いまどきロボット Ж アイリス ~下町生まれの人型戦闘兵器は、美少女過ぎる残念ロボでした

夏之ペンギン

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第1章 下町ロボット

つかさ、誘拐される

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 ついにつかさは誘拐されてしまった。だがいまはまだ誰もそれに気がつかないでいた。

「あれー?つかさは?」

 そろそろ夕飯時だ。つかさの姿が見えないのを不審に思ったレミが母親のまち枝に聞いた。

「まだ塾じゃないの?」

 呑気そうにまち枝がそう答えた。まち枝は夕飯のおかずの餃子を作っていたのだ。ちまちまと餃子の皮にタネを乗っけて包んでいる。かたわらでアイリスが同じように餃子を作っていた。軍事用ロボットに餃子を作らせるこの家族の見識をここでは疑いたい。

「ちょっとアイリス、まだ食べちゃダメ」
「え?いけないのか」
「当たり前でしょ。まだ生なんだから。餃子は焼くか蒸すか煮るとかして、ちゃんと火を通して食べるのよ」
「ふーん、めんどくさいんだな」
「いいからどんどん作ってちょうだい」
「へいへい」

 そうしているうち、父親の金町社長が帰って来た。

「ただいま。おや、今夜は餃子か。ならビールが飲めるな」
「あなたはビール飲めるなら何だっていいんでしょ?前にたい焼きでビール飲んでたし」
「いやいやママ、それは誤解だよ」
「誤解なもんですか。アイリス、証拠映像お願い」
「はいママ」

 アイリスの目は光学投影機にもなる。いまテーブルに、金町社長が美味しそうにたい焼きでビールを飲んでいる映像が映し出された。

「うっわ、いつ見ても気持ち悪い画像ね」

 レミが顔をしかめてそう言った。娘にそう言われてシュンとなった金町社長は、アイリスの映す画像を手でさえぎりながらふくれっ面をした。

「アイリス、やめなさい」
「ケケケ」

 アイリスの機能のひとつ、『意地の悪さ』も世界最強だった。

「でもほんと、つかさ遅いよ」

 思い出したようにレミがみんなにそう言った。餃子作りが一段落したまち枝は、ようやく心配そうな顔になった。

「あなた…塾に電話してみて」

 大げさだな、という顔を金町社長はしたが、まち枝を怒らせるとビールを飲ませてくれなくなるのを恐れ、しぶしぶ携帯で塾に電話をかけた。

「どうだった?」

 レミが心配そうに父親に聞いた。なぜならどうにも浮かない顔を父親がしているからだ。

「それが…塾には行ってないらしい」
「まあ!」

 母親のまち枝が驚いていた。驚いていま焼こうと餃子を並べていたバットを落としそうになった。それをアイリスが素早く受け止めた。こうしてアイリスは餃子を救った。

「とにかく消防署に届けないと。いえそれより清掃局か区役所ね!」

 まち枝のオロオロ度は増すばかりだ。

「落ち着いてママ。それは警察にでしょ。でもまだ何かあったとか思えないよ。友だちと遊んでんのかも知れないじゃん」
「なに言ってんのよ!つかさはあんたと違って真面目な子なのよ。塾を勝手に休んだり、遅くまで帰らないなんてことあるわけないでしょ!」
「ママそれひどいよ。わたしだっていい子よ」

 みんながなぜかアイリスを見た。

「なぜあたしを見る?」
「と、とにかくさがさないと!」

 父親の金町社長が上着を着ながらそう言った。外に出て探すつもりなのだ。だがどこをさがす?このとき金町家は混乱の極みに達していた。

「つかさなら居場所がわかるぞ」

 ポツリとアイリスがそう言った…。


 ――港の倉庫街

 そのころつかさは縛り上げられ、薄暗い倉庫の片隅に放り出されていた。

「ふぐー!ふぐー!」

 つかさは懸命に縛られている状況から逃げ出そうともがいていたが、きつく縛られている頑丈なロープがそれを無駄なあがきにしていた。

「おい、ガキ!うるせえ!」

 縛られたつかさのそばに、ソファーに腰かけて酒を飲んでいた若い男がそう怒鳴った。

「やめろ日下部(くさかべ)。いいから飲んでようぜ」

 同じく酒のグラスを煽っていた同じく若い男がそうなだめた。

「しっかしよう、何だってこんなガキなんかさらえって…。いったい社長は何考えてんだ?」
「さあな。だが理由があるんだろう?」
「理由?なあ下島、こんな貧乏そうなガキにそんな価値あんのか?誘拐したって身代金なんか払えないだろ、こいつんちは」
「人を見た目で判断すんなよ。あの一文字って資産家のばあさんだって身なりはひどかったろ。あれで総資産500億なんだからな」

 そのばあさんとは、前にこいつらが襲って失敗した一文字隼人の祖母だ。あのときは偶然通りかかったつかさが人質となり、その場に居合わせたアイリスに救出された。

「おまえら、ちゃんと見張っているか?」

 髭面の男がのっそりと入って来てそう言った。ふたりはすぐに立ち上がり、姿勢を正した。

「御覧の通りガキは縛って身動きひとつとれません!われわれは一生懸命見張っていました!」
「そうか…ご苦労」

 髭面の男はにがにがしげにテーブルに置かれた酒瓶とつまみのかっぱえびせんを睨んだ。そして大きなため息をついて、縛られているつかさのところに行った。

「おい小僧、なんでさらわれたかわかるか?」

 髭男は縛られ、猿ぐつわを咬まされているつかさに静かに聞いた。

「ふぐふぐ」

 激しく首を横に振るつかさに、髭男は容赦なく言った。

「おまえは餌だ。わかるか?おまえんとこにいるロボットをおびき出すためのな」

 すでにアイリスのことは日本中で知れ渡っていた。まあ、ロボットが人間と同じように人間の住む家で暮らしている、と言った漠然とした情報だ。つまり、アイリスが癇癪を起して信号機を蹴り倒したとか、タンクローリーを投げ飛ばしたとか、朝うるさくゴミ集積所に集まるカラスを超音波で皆殺しにしたとか、ジェットパックで空飛んだとか、地面に潜っていきなり地下鉄の駅に行ったとかは政府により情報統制され、一般国民には伝わらないのだ。

「ふぐぐぐふぐぐふぐふぐ」
「なに言ってんだお前」

 不審に思った髭男が、つかさの猿ぐつわを外した。

「ぷはあっ、ちっきしょう…やっぱりあいつがらみなんだな!」
「ほほう、理解したようだな。よく聞け。まあ聞かなくてもいいけど。いいか、われわれはあいつを捕らえ、われわれの命令に従わせるのだ。あいつはあそこに座っている男たちをこともなげに投げ飛ばした。さすがロボットだ。こんどはわれわれがあいつを使い、人々を恐怖のどん底におとしいれ、東京を壊滅させるのだ!」
「狂っている…」

 つかさは唖然とした。唖然とし過ぎてついテンプレ的なことを言ってしまった。アイリスを捕まえ命令に従わせる?あの残念ロボットをか?あいつはそう簡単にひとの命令なんて聞かない、そうつかさは思った。

「あのなおっさん…なに夢見てるのか知らないけれど、あいつだけはやめておけ。まだ戦車とか軍艦とか手に入れた方があんたたちの目的にかなうぞ。あんなポンコツをいったいどう手なづけるんだ?金なんかやっても無駄だぞ。そんなことすりゃとことんむしり取られるからな」

 髭男は驚いていた。つかさの言葉があまりにも切実過ぎたからだ。だがこれは、きっと優秀なロボットを奪われないための嘘だと、髭男は逆読みしてしまった。不幸な少年の本音が、彼らの運命を変えてしまった瞬間だった。

「まあいい。いまごろおまえのうちにわれわれの脅迫状が届いているころだからな。おまえの命と引き換えにロボットを渡せとな」
「なんてことを!」

 つかさは驚いた。もし本当にそんなことをしたら、いったいどんなことになるか。つかさは震えあがった。

「おいおまえら、よく聞け。すぐにぼくを解放するんだ。でなければ人類が滅ぶんだぞ」
「はあ?なに言ってんだよこのガキ。恐怖で頭沸いたか?ギャッハッハ!」

 ソファーに座っていた日下部という男が腹を抱えて笑ってそう言った。

「いいか?アイリスはポンコツのバカロボットだ。だがその力は恐ろしい。お前たちだって知ってるだろ?そしてあいつは残念ロボットだ。おまえたち、ロボット三原則って知っているか?いいか、あいつはそれに縛られない世界で唯一の殺人兵器なんだぞ!」

 だがこいつらにはそれはどうも通じないようだった。やがて親分らしきやつが倉庫に入って来た。みながそいつを社長と呼んでいる。社長と呼ばれた男は、つかさを見て薄笑いを浮かべた。たぶんこいつは、この髭男よりもバカだ、とつかさは思った。ああ、こいつもダメか…。なにを言ってもダメらしい…つかさはまた絶望感がより深くなるのを感じた…。

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