春のうらら

高殿アカリ

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「見つけたわ」
 麗は二冊の書物を前に安堵の溜息をついていた。
 探していた情報をようやく手に入れることが出来たのだ。
 『パドマーナ島におけるワースの神秘』『ダルゴ=マト王国の鉱石貿易』と題された書物にはそれぞれ特徴的な鉱石に関する記載がある。
 それこそが、麗の求めていた魔素を含む鉱石なのであった。
 パドマーナ島の海に眠るワースという鉱石には、唯一天然の魔素がふんだんに含まれている。
 一方、砂漠に位置するダルゴ=マト王国は貿易大国であり、特にここ数年人工鉱石“パトラ”が人気である。
 どういう技術かは分からないが、パトラにも大量の魔素が含まれているのだ。
 屑鉄などに含まれる微量の魔素を抽出し、それらを組み合わせて鉱石に練りこんだものを“パトラ”と名付けたのだ。
「ワースとパトラがあれば」
 麗は恍惚な笑みを見せた。
 魔素同士を組み合わせれば膨大なエネルギーを生み出せるようになる。そのエネルギー量は正しく、地球の原子力に相当する。それは、半永久的に機械を動かし続けられるほどのエネルギーなのである。
 また、幸か不幸かこの二か国は最近世界連盟に参入してきた国でもあった。
 そしてつい先日、魔王である麗の元に世界連盟理事国であるリーラム帝国から連絡が来たばかりでもあるのだ。
『参入した二国から魔物襲来の要請があった。こちらとしては円滑に交流を進めたいと考えている。一度、魔界からも使者を派遣し、二国と関係を深めて欲しい。こちらからは仲介役としてオズヴァルド、ニクラス、スピカ、カイパー、シュヴァルツェ、マロンをそちらに向かわせている』
 世界規模の救済を目的とする魔界としては、世界連盟からの“お願い”を無下にすることは難しかった。
 特に両国とも古くから歴史を持つ国であり、パドマーナ島は土地に、ダルゴ=マト王国は国民に魔力を多く有しており、麗としても一度は訪れておきたい場所であった。
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