もふっとにゃ!

蜜りんご

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第2章 子ネコーと長老のお船休暇

第22話 トマトマ・クッショー

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 板張りの床の上に置かれた、濃い茶色のちゃぶ台。
 その周りに、人間用の座布団が一つと、ネコー用の正方形のクッションが二つ用意されていた。青いクッションと赤いクッションだ。
青いクッションは、ソランが旅先で見つけたきたもので、赤いクッションはカザンが後から購入したものだという。仕事先で偶然、ソランが持ち帰ったのと同じようなクッションを見つけて、予備として購入したのだとカザンは説明した。
 にゃんごろーは素直に頷いていたが、長老には分かっていた。
 赤いクッションは予備などではなく、ソランからにゃんごろーの話を聞いたカザンが、いつか子ネコーが遊びに来てくれる日を期待して、わざわざ購入したのだと。おそらく、部屋のどこかにもう一つ、魔女の元で療養中のにゃしろーの分も隠されているはずだ。
 青いクッションは、少しくたびれていたが、赤いクッションは新品だった。
 だから、というわけではないが、にゃんごろーは赤を選んだ。
 赤は大好きなトマトの色だからだ。

「にゃんごろー、あかいにょらいいー」
「分かっとるわい。ほれ、好きな方に座るといい」
「わーい」

 長老に赤いクッションを譲ってもらって、にゃんごろーは両手をもふっと上げて大喜びした。長老の気が変わらない内にと、いそいそと急いで赤いクッションに腰掛ける。
 トマトの色である赤は、にゃんごろーの大好きな色だ。カザンは、ソランから子ネコーたちの好きな色を抜かりなくリサーチしていたのだ。長老に譲ってもらうまでもなく、最初から赤いクッションは、にゃんごろー用に用意されたものだった。
 その証拠に、赤いクッションの下には、あらかじめ座布団が一枚敷かれていた。クッションは、おとなのネコーにはちょうどいいが、子ネコーには少し高さが足りなかったからだ。
 至れり尽くせりじゃのー、と思いながら、長老は孫ネコー愛用のクッションに、よっこらしょと座った。厚みのあるクッションは、固すぎず柔らかすぎず、ネコーが椅子として使うのにちょうどよかった。

「あかーいクッショー、トーマトのおいろー♪」

 ちゃぶ台の上にお手々をふたっつ、もふっもふっと載せて、子ネコーは喜びを口ずさんだ。白の混じった明るい茶色の尻尾が、もふもふユラっと揺れている。

「ふむ。このクッションは、なかなか良いのー。気に入ったぞい」
「にゃんごろーも、きにいっちゃー! トマトマクーッショー!」

 ふたりは上機嫌で、クッションへの感想を口にして、それから。
 ネコーたちのワクワクしたお目目が、ちゃぶ台の中央に注がれた。そこには、丸みのある白いポットと、藍色の布が被せられているお盆があった。藍色の布に施された白いステッチが美しい。けれど、もちろん。ネコーふたりの目には、ステッチは全く映っていなかった。布の柄よりも、布の下に隠されたものが気になって仕方がないのだ。
 まったく同じポーズで、同じ表情で、布の下を透視しようとするかの如く見つめているネコーふたりの姿を見比べて、口元に薄く笑みを刻みながら、カザンは勿体ぶらずに布を取り外した。

「暖かい麦茶と、かりんとうだ。かりんとうは、私の故郷で、よく食べられている甘いお菓子だ。昨日、長期の仕事から帰ってきたばかりで、買い置きのお菓子は、これしかなくてな。にゃんごろーの口にも、合うといいのだが…………」

 まあるいお盆の上には、藍色に白い花の模様が描かれた湯呑が三つと、お菓子の入ったビニール袋が載せられた木の器が載っていた。袋の中には、長細くてごつごつした濃い茶色のお菓子がたくさん入っている。
 カザンはまず、ポットの中のお茶を湯呑に注いで、それぞれの前に置いた。香ばしい匂いが漂い、ネコーたちはお鼻をヒクヒクさせている。
 それから、カザンは袋を取り上げて開封した。今度は、独特な甘い香りが漂う。お鼻のヒクヒクにつられて、にょにょっと生えている白いおひげもヒクヒクと震えだした。

「んー? あみゃーい、におい。れも、しらにゃい、においらー」
「黒糖のいい香りじゃのう。腹は鳴り、心は踊る匂いじゃわい」
「こくちょー?」
「うむ、まあ。黒いお砂糖じゃ。普通のお砂糖よりも、複雑で独特な甘さのお砂糖じゃ」
「ほーう?」

 どうやら、かりんとう初体験は、にゃんごろーだけのようだった。匂いの元を言い当てた長老は、子ネコーの質問に、間違ってはいないが割と適当な答えを返す。
 ふたりの会話を聞きながら、カザンは器の中にザラザラと袋の中身を流し込んだ。子ネコーが食べ過ぎないように、程よい量で止めると、用意してあったクリップで袋の口を止める。ちゃぶ台の下から青くて四角い缶を取り出すと、その中にかりんとうの袋を仕舞った。青い缶がちゃぶ台の下に戻されるのを見ながら、子ネコーは思わず素直な感想を口にしてしまう。

「えー? こりぇらけ?」
「ああ、これは甘みが強いお菓子なのだ。あまり食べ過ぎると、お昼ごはんが美味しく食べられなくなってしまう。これくらいが、ちょうどいい量なのだ」
「しょっか。それにゃら、わきゃっちゃ」

 食い意地のはった子ネコーを長老が窘める前に、サムライが笑いながら、量が少ない理由を説明してくれた。納得のいく理由だったので、にゃんごろーは大人しく引き下がった。
 にゃんごろーは、食い意地のためなら食い意地を我慢できる、真の食いしん坊子ネコーなのだ。ただし、本子ネコーだけは、自分が食いしん坊だとは認めていない。

「お、そうじゃ、にゃんごろー。また、例のアレをやってくれんか?」
「れいにょアレ………………? あ、わかっちゃ! まきゃせちぇ!」

 すっかりお茶の準備が整ったところで、長老は、にゃんごろーに例のアレを要求した。きっと、これが一番、カザンのもてなしに対するお礼になると考えたのだ。
 にゃんごろーは、最初、お目目をキョトリ、首をコトリ傾げて不思議そうにしていたが、すぐに何のことだか思い当たった。
 にゃんごろーは、ポフンと胸を叩いて、長老からの依頼を請け負った。

「しょれれは、みにゃしゃん!」

 子ネコーがパッとお顔を輝かせて、ちゃぶ台の上に綺麗なピンクの肉球を披露すると、長老もすぐさまそれに倣った。長老の肉球も、にゃんごろーとお揃いのピンク色だ。ネコーたちは、自分たちの準備を整えると、期待の眼差しをサムライに向けた。
 何が始まるのかと不思議そうな顔をしていたカザンだったが、ちゃぶ台の上に咲いた肉球のお花を見て、察した。
 ふたりに続いて、カザンも厳かに両手を広げる。

「おててのー、にくきゅーとー、にくきゅーをー、あわしぇてぇー」

 ぽむ、ぽむ、パンと、それぞれのお手々が合わさった。
 サムライの口元が緩んでくる。

「いったらっきみゃ!」
「いったらっきみゃ」
「いた…………いた、ふぐっ…………!」

 子ネコーの可愛い声が高らかに響いて、長老の少し、しわがれた声がそれに続き、サムライの落ち着きのある声が続きかけて、くぐもった。
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