その女、女狐につき。

高殿アカリ

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3.仕組まれたリンチ事件

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 その日の放課後のこと。



 本作品の主人公、原田愛美は廊下の奥、忘れ去られた空き部屋の一つにいた。



 彼女は埃臭いその部屋で、机に座り、足を組んでいた。

 その様子はまさに、女王様のよう。



 そんな彼女の前に立っているのは女子高校生数人。



 一花を呼び出した女の子たちと、里奈である。



 何を隠そう、実は呼び出した女の子たちは里奈の友人であったのだ。



 愛美は一つ、悪役の笑みを浮かべると、里奈たちに向かってこう言った。



「みんな、ありがとう。今回の事件のおかげで、倉庫の二階に上がる権限を得たわ」



 ふふふ、と微笑むその様子に、彼女の前にいる女の子たちは息を呑んだ。



 禁断なまでに妖艶な彼女の姿は、悪者であるはずなのに、どこまで綺麗であった。



 緩くカーブを描く茶髪も、顔の半分を占める大きな茶色い瞳も。



 そして、赤く彩られた蠱惑的な唇も。



 彼女はどこまでも悪役であり、そしてどこまでも魅力的であった。



「里奈も、ありがとうね。最後の写真のタイミングなんて最高だったわ」



「ううん、こっちも良い鬱憤晴らしになったわ」



 微笑み合う少女ほど怖いものはないのかもしれない。



「にしても、愛美は凄いわね。寵愛姫の座に着実に一歩ずつ近づいていっているのね」



 感慨深く、里奈は愛美に告げる。

 その言葉に、愛美は目を細めて、懐かしそうに呟いた。



「そうね。寵愛姫になる、と決めた日からもう一年くらいになるかしら?」



 悲し気に微笑む愛美。



 みんながその美しさに見惚れるも、言葉に込められた思いを知っている者はほとんどいない。



 この場でいる女の子たちの内、その思いを汲み取ることが出来るのは恐らく里奈だけであろう。



 中学時代からの友人である、里奈だけ。



 愛美の言葉に里奈もまた、一年前のある日の放課後のことを思い返していた。
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