交わることのない二人

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乗っ取られた

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 『――さいっっこうに面白かった……!!』



 約二時間、ライブを見終え劇場から出て開口一番、そう放つあやめん。

 そして、キラキラとした目で『おおきに倶楽部、面白かったでしょ!?』と聞いてくる。



 『初めて見たけど、めっちゃ面白かったわ。おにぎり倶楽部』

 『おおきに倶楽部です』



 そうつっこんでくると、あやめんはまるで水を得た魚のように、楽しそうに話をする。

 普段は年齢の割に落ち着いてるあやめんが、こんなはしゃいでるの初めて見るな。

 そう思いながらあやめんの事見てると、あやめんはハッとし、気まずそうに『すみません……一人で勝手に盛り上がってしまって……』と謝ってくる。


 そんなあやめんが可愛くて、思わず吹き出してしまう。


 
 『ライブ見てる時もそうやけど、あやめんのそんなに楽しそうなの初めて見たわ。めっちゃいい顔してんで』



 そう言うとあやめんは恥ずかしそうにする。

 ほんまあやめんは見てて飽きひんわ。


 『いいやん。俺はあやめんが楽しんでる顔好きやで。可愛くて』と頭を撫でると『撫でないでください』と素っ気なく返してくる。

 けど、あやめんがこうやって頭を撫でられる事が実は案外嫌でもないって言うことは、分かってた。

 

 『でも、あれやなぁ。あやめんのあんな良い顔は、お笑いでしか引き出せへん思ったら、なんか妬いてまうなぁ』



 そう言うと、あやめんは『はっ……?』と驚く。

 まぁ、あやめんのあんないい顔は、お笑いでしか無理かも知れんけど


 『俺はいろーんなあやめんの顔知ってるからいいけど』と言うと、あやめんは『い、いろんな顔って……? そんなに見せた覚えないですけど?』と聞いてくる。


 可愛いもの見て嬉しそうなのも、甘すぎるの食べて顔を顰めるのも、頭撫でられて照れながらも嬉しそうなのも、他にも色々知ってるって言ったら、もう見せてくれへんくなりそうやからな。

 『んー? 色々は色々や。あやめんが気付いてないあーんな表情やこーんな表情』と言うとあやめんは、恥ずかしそうに口元を手の甲で抑える。

 





 『熱いから、フーフーして食べや』



 そう言うと、あやめんは『頂きます』とお肉を食べる。

 しばらく黙ったかと思えば『おいし、すぎる……!』と噛み締めるように言う。



 『こんな美味しいお肉、初めて食べました……』



 めっちゃ幸せそうに食べるなぁ、可愛い。 

 『じゃんじゃん食べや』と言うと、あやめんは『いつも、こんなに美味しいものを食べているんですね……』と言う。


 そんなあやめんに『まぁ。かっこつけたい時に良く来るかなぁ』と返す。

 あやめんにちょっとでもかっこいいって思ってもらえたかな、何て思ってたら、全く予想外の言葉が返ってくる。


 あやめんは遠い目をして『女性と来る時の店なんですね』と言うもんやから、思わず飲んでたジュースを吹き出しそうになる。



 『あ、菖蒲くん? いきなり何を言い出しますの』

 『自分で言ってたじゃないですか。かっこつけたい時に来るって』



 そう不思議そうにオレンジジュースを飲むあやめん。

 あかん……完全に伝わってないやん……。

 そう落ち込む俺に、あやめんは更に追い打ちをかけるように『え? 十分伝わってますけど? 下心全開じゃないですか。ちょっと引きます』と言う。



 『え、引く……』



 伝わってない上に、引かれたんやけど……最近の子難……。

 そう頭を抱える俺に、あやめんは『まぁ、でも……』とジュースが入ったジョッキをテーブルに置くと、少し視線を逸らし『こんな所に連れて来られたら落ちてしまいますよね』と言う。


 その言葉に思わず笑ってしまいそうになる。

 引くって言うたかと思えば、落ちてしまうって……ほんま菖蒲くんに手のひらの上で転がされてるみたいや。

 

 『菖蒲くんはどうなん?』

 『菖蒲くんは落ちた?』



 そう問いかけると、あやめんの顔はゆでだこみたいに真っ赤っかになる。

 今ので真っ赤になるとは、まだまだお子ちゃまやな。可愛い。

 

 『そうかそうか! あやめんは素直やなぁ』



 恥ずかしそうにするあやめんにそう言うと、あやめんはめっちゃ睨んでき『チャラ男』と言ってくる。

  

 『そんなにチャラい人だとは思いませんでした。ドン引きです』

 『なっ……! 何でそうなんの! 俺ほど誠実な人間おらんで!?』



 そう言うも、怒らせてしまったんか、菖蒲くんは『はいはい、そうですか』と適当に返事をすると、焼けている肉を全部掻っ攫う。

 そんな菖蒲くんを見て『ほんま、あやめんには敵わんわぁ……』と言うと、菖蒲くんはふんっと顔を背ける。



 しばらく食べ進めた時、ふと気になり菖蒲くんに、お笑いを好きになったきっかけを尋ねる。

 菖蒲くんは『人を笑わせるってすごい事じゃないですか』と好きになった理由を話してくれる。



 『――それに、世界一いい仕事じゃないですか、人を傷つけるわけでもなく、泣かすわけでもなく、笑顔にさせるって』

 『だから、僕はお笑いが好きなんです』



 そう穏やかに笑う菖蒲くん。

 人を笑わせる仕事のお笑い芸人と、人を殺すことも厭わないヤクザの仕事。

 

 『そりゃ、俺じゃあんないい顔させられへんわ』そう気づいたら口にしていた。


 ……何言うてんねん。

 せっかく菖蒲くんが話してくれてんのに。


 それから、焼肉を食べ終え、菖蒲くんとタクシーを待ってる時、菖蒲くんは『今日は本当にライブといい、焼肉といいありがとうございました』とお礼を言ってくる。

 お笑いライブも焼肉も俺が勝手に連れて行ったけど、喜んで貰えたようでよかった。
 

 そう思ってると、菖蒲くんは『そんなわけにはいきません』と今度お礼をさせてくださいと言う。


 俺が菖蒲くんくらいの時なんか、奢ってもらってばっかやったのに……ほんま菖蒲くんはいい子やな。

 何て感心しながら『お礼なんかいらんで』と返す。


 最近の子は遠慮気味な子が多いって聞いたけど、ほんまやってんな。

 これからも色々連れてこ~。


 そんな事を呑気に考えてた時やった。

 菖蒲くんはいきなり、俺の服を掴んだかと思えば、下を向き言う。



 『さっき、俺じゃあんないい顔させられへんわって言ってたけど、そ、そんな事ないです。お笑いを見る時は何よりも楽しいし、幸せです。でも……は、晴臣さんと一緒に過ごす時間も同じくらい僕は好きです。』

 『僕は、表情に出すのが苦手だから、わかりにくいかも知れないですけど……』



 待って。今、晴臣さんって言った……? え、幻聴? あまりに呼ばれへんからとうとう幻聴が聞こえてしもたん??

 いや、違う。幻聴やない……!!



 『今、晴臣さんって……! 初めてやな、あやめんが名前呼んでくれんの!』と嬉しさのあまり言うと、菖蒲くんは『は……? そこですか?』と驚いた表情を浮かべる。


 『だって、全然名前呼んでくれへんから、俺の名前覚えてないんやって思ってたから』

 『呼んでないことないですよ』

 『いーや、呼んでない。いつ呼んでくれるんかなって毎回思ってたし』



 そう言うと、菖蒲くんは『もう、呼んだ呼んでないはいいです。せっかく、勇気出して気持ち伝えたのに……あんまりでです』とそっぽを向いてしまう。

 しもた。せっかく菖蒲くんが気持ち伝えてくれたのに、初めて名前呼ばれた嬉しさばっかり伝えてもうた。


 急いで『ごめんて、怒らんといて。こっち向いてや』と菖蒲くんの肩に腕を回すも、菖蒲くんは『嫌です』と怒っている。

 怒る菖蒲くんも可愛いなぁ~と思いながら『菖蒲くんの気持ちめっちゃ嬉しかったし、菖蒲くんがめっちゃ俺の事好きって伝わって来たわ』と言うと、菖蒲くんは眉を寄せ、勢いよくこっちを向く。


 そんな菖蒲くんに『こっち向いたな』と笑い『俺も、菖蒲くんと一緒におるの好きやで』とさっき菖蒲くんから聞いた言葉の返事をする。


 さっきの菖蒲くんの言葉で、今までずっと曖昧やった気持ちがやっと分かった。

 まぁ、薄々そうやろなとは思ってたけど。


 『そうですか』と照れるのを隠すように視線を背ける菖蒲くんに、俺は『そうそう』と返す。



 『――高良、ちょうラジオかけて』



 高良が運転する車の中、俺の言葉に『ラジオ、ですか……?』と不思議そうにしながらも、ラジオをつける高良。

 ラジオをかけた途端、聞こえてきたのは『どうも~、おおきに倶楽部ですっ!』と言う愉快な声。

 その声に高良は『紫藤さん、すっかりおおきに倶楽部にハマってますね』と言う。


 菖蒲くんとお笑いを見に行った日以降、俺はよくお笑いを見るようになった。

 
 普通におもろいってのもあるけど、菖蒲くん、お笑いの話、特におおきに倶楽部の話したら喜ぶからな。

 ちゃんと聞いとかな。


 おおきに倶楽部のラジオを聞きながら、ふと、菖蒲くんとのトーク画面を見る。

 菖蒲くんとの会話を見返しては、気づいたら口元が緩んでる。


 今日の仕事はいかつ~~いおっさんばっかやったからな。

 癒されるわ~。


 そう思いながら、菖蒲くんとの最後の会話を見る。

 おやすみ。と返す俺のラインに既読がつき終わってる。

 それ以降、菖蒲くんからの連絡はなく、何してんねやろと考える。

 この前、連続でしょうもない話したら『通知うるさいので通知消します』って言われてしもたからな。

 あんま送りすぎて嫌われんのは嫌やし。


 そうは思うも、菖蒲くんが何してんのか気になり、閉じたトーク画面をまた開く。

 そん俺に高良は『最近よくスマホ見てますよね。』と言ってくる。



 『え?』

 『皆んな噂してますよ。いくら彼女相手でも全く連絡を返さへんあの紫藤さんが、ここのところ頻繁に誰かと連絡とってるみたいやーって』



 『何やその噂。皆んな俺のこと好きやなー』と返すも、確かに前よりスマホ見る回数増えたなと気づく。

 そしていつの日かの、元カノから言われた言葉を思い出す。
 

 『晴臣、もうちょっと連絡する回数増やしてや! うちばっか連絡してアホみたいやん』


 あの時は、面倒くさって思ってたけど、今はわかる気がする……。

 いつの間にか、菖蒲くんに心が乗っ取られたみたいやな。



 『え? 何か言いましたか?』

 『んー何でも。』



 その後も、特に菖蒲くんから連絡が来ることはなく、帰ってきた俺を、組長宅の庭に並び組みのもんに『若!! お疲れ様です!!』と迎えられる。

 毎度思うけど、むさ苦し~なんて思ってた時、ポケットに入れてたスマホが鳴り、画面を確認する。



 『菖蒲くん!?』



 そう驚く俺に『若?』『あやめくん?』と騒つく中、急いでラインを確認する。

 初めてや、菖蒲くんから連絡くんの。


 そうウキウキで画面を開くと『晴臣さん、空いている日はありますか?』と送られており、空いてる日? と不思議に思うも、直接聞く方が早いって言うのは口実で、声を聞きたくなり、思わず電話をかけてしまう。

 いきなり電話をかけたのにも関わらず、菖蒲くんは『も、もしもし……』と電話に出てくれる。


 菖蒲くんの声、電話越しやとちょっと低くなんねや。と思いながら『時間言うてくれたら、いつでも空けるけど、どうしたん?』と聞く。



 『あ、あの……晴臣さんと行きたい所がありまして……晴臣さんが行ける日を聞きたいんですけど』



 そう返ってきた菖蒲くんの言葉に、菖蒲くんが俺と行きたいところ?? て言うか、初めてやな、菖蒲くんが誘ってくれんの……!

 そう喜びを噛み締めてると、菖蒲くんの『聞いてますか?』と言う声で、ハッとする。


 
 『――それでは、今週の土曜日、朝の9時にトミーの前で』



 それから、日にちと日時を決め、菖蒲くんは『お休みなさい』と言ってくれる。

 そんな菖蒲くんに『お休みあやめん。あったかくして寝えや』と言うと、電話は切れる。


 そして、約束の土曜日を迎えた。
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