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【短編】死刑宣告された勇者
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ようやく、その男を捕らえたのは小さな漁村の漁師たちだった。大蛸・クラーケンを討伐したのち、魔力切れを起こして、倒れたらしい。男は、勇者バルス・テイトと言った。
屈強な漁師たちは、バルスを勇者とは知らなかった。海の厄介者クラーケン討伐を成し遂げた男を手厚く介抱した。バルスが勇者だと知ったのは、内地の食料を売りに来る商隊たちによるものだった。
商隊は砂漠を越えて、何日もかけてこの村にやってくる。道中、ラクダたちは果てることはあったが、ヒトは誰一人亡くなることはなかった。砂漠に適応した魔物、特にサソリや大蟻たちにより、ラクダもろとも命を落とすことが増えているのだ。
それゆえ、商隊には冒険者を引き連れて旅に出るのだ。冒険者のひとり、僧侶スレイ・ユーグは、クラーケンを倒した男の話を聞いてピンときた。
スレイは髭を指でつまみながら尋ねた「その男、勇者ではありませんか? バルス・テイトというものです。偽名を使っているやもしれませんが」
長旅のわりに身なりが整い、ヒゲも美しく刈り揃えている。青と紺のグラデーションが映える法衣は、どこか名のある枢機卿から賜ったものだと一目でわかる。
漁師たちを束ねる、ロキ・スタインは実際のところどうでもよかった。この男の素性が勇者であってもなくても、憎いクラーケンを倒した事実は変わらない。今まで何人もの仲間たちが犠牲になったのだろう。その人数を数える度に、ロキは唇を噛みちぎりそうになる。
「聞いた方がいいですか? あのお方が勇者バルスさまかどうか」
「バルスさま、なんて言わなくても。もはやあの男は、脱獄囚バルスですから」
小さな漁村にもその噂は聞こえていた。かつての大戦で魔王および魔物たちを壊滅状態に追い込んだ、勇者のバルス。単身でその偉、業を成し遂げた生ける伝説。その伝説にひとつの醜聞が取って付けたように、伝播した。
皮肉にも魔王討伐により、法課院の裁判官たちが大きく入れ替わった。それまでは、種族の長たる人間が裁判官を務めていたのだが、バルスの出自エルフも裁判官に任命されることとなったのだ。
バルスの功績は、エルフの地位向上につながった。反面、エルフから大犯罪人として追われているバルスは、ほどなく捕らえられ死刑を宣告される。満場一致だったのだ。人間の裁判官も賛成したのだ。
ロキの知っていることはここまでだった。ベッドで伏せるクラーケンを倒した村の英雄にその素性を問いただす、以下に失礼にして無礼であるか、ロキはわかっていた。だが、聞かざるを得なかった。見ず知らずの僧侶に促され急かされたからではない、これ以上我々の英雄を汚されることがあってはならないからだ。聞いて、たとえ、勇者バルスであったとしても、「違います」と答えればいい。ロキは腹をくくっていた。
商隊たちによる商いは、一週間かけて行われる。干し肉も種類が豊富で、牛・豚・鶏に加えて、猪・鹿・象・駱駝・蛇・熊といった未知の肉が大量に陳列される。商隊行きつけの定宿の前に露店のようにして、食い物を並べるのだ。商隊が引き連れてきた冒険者たちは手持ち無沙汰なのが子どもの眼にもわかるほどに、気の抜けた顔をしていた。商隊の冒険者は僧侶スレイ以外に、戦士と魔法使いがいた。三人編成のパーティーだ。最低限の構成だと、旅に出たこともないロキにもわかった。
冒険者たちは漁村唯一の酒場に入り浸り朝も夜もなく、飲み呆けた。僧侶スレイは、神に仕える身であったが、誰よりも飲んだ。
商隊が訪れた翌日、ロキはバルスが治療を受けている教会のはなれにある治療棟に向かった。
「英雄さま、何とお呼びすればよいのやら。私は、この漁村の漁師たちを束ねるロキと申します。村長ではありません。ただの漁師です」
ロキはドアを開けるなり、ベッドに近づき、両膝をついて言った。神に懺悔する罪深き者の姿のようでもあった。
「すまない、迷惑をかけているようだね。僕の名は、バルス・テイトと言う。世間では、勇者バルス、いや脱獄囚バルス、の方が広く知られているかもしれないね」
バルスは何かを察したのか、素性を隠すことなく、明らかにした。何があっても、生き抜ける自信の表れなのか、ロキは軋む床についた両膝がそのままめり込むような錯覚を覚えた。
「勇者バルスさまでしたか。いや回りくどい話はやめましょう。あなたは私たちの村の英雄です。あの憎きクラーケンを倒してくださったのですから」
「だれか、追っ手でも来たのでしょうかね」
バルスは重そうに身体を起こし、座位の状態でロキを見下ろした。
「商隊が引き連れてきた、冒険者崩れたちのなかに、バルス様のことを嗅ぎつけた僧侶がおります。きっと、懸賞金目当てでしょう」
「僧侶が懸賞金目当てとは、にわかに信じがたいですね」
「ですが、商隊の冒険者ということは、金目的ではありましょうし」
「そうとは限りませんよ。ロキさん、商隊の冒険者たちは何人ですか?」
ロキはバルスの中に歴戦の猛者らしい、戦意を感じ取った。村が火の海になりかねない。バルスが死刑宣告された理由、昨晩教会の牧師に話を聞いた。エルフ出身の牧師は、これから起こる出来事を予見しているかのように、苦々しい顔をしながら語ってくれた。
先の大戦で、魔王討伐にあたり、勇者バルスは禁呪を用いたのだ。その威力は凄まじく、魔王の居城から半径二千キロに及ぶ地域が壊滅した。地底深く、魔王は棲んだが、地下故に禁呪の効果は巨大地震となり、数百万の命が奪われたのだ。そのなかの大半がエルフであった。エルフ出自のバルスにとって、大量の仲間を犠牲にしたことが仇となった。
法課院にエルフの裁判官を重用されたのは、人間側もバルスを処刑してしまいたいという思惑では、と牧師は言った。
思い巡らせている間に、バルスは立ち上がり、胸当てとレガース、盾と剣を携えていた。
「どうするおつもりで?」
「決まっているでしょう。口を封じます」
「つまりそれは」
「そうです、まずはあなたから」
バルスはそう言うと、ロキを両断した。ちょうど身体の中心で真っ二つに割れた身体は、瞬間で斬り付けられたせいで、血しぶきが遅れて吹きあがった。
冒険者たちに向かって、バルスはゆっくりと歩みを進めた。酒場を目指し歩く。バルスは思い返した。クラーケン、魔王の忠実な下僕。海路で逃げるバルスにとって、最も鉢合わせしたくない魔物であった。生き残りの魔物の中でも、執念深く、地下に身を潜めていた魔王を助けられなかったと、クラーケンは後悔している、バルスは他の魔物残党たちから聞いていた。それは脅し、覚えていろよ、のようなものであったのだが、バルスにとっては有益な情報だった。
クラーケンを見つければ、物言わせず倒せばいいからだ。善悪の判断は不要。見かけたら倒す、それに尽きる。
思いのほかクラーケンの討伐に手こずったのは、海での戦闘は分が悪かった。海だがホームグラウンドといったところか。
バルスは、村の酒場に着いた。かつて法課院の連中の裁判に出向き、そのまま拘束されたのは、法課院・裁判官に高位の魔法使いたちがこぞっていたからだ。魔法を封じられ、時間推移を遅らされ、視界を閉ざされた。さすがに勇者でも智慧のあるエルフ四体の前では、無力だ。
だからバルスは聞いたのだ。冒険者たちは何人かと。僧侶、魔法使い、戦士か、それも人間。ならば、逃げるより倒した方が良い。
バルスは酒場の扉を開き、一気に畳みかけるべく、既に抜いていた剣に魔力を込め、振るった。
業火が剣を伝いうねる。店の入口からまっすぐ奥にあるカウンターまで、焼き尽くした。木製のテーブルと椅子はあっというまに消炭になった。
手ごたえを感じない、バルスは辺りを見渡す。酒場を取り囲むように、戦士と魔法使い、僧侶スレイが正三角形に位置し、封印魔法を詠唱した。それは、魔王の封印用にエルフたちが開発した、封呪と呼ばれるものである。
バルスはその異変に気付き、炎を帯びた剣を数回振るい、酒場ごと吹き飛ばした。
「キミが僧侶スレイ、あとは魔法使いと、あら、封印に不慣れな戦士までいるじゃないですか」
「このエルフの面汚しめ、貴様はただの殺戮者だ」
スレイはそれまで穏やかに装っていた感情を爆発させた。
「なるほど、全員エルフたちと見た。みんな、僕が滅ぼしたオーギュスター禁区のエルフだね」
バルスが無駄に会話を引き延ばしている、口の動きと声が一致していない。何か簡易詠唱していると、スレイは気づいた。
正三角形の美しい形を崩して、戦士が前へ出る。使い込んだ斧を振り上げる。
戦士はバルスまでの間合いを詰める。封呪の正三角形が崩れたと、バルスは睨み、戦士に向かって斧を受け流して、抜き胴を狙う。その一瞬、バルスが唱えていた呪文は途切れた、漁師たちは遠くから戦闘を見守っている。
誤算だった。戦士のいた位置に、長耳がひとり立っていた。漁師たちが牧師様と騒ぐ。
僧侶、魔法使い、牧師と正三角形の封呪が詠唱され、バルスは商隊の宝物箱に封印された。海からの潮風がまとわりつく、とスレイは身体をぬぐった。
「大裁判官様、お怪我なく?」
牧師と魔法使い、戦士がスレイのもとに駆け寄る。
「皆、ご苦労様でした。バルスをようやく捕らえましたね。
「勇者、魔物の側から見れば、悪者ですし」
牧師はローブを脱ぎ言った。
「バルスは悪者だったのでしょうか?」
戦士は尋ねた。
「少なくとも、我々エルフにとっては悪者でしょう」
魔法使いが割って答えた。
「どうでしょう、完璧な悪者なんて、どこにいるんでしょうね」
スレイは達観したように答えた。
エルフの裁判官たちにより、勇者バルスは封じられた。だが、ロキを犠牲にさせたことが、漁師たちにすぐ伝わった。漁師たちに取り囲まれ、スレイは力づくで、宝物箱を開封させられた。勇者の復活である。バルスはエルフ四人を皆殺しにしたあと、次の魔王となった。
屈強な漁師たちは、バルスを勇者とは知らなかった。海の厄介者クラーケン討伐を成し遂げた男を手厚く介抱した。バルスが勇者だと知ったのは、内地の食料を売りに来る商隊たちによるものだった。
商隊は砂漠を越えて、何日もかけてこの村にやってくる。道中、ラクダたちは果てることはあったが、ヒトは誰一人亡くなることはなかった。砂漠に適応した魔物、特にサソリや大蟻たちにより、ラクダもろとも命を落とすことが増えているのだ。
それゆえ、商隊には冒険者を引き連れて旅に出るのだ。冒険者のひとり、僧侶スレイ・ユーグは、クラーケンを倒した男の話を聞いてピンときた。
スレイは髭を指でつまみながら尋ねた「その男、勇者ではありませんか? バルス・テイトというものです。偽名を使っているやもしれませんが」
長旅のわりに身なりが整い、ヒゲも美しく刈り揃えている。青と紺のグラデーションが映える法衣は、どこか名のある枢機卿から賜ったものだと一目でわかる。
漁師たちを束ねる、ロキ・スタインは実際のところどうでもよかった。この男の素性が勇者であってもなくても、憎いクラーケンを倒した事実は変わらない。今まで何人もの仲間たちが犠牲になったのだろう。その人数を数える度に、ロキは唇を噛みちぎりそうになる。
「聞いた方がいいですか? あのお方が勇者バルスさまかどうか」
「バルスさま、なんて言わなくても。もはやあの男は、脱獄囚バルスですから」
小さな漁村にもその噂は聞こえていた。かつての大戦で魔王および魔物たちを壊滅状態に追い込んだ、勇者のバルス。単身でその偉、業を成し遂げた生ける伝説。その伝説にひとつの醜聞が取って付けたように、伝播した。
皮肉にも魔王討伐により、法課院の裁判官たちが大きく入れ替わった。それまでは、種族の長たる人間が裁判官を務めていたのだが、バルスの出自エルフも裁判官に任命されることとなったのだ。
バルスの功績は、エルフの地位向上につながった。反面、エルフから大犯罪人として追われているバルスは、ほどなく捕らえられ死刑を宣告される。満場一致だったのだ。人間の裁判官も賛成したのだ。
ロキの知っていることはここまでだった。ベッドで伏せるクラーケンを倒した村の英雄にその素性を問いただす、以下に失礼にして無礼であるか、ロキはわかっていた。だが、聞かざるを得なかった。見ず知らずの僧侶に促され急かされたからではない、これ以上我々の英雄を汚されることがあってはならないからだ。聞いて、たとえ、勇者バルスであったとしても、「違います」と答えればいい。ロキは腹をくくっていた。
商隊たちによる商いは、一週間かけて行われる。干し肉も種類が豊富で、牛・豚・鶏に加えて、猪・鹿・象・駱駝・蛇・熊といった未知の肉が大量に陳列される。商隊行きつけの定宿の前に露店のようにして、食い物を並べるのだ。商隊が引き連れてきた冒険者たちは手持ち無沙汰なのが子どもの眼にもわかるほどに、気の抜けた顔をしていた。商隊の冒険者は僧侶スレイ以外に、戦士と魔法使いがいた。三人編成のパーティーだ。最低限の構成だと、旅に出たこともないロキにもわかった。
冒険者たちは漁村唯一の酒場に入り浸り朝も夜もなく、飲み呆けた。僧侶スレイは、神に仕える身であったが、誰よりも飲んだ。
商隊が訪れた翌日、ロキはバルスが治療を受けている教会のはなれにある治療棟に向かった。
「英雄さま、何とお呼びすればよいのやら。私は、この漁村の漁師たちを束ねるロキと申します。村長ではありません。ただの漁師です」
ロキはドアを開けるなり、ベッドに近づき、両膝をついて言った。神に懺悔する罪深き者の姿のようでもあった。
「すまない、迷惑をかけているようだね。僕の名は、バルス・テイトと言う。世間では、勇者バルス、いや脱獄囚バルス、の方が広く知られているかもしれないね」
バルスは何かを察したのか、素性を隠すことなく、明らかにした。何があっても、生き抜ける自信の表れなのか、ロキは軋む床についた両膝がそのままめり込むような錯覚を覚えた。
「勇者バルスさまでしたか。いや回りくどい話はやめましょう。あなたは私たちの村の英雄です。あの憎きクラーケンを倒してくださったのですから」
「だれか、追っ手でも来たのでしょうかね」
バルスは重そうに身体を起こし、座位の状態でロキを見下ろした。
「商隊が引き連れてきた、冒険者崩れたちのなかに、バルス様のことを嗅ぎつけた僧侶がおります。きっと、懸賞金目当てでしょう」
「僧侶が懸賞金目当てとは、にわかに信じがたいですね」
「ですが、商隊の冒険者ということは、金目的ではありましょうし」
「そうとは限りませんよ。ロキさん、商隊の冒険者たちは何人ですか?」
ロキはバルスの中に歴戦の猛者らしい、戦意を感じ取った。村が火の海になりかねない。バルスが死刑宣告された理由、昨晩教会の牧師に話を聞いた。エルフ出身の牧師は、これから起こる出来事を予見しているかのように、苦々しい顔をしながら語ってくれた。
先の大戦で、魔王討伐にあたり、勇者バルスは禁呪を用いたのだ。その威力は凄まじく、魔王の居城から半径二千キロに及ぶ地域が壊滅した。地底深く、魔王は棲んだが、地下故に禁呪の効果は巨大地震となり、数百万の命が奪われたのだ。そのなかの大半がエルフであった。エルフ出自のバルスにとって、大量の仲間を犠牲にしたことが仇となった。
法課院にエルフの裁判官を重用されたのは、人間側もバルスを処刑してしまいたいという思惑では、と牧師は言った。
思い巡らせている間に、バルスは立ち上がり、胸当てとレガース、盾と剣を携えていた。
「どうするおつもりで?」
「決まっているでしょう。口を封じます」
「つまりそれは」
「そうです、まずはあなたから」
バルスはそう言うと、ロキを両断した。ちょうど身体の中心で真っ二つに割れた身体は、瞬間で斬り付けられたせいで、血しぶきが遅れて吹きあがった。
冒険者たちに向かって、バルスはゆっくりと歩みを進めた。酒場を目指し歩く。バルスは思い返した。クラーケン、魔王の忠実な下僕。海路で逃げるバルスにとって、最も鉢合わせしたくない魔物であった。生き残りの魔物の中でも、執念深く、地下に身を潜めていた魔王を助けられなかったと、クラーケンは後悔している、バルスは他の魔物残党たちから聞いていた。それは脅し、覚えていろよ、のようなものであったのだが、バルスにとっては有益な情報だった。
クラーケンを見つければ、物言わせず倒せばいいからだ。善悪の判断は不要。見かけたら倒す、それに尽きる。
思いのほかクラーケンの討伐に手こずったのは、海での戦闘は分が悪かった。海だがホームグラウンドといったところか。
バルスは、村の酒場に着いた。かつて法課院の連中の裁判に出向き、そのまま拘束されたのは、法課院・裁判官に高位の魔法使いたちがこぞっていたからだ。魔法を封じられ、時間推移を遅らされ、視界を閉ざされた。さすがに勇者でも智慧のあるエルフ四体の前では、無力だ。
だからバルスは聞いたのだ。冒険者たちは何人かと。僧侶、魔法使い、戦士か、それも人間。ならば、逃げるより倒した方が良い。
バルスは酒場の扉を開き、一気に畳みかけるべく、既に抜いていた剣に魔力を込め、振るった。
業火が剣を伝いうねる。店の入口からまっすぐ奥にあるカウンターまで、焼き尽くした。木製のテーブルと椅子はあっというまに消炭になった。
手ごたえを感じない、バルスは辺りを見渡す。酒場を取り囲むように、戦士と魔法使い、僧侶スレイが正三角形に位置し、封印魔法を詠唱した。それは、魔王の封印用にエルフたちが開発した、封呪と呼ばれるものである。
バルスはその異変に気付き、炎を帯びた剣を数回振るい、酒場ごと吹き飛ばした。
「キミが僧侶スレイ、あとは魔法使いと、あら、封印に不慣れな戦士までいるじゃないですか」
「このエルフの面汚しめ、貴様はただの殺戮者だ」
スレイはそれまで穏やかに装っていた感情を爆発させた。
「なるほど、全員エルフたちと見た。みんな、僕が滅ぼしたオーギュスター禁区のエルフだね」
バルスが無駄に会話を引き延ばしている、口の動きと声が一致していない。何か簡易詠唱していると、スレイは気づいた。
正三角形の美しい形を崩して、戦士が前へ出る。使い込んだ斧を振り上げる。
戦士はバルスまでの間合いを詰める。封呪の正三角形が崩れたと、バルスは睨み、戦士に向かって斧を受け流して、抜き胴を狙う。その一瞬、バルスが唱えていた呪文は途切れた、漁師たちは遠くから戦闘を見守っている。
誤算だった。戦士のいた位置に、長耳がひとり立っていた。漁師たちが牧師様と騒ぐ。
僧侶、魔法使い、牧師と正三角形の封呪が詠唱され、バルスは商隊の宝物箱に封印された。海からの潮風がまとわりつく、とスレイは身体をぬぐった。
「大裁判官様、お怪我なく?」
牧師と魔法使い、戦士がスレイのもとに駆け寄る。
「皆、ご苦労様でした。バルスをようやく捕らえましたね。
「勇者、魔物の側から見れば、悪者ですし」
牧師はローブを脱ぎ言った。
「バルスは悪者だったのでしょうか?」
戦士は尋ねた。
「少なくとも、我々エルフにとっては悪者でしょう」
魔法使いが割って答えた。
「どうでしょう、完璧な悪者なんて、どこにいるんでしょうね」
スレイは達観したように答えた。
エルフの裁判官たちにより、勇者バルスは封じられた。だが、ロキを犠牲にさせたことが、漁師たちにすぐ伝わった。漁師たちに取り囲まれ、スレイは力づくで、宝物箱を開封させられた。勇者の復活である。バルスはエルフ四人を皆殺しにしたあと、次の魔王となった。
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