愛に生きる。

高殿アカリ

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第二章 危険

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 最近、周の様子がおかしい。帰りも随分と遅くなったし、顔に痣がついていることもあった。彼が何かきな臭いことに首を突っ込んでいるのは火を見るよりも明らかだった。
「おかえり、周」
「あぁ、ただいま」
 へらりと笑って帰ってきた周を迎え入れるも、赤くはれた頬をかばうようにして返事をするだけ。その瞳には生気が抜けているように見える。
(厄介なお客さんでもついちゃったのか……?)
 周の性格上、何も答えてくれないことは分かっているので、心配な気持ちを必死に押し殺しながら、愛生は周の頬に手を伸ばす。ホストなのに、顔に傷があっても出勤できるのだろうか。不安は確かな疑問となって愛生の中に降り積もっていった。
「何?」
 だが、愛生の手のひらがその痣に触れる前に、周の手によって阻止される。周は真意の読み取れない笑みを見せて、愛生に問いかける。その反応を前に、愛生は何も言い返せないまま、ぐっと手を握り締めた。
――ほら、やっぱり何も教えてくれない。
「いや、ただ手当が必要かなって」
「ううん、大丈夫だから」
 誤魔化すようにキスを与えられ、愛生は決めた。今の周に一体何が起きているのか、しっかり自分の目で確かめなくては、と。

***

 翌日以降、愛生は周のあとをつけるようになった。仕事終わり、家に帰ってから周を送り出す。そのあと、仮眠をとって、周が仕事を終える午前五時頃、始発電車に乗り込んで周の働くホストクラブへと向かう。
 始発の車両はちらほらと人がいるくらいで、空いている座席に腰を下ろす。スーツを着たサラリーマンが何人かいて、平穏な日常の光景に愛生は少し気がまぎれた。
 周の勤め先の最寄り駅に降り立ち、歓楽街へと足を向ける。
 朝の歓楽街は営業終了していて、キャッチももういない。仕事終わりのキャバ嬢やホストたちがけだるげに駅に向かって歩いているのが見えた。
周の働くホストクラブに着いた愛生は、裏口の見えるファーストフード店に入り、周がそこから出てくるのを待っていた。
いつでも出られるようにコーヒーだけを注文した。
 扉が開くたび、顔を上げて反応するも、そこに彼の姿はなかった。しばらくして、周が出てきたのはおおよそのスタッフが帰ったあとだった。
 愛生のコーヒーが入っていたカップは既に空になっている。

「……きたっ!」
 愛生はガタンと勢いよく立って、慌てて返却口にトレイを戻す。それから上着を羽織りながら、店を出た。
 周は家を出た時と同じ格好で繁華街を歩いている。その後ろをちょこちょこと愛生があとをつける。周はどうやら愛生には気付いていないようだ。
 ひとまず、第一条件はクリアだ。
「にしても、周は歩きスマホなんかして。危ないって」
 むすっとしながら、愛生は自分のほかに怪しい人物がいないか辺りを見渡す。だが、想定していたような怪しい影は今のところ見えない。
「女性のお客さんにストーカーされているとか、そういうのではないのかな? それとも今日はたまたまなだけ……?」

 顎に手を当てながら首を傾げた愛生。だが、そこで愛生の疑惑はより深まることになった。
 順調に駅への道を歩いていた周が、角を曲がって道を逸れたからだ。何やら薄暗い路地裏に入っていく周をぼんやりと眺めてしまった愛生だったが、次の瞬間はっとして慌てて追いかけた。
 裏路地には細い道が続いていた。ここに来て、周はやたらとあたりを警戒しだした。何やらきな臭い匂いがすると同時に、周にばれない様に愛生は物陰に隠れる。
 周が何やら面倒なことに巻き込まれているという自分の予感はやはりあたっていたんだ、とここで愛生は確信した。
 夢中になって周を追いかけていると、何やら路地裏の終わりに出てきた。角を曲がったところで、周はがらの悪い連中複数人に囲まれているのが見える。
 何やら話している会話を聞こうと、近くの物陰に身を隠し、耳をそばだてる愛生。

「それで? ちゃんと用意はできてんだろうな?」
 スキンヘッドの男がすごむ。声が大きいので愛生までよく聞こえた。
「……あぁ……で、……今後…………」
 一方、周の声は通常なのでところどころしか聞こえてこない。愛生は眉根を寄せて必死に聞き取ろうとするも、結局徒労に終わった。
 数度の会話のやり取りがあって、そのあと、無言が流れた。愛生は物陰から少しだけ頭を出し、何をしているのかを見る。
 すると、何やら怪しい粉の入った袋と現金が周と柄の悪い男たちの間で行き来しているのが見えた。愛生は驚きに目を見張る。
 周が薬を受け取っていたからだ。
「まさか。そんな、だって……」
 ぼそぼそと思わず声が漏れる愛生。そこで彼はようやく理解した。薬の売買現場に居合わせてしまったことを。それも、取引相手が愛する恋人であるということを。
 突然、頭にノイズが走った。そして激しい頭痛と吐き気がこみあげてきて、愛生は急いで、けれども音を立てずにその場を去ることしかできなかった。
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