異世界彼女と冒険者

スマイルグッド

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第一章 旅立ち

第十五話 来たる強者との邂逅(前編)

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 朝が来た。昨日の怪我や疲労は残らず綺麗に消えていた。
 やはりレベルが上がると、こうも肉体の機能が上がるものなのだろうか。

 布団をどけて、体を起こす。
 大きく欠伸をしながらコリをほぐすべく伸びる。

 「んぁ・・・んぅぅぅ」

 色っぽい声が聞こえる。

 隣には、シリーが眠っていた。

 そしてもちろん隣で寝てはいるが、それだけだ。
 ぼくは一切いかがわしいことはしていない。その証拠に、彼女の髪も服も乱れたりしていないし、と言うか寧ろきちんと整っている。
 当たり前の事だが、昨日の事をフィアに伝えて、そこできっちりケジメをつけてからでしかそういうことはしない。
 
 しかし、本当に昨日は良く寝た。
 少し前はシリーを意識して寝れなかったのに、あの後の出来事によって疲労し過ぎたせいか、テントに戻り、布団に入るとすぐに寝てしまった。
 
 今日の夕方あたりに、フィアとクリアが戻ってくる予定だ。

 それまでどうやって時間を使うかなのだが・・・・。

 寝ているシリーを見る。
 無防備に寝顔を晒す彼女の顔は、失ったものが多いはずにも関わらず、ホッとしているように見えた。
 ぼくは彼女の心の支えになれているのだろうか。
 彼女をもう悲しませたくない。
 あんな事があった手前余計にその思いは強くなっている。
 そのためにも、先ずはこの村の事をしっかりとかたずけないといけないだろう。
 
 そして、フィアに昨日のぼくの決意を表明しなくてはいけない。
 ちゃんと話さないといけない事はいっぱいある。

 言えるかな・・・。
 なんだか怖くなって来た、フィアに振られたらどうしよう?
 いやいや、考えるな、ぼく!
 それを考えると絶対言えなくなるから。

 そうしてぼくが物思いに耽っている時、シリーが眠た目を、擦りながら起き出した。

 「ふぁあぁぁぁ。・・・おはようございます、サイさん。」
 「おはよう、シリー」

 さて、早速だけど、今のは後でじっくり考えるとして。
 早速今後の予定をざっくり決めておくことにする。
 
 
 

 ***





 
 今ぼくは、精神統一している。
 全神経を集中して、耳を活性化、余分な音の排除を行っている。
 一瞬のこの時の音を一秒でも長く聞くため。
 何者かが動くのがわかる。レベルが上がると感覚が妙に鋭くなり、意識すればするほどそれはより鋭くなる。
 多分、今標的はぼくから五メートル程後ろの木の上に這いずるように移動している。標的のターゲットはもちろんだが、ぼくだろう。
 木の葉が揺れ重なり、ガサガサと音を立てる。
 集中せずにいるならば、これはそよ風が木を凪いだ音だと、気にも留めなかっただろう。
 しかし、今はそれが明らかに自然のなす音ではないことがわかる。そのほんの少しの違いに、ぼくはこれまでない程の集中と、強化された五感によってわかるようになった。

 後ろから少しづつ、少しづつ近ずいて来る。
 ぼくを襲うタイミングを見計らっているのだろうそれは、一気に頭上からぼくを丸呑みにしようと口を大きく開けて、ぼくに覆い被さろうとする。

 しかし、それはもうぼくにとっては不意打ちでもなんでも無く、その攻撃に対処するのはそう難しい話では無かった。

 剣を引き抜く。体を自然な動作で慌てることなく、横にズラし、半身になり、その直線軌道上を避けた。
 引き抜いた剣を、今度は自分の体と並行に、上に向かって、振り抜いた。
 標的の正体は大蛇だ。
 蛇は口の左右の靭帯で顎を開閉している、故にそれを切断されてはまともに動かす事は出来ない。
 振り抜き、左顎の靭帯を切断したその後すぐ、振り返る勢いで体重と返す剣の勢いでそのまま今度は水平にその太い首を、薙いだ。
 
 ふう、終わった~。
 この精神統一を使うと、凄く便利な代わりにとても疲れてしまう。
 襲って来たのは、後二体。
 どちらも大蛇だ。
 シリーはちゃんと逃げきれているだろうか?
 捕まっていたりしたらどうしよう。
 クソ、なんでこんな事に!

 焦る気持ちと、シリーを失ってしまうかも知れない恐怖に、ぼくは内心荒れ狂っていた。

 そもそもこんな状況に陥った原因は、今日の昼の事がキッカケだった。



 ***





 

 それはぼくたちが、フィア達が戻って来る夕方までの間、何をして待っているかという事をテントで話し合っている時だった。
 
 ぼく達を急に大きな陰が覆い尽くしたのだ。
 ぼく達は周囲が暗くなった事に気付くと、テントの中から出て辺りを警戒した。
 
 しかし、周りには何も無かった。
 おかしい、確かにぼく達の周りだけ暗くなっていて、凄く不自然な状況なのに、周りには何かある気配がしなかった。

 もう一度周囲を見渡す。
 
 しかし、やはり何も無かった。

 「グォォォオオオオオオオオオ!」

 その時だった。天を揺るがすような轟音が、辺り一帯に響き渡った。
 その声は、ぼくの底に眠る強者への恐怖を再び思い起こさせるような代物だった。
 
 轟音が鳴り止むと、次は風を切り裂く甲高い音が無数に聞こえて来た。
 いくつもの音はやがて大きくなってきて、同時にぼくはやっと気づいた。

 上を見る。
 空を覆っている、大きな翼を持つ生き物が、ぼく達の上を悠々と飛んでいる。
 ぼくはあれを知っていた。

 ゲームをやったことのある人なら、一度は聞いた事はあるだろうあれを。
 
 それの正体はドラゴンだった。

 ドラゴンは、ぼく達の真上の空をまだ飛んでいる。太陽で少し眩しく見づらいが、一向に近づいて来る様子はない。
 しかし、甲高い音はどんどんと大きくなってゆく。

 「サイさん、あれ・・・。」

 シリーが指をさした。
 ぼくもそちらの方を向く。

 黒い点の様なものが、空いっぱいに点在しているのがわかる。
 太陽の眩しさによって、全然見えなかったその点が、ぼく達に迫って来る事でその姿を段々と露わにする。

 「シリー!逃げろ!!」

 ぼくは咄嗟にそう叫んでいた。
 
 シリーを突き飛ばして、反動でぼくもその場から飛び退る。

 ぼくのその咄嗟の判断が、運良くぼく達を救った。

 空から、森の中にしか生息しない筈の大蛇が落ちてきたのだ。
 大蛇はぼく達の上に落下すると同時に、その太く強靭な尾でぼく達を叩き潰そうとしていた。
 運良くそれを回避出来たぼく達だが、状況はより一層深刻なものへと変わっていく。
 
 大蛇のゲリラ豪雨と言えば伝わるのだろうか。大蛇は止まることを知らず、空からふり注ぐ。
 ぼくはシリーを連れ、逃げ回っていたのだが、やがてそれも限界が訪れる。
 最初は、大蛇は落下した時の衝撃で殆どが息絶えるか、瀕死状態になっていた。しかし、その量が増えるにつれ、死体は空から新たに降ってくる大蛇のクッションとなり、生存率を跳ね上げる。

 すると、たちまち状況は考える上で最悪のものとなっていた。
 四方を囲まれ、さらに追加されていく敵の数。
 逃げ回っているだけでは到底間に合わず、次は落下して生き残った大蛇達に、襲われた。
 
 シリーは防御の陣を展開させる準備をしていた。
 しかしこのままでは、二人ともやられてしまうだろう事は想像に難くない。
 ぼくはシリーに、一言だけを告げて行動を開始する。

 「君は先に逃げて!ここはぼくが囮になるから、昨日の洞窟で再集合!いいね!?」

 シリーは少し逡巡したものの、すぐに首を縦に振った。

 ぼく達は大蛇の落下ポイントを避けるべく、日陰のない、つまりは日向の方へと走っていく。

 襲って来る大蛇を、紙一重でかわしながら、日向を目指す。
 ここから森まで一直線に突っ込めば、そう時間をかけずにここより安全な場所に辿りつける。
 
 「シリー、行け!」

 そう言った瞬間、シリーは迷わず走って行った。
 
 しかし、このまま無事に森に入っていくところを眺めている暇などぼくにはない。
 
 未だ状況は一切変わっていないのだから。

 すぐさま囮に成るべく、大蛇達に向かう。
 今近くにいる大蛇は六匹。これを全て始末しなければならない。
 先ずは一番近い個体から片付ける。
 太い尾の一撃を、力一杯斬り伏せる。
 そのまま、距離を詰めて次は腹に一差し。それをすぐさま抜いて、袈裟に切り上げた。
 
 そこで大蛇は力尽き、素材に変わって消えていった。
 同時に、逃げたぼくへの追撃が途切れる。
 ぼくに素材を回収している暇など当然ない。

 降り注ぐ大蛇達を背にぼくも森に向かって駆け出していった。
 

 
 

 
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