【完結】祈りの果て、君を想う

とっくり

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17 祈り

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 ユリアンと別れた後、リリエルは一人、聖堂の片隅に膝をついていた。

 蝋燭の光に揺れる聖像。
 その足元に手を組み、額をつける。

「神よ……どうか、導いてください……」

 祈りの声は震えていた。

 彼の語った「命を奪ってきた過去」は、修道女としてのリリエルにはあまりにも重い。

 彼の瞳は、虚無に沈み、悲しみの色を宿しながら、心の悲鳴とは裏腹に微笑み、心の傷を隠して生きている。


「なぜ……私の心は、こんなにも痛むのでしょうか……」


 罪と贖罪、正しさと慈しみ。


 リリエルの信仰が揺らいでいるわけではない。ただ、彼の存在が、祈りの形を変えていくのを感じていた。


 それは、怖くもあり、温かくもあった。




 ~~~~~~~~~~~



 静かな朝の回廊。

 白い光が石畳を柔らかく照らす。
 リリエルが水差しを運んでいると、柱の陰からユリアンが現れた。

「……昨夜は、よく眠れたかい?」

 その声に、リリエルは立ち止まり、ゆるやかに微笑んだ。


「……ええ。少しだけ、祈っていました」


「やっぱり、そうか。リリエルなら祈っているだろうと思っていた」

「毎日、神様に祈りを捧げてます」

「俺は君と話したあとは、心が少しだけ楽になる。神様に祈ったわけでもないのに。不思議なんだ・・・罪を背負っている自分が楽になっていいのかな」

 リリエルはその言葉に目を伏せ、ゆっくりと彼の方へ向き直った。


「……罪を背負って生きることは、重いことです。でも、それは…それだけ誰かを守ろうとした証でもあります」


 ユリアンの目が揺れた。

 彼は黙って、リリエルの言葉の続きを待つ。

「あなたが何をしてきたのか、私はすべてを知っているわけではありません。
 けれど……あなたが、そのことに苦しんで、悔やんで、それでも前を向こうとしているのなら――その痛みを、私は神のもとへ運びたいと思います」

 リリエルの声は柔らかく、澄んでいて、
 まるで長く降った雨のあとに差し込む光のようだった。

「人は皆、過ちを抱えて生きています。だけど……その痛みを誰かと分かち合えるなら、そこに救いが生まれるのだと、私は思います」

 ユリアンはしばらく何も言わなかった。

 ただ、真っ直ぐにリリエルを見つめ、その瞳の奥に確かなものを見つけたように、ゆっくりと息を吐いた。

「……君は、祈るだけじゃないんだね。救おうとしてくれている。……こんな俺を」

「救うだなんて、大それたことではありません」

 リリエルは首を横に振り、目を伏せた。

「ただ……あなたが、自分を責めすぎませんように。あなたが過去に閉じ込められませんように。そんな想いで、祈っていただけです」

 その言葉に、ユリアンはふと微笑んだ。

「……ありがとう、リリエル。君に出会えたことが、俺の救いになっているよ」

 リリエルの頬が、ほんの少しだけ紅潮する。
 でも彼女はうつむかず、そっと目を合わせた。

 彼の過去は変えられない。


 けれど――その未来に、希望の光をともすことなら、できるかもしれない。
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