その女、女狐につき。2

高殿アカリ

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5.女狐の過去

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 夏祭りの日、私は満吉と一緒に川辺沿いを歩いていた。



 私たちはどちらも気慣れない浴衣を着ていて。



 右手にはりんご飴。

 左手は彼の温かな手に包み込まれていた。



「花火、間近で見たいか?」



 優しくそう尋ねてきた彼に、



「ううん、毎年見てるからいいよ。人も多いしね。散歩しながら遠くに眺めよう」



 私はそんな風に答えたっけ。



 だから、花火は遠くの方に上がって。

 でも、信じられないくらい綺麗に見えて。



 私は彼の右手を強く握りしめた。



 それから。

 私たちは微笑み合って。



 それから。

 それから。



 誰かが満吉にぶつかって。



 それで。

 それで。

 えーっと。



 満吉の顔が痛みに歪んで。

 彼の身体から真っ赤な色が飛び出して。



 ……そう。

 そうだったわ。



 満吉は誰かに刺されて。

 私はそれをただ見ていることしかできなくて。



 あぁ、記憶が曖昧だわ。

 まるで白黒映画みたい。



 音が遠くに聞こえて。

 何も見えなくて。



 いいえ、駄目よ。

 思い出さなくちゃ。



 ……そう、私は発狂したのよ。



 だって目の前で、ついさっきまで幸せそうな表情をしていた彼が、ゆっくりと倒れたんだもの。



 倒れた彼の身体を抱き締めて私は嘆いたわ。



「嫌よ、嫌よ。ねぇ、満吉。お願い、一人にしないで」



 それでも、彼は笑っていて。

 血に染まった自分の手を私の頬に添えて。



「……ごめんな」



 なんて言ったの。

 だから私は泣き叫んで。



 いつの間にか救急車がやって来て。

 それでも何もかもが手遅れで。



 結局、満吉はいなくなってしまったの。
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