その女、女狐につき。

高殿アカリ

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8.嵐の中の夏休み

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 そのきらきらした瞳から、随分と私たちの水着姿に期待を寄せていたようで、



「ユ、ユマさん、ますます美しくなられて……!」



「い、一花さんも可愛いっす。みなさん同じ水着なんすね」



「ま、愛美さん、その御足の輝かしいこと! あぁ、眩い」



 あんたたち、馬鹿でしょ。



 必ず名前をどもってしまうのは何なの?

 そういう仕様なの?



 まぁ、いいわ。

 なんだか、ぐだぐだ考えていた私が一番馬鹿らしいじゃないの。



「「「しっかりしろーー!!」」」



 自分に何かを言い聞かせている野太い男たちの声と、夏のうざい太陽、それからどこか懐かしい潮の香り。



 私は、海に来たんだ。



 そうとなれば、もはやここは非日常の世界。



 夏休みだし。

 旅行だし。

 目の前には海がある。



 何かを投げ捨ててしまうのも良いかもしれない。



 そんな開放的な私の表情に気が付いたのか、



「愛美ちゃん、行こうよ!」



 一花の白い手が私の手を取ったかと思うと、彼女は突如として駆け出した。



 男たちの壁なんてものともせず。



 今の一花の瞳にはたぶん、海しか映っていない。



 どこにそんな力が眠っていたのか、彼女は男たちを弾き飛ばしながら一直線に海へ。



「あ、ちょっと待って‼」



 珍しく焦ったような声で、ユマさんが私たちの後に続く。



 ばっしゃーん!!



 太陽の光を浴びて輝く水しぶきが私たち三人の周りを舞った。



「「「きゃあーー。気持ちいいーー!!」」」



 私たちは心からの歓声を上げ、しばし海と戯れた。



 それはもう、子どもの如く夢中になって。



 水を掛け合ったり、沖の方まで競争してみたり。

 鬼ごっこをしたり、海藻で遊んでみたり。



 一通り遊び終えた私たちは、惰性のように暫くぱしゃぱしゃと水しぶきを上げた後、黒閻のいる方へと視線を向けた。
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