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第14話:七人の代理人と、不協和音
しおりを挟む17時15分。
定時という名の「聖域」は、猛吹雪の咆哮によって無慈悲に踏みにじられました。
「……本来なら、今頃私は温かい自宅で、翌日の業務に向けたリソースの回復(睡眠)に努めているはずでした。ルーク、この『強制残業』に対する補償は、帰還後にギルド長へ直接エスカレーション(抗議)します」
「あ、アイラさん、目が……目が事務的に据わってますよ! とりあえず、今は落ち着いて夕食にしましょう……?」
ルークが差し出す温かいスープを一口啜り、私は広間の様子を観察(モニタリング)しました。
暖炉を囲む七人の代理人たち。彼らには、この支部の「特別ゲストルーム」が割り当てられましたが、誰一人として部屋に引きこもろうとはしません。
互いが互いを監視し、出し抜こうとする――その空間には、腐った沼のような【濁った感情の色】が充満していました。
---
【アイラの監査メモ:代理人たちの「声の色」】
| 名前 | 職業/特徴 | 分析結果(エコー・パルス) |
| ジャイルズ | 傲慢な貴族 | 泥まみれの黄金色。財産への異常な執着。 |
| マリウス| 狡猾な商人 | 油じみた灰色。損得勘定と、他者への不信感。 |
| ヴァンス*| 寡黙な傭兵 | 錆びた鉄の色。感情を押し殺しているが、警戒心が強い。 |
| エレノア | 元監査官 | 煤けた紫色。何か「過去の記録(隠蔽)」を恐れている。 |
| ファスト医師 | 神経質な医師 | 震える藍色。不安と焦燥。頻繁に医療鞄を触る癖。 |
| ジュリアン | 放蕩息子 | 薄っぺらな橙色。事態を楽観視しており、危機感ゼロ。 |
| セレン | 怯える少女 | 静まり返った透明。……これが最も「不自然」です。 |
---
「おい、受付嬢。いつまで待たせるつもりだ」
ジャイルズが、銀の匙をテーブルに叩きつけました。
「アリスの『七つの宝箱』の解錠手続きは明日だろう? さっさと書類を回せ。私はこんな僻地に長居するつもりはないんだ」
「左様でございますか。……ですが、ジャイルズ様。手続きには『七人全員の健やかなる生存』がシステム上の必須条件となっております。お急ぎであれば、今夜は余計な諍いを避け、早急に就寝(ログアウト)されることを推奨いたします」
私の冷淡な回答に、エレノアが鼻で笑いました。
「ふん、王都の事務員は相変わらず規則(ルール)にうるさいね。……だが、気をつけな。このギルドには『十年前の亡霊』が出るという噂がある。不備のある書類を隠し持っている者は、その亡霊に喉を掻き切られるそうだ」
その言葉に、ファスト医師の手が目に見えて震え、マリウスは顔を顰めました。
彼らは知っているのです。十年前、英雄アリスがここで「死んだ」ことにされた真実を。
「アイラさん、あの……」
給湯室から戻ってきたルークが、私の耳元で声を潜めました。
「……何か問題ですか?」
「それが、さっきキッチンでティーセットの準備をしていたんですけど。……なぜか、『未使用のカップ』が一個だけ、裏口の廊下に置かれていたんです。 誰かが持っていこうとしたのか、それとも……」
私は手元の「宿泊管理名簿」を指先でなぞりました。
昼間、私が「8」を消して「7」に書き直した、あの名簿です。
「ルーク。あなたは今夜、自室のドアにこれを挟んでおきなさい」
私は一編みの細い糸を手渡しました。
「これは?」
「『物理的なアクセスログ(物理的検知糸)』です。魔法の監視を無効化する技術(スキル)を持った者がいたとしても、物理的な扉の開閉までは誤魔化せません。……今夜は、誰にとっても長い夜になりそうです」
21時00分。
ギルド内の照明が魔法的に落とされ、静寂が訪れました。
しかし、私の耳には聞こえていました。誰もいないはずの廊下で、「ギルド職員しか知らない隠し扉」が、微かに、事務的に開閉する音を。
(……やはり、この建物の『図面(データ)』に含まれていない空間に、誰かが潜んでいますね)
私は暗闇の中で、静かに羽ペンを握り直しました。
明日の朝、この「七人」が欠けることなく窓口に揃う可能性は……限りなく低い。
そう、私の直感が「警告(アラート)」を発していました。
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