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後編
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私はその時から、尚一層精力的に働いた。
伯爵領の税収を増やすため、領地を整備し、人が暮らしやすいよう安全対策を徹底し、移住してきた人たちが住みやすい仕組みを作り、人口を増やし、税収を上げた。
そして、ユージーンには優秀な家庭教師を付け、隣国の言葉を学ばせ、マナーも身に付いたところで、隣国に留学させた。
本人もそれを望んでくれたのが幸いした。
手紙には、寮生活がとても楽しく、学院の勉強も興味深くて、研究生として誘われていると書いてあった。
ユージーンは、私の望んだ通りに進んでくれている。あとは私だ。
私は、旦那様に、ミシェルとの二重生活を知っていることを悟られないように、ますます旦那様のお世話を細部までしていった。
朝、旦那様が起きるとすぐに洗面を手伝い、タオルを用意し、その間に着替えを出し、旦那様に着替えてもらう。
寝間着を脱がせ、シャツを着せ、ボタンも私がすべてとめる。ネクタイもネクタイピンも、カフスもすべて私が付け、靴下もはかせ、磨いた靴も履かせて、その革靴の紐も私が縛った。
登城の用意も私がすべてやった。
旦那様は、ユージーンが留学したから寂しいのだろう程度に思っていて、私のやることに何も言わず、好きにさせてくれた。
旦那様の侍従も、メイドも、別な仕事を任せることにして、旦那様の身の回りすべてを私だけが行った。
それを17年続けた。
そして、やっとこの日が来た。
優秀な宰相に、無駄な補佐は要らない。
長らく、伯爵家当主なのだから、宰相補佐を辞めてもよいと言われていたのに、旦那様はそれを拒み続けた。
宰相補佐の収入は、すべてミシェルとの生活にあてていたから。
それが無くなると、当主代理の私からお金を用立ててもらわなければならない。
そうなれば、さすがに私にも、ミシェルとの二重生活がバレると思ったのだろう。
しかし、不要な人件費を良しとする宰相ではない。もはや旦那様の首を切るかたちで、退職させたのだ。
長かったわ。この時をどんなに待ちわびたか。
私は、旦那様が、
「明日で登城が最後なんだ。だから、同僚たちと食事をしてくるよ。今日はもしかしたら、城に泊まるかもしれない。すまないねテス、先に寝てておくれ」
と言った言葉に、心のなかで歓喜した。
そして、いつものように、
「旦那様、今までお疲れ様でした。最後ですもの、同僚の方とゆっくり過してきてください。あまり飲みすぎませんようにね?お身体が心配ですから。では旦那様、行ってらっしゃいませ、お元気で」
と言った。
すると旦那様はクスッと笑って、
「テス?お元気では、おかしいだろ?間違えたのかい?では行ってくるよ」
と、いつも通り私の額に唇を付け、玄関を出て行った。私は微笑んで旦那様を見送った。
そして、その自分の額をハンカチで拭くと、
「間違ってないわ、永遠にさようなら。お元気で」
とつぶやいた。
伯爵領の税収を増やすため、領地を整備し、人が暮らしやすいよう安全対策を徹底し、移住してきた人たちが住みやすい仕組みを作り、人口を増やし、税収を上げた。
そして、ユージーンには優秀な家庭教師を付け、隣国の言葉を学ばせ、マナーも身に付いたところで、隣国に留学させた。
本人もそれを望んでくれたのが幸いした。
手紙には、寮生活がとても楽しく、学院の勉強も興味深くて、研究生として誘われていると書いてあった。
ユージーンは、私の望んだ通りに進んでくれている。あとは私だ。
私は、旦那様に、ミシェルとの二重生活を知っていることを悟られないように、ますます旦那様のお世話を細部までしていった。
朝、旦那様が起きるとすぐに洗面を手伝い、タオルを用意し、その間に着替えを出し、旦那様に着替えてもらう。
寝間着を脱がせ、シャツを着せ、ボタンも私がすべてとめる。ネクタイもネクタイピンも、カフスもすべて私が付け、靴下もはかせ、磨いた靴も履かせて、その革靴の紐も私が縛った。
登城の用意も私がすべてやった。
旦那様は、ユージーンが留学したから寂しいのだろう程度に思っていて、私のやることに何も言わず、好きにさせてくれた。
旦那様の侍従も、メイドも、別な仕事を任せることにして、旦那様の身の回りすべてを私だけが行った。
それを17年続けた。
そして、やっとこの日が来た。
優秀な宰相に、無駄な補佐は要らない。
長らく、伯爵家当主なのだから、宰相補佐を辞めてもよいと言われていたのに、旦那様はそれを拒み続けた。
宰相補佐の収入は、すべてミシェルとの生活にあてていたから。
それが無くなると、当主代理の私からお金を用立ててもらわなければならない。
そうなれば、さすがに私にも、ミシェルとの二重生活がバレると思ったのだろう。
しかし、不要な人件費を良しとする宰相ではない。もはや旦那様の首を切るかたちで、退職させたのだ。
長かったわ。この時をどんなに待ちわびたか。
私は、旦那様が、
「明日で登城が最後なんだ。だから、同僚たちと食事をしてくるよ。今日はもしかしたら、城に泊まるかもしれない。すまないねテス、先に寝てておくれ」
と言った言葉に、心のなかで歓喜した。
そして、いつものように、
「旦那様、今までお疲れ様でした。最後ですもの、同僚の方とゆっくり過してきてください。あまり飲みすぎませんようにね?お身体が心配ですから。では旦那様、行ってらっしゃいませ、お元気で」
と言った。
すると旦那様はクスッと笑って、
「テス?お元気では、おかしいだろ?間違えたのかい?では行ってくるよ」
と、いつも通り私の額に唇を付け、玄関を出て行った。私は微笑んで旦那様を見送った。
そして、その自分の額をハンカチで拭くと、
「間違ってないわ、永遠にさようなら。お元気で」
とつぶやいた。
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