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第6話:調理完了、自白を添えて
しおりを挟む「……な、何を言っている! 証拠もなしに、善良な職員を犯罪者扱いする気か!」
食肉管理官ザックスが鼻を鳴らした瞬間、私は窓口の椅子に深く腰掛けたまま、机の上の『廃棄物処理記録』を指先で叩いた。
「ザックスさん。あなたがさっき言った『格安売却の規定』。あれを適用するには、公式な廃棄判定が必要よね。……でもあなたの報告書にある『焼却炉の燃料費』、数字が三割も少ないわ。本物のサラマンダーを焼いたなら、この魔力消費では足りない。……ねぇ、あなたが身代わりに焼いた『スカスカの乾燥肉』は、どこから持ってきたのかしら?」
「なっ……!?」
燃料費の乖離から「身代わり」を暴き、ルークが回収した個人封印の木箱でトドメを刺す。
ザックスが絶望に染まり、膝をつく。……だが、真の難所はここからだった。
「ふざけるなッ! 貴様らギルドは、この私を……三代続くボルドー家の名誉を、汚物で汚すつもりだったのか!」
ボルドー卿が激高し、カウンターが震えるほどの怒鳴り声を上げた。
周囲の冒険者たちが腰を抜かす。当然だ。「ギルドによる組織的な詐欺」と取られても文句は言えない。
(……はい、二次クレーム確定。それも最上級(ティア・ゼロ)の組織不祥事。……でも、慌てない。深呼吸。声のトーンは重々しく、しかし卑屈にならずに)
「ボルドー様。……この度は、当ギルド職員による言語道断な不祥事、誠に申し訳ございません。管理責任者になり代わり、深くお詫び申し上げます」
私は窓口から一歩も動かず、しかし姿勢を正し、深く頭を下げた。
そして、顔を上げた瞬間に『営業トップの特別話術』を起動する。
「ですが、ボルドー様。……不遜を承知で申し上げれば、このザックスの卑劣な計画が破綻したのは、他でもない貴方様の『神の舌』があったからこそでございます」
「……何だと?」
怒りで真っ赤だったボルドー卿の顔が、一瞬、戸惑いに揺れた。
これこそがコールセンターで磨いた『承認欲求へのアプローチ』だ。
「ザックスの誤算は、貴方様の美食家としての実力を侮ったことにあります。乾燥肉を極氷で戻すという小細工は、並の人間なら欺けたでしょう。……しかし、真の美味を知るボルドー様の舌だけは、魔力のわずかな変質を『芯の冷たさ』として見抜かれた。……貴方様がその違和感を見逃さなかったからこそ、こうしてギルドの膿を出すことができたのです」
「…………」
「この事件は、ギルドの汚点であると同時に、ボルドー様の美食家としての名声が、悪徳を打ち破った証でもございます。……どうか、その『高潔な正義の審判』を、最後まで全うしていただけないでしょうか?(自尊心への訴求)」
ボルドー卿の鼻息が少しだけ収まった。
怒りの矛先を「ギルド全体」から「自分の手柄」へと、言葉だけでズラしたのだ。
「……ふん。私が気づかねば、この新人の将来も潰されていたというわけか」
「左様でございます。……そこで、せめてものお詫び(サービス・リカバリー)といたしまして。今すぐシド君に、本物の肉を最高級の熱気魔法で再処理(リカバリ)させます。さらに、今回のドラゴンの残りの希少部位すべてを、ザックスの責任において『無償』で提供させていただきます。……もちろん、ボルドー家のお名前を、当ギルドの『最優先特別顧問(VIP)』として登録させていただくこともお約束いたします」
実利(無料配布)と名誉(特別顧問)。
これだけ揃えれば、この手のプライドの高い顧客は「今回は自分の顔に免じて許してやる」という勝ち逃げの姿勢に入りやすくなる。
「……よかろう。受付嬢、貴公の誠意と、私の舌に免じて、今回の件は穏便に収めてやる。……ただし、次はないぞ」
「寛大なるご処置、恐悦至極に存じます(クローズド・クロージング)」
ボルドー卿は満足げに、しかし威厳を保ったまま去っていった。
嵐が去ったロビーに、十七時の鐘が響き渡る。
「……ふぅ。処理、完了。……ルーク、後始末は任せたわよ。不祥事の特別稟議書(レポート)は明日出すから」
「アイラさん……凄すぎます。あの怒り狂った貴族を、最後は笑顔で帰すなんて……」
「ルーク。……どんなクレーマーも、最後は『自分が正しかった』と認められたいのよ。……あー、疲れた。二分残業しちゃった。……お疲れ様でした」
私は窓口から立ち上がることなく、背後の通用口から、一歩も「余計な歩数」を歩まずにギルドを後にした。
明日もまた「うごかない」ために、今日のご褒美は少し贅沢なエールに決めた。
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