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第4話 勇者の才能、お譲りします
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お久しぶりの魔王が現れたのは、ルルリカの婚礼の半年前のことだった。
婚約者もまた、勇者の血を継ぐ家の子息だった。
「勇者の末裔としての責務を果たしてまいります。平和になった世界を、貴女に捧げます」
そう言い残して、婚約者は旅立って行った。
しかし、彼は帰ってこなかった。
思い出してルルリカは瞳を濁らせた。
「……あの時。しおらしく見送ったりせず、どんな手段を使ってでも、婚礼の儀を前倒しにしてもらうべきだった……!」
呪詛のように吐き捨て、ルルリカは荒々しく炙り干し肉を歯でむしり取った。
貴族の娘でなくても、普通に乙女として他所様にはお見せ出来ない姿だ。
ルルリカだって、元々は愛らしい顔立ちと、少々お花畑が入った夢と、生まれ育ちに相応しい可憐な乙女だった。
いや、今だって、人目のある所では、希望の星である姫勇者のイメージを崩さないふるまいというものに気を付けている。
貴族の娘として、それくらいの教養と嗜みはあるのだ。
けれど、魔王を倒した後は、どうしても荒ぶる方の乙女を抑えることが出来なかった。
だからこその野宿なのである。
「はぁー……。せめて、兄ども二人の内のどちらかに、もっと勇者としての才能が受け継がれていればな……」
炙り干し肉を食べ終えたルルリカは、立てた膝の上に顔を伏せた。
ティトは、次の干し肉を差し出すタイミングを計っている。
ルルリカには二人の兄がいた。
どちらも健康優良児で、「魔王が現れたら、初代勇者の末裔として、我こそが!」と鼻息も荒く勇者修行に励んできた。
そして、今から数年前、東の荒野に魔王付き魔王城がポコッと現れた時には、空回りが心配になるほどに張り切って出立していったが、あえなく敗退した。
一応、城の中までは入れたらしい。
お供の騎士や魔法使いたちのおかげで体の傷はそこまでひどくなかったが、心の方はバッキボッキに折られて帰ってきて、そのまま引きこもりになった。
「いや、もう、兄どもじゃなくてもいい! 他家の有象無象でも市井の冒険者でも構わない! やる気と勇気のある人材に、この才能を譲り渡したい! というか、押し付けたい! そうすれば、勇者をやりたい奴が勇者をやれて、私はお嫁に行けて、一石二鳥! 万々歳! なのに!」
ルルリカは陰りを帯び始めた空に向かって吠えた。
有象無象や冒険者たちに聞かれたら、いらぬ怒りを呼びかねない姫勇者様の心の叫びだ。
ティトは、用意していた炙り干し肉を差し出しながら、控えめに尋ねた。
「その、ルルリカ様は、勇者になったことを、後悔しているんです……か?」
「……………………いや。私だって、初代勇者の血を引く貴族の娘だからな。魔王の好きにさせるわけにはいかないし、誰かがやらなくてはならいことだし、それを出来るのが自分しかいないのであれば、勇者をやるのも仕方がないことだと理解している」
「ルルリカ様……」
ルルリカの覚悟を聞いて、ティトの瞳が尊敬諸々で潤みを帯びた。
「それに……」
「それに?」
「兄どもに代わって魔王を倒してくると最初に言い出したのは、私の方だったしな……」
「……………………」
その辺りの経緯は既に聞いたことがあるティトは、無言で目を伏せ、自分の炙り干し肉に齧りついた。
「ただ!」
「…………ただ?」
「勇者としての才能を私一人に全振りした運命には、物申したい!」
勇者に憧れて血の滲むような努力を積み重ねた挙句、あっさりと現実に打ちのめされた者たちの耳に入ったら逆恨みされかねない雄叫びが、星灯が灯り始めた空に響き渡った。
婚約者もまた、勇者の血を継ぐ家の子息だった。
「勇者の末裔としての責務を果たしてまいります。平和になった世界を、貴女に捧げます」
そう言い残して、婚約者は旅立って行った。
しかし、彼は帰ってこなかった。
思い出してルルリカは瞳を濁らせた。
「……あの時。しおらしく見送ったりせず、どんな手段を使ってでも、婚礼の儀を前倒しにしてもらうべきだった……!」
呪詛のように吐き捨て、ルルリカは荒々しく炙り干し肉を歯でむしり取った。
貴族の娘でなくても、普通に乙女として他所様にはお見せ出来ない姿だ。
ルルリカだって、元々は愛らしい顔立ちと、少々お花畑が入った夢と、生まれ育ちに相応しい可憐な乙女だった。
いや、今だって、人目のある所では、希望の星である姫勇者のイメージを崩さないふるまいというものに気を付けている。
貴族の娘として、それくらいの教養と嗜みはあるのだ。
けれど、魔王を倒した後は、どうしても荒ぶる方の乙女を抑えることが出来なかった。
だからこその野宿なのである。
「はぁー……。せめて、兄ども二人の内のどちらかに、もっと勇者としての才能が受け継がれていればな……」
炙り干し肉を食べ終えたルルリカは、立てた膝の上に顔を伏せた。
ティトは、次の干し肉を差し出すタイミングを計っている。
ルルリカには二人の兄がいた。
どちらも健康優良児で、「魔王が現れたら、初代勇者の末裔として、我こそが!」と鼻息も荒く勇者修行に励んできた。
そして、今から数年前、東の荒野に魔王付き魔王城がポコッと現れた時には、空回りが心配になるほどに張り切って出立していったが、あえなく敗退した。
一応、城の中までは入れたらしい。
お供の騎士や魔法使いたちのおかげで体の傷はそこまでひどくなかったが、心の方はバッキボッキに折られて帰ってきて、そのまま引きこもりになった。
「いや、もう、兄どもじゃなくてもいい! 他家の有象無象でも市井の冒険者でも構わない! やる気と勇気のある人材に、この才能を譲り渡したい! というか、押し付けたい! そうすれば、勇者をやりたい奴が勇者をやれて、私はお嫁に行けて、一石二鳥! 万々歳! なのに!」
ルルリカは陰りを帯び始めた空に向かって吠えた。
有象無象や冒険者たちに聞かれたら、いらぬ怒りを呼びかねない姫勇者様の心の叫びだ。
ティトは、用意していた炙り干し肉を差し出しながら、控えめに尋ねた。
「その、ルルリカ様は、勇者になったことを、後悔しているんです……か?」
「……………………いや。私だって、初代勇者の血を引く貴族の娘だからな。魔王の好きにさせるわけにはいかないし、誰かがやらなくてはならいことだし、それを出来るのが自分しかいないのであれば、勇者をやるのも仕方がないことだと理解している」
「ルルリカ様……」
ルルリカの覚悟を聞いて、ティトの瞳が尊敬諸々で潤みを帯びた。
「それに……」
「それに?」
「兄どもに代わって魔王を倒してくると最初に言い出したのは、私の方だったしな……」
「……………………」
その辺りの経緯は既に聞いたことがあるティトは、無言で目を伏せ、自分の炙り干し肉に齧りついた。
「ただ!」
「…………ただ?」
「勇者としての才能を私一人に全振りした運命には、物申したい!」
勇者に憧れて血の滲むような努力を積み重ねた挙句、あっさりと現実に打ちのめされた者たちの耳に入ったら逆恨みされかねない雄叫びが、星灯が灯り始めた空に響き渡った。
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