その女、女狐につき。2

高殿アカリ

文字の大きさ
上 下
59 / 76
5.女狐の過去

13

しおりを挟む
******************************



 あの事件から二週間が経った。



 私は夢乃に会う勇気も出なくて、満吉に受験勉強を見てもらう毎日を送るばかりだった。



 そんなある日のこと。



「なぁ、愛美」



「うん? また解答を間違えてた?」



「いや、そうじゃなくて、だな」



「うん」



「今度さ、夏休み最後の花火大会があるだろう?」



「あぁ、そうね。もう、夏も終わっちゃうのか。寂しいね」



「そうだな。それでさ、その、」



「何?」



「一緒に、行かないか。……ほら、付き合ってからどこにも出かけていないしさ。勉強ばっかで愛美も窮屈だろう?」



 何も反応しない私の顔を覗き込みながら、彼はさらに続けてこう言った。



「……それとも、やっぱり外は怖いか?」



 ――――あぁ。



 本当に、嫌になっちゃう。

 どうしてこうも、この人は。



 私の心を鷲掴みにして離してくれないのだろう。



 私は瞳に溜まった涙を振り払って、彼の胸に飛び込んだ。

 だけど、彼は私のちっぽけな力くらいじゃびくともしなくて。



「満吉が守ってくれるんでしょう?」



 私は笑ってそう言った。

 彼も笑って返してくれた。



「あぁ、もちろんだ」



 逞しいこの腕も。

 耳障りの良い低い声も。



 私は彼の胸の中で、これ以上ないくらいの幸せを感じていた。



「満吉、ありがとう」



 私の言葉に満吉は何も言わず、ただぎゅっと強く抱きしめ返しただけだった。
しおりを挟む

処理中です...