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第102話 SS ナビちゃんを妬かせた人?

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佐千原 棗さちはら なつめ

 私は猫が大好きです。
 でも今借りている家はペットを飼う事が出来ないので、公園で自由に生きている猫ちゃん達の姿を眺めるのが、最近の楽しみです。

 いつものように、最近のお気に入りのチビちゃんと遊んでいると、男性が私とチビちゃんの姿をずっと見ている視線に気づきました。
 少し気持ち悪いです。
 でも別に何かしてくる様子もないし、チビちゃんを見てるだけかも知れないし、そうだったら私ただの自意識過剰女だよね。

 翌日、いつものようにチビちゃんと遊ぼうと思って公園にでかけたけど、チビちゃんの姿が見えません。
 公園の奥の方に、カラスが集まって騒いでる声が聞こえて、嫌な胸騒ぎがしました。
 カラスは苦手だけど、声のしている方に行ってみると、チビちゃんが襲われてました。

 どうしよう、チビちゃん助けたいけど怖くて近寄れない、でもこのままじゃチビちゃんが死んじゃう。

 そこに、昨日の男の人が現れました。
 すぐにカラスを追い払って、チビちゃんを助けてくれました。
 でも傷だらけで、恐らく生後1月くらいのチビちゃんは、このまま生きて行く事は難しいかも知れません。

 ゴメンナサイ。私がもう少し早く、来ていたら助けられたかも知れないのに、私が家で飼ってあげてたら、襲われる事無かったのに、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。

 傷ついたチビちゃんの姿を見るのが怖くて、近寄れないでいると、男の人はチビちゃんに向かって何かをしました。
 柔らかな光がチビちゃんを包んで、傷が癒えていきます。

「えぇええ? 魔法なの? あの人魔法使ったの? もしかしてあの人って30歳を過ぎるまで清い身体で過ごした人なの?」

 と思いましたが、まさかそんな事無いよね、チビちゃんに視線を移すと、まだ目が開いてないみたい、もしかして、目を奪われちゃったのかも、耳もちぎれたままみたいだった。

 すると、もう一度さっきより明るい光がチビちゃんを再び包み込んだ。

 光が消えると……

 今度は耳もちゃんとある。

 目は……あっ開いた……良かったぁ。

 でも間違いなく魔法だよね? 現代に居るんだ魔法使いって、私もまだまだ知らない事だらけなんだなぁ。

 でも今は、チビちゃんを助けてくれたことのお礼を言いに行こう。

 そして声をかけたの。

「私、佐千原っていいます。佐千原棗さちはらなつめです。お名前お聞きしてももよろしいでしょうか?」

「あ、はい。俺は岩崎と言います。今日は俺、この子飼いたいと思って探しに来てたんです。佐千原さんは飼ってあげることは出来ないんですか?」

「うちのアパートでは、ペットは無理なんです。ここで会うのが精一杯でした。でもこんな事があると、保護してあげないと、駄目ですよね。
岩崎さんみたいな素敵な方が、チビちゃん飼ってくれるなら、安心してお任せできます。チビちゃんのことよろしくお願いしますね」

 私は、お昼はブランドショップでマネキンのお仕事、夜は時々だけど生活のためにキャバ嬢のお仕事をしている。自然と人を持ち上げる言葉が口に出ちゃう。

 でも岩崎さんが素敵な人に感じたのは本当だよ? 何のお仕事してる人なのかな? また会えたらいいな。


  ◇◆◇◆ 


 次に岩崎さんを見かけたのは、私の住んでいる地域にダンジョンが現れて、住民が全員退去しなければいけない事になった、説明会の席だった。

 私は説明会で聞いた、この地域に残る場合はDIT関連の仕事を受ければ良いと言う条件に、ちょっと胸がときめいた。

 だって、今までの常識では考えられないようなことが起こって、それを最前線で感じること出来るなんて、憧れちゃうよね?

 説明会が終わって、岩崎さんが側に来たので声を掛けてみた。

「チビちゃん元気ですか? 大変な事になりましたよね。岩崎さんはどうされるのですか?」

「俺は残るよ。仕事辞めてたから、雇用があるならいいかな? って感じだねー。佐千原さんは、どうするの?」

「私も残ります。なんだか逆に時代の最先端の情報に触れれるのかな、って思って少しワクワクしてます」

「そうなんだね、ではまた会う事もあると思うからその時はよろしくね」

 なんでも無い普通の会話だったけど、岩崎さんもこの街に残るんだ。
 でも今解った気がする。
 あの時のチビちゃんを助けた力は、きっとダンジョンに関係して身につけた力なんだろうな。

 だとしたら、私も魔法を使える様になっちゃうのかな? ちょっと頑張ってみたいな。

 でもさぁ、私って魅力ないのかな? 折角声かけたんだから、食事くらい誘ってくれても良いんじゃないかな?

 ここにも一人で来てたし、きっと独身のはずだよね? これでも結構夜のバイトに行った時には人気あるのになぁ。


 ◇◆◇◆ 


 それから1年以上岩崎さんを見かける事は無かった。
 どうしちゃったのかな? やっぱり他の街に引っ越しちゃったのかな? でも、この1年で日本は大きく変わってしまった。
 あちこちのダンジョンでスタンピードを起こして、沢山の人が亡くなった。
 今ではこのD特区が、日本で一番安全な街になってる。

 私は、D特区内にあるショッピングモールで勤務してるけど、今日魅力的な募集を見つけたの。
 北九州に新たな防衛都市を作って、そこにペット特区と呼ばれる、ワンちゃんや猫ちゃん達の楽園が出来るらしいの。

 世界最大規模のペット専用動物病院を中核に、保護された犬や猫が、自由に暮らせるエリアになるんだって。
 凄いよねぇ、でも今の状況だと、ペットの為に国はそんなお金は出さないだろうし、誰がそんな事にお金かけようと思ったのかな?

 沢山の人が亡くなり、沢山の街が壊滅し、その時に飼い主のいなくなったペット達が、沢山野生化してるニュースも時々見かけるけど、それを助ける余裕は今の国にはとても無いはずだった。

 でも、このペット特区ではそんな猫ちゃん達を無条件で保護し、治療をして新たな飼い主さんを探してくれる施設になるそうだ。

 私も是非参加したい。

 応募をしてみた。
 条件が凄い良くてびっくり。
 ペットエリアで保護猫を世話するだけのつもりだったけど、身分は動物看護師さんなんだって!

 1LDKマンションの寮が完備してあって、家賃は無料、食費まで補助が在って、近隣の環境は世界最先端のショッピング街が拡がる地域での勤務、お給料だって凄くいい。

 採用されたらいいなぁ。

 一週間後に採用の連絡が来た! めっちゃ嬉しい。

 しかも、準備が整い次第スグに勤務をして欲しいとの事だった。
 私は三日後には北九州に来たの。
 だって、猫ちゃん達との夢のような生活だよ。
 他の何よりも優先だよね。

 もう施設は出来上がっていて、凄く大きな動物病院があったの。
 人間用の総合病院でもこんなに大きな病院は珍しいわ。
 既に保護された猫ちゃん達は、どんどん検査と避妊手術や治療を受けて、ペットエリアに解放されていってる。

 治療には、人間でも手に入りにくいような、ポーション類も惜しげもなく使われてる。

 一体どんな人がこの施設のオーナーなんだろう?

 動物病院のオープンセレモニーの日に、久しぶりに岩崎さんに会った。
 なんだか前に見たときより全然若く感じる。
 ヤダちょっとカッコイイ。

 一緒にこのペット地区で働く野口さんていう可愛い女の子が、親しそうに話していた。
 ちょっと羨ましいかも。
 気づいて貰えるかな? と思いながら傍に行って声を掛けてみた。

「岩崎さんですか? なんか凄い久しぶりですねー、TBちゃんも来てるんだぁ。岩崎さんもここで働かれるんですか? 私は動物看護師で採用してもらえたんですよ。やっと大好きな猫ちゃんたちと毎日触れ合える生活が出来ます」
 
「お久しぶりです、猫と一緒に暮らせるようになって良かったね。ここに集まってくる猫たちで気に入った子が居たら、部屋に連れて帰るのは自由だから、モフり放題の生活ができるよ」

 覚えててくれたみたいだ、良かったぁ。
 野口さんが岩崎さんに話しかけてた。

「こちらの女性の方も、岩崎さんの彼女さんなんですか?」

「も、って何だよ? 俺が節操無しみたいな言い方するなよな」

「節操無しって言葉は岩崎さんのために作られてるんですよ?」

 なんだか、岩崎さんって凄いモテる人みたい? ちょっと興味が湧いたから聞いてみた。

「岩崎さんってもしかして、凄くモテル人なんですか?」

「凄いんですよ、私がいくら言い寄っても相手にしてくれないくせに、周りは女の人だらけなんですよ」

「そうなんだぁ、ちょっと残念だな」

「そのセリフって……又ライバル増えるんですか?」

「いや、ありえないし」

「岩崎さんはここで働くんじゃないんですか?」

「俺は今はニートですよ、こうやってTBと散歩する位しかすることの無い毎日です」

「魔法使いさんが嘘ついてます、騙されたら駄目ですよ私知ってますからね、岩崎さんが超凄いお金持ちだって」

「ちょ、野口さんそんな事人前で言わないでくれよ」

「言ったら駄目だったの? ご免なさい」

 えぇ、岩崎さんてお金持ちなの? これは私って凄いチャンスを見逃してた感じかな?? ちょっと野口さんから情報を引き出そう!

「野口さんは、何の仕事をするの?」

「私はアニマルセラピーの明石先生の助手ですー、ゆくゆくは私もアニマルセラピストを目指して勉強中です」

「そうなのね、同じ病院でお仕事するから、これからよろしくお願いしますね。私の知らない岩崎さんの事とか色々教えて下さいね?」

「岩崎さんを口説き落とすのは私が先ですよ?」

「だから何でそういう話になるんだ、野口さんも佐千原さんも今は時間空いてるの? お昼ごはん行かないか? ここの病院の食堂が凄い安くて美味しいらしいから、行ってみたかったんだよ」


   「「ご一緒します」」


 取り敢えずの掴みはこれくらいで良い筈、しつこいと嫌われちゃうしね。

 それから、暇がある時に野口さんから色々情報を引き出したの。
 もうびっくりのオンパレードだった。
 個人資産ではおそらく世界一の大金持ちで、世界最強の人だって!

 何でもっと早く気づかなかったんだろう私って、もしかして凄いチャンスを見逃しちゃってたのかな?

「直接聞いてないから、言い切ることは出来ないけど、この施設も恐らく岩崎さんの個人出資で出来てるんじゃないかな?」って言ってたし、あぁチビちゃんの時、もう少ししっかりお話とかしとけば良かったなぁ。

 でも既に岩崎さんの廻りには沢山の女性が居るみたいだしなぁ、でも逆に考えたら一人くらい増えても平気ってことかな??

 だって世界一のお金持ちだしねぇ。
 野口さんを見習って私もアタックしちゃおうかな?

 そう言えば国内のダンジョンっていつの間にか、全て討伐されてD特区に再設置されてたけど、あれも岩崎さんがやったってことなのかな? そう考えたらなんか全て繋がるな、D特区が何で豊橋に出来たのかも、岩崎さんが居たからなんだ。

 一度ゆっくり話をしてみたいな、凄い大冒険物語みたいなの聞けそうだしね。

 よーし、頑張れ私、岩崎さんを攻略しちゃおう!


 ◇◆◇◆ 


 最近私は夢を見るの。
 同じ日本なのに何処か違う。
 同じ人が居るようで、少し違う。
 何なんだろうこの夢に出てくる世界。

 私は豊橋の街を守る為に作られた都市防衛部隊に居る。
 でも決まってその夢はモンスターの大規模スタンピードで踏み潰されて終わるの。

 今日もまた同じ夢、そしてスタンピードが襲ってくる。

 でもその日の夢は、少し違った。
 スタンピードを喰い止めるために、防衛都市の外に出た私達に結界を張って一人で立ち向かう人が居た。
 あの姿を私は知っている。

「あれは、岩崎さんだ」

 そう思った瞬間に私の意識は、夢の中の私に飛んでいった。
「ぇ、何、私夢の中の世界に来ちゃったの?」

 
 次に気が付いた時、私には別の人生が待ち受けていた……
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