その女、女狐につき。2

高殿アカリ

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2.一学期はすべての布石のために

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 市川に説明をしたのは、結局家を出る前日になった。



 彼は私の話に真剣に耳を傾けてくれた。

 あまりにも真摯だったから、私が思わず笑ってしまったくらい。



「今、あなたと一緒に居ると夢乃にばれてしまったら何もかも終わってしまうわ」



「それに、夢乃が動いてくれなくなるリスクもあるの」



「仲間は少ないと思われていた方が良いでしょう?」



 ありったけの言い訳は、市川とそれから私自身にも言い聞かせたかったからかもしれない。



 私のそれっぽい言い訳を全て聞いた彼は、最後に一言だけこう言った。



「全てが終わったら、また僕の所に戻ってきてくれるかい?」



 珍しく不安気な様子だった。



 私は彼の質問に答えを返すことが出来なかった。



 だって、未来のことなんて分からないもの。

 ただでさえ過去の記憶も分かっていないのに。



 未来なんて私にはキャパオーバーで。

 だけど、彼の不安を取り除いてあげたかった。



 だから、私は何も言わず自分から彼にキスをした。

 せめて私の荷物がなくなるまでは不安にならないように。



 こんな無責任で幼稚な市川に対する私の思い。

 時に残酷で、でもちょっとだけ愛おしいこの思い。



 これが私には何なのか分からない。

 恋なのか、愛なのか。

 はたまた、ただの依存か。



 彼もそれについてはきちんと分かってはいないみたいだった。



 そんなどうしようもない私たち二人の合言葉は。



「「とにかく、記憶もないわけだし」」
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