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第一部 名家の暴走と傀儡となった女王

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ノバの家に戻った俺達四人は、ノバに案内されて風呂場へ行きと体を洗った。
 ダリアとアザレンカとノバは、ノバやグリーンさん達がいつも入る大浴場に。
 俺は使用人達が使う、シャワールームで。
 
 先に体を洗い終えた俺は執事に案内され、グリーンさんが待つ部屋へと通された。
 ……一つの街の領主様と二人きりって何か嫌だな。
 部屋へ入ると笑顔でグリーンさんがソファーに座っており、俺はテーブルを挟んだ向かい側のソファーへ座るよう促される。

 「ノバから聞いたわ。プライスさんと勇者アザレンカの実力。第二王女も二人が味方なんて心強いし、第一王子にとっては脅威よね」
 グリーンさんはニコニコと話してはいるが、話している内容は俺からするととてもじゃないが笑えない内容だ。

 ラウンドフォレストの街の人達が俺達の敵になるかならないかじゃ大きく変わってくる。
 仮にここから行ったことの無い街や場所に行ったとしても、瞬間移動《テレポーテーション》でラウンドフォレストにいつでも戻れるから、野宿することなくいつもの宿屋で寝れる。

 グリーンさんが第一王子が次の王になる事を支持すると言ってしまえば、敵である俺達はもうこの街には戻ってこれない。そうなると別の街で宿屋を見つけなくてはならない。
 ……正直、いつもの宿屋と同じくらいの宿屋だと宿賃が倍くらい違うのもザラにある。
 現に王都はそうだ。

 今は、ダリアと俺が一緒の部屋で寝る事をキャロのお陰で許して貰えているから宿賃が一日銀貨十枚で済んでるけど。
 仮に一日一人辺り宿賃が銀貨十枚だったら、宿賃だけで一日銀貨三十枚だろ?
 それはキツすぎる。
 
 今、俺の手元には金貨が十四枚。
 アザレンカの手元に銀貨が二枚。
 食費やら色々含めたら一ヶ月分の生活費くらいにしかならない。
 三人だとやっぱり金掛かるな。
 
 俺が険しい顔をしていることに気付いたグリーンさんは、心配しないでと言いながら、テーブルの上に、硬貨の入った袋と何やらグリーンさんの名前が入った証明書らしき物を置いた。

 「これは……?」
 「君達の旅の資金、そして第二王女が次の王になるために必要な物よ」

 ……良かった。
 グリーンさんはダリアが次の王になる事を支持してくれたんだ。
 きっと、ノバがグリーンさんに色々進言してくれたんだろう。
 ノバを洞窟へ連れていったのは正解だったな。
 後で、ノバにはお礼を言わないと。

 俺はひとまず安心した。
 何故なら、ラウンドフォレストの領主であるグリーンさんが、次の王に相応しいのは第一王子よりダリアだと思ってくれているのなら、俺達はラウンドフォレストにいつでも戻って来れる。
 しかも、旅の資金も出してくれた。
 これは俺達の味方と思っても大丈夫だろう。

 だが、次にグリーンさんから出た言葉は俺が考えもしない言葉だった。
 
 「プライスさん、勘違いしないで欲しいんだけど、私達は第一王子か第二王女のどちらが次の王に相応しいのかは決めてないわ」
 「……へ?」

 驚き過ぎて、思わず間抜けな声を出してしましった。

 そりゃ、驚くだろ。
 俺達の旅の資金を出してくれる上に、ダリアが次の王になるために必要な物も用意してくれたのに。

 それなのに、どっちが次の王に相応しいか決めていないって……
 一体どういうことなんだ?

 「……怒らないで聞いて欲しいんだけどね? 
 正直、第二王女を見ていると、王としてまず国民や自分に仕える騎士や魔導士達の安全を優先させるという意識が足りないのよ」
 「……意識ですか」
 「確かにプライスさん一人でクラウンホワイトと戦うだなんて、プライスさんが命の危機に瀕していると言っても過言では無かったわ」

 いや、過言ですね。
 相性を考えれば火の聖剣が使えるようになった俺が、クラウンホワイトにそう易々と負けるわけが無いです。
 ……と言いたい所だが、話の腰を折る事になってしまうので辞めておく。

 「でも、プライスさんを助ける為だからって、準備も何もしていない騎士達を急に召集してクラウンホワイトの元へ行かせる。流石に私も協力は出来なかったわ」
 「……しかも、ノバから話を聞いているでしょうけど、十メートル級の大物という考慮もすべきですからね。本来であれば、王国騎士団や魔導士団がしっかり準備をして討伐すべきモンスターですよ」

 グリーンさんは頷きながら、話を続ける。

 「そこまで分かっているなら、プライスさんも気付いているでしょう?  いくら大切な人の命の為だからといって、次の王候補が騎士達の命を軽視するような命令を出そうとするような事があってはならないわ」
 「……」

 グリーンさんの指摘は最もだった。
 俺は痛い所を突かれ何も言えなくなる。
 しかし、グリーンさんはそんな俺を見て畳み掛けるように聞いてくる。

 「ねえ、プライスさん? 本当に第二王女が次の王に相応しいと思っているの?」
 「……え?」
 「質問を少し変えましょう。もし仮に第一王女がマリンズ王国へ嫁いでいなかったとしても、プライスさんは第二王女を次の王に推していたかしら?」
 「……」

 またしても俺は、何も言えなくなっていた。
 ……正直、それはない。
 もし仮に第一王女に王位継承権がまだ残っていたとしたら、次の王に相応しいのはダリアよりも第一王女だったと思う。

 そして、やはり次の発言をするのはグリーンさんだった。

 「プライスさんも分かっているんじゃない?  まだ、第二王女は王の器じゃないって」

 ……まだ、か。
 敢えてグリーンさんはまだと言ってくれたんだろう。
 でも本当は、ダリアの事を次の王として認めていないんだ。
 次の王になることすら相応しくないと思っているんだ。

 「……じゃあだからって、第一王子が次の王になっても良いんですか? 資質どころか、人望すら無いんですよ? 」
 「それはそうでしょうね、私も第一王子が次の王になるのは余り喜ばしい事では無いと思っているわ」
 「でしょう? 王都でも、第一王子が次の王になるかもしれないと聞いて、少なくない数の騎士や魔導士が王都を去ったんです。それなのに第一王子を次の王にしようとする王家や俺の家族の目的が分からないですよ」

 俺とグリーンさんの意見は一致しているじゃないか。
 第一王子が次の王になる事は決して喜ばしい事では無いと。
 それならダリアが次の王になった方が……

 「ねえ、プライスくん? 第一王子が次の王になるよりは第二王女の方がまだマシだから、とか考えているでしょ?」
 「……」

 明らかに図星だった。
 俺は確かにダリアが次の王に相応しいと思っていた。
 でもそれは、第一王子と比べてってだけだ。

 確かに強力な強化魔法を使えるし、俺やアザレンカのサポートもしっかりしてくれている。
 だけど、本当にそれだけで次の王に相応しい人間だと言えるか?

 思えばそうだった。
 独断で護衛も付けずに農園に来て、ライオネルの山賊達に襲われるような事になったのに、女王や側近に報告しない。

 王国騎士団や魔導士団にライオネルとの内通者がいると気付いているのに、それを周囲に相談しない。

 そして、今回の一件もだが、ホワイトウルフを討伐して、調子に乗って騒ぎながら警戒もせず洞窟へ入り、クラウンホワイトと遭遇してしまう一因を作り、守りながら戦うのはキツいと俺が言っているのに私も戦うと駄々をこねる。

 一歩間違えれば、どれも大惨事を引き起こす原因になっていたのかもしれない。

 「私に少し言われただけで、意見が変わるようなら、第二王女を次の王にするなんて事は諦めた方が良いわよ?」

 図星を突かれ、迷いが生じ出していた俺を見てグリーンさんは、怒っていた。
 ……そうだ。
 今はダメでも、これから王に相応しい人間になっていけば良いじゃないか。
 何を迷っているんだ俺は。
 
 ダリアの事を、俺が信じてやれなくてどうするんだよ。

 「……きっと、ダリアは次の王に相応しい人間になりますよ。次の王に相応しい人間になるまでの間、ダリアを守る。それが今の俺の役目であり目的ですから」
 「そう、頑張ってね。私達が心から次の王に相応しいのは第二王女だと言えるように」
 「ええ、必ず言わせてみせますよ」

 こうして俺は、旅の資金とダリアが次の王になるために必要な物。

 そして、覚悟を手に入れたのだった。

 ◇

 「良かったね。衣食住の内、食と住には困らないよ」
 「ありがとう。ノバ。とはいえ良いのか?」

 俺達がホワイトウルフ討伐の報酬を辞退した為か、俺達のいつもの宿屋の宿賃や飯代は、グリーンさんがラウンドフォレスト内での物なら全部持ちますと言ってくれたのだ。
 
 良かった。
 仮に金欠になっても、住むところと飯にはありつけるというのは心強い。
 何より、俺達三人の中に一人誰とは言わないが、大量に飯を食う奴がいるからな。

 しかも、これから俺達が寝泊まりする部屋は、いつもの宿屋の中でも一番豪華な部屋にグレードアップするというのは嬉しい。

 ……部屋が何か、多人数で寝る大部屋のような感じなのは何か嫌だが。
 しかも、これから三人一緒の部屋で寝るようになるのは確定なんだな。
 何なら、ベッドは後複数個余っている。

 ダリアは、風呂に入ったせいで眠くなったのか既にベッドで寝ている。
 アザレンカは早速、食堂に行ったみたいだ。
 ……タダだからって、大量に食わないと良いんだが。 

 「おっ、頑丈そうな金庫あるな。そうだ、余分な金と後、これからダリアが次の王になるために必要になる書類? まあ、いいや。取り敢えず貴重品は入れて、最後は密封《シール》」

 盗まれたりすると困る物を金庫に入れて、更に俺が解除しない限り、絶対に開けられないように魔法を掛けた。
 これで、問題ないな。

 「これから、どうするの?」

 ノバは、空いているベッドに座りながら、俺達の今後について聞く。

 「そうだな、色々な街に行って依頼をこなして実績や功績を作って、ダリアを次の王にするだけだからな。まあ、数日はラウンドフォレストで過ごすよ」
 「それもだけど、アザレンカの勇者としての評判回復もしなくちゃだよね。あんまり評判良くないらしいんだよね……。他の街でも」

 ノバは、アザレンカを心配そうにしている。
 ……でも、アザレンカって勇者になってからずっとラウンドフォレストにいたのに、他の街で評判が悪くなるなんて事があるのか?

 「アザレンカの奴、他の街で何かしたのか? 悪い評判になるほど」
 「恐らく、ラウンドフォレストで何もしてなかったからじゃないかな?  二ヶ月くらい」
 「ああ……」

 他の街に実績や功績を作りに行くというのに、マイナスからのスタートに俺は頭が痛くなった。
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