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I miss you.
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「みぃつけた」
そう言ったリーンハルトの背後から室内を覗き込むと、クレオが絶望した表情でへたり込んでいた。
「何脅してんだ!」
リーンハルトの背中を後ろから蹴飛ばし、俺はクレオの元へと駆け寄った。
俺に続いてパウルが入ってきたのでリーンハルトのことは任せて大丈夫だろう。
クレオは見ていない間に驚くほど痩せ細ってしまっていた。
「……ゴー、ドン?」
クレオの弱々しい口調と痛々しいその姿に、俺はいてもたってもいられなくなった。
そっと彼を抱きすくめる。
元々華奢な身体がさらに骨張っており、俺は顔を歪めた。
こんなことならもっと早く迎えにくるべきだった。
彼を信頼している、していないなんて考えていた昨日までの自分を殴り飛ばしてやりたい。
小刻みに震えるクレオの身体をそっとあやしながら、俺は後悔していた。
「ゴードン、ほんとうに……? 本当に貴方なのですか? ……私の幻では、なく……?」
クレオの顔を見ようと身体を一旦離すと彼の澄んだ榛色の瞳が不安げに揺れていた。
俺は泣きそうな自分を叱咤して、彼に向かって微笑んだ。
きっと泣きたいのはクレオの方だ。
「あぁ、そうだよ。クレオ、俺だ。お前の相棒のゴードンだ。十三年間一緒に過ごしてきた家族の顔も忘れちまったのか?」
茶目っ気たっぷりにそう言うと、クレオのパサついてがさがさに罅割れた唇がわなわなと震え出した。
今すぐそこに口付けて潤してやりたかった。
「……か、ぞく……う、っ……」
クレオは安心と混乱から声を上げて泣きじゃくり始めた。
彼が子どもみたいに大きな声を出して感情を露わにする姿は初めて見た。
年甲斐もなく無様に泣くクレオがどうにも可愛くて、俺は誰にも見せないように彼を胸に押し込めた。
絹のように柔らかな銀の髪を梳かしながら、俺は彼が泣き止むまで静かに待っていた。
俺たちの様子に本当の意味でクレオのことに諦めがついたリーンハルトが、悲しそうな顔をしてパウルに手を握られていたことに俺は気づかなかった。
俺は腕の中でクレオがぐずぐずになるまで甘やかしていたい気持ちと葛藤していた。
何度もクレオの髪や瞼、唇の端に口を落としていく。
ちゅっちゅと軽めのリップ音が俺たちの耳に響く。
最後に、羞恥で染まっていくクレオの頬に唇を落として俺は彼を解放した。
「クレオここで待っていてくれ。逃げ遅れた人たちを助けに行かないと、意趣返しとは言え、被害を出すわけには行かない」
「行かないでください!」
立ち去ろうとした俺の身体をクレオが思いの外強い力で引き留める。
悲壮感を漂わせながら、それでもはっきりと主張する彼の姿に俺の心臓はぎゅっと甘く疼く。
このままクレオをずっと甘やかしてドロドロに溶かしてしまいたい。
永遠に俺の腕の中に閉じ込めて、どこにも逃さないように、誰にも奪われないように囲ってしまいたい。
けれども、不健全な欲望はクレオを不幸にするだけだと俺はよく知っているから。
俺は彼に伝えた。
庇護欲をそそるかつての彼とよく似た、目の前のクレオに。
「クレオ、俺と一緒に行こう」
細すぎる彼の手を握った。
「一緒に……?」
クレオは困惑していた。
「あぁ、そうだ。クレオはもう王族ではないし、十三年もの間、俺と一緒に外の世界で生き抜いてきた知恵と勇気もある。お前の作る罠が一等素晴らしいと俺は知っているぞ」
そう言って、彼の腕にいつも持ち歩いているショルダーバックを渡す。
この中にはクレオ専用の爆薬やワイヤー、そのほか罠の制作に必要な全てが詰まっているのだ。
「クレオはもう、誰の保護下にいなくとも十分に生きていける。違うか?」
「っ‼ ちが、っいません!」
ショルダーバッグを受け取ったクレオは俺の手をしっかりと握り返した。
そう言ったリーンハルトの背後から室内を覗き込むと、クレオが絶望した表情でへたり込んでいた。
「何脅してんだ!」
リーンハルトの背中を後ろから蹴飛ばし、俺はクレオの元へと駆け寄った。
俺に続いてパウルが入ってきたのでリーンハルトのことは任せて大丈夫だろう。
クレオは見ていない間に驚くほど痩せ細ってしまっていた。
「……ゴー、ドン?」
クレオの弱々しい口調と痛々しいその姿に、俺はいてもたってもいられなくなった。
そっと彼を抱きすくめる。
元々華奢な身体がさらに骨張っており、俺は顔を歪めた。
こんなことならもっと早く迎えにくるべきだった。
彼を信頼している、していないなんて考えていた昨日までの自分を殴り飛ばしてやりたい。
小刻みに震えるクレオの身体をそっとあやしながら、俺は後悔していた。
「ゴードン、ほんとうに……? 本当に貴方なのですか? ……私の幻では、なく……?」
クレオの顔を見ようと身体を一旦離すと彼の澄んだ榛色の瞳が不安げに揺れていた。
俺は泣きそうな自分を叱咤して、彼に向かって微笑んだ。
きっと泣きたいのはクレオの方だ。
「あぁ、そうだよ。クレオ、俺だ。お前の相棒のゴードンだ。十三年間一緒に過ごしてきた家族の顔も忘れちまったのか?」
茶目っ気たっぷりにそう言うと、クレオのパサついてがさがさに罅割れた唇がわなわなと震え出した。
今すぐそこに口付けて潤してやりたかった。
「……か、ぞく……う、っ……」
クレオは安心と混乱から声を上げて泣きじゃくり始めた。
彼が子どもみたいに大きな声を出して感情を露わにする姿は初めて見た。
年甲斐もなく無様に泣くクレオがどうにも可愛くて、俺は誰にも見せないように彼を胸に押し込めた。
絹のように柔らかな銀の髪を梳かしながら、俺は彼が泣き止むまで静かに待っていた。
俺たちの様子に本当の意味でクレオのことに諦めがついたリーンハルトが、悲しそうな顔をしてパウルに手を握られていたことに俺は気づかなかった。
俺は腕の中でクレオがぐずぐずになるまで甘やかしていたい気持ちと葛藤していた。
何度もクレオの髪や瞼、唇の端に口を落としていく。
ちゅっちゅと軽めのリップ音が俺たちの耳に響く。
最後に、羞恥で染まっていくクレオの頬に唇を落として俺は彼を解放した。
「クレオここで待っていてくれ。逃げ遅れた人たちを助けに行かないと、意趣返しとは言え、被害を出すわけには行かない」
「行かないでください!」
立ち去ろうとした俺の身体をクレオが思いの外強い力で引き留める。
悲壮感を漂わせながら、それでもはっきりと主張する彼の姿に俺の心臓はぎゅっと甘く疼く。
このままクレオをずっと甘やかしてドロドロに溶かしてしまいたい。
永遠に俺の腕の中に閉じ込めて、どこにも逃さないように、誰にも奪われないように囲ってしまいたい。
けれども、不健全な欲望はクレオを不幸にするだけだと俺はよく知っているから。
俺は彼に伝えた。
庇護欲をそそるかつての彼とよく似た、目の前のクレオに。
「クレオ、俺と一緒に行こう」
細すぎる彼の手を握った。
「一緒に……?」
クレオは困惑していた。
「あぁ、そうだ。クレオはもう王族ではないし、十三年もの間、俺と一緒に外の世界で生き抜いてきた知恵と勇気もある。お前の作る罠が一等素晴らしいと俺は知っているぞ」
そう言って、彼の腕にいつも持ち歩いているショルダーバックを渡す。
この中にはクレオ専用の爆薬やワイヤー、そのほか罠の制作に必要な全てが詰まっているのだ。
「クレオはもう、誰の保護下にいなくとも十分に生きていける。違うか?」
「っ‼ ちが、っいません!」
ショルダーバッグを受け取ったクレオは俺の手をしっかりと握り返した。
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