交わることのない二人

透明

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サプライズ

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 店内見渡す限り女性しかいない空間。

 目の前のいかつい男は「て言うか、トゥンカロンとマカロンって何が違うん?」と言いながら、トゥンカロンを食べている。


 そしてやはり今日も、周りの視線は痛い。

 けれど、僕は悟り開いたようにもう何も気にしまいとトゥンカロンを楽しむ事にする。



 「トゥンカロンは、韓国語で太ったマカロンと言う意味らしいですよ。まぁ、マカロンを大きくしたものらしいので、さほど変わりはないようですけど……て言うか、食べたかったから来たんですよね? 知らなかったんですか?」



 普通、どんな食べ物か調べてからお店に来るものだ。

 さっき、トゥンカロンって大きいマカロンやんとも言っていたし、知らなかったのか?

 そんな事あり得る?


 僕がそう疑問に思いながら、トゥンカロンを一口食べた時、晴臣さんが「いや。俺は別に食べたかったわけじゃないねん」と首を振る。

 だったら何故、今日、トゥンカロンを食べに来たのか?


 そう不思議に思っていると、晴臣さんは言うのだった。



 「組長のお孫さんのお嬢が、ここのトゥンカロンが食べたいって言い出してな。でも誰もトゥンカロンのこと知らんくって何やそれー言うてたら、うちの若いのが、最近の間で流行ってるやつですよねって言うもんやから」

 「俺も若いけど知らんわって言ったら、お嬢、なんて言ったと思う?」



 何だかこんなやり取り、前にもあったような……なんて思いながら「さぁ……」と首を傾げると、晴臣さんは「え? 何言うてんの、晴臣はおっさんやろ。やって!!」と悲しそうに言うのだった。



 「29歳っておっさんなん?? まだおっさんやないよな? どう思うあやめん!!」



 話の趣旨がズレているが、僕は聞かれたので「基準によりますし、お嬢、さん? が何歳かは分かりませんが、まぁもし10代の子だったとしたら、おっさんにはなるんじゃないですか?」と答える。

 そんな僕に晴臣さんは「嘘やん!!」と更に悲しそうに言う。



 「待って、29っておっさんなん? あやめんも、俺の事おっさんやと思ってんの? 答えて!」



 めんどくさ。

 もう絡み方がおっさんじゃないか。

 僕は面倒だがここは正直に「まぁ、正直。僕と晴臣さん10個も離れてるから、僕からしてもおっさん、ですよね」と答える。


 今のがトドメとなったのか、晴臣さんは化石と化し、放心状態になる。



 「そんなにおっさんって言われることがショックなんですか? て言うか、何回か僕に向かって自分の事おっさんって言ってますよね?」



 あまりのショックから、おでこを手で押さえる晴臣さん。



 「いや、自分で言うのはいいねん。半分冗談みたいなところがあるから……けど、他人それも若い子に言われるとガチでへこむわ」

 「めんどくさ」

 「あやめんはまだピチピチやから分からんねん! おっさんって言われる虚しさが! おさハラやで! おさハラ!」



 実にめんどくさい。

 こう言う面倒くささが、人をだんだんとおじさんにしていくのだろう。

 僕は人がおじさんになっていく瞬間を目の当たりにした気分だった。



 「……で、話それましたけど、その組長さんのお嬢さんから頼まれたって事ですか? ここ、お持ち帰りもできるみたいだし」

 「いや? 散々、お嬢と若いのにバカにされたから、見返したろう思って、内緒で買って帰るねん。俺はトゥンカロンも知ってるし買ってきてくれる優しいお兄さんやってな」



 そう、嬉しそうに言う晴臣さんを、オレンジジュースを飲みながら、おっさんじゃなくてガキだなと僕は思う。

 まぁ、今晴臣さんにガキって言ったら、泣いて喜びそうだけど。


 その時、僕のスマホのメッセージの通知が鳴り、僕は「すみません」と言うと、晴臣さんは「気にしんと返したり」と言ってくれたので、僕はポケットからスマホを取り出し、内容を確認する。



 「う、わー……まじか……」



 メッセージの内容に、思わず声が出てしまう。

 そんな僕に晴臣さんが「何? どうしたん?」と聞いてくる。



 「いや、すみません……大した事じゃないんですけど、東京で僕の好きな芸人のお笑いライブがあって、僕もチケット応募してて、母にも応募して貰ってたんですけど、ハズレたらしくて……」

 「僕が応募したのもハズレてて……うわぁ……行きたかったな……」



 僕の話を聞いた晴臣さんは「そういや、お笑いが好きやねんやったな。なんて言う芸人のライブなん?」と聞いてくるので、僕は「おおきに倶楽部って言う、関西の芸人で。大阪でもライブやるんですけど、それも当たらなくて」と説明する。



 「最近、人気で出てきてるからな……」

 「ふーん。好きになってもう長いん?」

 「結成当初から好きなんで、もう8年目ですね」



 「結成当初ってめっちゃ長いやん」と驚いている晴臣さん。

 そんな晴臣さんに「そうですね」と返す。



 「前までは、まだそこまで有名じゃなかったから、ライブとか凄く当たってたんですけど……バズってから、人気出てきてなかなか取れなくなったんです」

 「バズって……? 何て?」



 やはりおっさんじゃないか。

 そう思いながら晴臣さんを見ると、晴臣さんは「今、おっさんや思ってるやろ」と当ててくる。



 「SNSで短期的に話題になるって言う事です。ずっと推してたからバズる事は嬉しいけど、人気出たら倍率上がるから行きにくくなるのは嫌だな。でも、バズった動画は面白くて神ってたな」

 「押してた?? 髪って……ずっと何うてるん、あやめん。大丈夫?」

 「え? 何がですか? ……あ。」



 僕はずっと、おおきに倶楽部の事を話していることに気づき「すみません。おおきに倶楽部の事になったら、つい語りすぎちゃうんです」と謝ると、晴臣さんは「カタル?」と何故かカタコトで喋る。

 だが、一々説明するのは面倒なので無視する。



 「まぁ、よう分からんけど、そのまいどおおきにって言う芸人が好きなんやな」

 「おおきに倶楽部です。」



 僕はそう言うと、残りのトゥカロンを食べる。

 そして、僕達はいつものように食べ終えると、そのまま晴臣さんが自宅まで送ってくれ、いつものように「戸締りしいや! 布団被って寝えや!」と晴臣さんの母親語録を聞き、家に帰った。







 晴臣さんとトゥンカロンを食べに行った日から三日経った日。

 その週はまだ、晴臣さんはトミーには来ておらず、その代わり、晴臣さんからメッセージが届いた。


 あの日、トゥンカロンを食べた日、晴臣さんは「そう言えば、あやめんの連絡先教えて」と半ば無理やり、交換させられたのだ。

 交換してからと言うもの、何かしら晴臣さんは僕にメッセージを送って来ていた。

 昨日なんかは、酔っ払っていたのか意味のわからないスタンプを連続で送って来た。


 ヤクザもスタンプとか使うんだやら、頻繁に送られてくるメッセージを見て意外と暇なのか? と言う感想が出て来た。

 そして今日も、お風呂上がりにスマホを確認してみると、晴臣さんからメッセージが届いていたのだが。



 「明日、暇? って来てるけど……またスイーツ食べに行く気かな」



 濡れた髪をタオルで拭きながら、突如送られて来た言葉の意味を考える。

 だがやはり、スイーツを食べに行く事一択しか考えられない。

 僕は迷った。

 明日は土曜日で大学も休みだし、バイトも休みなので暇だ。

 友人を遊びに誘ったが、彼女とデートがあると言っていたので滅びればいいと思う。


 まぁ、とにかく暇なのは暇なのだが、ここでもし暇ですと送ればきっと、スイーツを食べに行く事になるだろう。

 今までずっと流されるまま着いて行ってたけど、流石に良くないのではと思うようになった。


 だって、毎回可愛いところだし。
 可愛いのは好きだけど。

 それに毎回、晴臣さんが全部お金を出してくれるし。
 それは流石に申し訳ない。

 それに……僕は普通の大学生で、晴臣さんはヤクザの若頭だ。


 そう。いつも、晴臣さんと話している時は忘れそうになるも、この前、組長さんやお嬢さんの話を聞き、改めて実感したのだ。

 きっともう、これ以上スイーツを一緒に食べに行かない方が良いのだろう。


 そう考えると、胸が少しチクリと痛む気がしたが、気にしないでおく。

 その時メッセージが鳴り、見てみれば晴臣さんからだった。



 「無視せんとって。傷つくやん、か……。」



 僕は数秒、考えた後晴臣さんにメッセージを返す。

 きっと、晴臣さんから離れるのなら今なのだろう。

 頭ではそう分かっていても、僕の指はそれを拒むように「暇です」と文字を打っていた。


 すると直ぐに返事がくる。



 『あやめん連れて行きたい場所あんねんやけど、明日、行かへん?』

 『その手には何度も引っかかりませんよ。どうせまた、スイーツでしょ? 何時にどこに行けばいいですか?』

 『朝の10時にトミー前で』



 朝の10時から? 凄く気合いが入ってるな……なんて思いながら「分かりました」と返事をすると「楽しみにしててな。おやすみ」と帰ってくる。

 僕は「お休みなさい」と返すと、晴臣さんが既読したのを見る。


 何、やっているんだろうとは思う。

 けれど今はまだ、もう少しだけ……。



 「あ、髪の毛乾かさないと」



 それから時間は経ち、翌日の朝、晴臣さんと待ち合わせをした時間の10時になり、僕はトミーの前で待っていた。

 朝から待ち合わせして行くなんて初めてだけど、晴臣さん、本当に来るのかな。

 来なかったらどうしよう。


 そう腕時計をチラッと見た時「あやめん」と呼ぶ声が聞こえてくる。

 その呼び方に声は、見なくても誰だかわかる。


 顔を上げると、晴臣さんがこちらに手を振りながら歩いて来ていた。

 晴臣さんは僕の元まで来ると「おはよう、あやめん」と笑いかけてくる。



 「おはようございます。今日は、車じゃないんですね?」

 「あぁ。そうやけど、タクシーは向こうで待たせてるから行くで」

 「タクシー?」



 僕は言われるがまま、晴臣さんの後について行くと、晴臣さんの言う通りタクシーが停まっており、タクシーの後部座席に晴臣さんと乗り込むと「お願いします」と晴臣さんは運転手さんに声をかける。

 そんな晴臣さんに「タクシーって、一体どこに行く気ですか?」と問いかけると、晴臣さんは「んー、楽しいとこ」とはぐらかしてくる。


 そして「あやめんと同じ座席に座ってるとか珍しくて、面白いわぁ」と一人楽しそうにしている。

 この感じはいつものように、着くまで教えてくれないな。


 もう何度目かの晴臣さんのスイーツを食べに付き合っているので、僕は早々に諦め、珍しく晴臣さんと同じ座席に乗っていることを楽しむ事にしたのだった。

 そしていつの間にか目的地に着いたらしく、タクシーが停まり、僕が財布を出そうとすると晴臣さんはそれを止め「大人が払うもんや」と全額出してくれた。


 決して安い金額ではないのに……と申し訳なくなっていると、晴臣さんは「行こか」と歩き出す。

 タクシーから降りて、しばらく歩くも晴臣さんは足を止めない。


 一体、どこに行くんだろう。

 と言うか、ここの道って……。



 「ついたで」

 「え……」



 晴臣さんの言葉を聞き、立ち止まり顔を上げると、そこは僕が好きなおおきに倶楽部も何度もライブを行ったことがある、お笑い劇場の前だった。

 と言うか、今日もここでライブを行う予定だ。


 そんな事より、スイーツは? どうして劇場なんかに?

 僕は訳が分からず、混乱していると晴臣さんは「ここが、今日あやめんを連れて来たかった場所や」と言うと、僕にチケットを渡してくる。



 「こ、これって……おおきに倶楽部のライブチケット……!!」



 僕はそうチケットを見ては、晴臣さんを見ると、晴臣さんは言う。



 「サプライズ大成功や」



 そして、ニッと白い歯を見せては嬉しそうに晴臣さんは笑うのだった。
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