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Side Story ; His

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あの日、クレオにまんまと嵌められた俺はこのまま落とし穴の中で人生が終わるのだと思った。

行方不明の国民は毎年出ているし、国中を探して見つからなかった場合、死亡したと看做される。
城壁の向こう側まで探されることは一度だってなかった。

確かにここは王国内では間違いないだろうが、クレオのあの自信に満ちた態度を思えばそう簡単に見つけてもらえる場所でないということは明白だった。

日が陰り、じんわりと寒さに震え始めた頃、リーンハルトは俺の前に現れた。

「助けて欲しいか?」

夕暮れを背に穴の上に立ったリーンハルトはまるで堕天使のようだった。
美しくも後ろ暗い雰囲気で、俺は惹かれるように首を縦に振った。

「なんでも、する」

俺の言葉に満足げに嗤ったリーンハルトは、穴の中に梯子を下ろしてくれたのだった。
数時間ぶりに地上へと戻った俺の肩を叩き、リーンハルトは低く囁いた。

「お前は今この瞬間から俺のものだ。家族には死んだと通達を出す。俺のために一生を捧げるんだ」

光を失った瞳が俺の顔を睨んでいる。どうやら俺を恨んでいるようだった。

王城の一室を与えられ、俺はそこで軟禁されていた。
リーンハルトは毎日決まった時間に部屋を訪れ、俺を脅す。

「分かっているな。お前は世界にいないことになっている。俺の手駒として生きる道しか残されていないんだよ」

クレオによく似た榛色の目に凄まれる度、心の奥が騒ついた。

何度目の来訪だったかはあまり覚えていない。

彼はいつもの通り俺の様子を見に部屋を訪れていた。
ぼんやりと開かれた扉に顔を向けるとリーンハルトが俺に近づいてくるのが分かった。

彼の手が俺の両手首を掴み、壁に縫い付ける。
直接的に干渉されたのは初めてのことで俺は驚きに目を見開いた。

「お前は俺の弟を虐めていただろう。そろそろその罪を償ってもらわなきゃなぁ」

リーンハルトの瞳が残虐に煌めき、俺は理解した。
あぁ、弟の復讐の為に俺を助けたのか。
なぁんだ。

「簡単に死なせはしないから安心しろ」

リーンハルトはそう言ったと同時に俺の鳩尾を思いっきり殴った。
手首を解放されるも、突然の痛みに俺の身体は硬い床にぺしゃりと蹲る。

リーンハルトは軽々しく俺を抱き上げ、寝台に寝かせる。
両手足を麻紐で縛ると満足そうに俺を見下ろすのだ。

「抵抗できないのはどんな気持ちだ?」

残忍な笑みを浮かべていた。
それから屈辱を与えられる日々が始まった。
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