その女、女狐につき。

高殿アカリ

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4.腹黒愛美、本領発揮。の一つ手前

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 後ろの扉の開く気配と二人の話し声に、タイシとケイが帰ってきたことに気が付いた。



 助けて貰おうと、首を後ろに振り返ろうとした瞬間のことだった。



 そいつは一瞬の隙を突いて、私の膝の上に飛び乗った。



 みゃうん。



 もう一度鳴いたその声を聞き、あぁもう逃げられないと私は悟った。



「くっ……可愛い……」



 敗北に打ちひしがれながらも、私は子猫を抱き上げた。



 あぁ、なんてふさふさの毛並みなの。

 あぁ、なんて可愛いらしい瞳なの。



 そして。

 あぁ、なんて愛くるしい鳴き声なのかしら。



 ぎゅう、と抱きしめたり。

 うりゃうりゃ、と指で遊ばせたり。



 とにかく、私は猫とじゃれることに夢中だった。



 えぇ、そうです。

 ここが敵陣の真ん中、なんてことは頭の片隅にでも追いやってしまったの。



 だって、猫には善人も悪人もないのよ。



 ただ愛玩動物としての本能と、子どもという無邪気さだけがあるのよ。



 ……可愛くないわけがないのよ‼



 そんな私の様子を、一花が安堵したように見つめていたことや(どうやら一花は一花で私が二階に馴染めないんじゃないかと心配していたみたい)、フウガたち三人がその一花の様子を見て友人関係を改めて認めていたことなんて、私は知る由もなかった。



 だって、子猫が可愛かったのだもの。

 そして、可愛いということはそれだけで正義なんですもの。
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