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 雅也はいわゆる、ぽっちゃり体形の男だ。

 本人曰く、断じて太っているわけではないらしい。



 そんな彼に与えられた試練は、早朝のランニングであった。



 そして、何故か。

 俺と達也も一緒に走らされている今朝この頃。



 後ろでは、蛍光のオレンジ色をしたメガホンを手に、自転車に乗ったレナが俺たちに発破をかけている。



「とにかく、健康的に痩せること! 走れ、走るのだ、若者よ!!」



 ただ、その自転車はよたよたと進み、見ていて非常に危なっかしい。



「なぁ、もしかしてレナって自転車乗るの下手くそ?」



 ひそひそと達也が俺に話しかけてくる。



「あぁ、かもな」



 いやしかし、俺は今それどころじゃないんだ、達也。

 もしかしたらすごいことに気が付いてしまったのかもしれない。



 俺は唇を舐め、どこか掠れた声で達也に告げた。



「な、なぁ達也。それよりさ、俺気付いちまったかもしんねぇぜ」



 達也が視線を俺に戻す。

 雅也には余裕がなさそうだから、朝食の時にでも伝えるか。



「あのよ、総長に思い知らせる為に早朝ランニングなんじゃねぇのかって……」



 達也が隣で息を呑む音が聞こえた。

 それから二人でゆっくりと後ろを振り返り、自転車に悪戦苦闘しているJKレナを見つめた。



「「そんな光るギャグセンスが、あいつにもあったなんてな」」
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