危険なプリズム

福野ようこ

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第一話 1-3

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 お茶会当日、ダイアナは初めて公爵邸の外に出る事を楽しみにしていた。
 王妃様にお会いするのも、緊張はするが楽しみだった。
 そして実際に王妃様にお会いして、とても楽しい時間だった。……王子様達が、この場に現れるまでは………。

 一人の男性と男の子二人が、こちらに近付いて来るたび、ゾワゾワとした感覚がダイアナにはあった。
 そして、側まで来てご挨拶をした時に、二人の王子の顔を見たら、その後ろでヘビが王子を丸呑みにしてやろうと、口を大きく開いたまま舌をチロチロと王子達の頬を舐めていた。

「っ!!」
 一瞬叫びそうになったが、何とか堪えた。
 
 ダイアナには時々、人が見えないモノが視える時がある。
 幽霊とかポルターガイストでは無く、モノの本質が視えてしまうのだ。
 例えば、ココに来る途中で見た黒い扉の様に、隠されたモノも視えるし、人が嘘をついた時も分かってしまう。物理的にも感情的にも、ダイアナの前では丸裸にされてしまう。
 赤ちゃんの時はそれが特殊だと分からず、色々な情報が頭に入ってきて困った。乳母やメイドの会話も、世間話をしていただけだと思うが、その会話の殆どはウソであると頭にメッセージが入り、嫌な気持ちになって一日中泣いていた。次第に視たい時だけ視れる様にコントロール出来る様になったが、未だに強い力や感情に触れた時には視たくなくても視えてしまう。
 この事はお父様にもお母様にも話した事は無い。
 だが、薄々気付いていた様だ。
 もしかしたら、このお見合いもその力が関係しているのかもしれない。

 王子達を前に、後ろのヘビは幻だと分かっていたので、何とか直視しない様にし、挨拶をして笑顔を貼り付けた。目を細め、口角を上げてにこやかな表情で、明るい声で会話をする。
 お母様に叩き込まれたマナーは、こんな非常事態に生きてくるのだと、今凄く実感している。
 (お母様ありがとう……)と思いながら、目を細めて視覚をほぼ閉じているのに、ヘビによる圧力が凄い。
 何というか先程から、剣の刃を首筋に突き付けられている様な感覚である。自然と背筋に冷や汗をかく。
 恐らく、顔に出さない様に気をつけてはいたが、顔色が悪かったのかもしれない。
 少しすると王妃様に、王弟殿下と庭園でも見てきてはどうかと勧められてしまった。
 正直(ありがとう王妃様)と、思いながら王弟殿下のスティーブ様に手を繋がれて席を立つ事が出来た。

 スティーブ様はご挨拶の時に「国王の末弟のスティーブだよ。普段は医局にいて医者をしている。気分が悪くなったら私に言うと良い。宜しくね。」と、気さくに握手を求められた。
 私の小さい手をニギニギして「ウンウン。かわいい娘だね。イルとエル良かったじゃないか。」と王子達に話を振っていた。その直後の王子達との会話は殆ど覚えていない。
 美人で優しそうなお姉様(たぶん凄く失礼?)と言うのが、ダイアナのスティーブ様に対する印象だ。
 ふたりきりになってから(後ろにエミリーが居るのだが)先程までの緊張感や嫌悪感などが嘘の様に、楽しく会話をしながら池の畔で花々やお魚を見て、あっと言う間に時間が過ぎていく。
 カーライル様やミカエル様の事も少しお話ししたが、正直に言って良いのか分からず「怖い」とだけ伝えた。
 何故カーライル様とミカエル様が怖いのかまでは確認されなかったのだが、スティーブ様は怖くないと伝えた時だけ、ちょっと難しいお顔をされていた。
 ダイアナの中では「スティーブお姉様」と認識され、お姉様が増えたとココロの中で喜んでいたのだが……。
 
 お茶会の席に戻ると、スティーブ様は王妃様に何かを呟いてからお仕事に戻られた。
 お父様は恐らく、心ゆくまで王妃様や王子様達と会話を楽しんだのだろう。少しグッタリしている。
 対して、王子様二人は目をキラキラと輝やかせながらお父様を見ている。まぁ、相変わらず後ろにヘビはいるのだが。
 席に着いてから、やっぱり笑顔を貼り付けたまま会話をしていたら、そろそろ風が冷たくなってきたからとお開きなった。
 帰る時王妃様に呼び止められ、
「今日は来てくれてありがとう。また近いウチに今度は二人で逢いましょうね。…そう言えば、スティーブ様の事はどうして気に入ったの?」
 と聞かれた。スティーブ様の事が好きになった(お姉様の様にお慕いしている)と気付いていたらしい。ビックリした。これは正直に話すしかない。
「王弟殿下はダイアナの第二のお姉様なので。…つまりは、お姉様になって欲しい位、美人で優しくて大好きになってしまいました。」
「そこは男の人だから、お兄様では?」
「いえ。王弟殿下のお身体は男の人ですが、お心根は女性の様に優しかったです。」
「……なるほど。そうだったの。ありがとう。」
 帰る間際に誰にも聴こえない様に、そんな会話をした。……大丈夫だっただろうか。

 帰る途中までがんばって歩いていたが、今日はお昼寝もしないで、朝早く起きた為か眠気が限界で頭がカクカクしてきた。
 そうしているウチに、お父様が「今日は頑張ったな。偉かったぞ。」と言いながら抱っこして下さった。
 お父様の大きなお胸の中で、ヌクヌクしながら何時の間にか寝てしまい、抱っこされながらエミリーと3人で公爵邸へ帰った。
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