドモンとソフィアが寄り添うように乗り込む。
馬車の扉が閉まる。
馬がゆっくりと動き出した。
ルイは窓辺に立ったまま、動くことができなかった。
(……ああ……アデル……)
胸の奥に、重たい石を落とされたようだった。
呼吸が浅くなる。
けれど、苦しむ資格すら自分にはない気がした。
拳を握りしめても、何も変わらない。
ただ、馬車が遠ざかっていく。
あの中にいるのは、かつて、守ると誓った妻であり――
同時に、自分が失った未来そのものだった。
その姿が視界から消えるまで、ルイはそこに立ち尽くしていた。
モーリス一家がモントレー邸へ移り住むことが正式に決まると、それまで滞り続けていた改築工事は、驚くほどの速さで完成した。
まるで、最初から問題など存在しなかったかのようだった。
廊下の装飾は華美になり、壁紙は濃い色調へと変わり、金の縁取りを施した調度品が並んでいる。
以前この邸にあった落ち着いた気品は跡形もなく消え、代わりに見栄と誇示の空気だけが漂っていた。
(……趣味が悪いな)
胸の奥に浮かんだ感想を、ルイは表情に出さなかった。
ここはもう、自分の知っているモントレー邸ではない。
かつてアデルが笑い、歩き、領民を迎えていた家は――完全に別の場所へ変わってしまっていた。
「邸の雰囲気がずいぶん変わったな」
アデルを見送るため窓辺に立っていたルイの背後から、低い声がかかった。
振り返ると、そこにはノクスが立っていた。
三か月前に去ったときと変わらぬ旅装姿で、いつの間に現れたのか気配すら感じさせなかった。
「……戻っていたのか」
「ああ。ヤツらの趣味か?」
ノクスは周囲を見回し、あからさまに顔をしかめる。
「悪趣味だな。前のほうがよかった」
「同感だ」
短く答えると、ノクスは視線を細めた。
「裏切った連中への仕返しはできたのか?」
「できた……と言いたいところだが、難航している。俺の命を奪えるほどの手練だ。そう簡単にはいかない」
「大丈夫なのか」
「ふっ……心配してくれるのか?」
ノクスは小さく笑った。
「ああ。お前には、こちらの協力をしてもらいたいからな」
「分かってるよ。今日は久しぶりに戻ってきたんだ。何か手伝ってやろう」
肩をすくめながら言うノクスに、ルイはわずかに笑みを深めた。
「ちょうど良かった」
今夜は、リゼットと籍を入れてから初めて過ごす夜だった。
「私の代わりに初夜を頼みたい」
「はぁ??」
普段は飄々としているノクスが、思わず声を裏返す。
「私は……リゼットを抱くことができない」
「俺だって、あんな醜い女はごめんだ」
ノクスは即座に拒絶した。
「本当に抱くかどうかは、お前の判断に任せる。ただ……形だけ整えたい」
しばらく考え込んだあと、ノクスはゆっくりと口を開いた。
「……分かった。なら、ルイ。俺の指示に従ってもらう」
「ああ。抱かずに済むなら、何だってする」
ノクスの口元に、獲物を前にしたような笑みが浮かんだ。
*
夫婦の寝室には柔らかな灯りが灯され、空気にはほのかに香が漂っていた。
すべて、ルイ自身が整えたものだった。
緊張を解くため。
警戒心を緩めるため。
そして――主導権を握るために。
視線を上げると、天蓋の影が静かに揺れている。まるで、この空間だけが現実から切り離されているかのようだった。
初々しい花嫁を装ったリゼットは寝室のソファに腰掛け、やがて口を開く。
「ルイ様……至らぬ点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたしますわ」
声音は慎ましく、態度は理想的だった。
ルイは「こちらこそ」と穏やかに答え、わずかに微笑む。そして自然な流れで言葉を続けた。
「少し、酒でもどうかな?」
差し出したのは赤ワインだった。
「香りが良くてね。苦手な人でも飲みやすい」
リゼットは素直に杯を受け取る。
一杯、二杯と重ねるうちに頬が赤く染まり、瞳がゆっくりと潤んでいった。
空気には白檀に似た香が広がっている。
「気づいたかい?香を焚いたんだ。君が緊張しないように」
嘘ではない。
ただし理由は別にあった。
香りも、酒も、環境も――すべてノクスの指示通りだった。
やがてリゼットの視線は焦点を失い、身体の力が抜けていく。
「……緊張は、解けたかな?」
「……はい……」
声が遠くなっていた。
(……十分だ)
ルイは静かに判断し、腕を回してリゼットの身体を支えながら寝台へ横たえた。
リゼットはそのまま深く眠りに落ちた。
「どうだ?薬は効いているようだな」
いつの間にか、背後にノクスが立っていた。
彼はリゼットの額に手を当て、低く聞き取れない言葉を呟く。その仕草はどこか呪術めいて見えた。
リゼットがわずかに身じろぐ。
「起きたのか?」
「いや。これは明日の朝まで目を覚まさない。今頃、初夜の夢でも見てるさ」
そう言うと、ノクスはリゼットの夜着を手早く脱がせ、掛布で身体を覆った。
続いて短刀で自分の小指をわずかに切り、シーツへ血を落とす。
「これで初夜の演出は終わりだ」
得意げに言うノクスに、ルイは短く頷いた。
「あとは、お前の演技力だ」
「分かった」
ノクスは窓辺に歩み寄り、月の位置を確認する。
「そろそろ俺は行く。また顔を出す」
「……次は三か月後か?」
「さあな。俺が現れるのを楽しみにしててくれ」
そう言うと、気配がふっと消えた。
静寂が戻る。
ルイは寝台で眠るリゼットに視線を向けた。
その眼差しには、温度と呼べるものが一切なかった。
リゼットが眠る寝台には近寄らず、ソファーに深く腰掛けた。
今夜、形式の上では、ルイとリゼットは夫婦になった。
だがーー。
ルイの内側では、何一つ成立していなかった。
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