再会の約束~またあなたと生きる為に、私は~

山吹花月

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後編

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後編



 出発は明日の日の出と同じ頃。
 すでにフレアの自宅には乳母によって身代わりの人形が送り込まれている。
 ゼクスとふたりの時間を、と乳母は気を利かせて離れへ下がっていた。
「…………」
「…………」
 ベッドに並んで座る。うまく言葉が見つからない。
 フレアにとっては三年振りに交わす言葉だが、ゼクスにとってはほんのわずかな日数しか経っていない体感のはずである。それなのに目覚めて早々突拍子もない現実と婚約者の逃亡劇の決意、混乱しないわけがない。そんな彼になんと声を掛ければいいのか迷ってしまう。
「……フレア」
 逞しい腕がフレアの体を包み込む。彼の胸に触れた耳へ鼓動が伝わってきた。
 フレアが寄り添うだけではない、ゼクスが自ら包んでくれている。
 この三年間、呼びかけても答えのない彼の姿が蘇る。
「…………三年間、つらい思いをさせた。そばにいてやれなくて、すまない」
 声が悲痛の色で満ちている。彼を悲しませたいわけじゃない。
「こうして抱き締めてもらえることが……嬉しい」
 フレアも彼の背に腕を回し、存在を確かめるよう力を込める。
 視線が絡みどちらからともなく唇を寄せあう。恋しさで涙の気配が押し寄せてきた。
 何度も角度を変え、甘い柔らかさを味わう。
 後頭部を撫でる彼の掌が、触れるか触れないかで滑っていく。指先が髪から肩、二の腕をなぞって互いの指が絡まる。熱いその手を離したくなくて力を込め捕まえる。
 逆の腕が腰に回り強く抱き寄せられる。フレアの動きに呼応するゼクスの反応が素直に嬉しい。慈しむ優しい手の動きが心地いい。
 もっと彼の熱を感じたくて、ゼクスのシャツへ触れる。フレアの衣服にはゼクスの手が添わされた。しゅるしゅると衣が擦れ合う音と、口付けから漏れ出る吐息が部屋を支配する。キスをしながらだと手元が見えなくて脱がせにくい。もたもたしているうちにフレアの着衣は下肢の下着だけになっていた。
「っぁ」
 肌に触れたほんのり冷えた外気でようやく自身の姿に気付く。
 まだ彼の着衣はそのまま。ゼクスのシャツへ視線を落とした一瞬を彼は見逃さなかった。
「こっち、見てればいいから」
 返事の言葉ごとキスで塞がれる。
 擦り合わされる唇の気持ち良さにフレアが呆けている間に、ゼクスは自身のシャツを荒々しく脱ぎ去った。
 隔てるものが無くなり素肌が重なる。直に感じる彼の体温が嬉しい。
 そのままベッドに折り重なり、互いの肌と唇を合わせ続ける。
 キス以上の愛撫も欲しくなって、我慢できずに彼の手を自身の胸へといざなった。
 彼の指先がふくらみへ沈む。大きくて熱くて、少し硬い指先の感触。懐かしさと官能が高められていく。
 わずかに唇が離れてしまい、少し寂しくなって薄く目を開ければ、彼の空色と視線が交わる。ふっと細められ彼が笑ったことがわかる。
 フレアに答えてくれる彼が目の前に存在することに、この上なく満たされていく。
「っん、ぁ」
 両の胸の飾りが同時にこねられた。表面をじっとり撫でつけるように押し込まれる。空色に見惚れてぼんやりしていた意識が快楽に引き戻された。
 先端で生まれる愉悦が下腹に響き熱を燻らせていく。
 久方ぶりの刺激でみるみるうちにフレアの内側が昂ぶる。まだ触れられていない秘処がきゅんと疼き、ふとももが無意識に擦れ合ってしまう。
 フレアのれに気付いたゼクスは手と唇を下げていく。
 熱い掌が体のラインを丁寧になぞり、それを追いかけるように甘いキスが落とされていった。
 秘められた場所に辿り着いた指先が、控えめに割れ目をなぞる。そこはすでに蜜が溢れ、くちゅりといやらしい音をたてた。
 愛液を掬われ花弁に撫で広げられていく。入らないぎりぎりをくすぐられ、もどかしい悦がじわじわフレアを追い立てる。
 気持ちいいのに昂り切らない熱に腰が懇願するように揺れる。
「ぁあッ」
 秘裂の先で硬く主張をしている蕾が舐めつけられた。唐突に強い刺激に襲われ甘やかな声が押し出される。
 すでに押し入り内側を撫でる指や舌でゼクスを感じる。そのたびにびくびくと背が跳ね奥から愛液が溢れてくる。
 急速に高められていく官能に思わず体を引こうとするが、ふとももを掴まれ快感を逃がすことが出来ない。与えられるがまま愉悦を蓄えさせられ、あっという間にフレアは高みを超えた。
「……っふ、ぁ、は」
 胸を上下させて荒い呼吸を整える。
 快感に満たされたばかりなのに、すぐに奥が寂しくなって蜜壁が収縮するのがわかった。
「フレアのここ、すごく物欲しそう」
 わずかに上擦る声で言うゼクスは嬉しそうに目を細めている。
「ん、欲しい……」
 以前なら恥ずかしくて言えなかった誘うような言葉が口をついて出た。
 一瞬目を見開いた彼と視線がぶつかるが、すぐに柔らかい笑顔に変わる。
「可愛いおねだり。でも待ってね、ちゃんと解さないと」
 中に埋められていた指がさらに深く動き始める。最後に触れ合った時よりも大きな圧迫感を感じる。
「……狭い」
 はっと熱い息を吐きながら、彼が中の襞を丁寧に撫で回す。
 ゆっくり中の感触を確かめるような緩やかな動きが、逆にフレアの劣情を煽っていく。侵入したときの圧迫感はすぐに消え、瞬く間に刺激を求める内側が蠢きだす。
「も、ゼクス、……きて」
 早く深く繋がりたくて懇願する。
「それだとフレアが苦しくないか?」
「や、さびし……」
 快楽に対する言葉なのかこの三年間の孤独への感情なのか、自分でもわからなくなっていた。
「っ、ゆっくり入るから……」
 息を詰めたゼクスの、指とは桁違いの熱が押し入ってくる。じわじわと内壁を擦り、奥までみっしりと満たされていく。
 彼の動きが止まったところを見計らい手を伸ばす。
「ね、体、引っ張り起こして。くっついてしたいの」
 中以外、わずかに離れた体の距離がもどかしい。
 繋がれた手が引かれフレアの上体が起こされると、対面し肌がぴったりと触れる。しっとりと汗ばんでいるゼクスの肌が気持ちよくて、互いの熱が溶け合ってしまう感覚になる。
「フレア、大丈夫か? 痛くない?」
 握った手や頬にいくつも口付けが降る。
「ん、中いっぱいで、嬉しい」
「あまり可愛いことを言われると、困ったな」
 ゆるゆると律動が始まった。
「抑えがきかなくなりそうだ」
 揺さぶられるたびに奥に彼の熱が押し付けられ、じゅくじゅく熟れた悦が溢れてくる。
 次第に激しくなる振動に、彼の首へすがりつき喘ぐことしか出来なくなる。
「キス……」
 果てが近付き唇をねだればすぐに彼が口付けてきた。
 中も肌も、触れ合う部分すべてから快楽が生まれて蕩けそうになる。
「ぅ、も……外、出すから」
「そのまま、ぁッ……中に居てほしっ」
 離れそうになる彼の体にしがみつく。
 いくらそんなことをしても自分の体に命が宿ることはないとわかっている。
 それでも、彼の証が欲しかった。
「っ……!」
「ぁああッ……!」
 最奥を穿たれ限界まで蓄えられた熱が弾け飛んだ。締めつけた彼の放つ精が中を温めていく。
 激しさは静まり、乱れた息だけが部屋に響く。
 息を整えた後も離れがたくて、繋がったまま何度も唇を重ねた。
「……愛しているよ、フレア」
「ええ、ゼクス。私もあなたを愛しているわ」



「フレア様、おはようございます。……まあ! 素敵ですよ」
 翌朝乳母の視界に入ったのは、豊かだった長い髪をばっさりと短くしたフレアの清々しい笑顔だった。
「ゼクスに切ってもらったの」
 身支度を整える時にお願いしたのだ。
「似合っているよ」
 ゼクスに抱き寄せられ髪にキスが降る。
「ん。…………それじゃあ、行ってくるね」
 まっすぐにゼクスを見上げて笑う。
「ああ。気を付けて」
 離れがたくてじっと彼を見つめる。ゼクスの瞳もフレアを捕らえ続ける。
「あっもう日が」
 空の白む気配に慌てて身を離す。名残惜しく触れ合った指先だけが温かい。
 きゅっと口角を上げ飛び切りの笑顔を作る。
 彼も目を細め優しい笑顔で答える。
「すぐにフレアの元に帰るから」
「うん」
 昨日、別れの言葉は交わさないとふたりで決めていた。
 必ず再会する。そう強く願って。



 雲ひとつない空。快晴の空を見るたびに、フレアの思考は愛しい人でいっぱいになる。
 のどかな山々に囲まれた小さな丸太造りの家。そこが今のフレアの城。
「…………ゼクス」
 誰にも聞こえない、自分の耳にだけ響くよう小さく名を呼ぶ。
 ざあっと風が吹きその声をさらっていく。
 ここに来たばかりの頃は毎日のように泣いていた。こんなことではいけないと自身を鼓舞しても、フレアの意識とは関係なく溢れる涙でなにも見えなくなっていた。
 幸いにも、心優しい近隣住民のおかげでなんとかひとりでも生活出来ていた。最初は家事など家のことが全くわからず、よくお隣の奥さんに助けを求めたものだ。
 昼間は慣れない料理や掃除に一生懸命で気が紛れていた。が、夜の孤独はフレアにとって静かすぎた。瞬く間に思考はゼクスへの恋しさに支配され、眠れぬ夜が随分と続いた。
 それも次第に時間が救ってくれた。どんなに悲しくても毎日を生きていかなくてはいけない。泣いているだけでは腹は膨れない。
 それに、ゼクスがいつここに来たとしても、とびっきりの笑顔で迎えたい。それからは、恋しくなったら名を呼び、昼間は彼の瞳と同じ色の青空へ、夜は彼の髪と同じ漆黒の夜空へ、精一杯の幸せな笑顔を送ることにしている。
 物思いに耽る気分を切り替え、空に向かってにっと口角を上げ笑う。
「さあ、洗濯終わらせな……いと…………」
 洗濯物を抱えて歩き出したフレアの独り言は、最後は消え入るようだった。
 目の前にひとりの男が立っている。
「フレア」
「っ……!」
 声を出す間も惜しくて、フレアは駆け出し男の胸へ飛び込んだ。
 少し逞しくなった腕とよく知る匂いに包まれる。
 背中まで伸びた金の髪ごと、フレアは強く強く抱き締められた。
「おかえりなさい」
 晴れ渡る青空に負けないほど、とびっきりの笑顔で彼を見上げた。


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