35 / 86
第一部 名家の暴走と傀儡となった女王
氷の女勇者はただのあだ名
しおりを挟む
「……という訳で、マリンズ王国の女勇者が親父と知り合いなんて事は俺が知っている訳が無いんですよ」
俺は修行の為(大嘘)王都ではなく、ラウンドフォレストにいたこと。
そのラウンドフォレストで、王家御用達の農園から依頼を受け、依頼中に農園にたまたま居合わせたダリアと一緒にライオネル王国の山賊集団を追い払ったこと。
更にライオネル王国の山賊集団の件で、王国騎士団か魔導士団かあるいはその両方に、ライオネル王国との内通者がいるかもしれないという疑いが出てきたから、ダリアとライオネル王国の王太子との縁談を俺の手で破談に追い込んだこと。
そして、第一王子を次の王にするくらいなら、ダリアを次の王にした方が良いと考えた為、勇者であるアザレンカとパーティーを組んで、今はダリアが次の王になる為の功績を作る旅の途中だということ。
アザレンカとスパンズンの領主の誤解を解く為に今に至るまでの全てを話した。
……ああ、滅茶苦茶恥ずかしい。
王家同士の縁談の場、しかも女王や自分の両親、さらにライオネルの要人や貴族がいる場で、高らかにダリアを守るって宣言した事を言うなんて。
「……よ、良く無事でいられたね。王家同士の縁談をぶち壊して」
「……騎士王と大賢者の息子だから許されただけですよね? それ」
王都であったことの話を聞いた二人は俺のやった事に呆れ気味だった。
「……ダリアがライオネル王国に嫁いで、第一王子が次の王になるという悲劇を回避しただけマシだろ」
「「確かに」」
俺は言い訳のように言ったつもりだったが、二人に深く頷かれてしまい戸惑う。
本当に第一王子は人望ねえな。
「……はあ、お兄様って本当に人望無いのね」
俺達三人の様子を見て、ダリアは兄の人望の無さを嘆いていた。
◇
「しかし気になるな、氷の女勇者」
二人への誤解を解いた後、話はまたボーンプラントに派遣されたマリンズ王国の女勇者の話へと戻る。
「そういえば、その女勇者の元々の名字って? ステファニーは名前だろうから変わることは無いけど、ベッツって名字は騎士王が名乗らせているだけだよね?」
アザレンカの疑問は最もだ。
ステファニーという名前は珍しくない。
だが氷の女勇者が変わった名字なら探しやすくなる。
スパンズンの領主も探しやすくなるならばと答える。
だが、その名字に俺は耳を疑った。
「ミューレンです。本名はステファニー・ミューレンと聞きました」
「ステファニー・ミューレン……ダリアさん知ってる?」
「ミューレン……聞いた事あるわね。確かマリンズ王国の貴族にそんな名前の人がいたような気がするわ。ステファニーという女性がいたかは分からないけど」
三人はその名前の人物がどんな家の人間なのかを話している。
だが、俺にはそんな余裕は無かった。
かつて、俺の婚約者だった女性と同姓同名だったからだ。
……嘘だ。
そんな訳が無い。
そうだ、何かの間違いに決まっている。
名前が間違って伝わっているのかもしれない。
名前は一緒だけど全くの別人かもしれない。
何を焦っているんだ、俺は。
ステフが戻ってくるはず無いじゃないか。
ミューレン家は没落したんだ。
それだけじゃない。
没落した家の令嬢など何の価値も無いと言って、ベッツ家が一方的に婚約破棄したんだ。
何故ミューレン家が急に没落したのか理由も聞かずに。
……当時俺は十六歳だった。
何も出来なかった。
子供だったからしょうがなかった?
それは只の体の良い逃げだ。
異を唱えるべきだった。
ただ俺は、ステフを失う事に対してただただ落ち込むだけだった。
そんな俺を見て、祖父母や親父はもっと良い女を見つけてやると言った。
……何も言えなかった。
祖父母や親父を咎める事も、ステフと離れたくないという主張も俺には出来なかった。
別れの日も、俺は引き止めもしなかった。
引き止めても無駄だったから。
だから、敢えて突き放した。
でも、そんな俺にステフは。
「プライス、ずっと愛してるから」
と言ってくれた。
俺は涙が止まらなかった。
こんな言葉、家族にすら言われた事無かったから。
それもあったが、何も出来ない俺に対して文句一つ言わず、ずっと愛してると言ってくれる。
何故、こんな素晴らしい女性を俺は失わなければならないんだという気持ちで一杯だった。
しかし、そんな俺達を見て、俺の親父や祖父母は冷たく言い放った。
「なんじゃ、そんなに仲良くなってたんじゃな、ただの政略結婚じゃったのに」
「心配しないでくれ、ステファニー殿。プライスには君よりも美しく身分もちゃんとしている女性を紹介しよう」
「愛しているだなんて……。没落した令嬢なんかに愛されてもプライスが困るだけでしょう? 迷惑よ? ステファニーさん?」
俺は怒りの余り、攻撃魔法を放ちそうになっていた。
しかし、ステフは笑って。
「ベッツ家がプライスに紹介する女性よりも良い女になりますから!」
そう言ってステフはマリンズ王国へ帰った。
そんなステフを親父や祖父母は嘲笑っていた。
流石の俺も、我慢の限界だった。
ステフが乗った馬車が見えなくなったことを確認した後、魔力切れになるまで、自分が使える様々な攻撃魔法を親父や祖父母に向けて放った。
今思えば、この時が初めてかもしれない。
この家から出たいと、王都からいなくなりたいと思い始めたのは。
そして、家族に明確な殺意が湧いたのも。
それからは、親父や祖父母も俺に縁談の話を持ってくることは無かった。
反省した訳ではない。
ただ単に、俺に反抗された事に腹を立てただけだ。
世話をしてやったのに、と愚痴っていたな。
お袋はそんな俺を見て、気持ちは分かるが攻撃魔法を家族に向けて放つんじゃないと俺を怒るだけだった。
所詮、大賢者とはいえ嫁いだ身。
親父や祖父母に対して意見は出来なかったのだろう。
姉二人は、やれやれと呆れるだけ。
まあ、エリーナ姉さんは辛かったねと言ってくれたっけ。
そうか、もう二年以上経つのか。
今更、ステフがイーグリットへ親父の頼みを聞き入れて戻ってくる?
そんな訳が無い。
何より、ステフの得意魔法は雷だった。
氷の女勇者と呼ばれている、ボーンプラントにいるマリンズ王国の女勇者と別人に決まっている。
「……プライス? どうしたの?」
ダリアは心配そうに俺を見る。
急に俺が黙ったから、心配するのも無理はない。
「いや、何でもないさ。ちょっと俺の元婚約者を思い出してな」
「元婚約者? ……思い出したわ! 貴方の元婚約者って確かマリンズ王国の貴族の令嬢だったわよね?」
「ああ、そうだ。マリンズ王国の貴族、ミューレン家の令嬢だった」
俺の言葉にダリアだけでなくアザレンカやスパンズンの領主も驚く。
三人にはもっと驚いて貰うか。
……まあ、別人なのは確定なんだし。
「偶然にも、俺の元婚約者の名前はステファニー・ミューレンだったよ」
「やっぱり、貴方の知り合いだったのではないですか!」
スパンズンの領主は、話が違うと食って掛かってくる。
俺は冷静に答える。
「イーグリットに彼女が戻ってくる事なんてあり得ませんよ。ベッツ家は彼女に対して大変失礼なことをしたんですから」
「失礼?」
「一方的な婚約破棄、そして彼女への侮辱ですね。騎士王が聞いて呆れますよ」
正直に俺は全て話す。
騎士王である親父やベッツ家の評判が下がろうが関係無いね。
事実なんだから。
「それに、氷の女勇者でしょ? 俺の元婚約者が得意だったのは、雷の魔法。だから別人だよ。氷の聖剣に選ばれる訳が無い」
「アザレンカを見れば分かるわよね」
「そうそう、火の聖剣に僕が選ばれる訳が無いって……酷い!」
俺の元婚約者と氷の女勇者は別人、意見は一致するはずだった。
しかし、スパンズンの領主のある一言でそれは崩壊する。
「氷の女勇者というのは、あくまでも氷のように冷たい冷酷な女勇者という意味でボープラントの住民からそう呼ばれているだけで、氷の聖剣を使う勇者だとは誰も言ってませんよ?」
「「「え?」」」
俺達三人は、またも間抜けな声を出す。
ちょっと待ってくれよ、氷の聖剣を使う女勇者じゃねえのかよ。
紛らわしいな、氷の女勇者なんて渾名付けんなよ。
どう考えたって氷の聖剣を使う女勇者だと勘違いするだろうが。
「どんな聖剣を使うかは分かりません。だからこそ、追い出して欲しいのですよ。聖剣の力を使っていなくてこの有り様なんですから」
「厄介ね、それ。どんな聖剣を使うのか分からないんじゃ対策しようにも出来ないわ」
「危険ですよね。それに聖剣と聖剣がぶつかり合えば、街だけじゃなく住民にだって危険がありますよ」
「……」
ダリアとアザレンカの意見にスパンズンの領主は黙ってしまう。
正直、俺もダリアとアザレンカの意見が正しいと思う。
いくら、こちらにも聖剣があるとはいえ、イーグリットの聖剣が火の聖剣であるのは有名なのだから、対策だってされているかもしれん。
それなのにこっちは対策のしようが無いんじゃ勝算はほぼ無いと言って良いだろう。
……仕方ない、親父に頭を下げるのは癪だがボーンプラントから女勇者をマリンズ王国へ召還するように頼もう。
「……実力行使で追い出すのは無理なので、俺から親父に伝えますよ。交渉材料はありますし」
スパンズンの領主の前で聖剣を抜く。
彼女は驚いていた。
「聖剣は、勇者ではなく貴方を選んだというのですか……」
「ええ、王都の連中はこの事実を知りません。立派な交渉になるでしょう。難色を示すようなら数人ほど聖火の餌食にすれば良い」
アザレンカやダリアは驚いていた。
聖火の餌食にする。
それは即ち殺すということなのだから。
「もし、成功すればスパンズンとボーンプラントは喜んで第二王女派を宣言致します」
「サラキアさんはともかく、ボーンプラントの領主から聞いたんですか?」
「言ったでしょう? 第一王子が次の王になる事を最初に反対した結果が、この有り様なんですから」
「……ああ、そうでしたね」
話は全て終わった。
取り敢えずこれからの予定としては、アザレンカとダリアにはラウンドフォレストへ戻ってもらい待機。
そのついでにグリーンさんへ報告して貰うことにした。
俺は気が進まないが親父の元へ行くこととなった。
さて、一体俺は何人の人間を灰にしてしまうのだろうか。
俺は修行の為(大嘘)王都ではなく、ラウンドフォレストにいたこと。
そのラウンドフォレストで、王家御用達の農園から依頼を受け、依頼中に農園にたまたま居合わせたダリアと一緒にライオネル王国の山賊集団を追い払ったこと。
更にライオネル王国の山賊集団の件で、王国騎士団か魔導士団かあるいはその両方に、ライオネル王国との内通者がいるかもしれないという疑いが出てきたから、ダリアとライオネル王国の王太子との縁談を俺の手で破談に追い込んだこと。
そして、第一王子を次の王にするくらいなら、ダリアを次の王にした方が良いと考えた為、勇者であるアザレンカとパーティーを組んで、今はダリアが次の王になる為の功績を作る旅の途中だということ。
アザレンカとスパンズンの領主の誤解を解く為に今に至るまでの全てを話した。
……ああ、滅茶苦茶恥ずかしい。
王家同士の縁談の場、しかも女王や自分の両親、さらにライオネルの要人や貴族がいる場で、高らかにダリアを守るって宣言した事を言うなんて。
「……よ、良く無事でいられたね。王家同士の縁談をぶち壊して」
「……騎士王と大賢者の息子だから許されただけですよね? それ」
王都であったことの話を聞いた二人は俺のやった事に呆れ気味だった。
「……ダリアがライオネル王国に嫁いで、第一王子が次の王になるという悲劇を回避しただけマシだろ」
「「確かに」」
俺は言い訳のように言ったつもりだったが、二人に深く頷かれてしまい戸惑う。
本当に第一王子は人望ねえな。
「……はあ、お兄様って本当に人望無いのね」
俺達三人の様子を見て、ダリアは兄の人望の無さを嘆いていた。
◇
「しかし気になるな、氷の女勇者」
二人への誤解を解いた後、話はまたボーンプラントに派遣されたマリンズ王国の女勇者の話へと戻る。
「そういえば、その女勇者の元々の名字って? ステファニーは名前だろうから変わることは無いけど、ベッツって名字は騎士王が名乗らせているだけだよね?」
アザレンカの疑問は最もだ。
ステファニーという名前は珍しくない。
だが氷の女勇者が変わった名字なら探しやすくなる。
スパンズンの領主も探しやすくなるならばと答える。
だが、その名字に俺は耳を疑った。
「ミューレンです。本名はステファニー・ミューレンと聞きました」
「ステファニー・ミューレン……ダリアさん知ってる?」
「ミューレン……聞いた事あるわね。確かマリンズ王国の貴族にそんな名前の人がいたような気がするわ。ステファニーという女性がいたかは分からないけど」
三人はその名前の人物がどんな家の人間なのかを話している。
だが、俺にはそんな余裕は無かった。
かつて、俺の婚約者だった女性と同姓同名だったからだ。
……嘘だ。
そんな訳が無い。
そうだ、何かの間違いに決まっている。
名前が間違って伝わっているのかもしれない。
名前は一緒だけど全くの別人かもしれない。
何を焦っているんだ、俺は。
ステフが戻ってくるはず無いじゃないか。
ミューレン家は没落したんだ。
それだけじゃない。
没落した家の令嬢など何の価値も無いと言って、ベッツ家が一方的に婚約破棄したんだ。
何故ミューレン家が急に没落したのか理由も聞かずに。
……当時俺は十六歳だった。
何も出来なかった。
子供だったからしょうがなかった?
それは只の体の良い逃げだ。
異を唱えるべきだった。
ただ俺は、ステフを失う事に対してただただ落ち込むだけだった。
そんな俺を見て、祖父母や親父はもっと良い女を見つけてやると言った。
……何も言えなかった。
祖父母や親父を咎める事も、ステフと離れたくないという主張も俺には出来なかった。
別れの日も、俺は引き止めもしなかった。
引き止めても無駄だったから。
だから、敢えて突き放した。
でも、そんな俺にステフは。
「プライス、ずっと愛してるから」
と言ってくれた。
俺は涙が止まらなかった。
こんな言葉、家族にすら言われた事無かったから。
それもあったが、何も出来ない俺に対して文句一つ言わず、ずっと愛してると言ってくれる。
何故、こんな素晴らしい女性を俺は失わなければならないんだという気持ちで一杯だった。
しかし、そんな俺達を見て、俺の親父や祖父母は冷たく言い放った。
「なんじゃ、そんなに仲良くなってたんじゃな、ただの政略結婚じゃったのに」
「心配しないでくれ、ステファニー殿。プライスには君よりも美しく身分もちゃんとしている女性を紹介しよう」
「愛しているだなんて……。没落した令嬢なんかに愛されてもプライスが困るだけでしょう? 迷惑よ? ステファニーさん?」
俺は怒りの余り、攻撃魔法を放ちそうになっていた。
しかし、ステフは笑って。
「ベッツ家がプライスに紹介する女性よりも良い女になりますから!」
そう言ってステフはマリンズ王国へ帰った。
そんなステフを親父や祖父母は嘲笑っていた。
流石の俺も、我慢の限界だった。
ステフが乗った馬車が見えなくなったことを確認した後、魔力切れになるまで、自分が使える様々な攻撃魔法を親父や祖父母に向けて放った。
今思えば、この時が初めてかもしれない。
この家から出たいと、王都からいなくなりたいと思い始めたのは。
そして、家族に明確な殺意が湧いたのも。
それからは、親父や祖父母も俺に縁談の話を持ってくることは無かった。
反省した訳ではない。
ただ単に、俺に反抗された事に腹を立てただけだ。
世話をしてやったのに、と愚痴っていたな。
お袋はそんな俺を見て、気持ちは分かるが攻撃魔法を家族に向けて放つんじゃないと俺を怒るだけだった。
所詮、大賢者とはいえ嫁いだ身。
親父や祖父母に対して意見は出来なかったのだろう。
姉二人は、やれやれと呆れるだけ。
まあ、エリーナ姉さんは辛かったねと言ってくれたっけ。
そうか、もう二年以上経つのか。
今更、ステフがイーグリットへ親父の頼みを聞き入れて戻ってくる?
そんな訳が無い。
何より、ステフの得意魔法は雷だった。
氷の女勇者と呼ばれている、ボーンプラントにいるマリンズ王国の女勇者と別人に決まっている。
「……プライス? どうしたの?」
ダリアは心配そうに俺を見る。
急に俺が黙ったから、心配するのも無理はない。
「いや、何でもないさ。ちょっと俺の元婚約者を思い出してな」
「元婚約者? ……思い出したわ! 貴方の元婚約者って確かマリンズ王国の貴族の令嬢だったわよね?」
「ああ、そうだ。マリンズ王国の貴族、ミューレン家の令嬢だった」
俺の言葉にダリアだけでなくアザレンカやスパンズンの領主も驚く。
三人にはもっと驚いて貰うか。
……まあ、別人なのは確定なんだし。
「偶然にも、俺の元婚約者の名前はステファニー・ミューレンだったよ」
「やっぱり、貴方の知り合いだったのではないですか!」
スパンズンの領主は、話が違うと食って掛かってくる。
俺は冷静に答える。
「イーグリットに彼女が戻ってくる事なんてあり得ませんよ。ベッツ家は彼女に対して大変失礼なことをしたんですから」
「失礼?」
「一方的な婚約破棄、そして彼女への侮辱ですね。騎士王が聞いて呆れますよ」
正直に俺は全て話す。
騎士王である親父やベッツ家の評判が下がろうが関係無いね。
事実なんだから。
「それに、氷の女勇者でしょ? 俺の元婚約者が得意だったのは、雷の魔法。だから別人だよ。氷の聖剣に選ばれる訳が無い」
「アザレンカを見れば分かるわよね」
「そうそう、火の聖剣に僕が選ばれる訳が無いって……酷い!」
俺の元婚約者と氷の女勇者は別人、意見は一致するはずだった。
しかし、スパンズンの領主のある一言でそれは崩壊する。
「氷の女勇者というのは、あくまでも氷のように冷たい冷酷な女勇者という意味でボープラントの住民からそう呼ばれているだけで、氷の聖剣を使う勇者だとは誰も言ってませんよ?」
「「「え?」」」
俺達三人は、またも間抜けな声を出す。
ちょっと待ってくれよ、氷の聖剣を使う女勇者じゃねえのかよ。
紛らわしいな、氷の女勇者なんて渾名付けんなよ。
どう考えたって氷の聖剣を使う女勇者だと勘違いするだろうが。
「どんな聖剣を使うかは分かりません。だからこそ、追い出して欲しいのですよ。聖剣の力を使っていなくてこの有り様なんですから」
「厄介ね、それ。どんな聖剣を使うのか分からないんじゃ対策しようにも出来ないわ」
「危険ですよね。それに聖剣と聖剣がぶつかり合えば、街だけじゃなく住民にだって危険がありますよ」
「……」
ダリアとアザレンカの意見にスパンズンの領主は黙ってしまう。
正直、俺もダリアとアザレンカの意見が正しいと思う。
いくら、こちらにも聖剣があるとはいえ、イーグリットの聖剣が火の聖剣であるのは有名なのだから、対策だってされているかもしれん。
それなのにこっちは対策のしようが無いんじゃ勝算はほぼ無いと言って良いだろう。
……仕方ない、親父に頭を下げるのは癪だがボーンプラントから女勇者をマリンズ王国へ召還するように頼もう。
「……実力行使で追い出すのは無理なので、俺から親父に伝えますよ。交渉材料はありますし」
スパンズンの領主の前で聖剣を抜く。
彼女は驚いていた。
「聖剣は、勇者ではなく貴方を選んだというのですか……」
「ええ、王都の連中はこの事実を知りません。立派な交渉になるでしょう。難色を示すようなら数人ほど聖火の餌食にすれば良い」
アザレンカやダリアは驚いていた。
聖火の餌食にする。
それは即ち殺すということなのだから。
「もし、成功すればスパンズンとボーンプラントは喜んで第二王女派を宣言致します」
「サラキアさんはともかく、ボーンプラントの領主から聞いたんですか?」
「言ったでしょう? 第一王子が次の王になる事を最初に反対した結果が、この有り様なんですから」
「……ああ、そうでしたね」
話は全て終わった。
取り敢えずこれからの予定としては、アザレンカとダリアにはラウンドフォレストへ戻ってもらい待機。
そのついでにグリーンさんへ報告して貰うことにした。
俺は気が進まないが親父の元へ行くこととなった。
さて、一体俺は何人の人間を灰にしてしまうのだろうか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
749
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる