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近頃、噂になっている魔術師誘拐事件。手口は分からず、誘拐された魔術師たちの行方も未だ杳として知れず。それも誘拐されるのは力のある魔術師ばかりだというのだから、世界は震撼していた。
各国は前代未聞のこの事態にただ手をこまねくしかない。どれだけ厳重に自国の魔術師を警備しても、ほんの一瞬の隙をついて連れていかれるのだ。それこそまるで奇怪な魔法のように。
この事件の話題は魔界領域にまでやってきた。
魔界の住民たちから情報を聞いたシノニムは早速麗に話をしたのだ。
魔術師が絡んでいる以上、無関係ではいられないのだから。
「力の強い魔術師が誘拐されているらしい」
「私も聞いたわ」
「大丈夫なのか?」
「え? 大丈夫って何が」
「いや、魔術師を絶滅させないために魔界領域の活動を行っているだろう」
「えぇ、そうね」
「それなのに心配じゃないのか。どの国の仕業かは分からないが、このまま力のある魔術師がいなくなれば……」
ここで、ふとシノニムはある論理のメカニズムに気が付いてしまった。それは開けてはならないパンドラの箱であった。
だが、同時に走り出した思考は彼にも既に止めることは出来なかったのだ。
力のある魔術師たちがいなくなって一番に徳をするのは一体誰だ。
一国の魔術師だけが誘拐されているわけではない。
事件は世界中、地域を問わずに起きている。
共通点は魔法の能力値が高いことだけ。
そもそも魔術師が絶滅してしまえば、ロプト・アルファの力もなくなるのではないか。
もしも、彼女が魔術師と自然界の共存ではなく、魔術師の絶滅を望んだとしたら……。
嫌な予感にシノニムの背筋が震えた。
彼の様子に違和感を覚えた麗がシノニムの顔を覗き込む。
「? どうかした?」
純粋な疑問符を浮かべる麗。
だが、その奥に眠る可能性に既にシノニムは勘付いていた。
「いや、なんでもない。……それより怖い話だな」
「そうね」
悲しそうに目を伏せた麗からは邪悪な感情は見えてこない。
一方で、魔術師たちがいなくなっているにも関わらず、焦りも見せてはいないのだ。そこに魔術師を保護する機関の最高責任者の姿はない。
麗の表情を注意深く観察しながら、シノニムは口を開いた。
「シュヴァルツェが心配だな」
「えぇ、本当に」
麗は肯定しかしない。
彼女のことだから、何か対策をしていそうなものなのに、その話も出てこない。
やはりおかしい。
シノニムの違和感に確信を持ったところで、麗がリーラム帝国に用事があると言って、次の日には出発していた。
その日の遅く、帰宅した麗。
そして届く続報がシノニムの懐疑心が間違っていなかったことを証明した。
シュヴァルツェも誘拐されたのだ。
王城内に厳重に軟禁されていたはずの彼を連れ去ることが出来る人物はかなり限られている。
その夜のことだった。
シノニムは夜中に目を覚まし、麗の姿を求めて魔王城内を歩いていた。
ランタンを持った彼女が遠くに見え、彼は少しずつ近づいていく。
彼女はそのまま書斎へ入ると、何やら本棚に一部を動かした。
その先にはシノニムも知らなかった地下へと続く階段があった。
彼は、影に飲まれて秘密の地下室へと降りていく麗をただ見ていることしか出来なかった。
「まさか……」
彼は踵を返すと、リーラム帝国に向かって一角獣を駆けさせた。
各国は前代未聞のこの事態にただ手をこまねくしかない。どれだけ厳重に自国の魔術師を警備しても、ほんの一瞬の隙をついて連れていかれるのだ。それこそまるで奇怪な魔法のように。
この事件の話題は魔界領域にまでやってきた。
魔界の住民たちから情報を聞いたシノニムは早速麗に話をしたのだ。
魔術師が絡んでいる以上、無関係ではいられないのだから。
「力の強い魔術師が誘拐されているらしい」
「私も聞いたわ」
「大丈夫なのか?」
「え? 大丈夫って何が」
「いや、魔術師を絶滅させないために魔界領域の活動を行っているだろう」
「えぇ、そうね」
「それなのに心配じゃないのか。どの国の仕業かは分からないが、このまま力のある魔術師がいなくなれば……」
ここで、ふとシノニムはある論理のメカニズムに気が付いてしまった。それは開けてはならないパンドラの箱であった。
だが、同時に走り出した思考は彼にも既に止めることは出来なかったのだ。
力のある魔術師たちがいなくなって一番に徳をするのは一体誰だ。
一国の魔術師だけが誘拐されているわけではない。
事件は世界中、地域を問わずに起きている。
共通点は魔法の能力値が高いことだけ。
そもそも魔術師が絶滅してしまえば、ロプト・アルファの力もなくなるのではないか。
もしも、彼女が魔術師と自然界の共存ではなく、魔術師の絶滅を望んだとしたら……。
嫌な予感にシノニムの背筋が震えた。
彼の様子に違和感を覚えた麗がシノニムの顔を覗き込む。
「? どうかした?」
純粋な疑問符を浮かべる麗。
だが、その奥に眠る可能性に既にシノニムは勘付いていた。
「いや、なんでもない。……それより怖い話だな」
「そうね」
悲しそうに目を伏せた麗からは邪悪な感情は見えてこない。
一方で、魔術師たちがいなくなっているにも関わらず、焦りも見せてはいないのだ。そこに魔術師を保護する機関の最高責任者の姿はない。
麗の表情を注意深く観察しながら、シノニムは口を開いた。
「シュヴァルツェが心配だな」
「えぇ、本当に」
麗は肯定しかしない。
彼女のことだから、何か対策をしていそうなものなのに、その話も出てこない。
やはりおかしい。
シノニムの違和感に確信を持ったところで、麗がリーラム帝国に用事があると言って、次の日には出発していた。
その日の遅く、帰宅した麗。
そして届く続報がシノニムの懐疑心が間違っていなかったことを証明した。
シュヴァルツェも誘拐されたのだ。
王城内に厳重に軟禁されていたはずの彼を連れ去ることが出来る人物はかなり限られている。
その夜のことだった。
シノニムは夜中に目を覚まし、麗の姿を求めて魔王城内を歩いていた。
ランタンを持った彼女が遠くに見え、彼は少しずつ近づいていく。
彼女はそのまま書斎へ入ると、何やら本棚に一部を動かした。
その先にはシノニムも知らなかった地下へと続く階段があった。
彼は、影に飲まれて秘密の地下室へと降りていく麗をただ見ていることしか出来なかった。
「まさか……」
彼は踵を返すと、リーラム帝国に向かって一角獣を駆けさせた。
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