現代ダンジョンの苦情係 〜元クレーム処理担当の俺、魔物の言葉がわかるので菓子折り一つで世界を救う〜

ぱすた屋さん

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第1章

【対応記録:第33回】

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新宿駅前のファミリーレストラン。昼下がりの店内は、パンケーキの甘い香りとドリンクバーの機械音が混ざり合う、至って平和な空間のはずだった。しかし、その一角、一番奥のボックス席だけは、周囲の客が遠巻きにするほどの異様な空気を放っていた。

「……注文は以上です。あ、追加で山盛りポテトを。それと、伝票は別々ではなく、ギルドへの後日請求として処理できるよう領収書の宛名を空けておいてください」

久我は、慣れた手つきでタブレットを操作し、店員に指示を送った。机の上にはノートパソコンと、魔物たちからの相談メールが絶え間なく流れるモニターが並んでいる。その足元では、クラがフライドポテトのおこぼれを期待して三つの首を交互に動かし、コトはドリンクバーから持ってきたメロンソーダの泡を熱心に観察していた。

そこへ、店全体の空気が震えるほどの重厚な足音が近づいてきた。自動ドアが勢いよく開き、場違いな金属音を響かせながら入ってきたのは、全身を最高級のミスリル甲冑で固めた男たち――日本最強のSランクパーティ「雷光の翼」の面々だった。

「……いたぞ。こんなところで、優雅に日替わりランチを食っていやがったのか」

リーダーのカイトが、煤まみれの顔で久我の前に立った。彼の自慢の雷剣は刃こぼれし、背後の魔導師たちも肩で息をしている。彼らが纏う英雄のオーラは、連日の不眠不休の出撃によってボロボロに擦り切れていた。

「いらっしゃいませ、カイト様。本日はどのような御用件でしょうか。……あいにく、現在の私はギルドの職員ではございませんので、公的な要請であれば、私の代理人……いえ、受付フォームを通していただけますか」

久我は、ハンバーグを一口運んだあと、ナプキンで口元を丁寧に拭った。

「ふざけるな! 今この瞬間も、新宿三丁目でオーガの群れが暴走し、代々木では正体不明の霧が発生してダイバーたちが全滅しかけているんだぞ! ギルドの窓口に行っても担当者不在の一点張りで、俺たちに全部押し付けやがって!」

カイトが机を叩いた。コップの水が揺れ、クラがワンッ!と不快そうに牙を剥く。

「……カイト様。失礼ながら、皆様の現在のパフォーマンスは、プロの基準を大幅に下回っています。装備のメンテナンス不足、蓄積した疲労による集中力の欠如。……アンド何より、戦うべき目的を見失っている。……その状態で現場に出ることは、ギルドの資産であるSランクパーティの価値を毀損する不適切な運用に当たります」

「……何だと?」

「皆様の仕事は討伐ですが、私の仕事は討伐に至るまでの不備の解消でした。……私が消えたことで、魔物たちは交渉窓口を失い、不満を爆発させている。それを皆様が力で押さえ込もうとすればするほど、彼らの反発(クレーム)は苛烈になります。……今の状況は、火災に対してガソリンを撒いているようなものです」

久我は冷淡な視線をカイトに向けた。

「皆様は、相手がなぜ怒っているのか、一度でも考えたことはありますか? ……代々木の霧は、あそこの主が深夜の魔力採掘工事の騒音がうるさくて眠れないと訴えていた案件です。私はそれを工事時間の調整で解決する予定でした。……それを皆様が土足で踏み荒らした。……主が激怒するのは、生命体として当然の反応です」

カイトの手が、悔しそうに震え始めた。
「……そんなこと、俺たちが知るかよ! 俺たちは戦うのが仕事だ。あいつらの愚痴を聞くのが仕事じゃねえ!」

「ええ。ですから、その聞き役である私が、不当な手続きによって解雇された。……その結果が、皆様の今の惨状です。……現状の不備は、すべてギルド上層部のマネジメント能力の欠如が原因ですよ」

カイトは、力なく久我の対面の席に腰を下ろした。英雄と呼ばれた男の肩が、絶望で小さく震えている。
「……もう、限界なんだ。……ギルドはあてにならない。……久我、頼む。……お前がいないと、この街はもう持たないんだ」

久我は、食べ終えた皿を端に寄せ、カバンから一通の個別業務委託契約書を取り出した。

「カイト様。……私はフリーランスです。……皆様のパーティのコンサルタントとして、今回の事案を引き受けることは可能です。……ただし、報酬はギルド基準ではなく、私の提示する時価となりますが、よろしいですね?」

「……金ならいくらでも払う。……俺たちのプライベートな報酬からでも出す。……だから、あいつらを……あいつらを止めてくれ」

「交渉成立ですね」
久我は立ち上がり、伝票を手に取った。
「では、まずは代々木の霧の主へ、不適切な訪問に対する菓子折りを持って謝罪に参りましょう。……カイト様、あなたのその刃こぼれした剣は、今すぐ鞘に収めてください。……交渉の場に凶器を持ち込むのは、最低のマナー違反ですから」

ファミレスを出た久我の背中には、もはや事務員の哀愁はなかった。最強のパーティを従え、自らのルールで世界を修正し始める調停者の威厳。久我ソリューションズ、初の実戦投入が始まった。
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