甘い嘘と罪悪な恋

なかな悠桃

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2 追憶

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いつからこんな歪んだ関係に堕ちてしまったんだろう・・・。自分ではもうどうすることも出来ない・・・ただ誰かに縋りたく・・・ただ誰かに求められたかったんだと思う・・・。





――――――――――
「昇多ーっ、お疲れさまー」

澪は時間を潰すためスマホでゲームをしながら学習塾がある建物の入り口で昇多が出てくるのを待っていた。

「悪い、ちょっと先生にわからないとこ聞いてたら遅くなった」

慌てたように建物から出てきた昇多は申し訳なさそうに澪に謝った。

「大丈夫、そんなに待ってないし。寒いし早く帰ろ」

「うん」


小竹澪と貴島昇多は中学校一年の時、席が近くなったことで少しずつ話すようになり三年間同じクラスということもあって友人関係にまで発展した。元々容姿端麗で運動神経もよく学年のトップ順位にも入るほどの成績。かなりモテていたが当の本人は全く興味がなくどんなに可愛い子に告白されても首を縦に振ることはなく“冷徹イケメン王子”なんて女子生徒の中であだ名をつけられるほどだった。

そんな昇多だが澪とだけは馬が合ったのかよく話をする姿が見られるため周りの女子生徒たちのやっかみは少なからずあったがそのたびにさり気なく昇多が助けてくれた。

そんな昇多に淡い恋心が芽生えたのは必然的で少しでも昇多と一緒にいたく昇多が通う進学塾へ申し込んだものの入塾試験で落ちてしまった。が、その近くの塾へなんとか入り同じ日、授業も合うような時間帯を選び一緒に帰れるよう何とかこぎつけた。

「あとちょっとで受験かー、なんかあっという間だったね」

「だな、澪はどう?第一志望の公立って俺と一緒だったよな?」

「んー、この前の模試の結果は“合格圏内”にあとちょっとってとこだったんだ。塾の先生には悩ましいとこだね、みたいなこと言われちゃった」

「そっか、まぁわかんないとこは俺も教えるしせっかくなら一緒の高校行きたいしな」

澪は昇多の言葉に深い意味はないのはわかっていてもそれでも嬉しかった。




――――――――――
(答え合わせしてたら遅くなっちゃった)

澪が自身の塾から急いで外に出ると既に待っていた昇多とその隣には見慣れない男の子が仲良さそうに話しているのが見えた。

「おぉ、お疲れ」

「遅くなってごめんね・・・ってその」

澪は昇多の隣にいる男の子に視線をチラッと向けると男の子は優しそうな笑みを返してきた。

色素の薄い瞳にサラサラの丸みを帯びたヘアスタイル、身長も高く昇多とはまた違ったカッコよさがあり澪は思わず見惚れてしまった。

「紹介するな、“和坂倫かずさかとも”で塾友。んで、こっちは同じ中学で同級生の小竹澪」

「和坂倫です、ごめんねいきなり」

「あっいえ、小竹澪です・・・えっと和坂くんは「倫でいいよ、俺も澪って呼ぶから♪」

急な距離感に澪が戸惑っていると倫の隣にいた昇多が軽く溜息をつき澪の横に立った。

「悪いなコイツ、塾でもこんな感じでさ、所謂“パリピ”タイプの奴で・・・まぁそのおかげで仲良くなったんだけど俺らがいるの何回か見てたらしくて挨拶させろって煩くて」

「そ、そうなんだ」

耳元で囁くように話す昇多の温かい息がかかり澪の心拍数は上がり話どころではなかった。

「澪は昇多と同じ高校受けるんだってね、ウチの塾落ちたって聞いたけど頭良いんじゃん」

「いやー、あの時はあんまり勉強してなくて・・・」

そんなことも筒抜けになってるとは知らず恥ずかしさと情けなさで複雑な笑みを浮かべると昇多に頭の上にポンと手を置かれ「頑張ったしな」昇多の屈託のない笑みに澪の心臓は破裂した・・・ような気分になりその日のことはここまでしか覚えてなかった。


その後、時間が合えば倫も加わり途中まで三人で帰ることも増えていった。

「そういえば、倫って高校何処受けるんだろ?」

倫と別れ昇多と二人で家路へと向かっている途中、澪は何気なく昇多に問うとまさかの県内トップの進学校の名前が吐き出され思わず固まってしまった。

「へっ?ま、そりゃあ、あの塾に通ってんだから頭良いのはわかってたけど・・・」

「だよなー。俺も聞いた時、澪と同じ状態になった(笑)今だから言えるけど俺アイツの第一印象最悪だったんだよね、チャラいし休み時間とかなんか周りに女いっぱいはべらかせてうるせーし。そのくせ成績はいつもトップで張り出されるし・・・でも話すようになったら案外良い奴で」

「なんかあるあるッポイ話だね」

クスっと笑いながら澪は昇多の話を聞いていた。その後、春にまさか自分が受けた高校にしれっといる彼の姿を見た時は思わず開いた口が塞がらない状況になってしまった。昇多も知っていたらしく唖然とした表情を見た二人に腹を抱えて笑われたのを澪は今でも根に持っていた。


“二人と同じ高校に通いたくなったから”

それだけ言って倫は澪に満面の笑顔を向けた。その時の天使のような倫の笑顔が今でも頭から離れず想い出すたびあったかい気持ちになった。


そんな三人の関係が歪み、変化が生まれるとはこの時の澪には全く想像すらつかなかった。
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