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しおりを挟む木々が減り視界が開け始め、だんだんと村へ近付いてきたことがわかる。
レンリ自身村の活気は嫌いじゃない。
だが、いつ身元がばれて攻撃を受けるのか、それが気がかりで楽しめたことはない。
楽しみよりも緊張が勝り体がこわばる。
「レンリ、大丈夫か?」
すぐさまランジが気付いて背中に手が添えられた。
大きな手から彼の体温がじんわり伝わってくる。
少しほっとした。
「大丈夫」
彼が施してくれた化粧もある。
堂々としていれば問題ない。
そう言い聞かせて村に入る。
「よう姉ちゃん!」
急に声を掛けられびくりと肩が跳ねる。
見知らぬ男。
手には肉や野菜の刺さった串を持っている。
「ここの名物だ。買っていきな!」
これまで街に出向いた時にこんなことを言われたことはない。
本当に森の魔女だとわかっていないのか。
「姉ちゃん綺麗だから安くしとくぜ」
「結構だ」
ランジが男とレンリの間に割って入る。
「お、おう……」
ランジの体躯に怯えた表情を見せた男はそそくさと去っていった。
「ランジ、ありがとう」
彼の裾を掴んで礼を言う。
「……いや」
フードを目深にかぶり直して視線をそらされてしまう。
表情は見えないが、拒絶ではないだろう。
少し見える彼の頬はほんのり赤く、おそらく照れている。
だが、なにに対して照れているのかはわからなかった。
「目的の店はどこだ」
問う前にランジが先に口を開いた。
「あの裏道をしばらく行ったところに」
「急ごう」
ランジに手を引かれた。
さっきよりも熱い気がする。
目的の店へ辿り着く。
緊張で視線が下がってしまう。
「堂々としていろ」
「堂々と……」
正直どうしたら堂々とできるのかわからず困惑した。
「さっきの串屋の男を見ただろう」
表通りで声を掛けてきた男を思い出す。
「レンリの姿を見て、魔女だと騒いだか?」
まったくそんなことはなく、むしろ普通の客として声を掛けられていた。
「今のお前は雰囲気がいつもとは違っている。おどおどせず背筋を伸ばしていれば誰も怪しまない」
不思議とランジの言葉に心が落ち着いてきた。
「大丈夫そうだな」
ふっと彼が笑う。
「ええ、ありがとう」
彼の手を握り微笑むと、ランジからも笑顔が返ってきた。
意を決して店へ入る。
「……らっしゃい」
気だるげな店員の声。
まっすぐ店員の元へ歩み寄りメモを出す。
「これが欲しいんですが」
「ああ……はいはい、お待ちくださいね」
店員はこちらに視線を向けることなく奥へ引っ込む。
ひとまず騒がれなくて安堵する。
いつもは訝しげな視線を感じることが多かった。
自身のおどおどした挙動も原因のひとつだろうと思い至る。
レンリはカウンターの前で店員を待ち、ランジはゆったりと店内を見て回っていた。
「っとお待たせしました。こちらで?」
差し出された薬草を確認する。
品質は問題なさそうだ。
「はい、これでお願いします」
会計を終え、瓶に詰められた薬草を受け取る。
「ありがとうございました」
店員の気だるげな声を背に受けながら店を出る。
「悪い。少し待っていてくれ。ハンカチを店内に落としたらしい」
ランジは母の形見のハンカチを持ち歩いていると以前聞いたことがあった。
「わかったわ」
しばらくかかると思われたが、ものの数秒でランジは出てきた。
「他に寄るところはあるか?」
「もうないよ。ランジはどこか行きたい?」
「いや」
「じゃあ、帰ろうか」
予定よりも早く買出しが終わり、今から帰路につけば陽が沈む前には家に辿り着けるだろう。
「ああ」
レンリの手にあった荷物をランジが取り上げる。
空いた手は彼の指に絡め取られた。
「帰ろう」
流れるような行動にどきりとした。
思わずランジの顔を凝視してしまう。
ふわりと柔らかい笑みが返ってきて、さらに鼓動が高鳴った。
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