28 / 53
第2章 子ネコーと長老のお船休暇
第28話 おしゃかなとかくれんぼ
しおりを挟む
お稲荷さんを一つ綺麗に平らげると、にゃんごろーはベトベトのお手々に汚れたお手々を見つめて、「ふむ」と首を傾げた。それから、チラとトレーの上のおしぼりに視線を投げ、もう一度「ふむ」と、さっきとは反対の方向へ首を傾げる。食べ始める前は、長老の前をして、おしぼりを使って、お手々を綺麗にした。ならば、汚れたお手々も、おしぼりでキレイに拭き取ればいいのだが、お手々についている美味しいお味がするベトベトをお絞りに上げてしまうのは、勿体ないように思える。けれど、あまりあからさまにお手々をペロペロするのは、お行儀が悪いような気がする。
おしぼりを使うべきか、ペロペロするべきか。
お行儀を優先するべきか、食い意地を優先するべきか。
迷いに迷って、お手々を見つめたまま固まっていたら、ナナばーばが笑いながら声をかけてくれた。
「ふふ。嘗めてもいいですよ? お外のお店でやったら、確かにお行儀が悪いけれど。お船の和室は、お家みたいなものだと思って、多少は羽目を外しても大丈夫です。それに、ルドルなんて、大分はしたなくペロペロしてますからね。にゃんごろーのペロペロなんて、可愛いものです」
「え? ちょーろーも、やっちぇちゃの? しょ、しょれにゃら、いっか。おしえちぇくれちぇ、ありあちょー、ナニャばーば。にゃんごろー、いちゅか、おみしぇに、ちゅれちぇっちぇもらえちゃちょきは、ちゃんちょ、おぎょうぎよきゅしゅるね!」
「はい。お行儀のいい子ネコーは、いつか、ちゃんとお外の美味しいお店に連れて行ってあげますからね」
「うん! しょれりゃあ、しちゅれーしちぇ、えんりょにゃく…………」
長老がお稲荷さんを食べ始めるところは見ていたけれど、食べ終わった後の様子を見逃していたにゃんごろーは、ナナばーばに、長老もお手々をペロペロしていたと聞いて安心した。おまけにナナばーばは、お行儀よくしていたら、お外の美味しいお店に連れて行ってくれるという約束までしてくれた。にゃんごろーのお顔に、パッと歓喜の花が咲く。
にゃんごろーは同席しているみんなに「失礼して」と断りを入れてから、お手々の隅から隅まで丁寧に舌を這わせていく。やがて、お手々から美味しいお味がすっかりなくなると、子ネコーは唾液で濡れたお手々をおしぼりで拭った。
お手々を完全に綺麗にし終えて、「むふう」と満足の吐息を零した子ネコーは、「さて」とばかりにトレーを見下ろし、「次はどれを食べようか」と考えを巡らせる。
長老の好きな茶わん蒸しは、最後のお楽しみにすることに決めた。ルーミの実はデザートなので、にゃんごろーの「どれから食べようか戦略」の候補からは、外されている。
となると、次の突撃先は――――。
お口の周りをペロッとなめてから、にゃんごろーは綺麗になったお手々で、トレーの手前の方にあるお稲荷さんのお皿を少し脇へ避けた。それから、奥にある、お味噌汁のお椀に両方のお手々を伸ばし、空いたスペースへ引き寄せる。
トレーの上に身を乗り出すようにして、そっとお椀の中を覗き込む。大分冷めているようだが、まだ、ほんのりと湯気が立っていた。念のために、長老のトレーを盗み見ると、長老のお椀の中身は、半分ほどに減っている。
どうやら、飲んでも大丈夫そうだ。
子ネコーの胸は、ワクワクと高鳴った。
茶色いスープの中には、白い四角と、濃い色の草がプカプカしている。スープは濁っているため、底の方は見通せない。
この中に、お魚が隠れているというのだ。
初めてのお味を楽しむだけでなく、お魚探しまで楽しめるなんて、何て素敵なのだろうと子ネコーは感動すら覚えていた。
お魚のことも気になるけれど、まずは一口味わってみようと、子ネコーはお椀を持ち上げて、慎重に口をつける。ゆっくりとお椀を傾げ、コクリと最初の一口を飲み下し、「ほぉ?」とお椀の中へ視線を落とした。
初めてのお味。不思議なお味。
でも、悪くない。
お目目をパチパチしながら、にゃんごろーは椀をトレーに戻した。さっき、お稲荷さんのお皿をどかして作ったスペースだ。それから、フォークを握りしめる。
フォークの先で、くるりとお椀の中をかき混ぜると、白い四角と濃い緑の草がクルクルと踊った。かき混ぜながら、時折、フォークで中身を掬い上げるようにしてみる。四角いお豆腐がフォークの上に載って来たり、海の草ワカメが絡まったりしてきたけれど、他には何も見当たらなかった。
(ふうむ? おしゃかにゃは、ろこにいりゅのきゃな?)
子ネコーのお魚探しが始まった。
子ネコーの真ん前に座っている、すでにお食事を終えた長老は、ニマニマしながら子ネコーを見ていた。お魚探しに夢中なにゃんごろーは、いたずらな視線には気づかない。
『お味噌汁の中には、お魚が隠れている』
長老のその言葉に、嘘はない。嘘は言っていないけれど、そのお魚は、フォークでお椀をかき混ぜても見つからないお魚だ。お味噌のスープを飲んでみて、お口の中で見つけるお魚なのだ。今日のお味噌汁は、煮干しのお出汁。お味噌のスープの中には、小魚の美味しいお味が隠れているのだ。
他のみんなも、子ネコーが何をしているのか気づいていたけれど、何も言わずに笑いながら見守っていた。答えを教えてあげないのは、意地悪をしているからではない。長老が、いつ種明かしをしようかと、ワクワクとタイミングを見計らっていることに気が付いていたからだ。
子ネコーはしばらく探索を続けていたけれど、やがて手を止めて「ふぅーむ?」と小首を傾げる。にゃんごろーは、今朝飲んだトマトのスープのことを思い出していた。トマトのスープからは、鶏肉の味がしていた。なのに、スープの中に鶏肉は入っていなかった。サラダ用のチキンを茹でたお湯をスープに使ったのかな、とミルゥは言っていた。
とうことは、つまり。
これも、そういうことなのかもしれなかった。
にゃんごろーは、ふむと頷いて、フォークをトレーに戻した。それから、お椀にお手々を伸ばして、もう一度お味噌スープをお口に含む。
もしかして、スープのカサを減らす作戦だろうかと、見守っているみんなは考えたけれど、ほんの一口飲んだだけで、子ネコーはお椀をトレーに戻した。
そして、小さなお顔に、パァッと満面の笑みを浮かべる。
「みつけちゃー! おしゃかにゃしゃん、ちゃんといちゃね! みえにゃいけろ、シュープのなかに、おしゃかにゃさんのおありら、かくれちぇりゅ!」
「なんと! よく分かったな、にゃんごろーよ。すごいぞ!」
種明かしをする前に、子ネコーは真相に気付いてしまったようだ。まさか、にゃんごろーがひとりで謎を解明するとは思っていなかった長老は、いたずら失敗の残念さよりもびっくりの方が勝って、目を真ん丸にして子ネコーを褒めた。他の大人たちも、口々ににゃんごろーを褒め称える。みんなに褒められて、にゃんごろーは「にゃふふ」と照れ臭そうに笑った。
「れも、もりれたべてりゅおしゃかなとは、にゃんか、ちらうきらしゅる」
「うむ。森で食べているのは、長老が川で釣ってきたお魚じゃ。これは、海に住んでいる小さなお魚たちじゃ」
「煮干しって言うのよ。小さいお魚を干したもののことね。この煮干しを、一晩お水につけておくと、お水の中に美味しい味が溶け込むの。それを使って、スープを作るのよ」
「ほぅほぅ、ほほほぅ」
「朝のスープはね、お塩で味を調えているけれど、これはお味噌を使っているの。お味噌って言うのは、そうねぇ……」
「お豆から作った、茶色くてしょっぱくて美味しい調味料じゃ。お味噌で味付けをしているからお味噌汁、というのじゃ」
「ほぇえええー。しょーにゃんらー」
子ネコーのなかなか鋭い質問に、長老とナナばーばが答えてくれた。
美味しいものの情報は何一つ逃さないとばかりに、にゃんごろーは熱心に聞き入っている。隣の席ではカザンが、そんな子ネコーを、子ネコーにも負けない熱心さで見つめている。
穴が開きそうなほどの視線に気づくことなく、にゃんごろーは、もう一口スープを飲んでから、具の方も味わってみることにした。
「みゅぅん。やわらきゃーい。ふしりー。おもしろーい」
「それは、お豆腐じゃ。それも、お豆から出来ておる」
「わきょくのひちょはー、おみゃめら、しゅきにゃの?」
「うむ。ご飯とお豆があれば、生きていけるらしいぞ」
「ええー? にゃんごろーには、むり……」
お味がどうとかではなく、食感が新鮮なようで、にゃんごろーは次から次へとお豆腐を掬っては、お口の中に放り込んでいく。食事を再開した長老は、また適当なことを言って、ナナばーばに睨みつけられた。
「ルドル。何も知らない子ネコーに、あまり適当なことを教えないでちょうだい? にゃんごろー、和国の人間には、確かにご飯とお豆の調味料が欠かせないけれど、それだけで生きているわけではないのよ? それくらいに大好きというだけで、他にも美味しいものがたくさんあるのよ」
「おー。ほかにょも、しりちゃーい。たべちぇみちゃーい」
「まかせてちょうだい。たっくさん、美味しいものを食べさせてあげますからね」
「長老にもー」
「……………………」
子ネコーの中で、故郷である和国の印象が悪くならないようにと、ナナばーばは割と必死に弁明を始めた。にゃんごろーは、「美味しいものがたくさん」というセリフにあっさりと食いついて目を輝かせる。ナナばーばは、簡単に釣られてくれた子ネコーの可愛い要望を、ドンと胸を叩いて請け負った。長老もちゃっかり便乗したが、こちらはさらっとスルーされた。
「ちゅりはー、ワッキャメー♪ んー、んぐんぐ…………。うん、あんみゃり、くしゃっぽくにゃいねぇ」
「うむ。海に生えている草じゃからな。海の味じゃ」
「うみのあり…………。んー、うん。くにくにしちぇる。こりぇも、おもしろーい。きにいっちゃー」
長老が「ワカメは海の草」などと説明するから、にゃんごろーは雑草を齧った時のような味を想像していたようだ。青臭い味がしないことを不思議がっていると、長老がまた雑な説明をする。間違ってはいないし、その通りでもあるのだが、和国組は揃って微妙な顔つきになった。なんとなく、その説明だと、「ワカメ=和国の海の味」だと子ネコーが勘違いするのではないかと心配になったのだ。
そうだけど、そうではないのだ。
肝心の子ネコーはと言えば、お味よりも、やはり食感が気になるようで、お食事というよりは遊び半分で、ワカメをズルズルくにくにして、実に楽しそうだ。
そのまま、長老の適当な説明は忘れ去ってほしいと和国組は願ったが、子ネコーの頭の中に、その情報はしっかりとインプットされていた。
食いしん坊な子ネコーは、たとえワカメを遊びながら食べていても、食に関する情報は一片たりとも逃さないのだ。
おしぼりを使うべきか、ペロペロするべきか。
お行儀を優先するべきか、食い意地を優先するべきか。
迷いに迷って、お手々を見つめたまま固まっていたら、ナナばーばが笑いながら声をかけてくれた。
「ふふ。嘗めてもいいですよ? お外のお店でやったら、確かにお行儀が悪いけれど。お船の和室は、お家みたいなものだと思って、多少は羽目を外しても大丈夫です。それに、ルドルなんて、大分はしたなくペロペロしてますからね。にゃんごろーのペロペロなんて、可愛いものです」
「え? ちょーろーも、やっちぇちゃの? しょ、しょれにゃら、いっか。おしえちぇくれちぇ、ありあちょー、ナニャばーば。にゃんごろー、いちゅか、おみしぇに、ちゅれちぇっちぇもらえちゃちょきは、ちゃんちょ、おぎょうぎよきゅしゅるね!」
「はい。お行儀のいい子ネコーは、いつか、ちゃんとお外の美味しいお店に連れて行ってあげますからね」
「うん! しょれりゃあ、しちゅれーしちぇ、えんりょにゃく…………」
長老がお稲荷さんを食べ始めるところは見ていたけれど、食べ終わった後の様子を見逃していたにゃんごろーは、ナナばーばに、長老もお手々をペロペロしていたと聞いて安心した。おまけにナナばーばは、お行儀よくしていたら、お外の美味しいお店に連れて行ってくれるという約束までしてくれた。にゃんごろーのお顔に、パッと歓喜の花が咲く。
にゃんごろーは同席しているみんなに「失礼して」と断りを入れてから、お手々の隅から隅まで丁寧に舌を這わせていく。やがて、お手々から美味しいお味がすっかりなくなると、子ネコーは唾液で濡れたお手々をおしぼりで拭った。
お手々を完全に綺麗にし終えて、「むふう」と満足の吐息を零した子ネコーは、「さて」とばかりにトレーを見下ろし、「次はどれを食べようか」と考えを巡らせる。
長老の好きな茶わん蒸しは、最後のお楽しみにすることに決めた。ルーミの実はデザートなので、にゃんごろーの「どれから食べようか戦略」の候補からは、外されている。
となると、次の突撃先は――――。
お口の周りをペロッとなめてから、にゃんごろーは綺麗になったお手々で、トレーの手前の方にあるお稲荷さんのお皿を少し脇へ避けた。それから、奥にある、お味噌汁のお椀に両方のお手々を伸ばし、空いたスペースへ引き寄せる。
トレーの上に身を乗り出すようにして、そっとお椀の中を覗き込む。大分冷めているようだが、まだ、ほんのりと湯気が立っていた。念のために、長老のトレーを盗み見ると、長老のお椀の中身は、半分ほどに減っている。
どうやら、飲んでも大丈夫そうだ。
子ネコーの胸は、ワクワクと高鳴った。
茶色いスープの中には、白い四角と、濃い色の草がプカプカしている。スープは濁っているため、底の方は見通せない。
この中に、お魚が隠れているというのだ。
初めてのお味を楽しむだけでなく、お魚探しまで楽しめるなんて、何て素敵なのだろうと子ネコーは感動すら覚えていた。
お魚のことも気になるけれど、まずは一口味わってみようと、子ネコーはお椀を持ち上げて、慎重に口をつける。ゆっくりとお椀を傾げ、コクリと最初の一口を飲み下し、「ほぉ?」とお椀の中へ視線を落とした。
初めてのお味。不思議なお味。
でも、悪くない。
お目目をパチパチしながら、にゃんごろーは椀をトレーに戻した。さっき、お稲荷さんのお皿をどかして作ったスペースだ。それから、フォークを握りしめる。
フォークの先で、くるりとお椀の中をかき混ぜると、白い四角と濃い緑の草がクルクルと踊った。かき混ぜながら、時折、フォークで中身を掬い上げるようにしてみる。四角いお豆腐がフォークの上に載って来たり、海の草ワカメが絡まったりしてきたけれど、他には何も見当たらなかった。
(ふうむ? おしゃかにゃは、ろこにいりゅのきゃな?)
子ネコーのお魚探しが始まった。
子ネコーの真ん前に座っている、すでにお食事を終えた長老は、ニマニマしながら子ネコーを見ていた。お魚探しに夢中なにゃんごろーは、いたずらな視線には気づかない。
『お味噌汁の中には、お魚が隠れている』
長老のその言葉に、嘘はない。嘘は言っていないけれど、そのお魚は、フォークでお椀をかき混ぜても見つからないお魚だ。お味噌のスープを飲んでみて、お口の中で見つけるお魚なのだ。今日のお味噌汁は、煮干しのお出汁。お味噌のスープの中には、小魚の美味しいお味が隠れているのだ。
他のみんなも、子ネコーが何をしているのか気づいていたけれど、何も言わずに笑いながら見守っていた。答えを教えてあげないのは、意地悪をしているからではない。長老が、いつ種明かしをしようかと、ワクワクとタイミングを見計らっていることに気が付いていたからだ。
子ネコーはしばらく探索を続けていたけれど、やがて手を止めて「ふぅーむ?」と小首を傾げる。にゃんごろーは、今朝飲んだトマトのスープのことを思い出していた。トマトのスープからは、鶏肉の味がしていた。なのに、スープの中に鶏肉は入っていなかった。サラダ用のチキンを茹でたお湯をスープに使ったのかな、とミルゥは言っていた。
とうことは、つまり。
これも、そういうことなのかもしれなかった。
にゃんごろーは、ふむと頷いて、フォークをトレーに戻した。それから、お椀にお手々を伸ばして、もう一度お味噌スープをお口に含む。
もしかして、スープのカサを減らす作戦だろうかと、見守っているみんなは考えたけれど、ほんの一口飲んだだけで、子ネコーはお椀をトレーに戻した。
そして、小さなお顔に、パァッと満面の笑みを浮かべる。
「みつけちゃー! おしゃかにゃしゃん、ちゃんといちゃね! みえにゃいけろ、シュープのなかに、おしゃかにゃさんのおありら、かくれちぇりゅ!」
「なんと! よく分かったな、にゃんごろーよ。すごいぞ!」
種明かしをする前に、子ネコーは真相に気付いてしまったようだ。まさか、にゃんごろーがひとりで謎を解明するとは思っていなかった長老は、いたずら失敗の残念さよりもびっくりの方が勝って、目を真ん丸にして子ネコーを褒めた。他の大人たちも、口々ににゃんごろーを褒め称える。みんなに褒められて、にゃんごろーは「にゃふふ」と照れ臭そうに笑った。
「れも、もりれたべてりゅおしゃかなとは、にゃんか、ちらうきらしゅる」
「うむ。森で食べているのは、長老が川で釣ってきたお魚じゃ。これは、海に住んでいる小さなお魚たちじゃ」
「煮干しって言うのよ。小さいお魚を干したもののことね。この煮干しを、一晩お水につけておくと、お水の中に美味しい味が溶け込むの。それを使って、スープを作るのよ」
「ほぅほぅ、ほほほぅ」
「朝のスープはね、お塩で味を調えているけれど、これはお味噌を使っているの。お味噌って言うのは、そうねぇ……」
「お豆から作った、茶色くてしょっぱくて美味しい調味料じゃ。お味噌で味付けをしているからお味噌汁、というのじゃ」
「ほぇえええー。しょーにゃんらー」
子ネコーのなかなか鋭い質問に、長老とナナばーばが答えてくれた。
美味しいものの情報は何一つ逃さないとばかりに、にゃんごろーは熱心に聞き入っている。隣の席ではカザンが、そんな子ネコーを、子ネコーにも負けない熱心さで見つめている。
穴が開きそうなほどの視線に気づくことなく、にゃんごろーは、もう一口スープを飲んでから、具の方も味わってみることにした。
「みゅぅん。やわらきゃーい。ふしりー。おもしろーい」
「それは、お豆腐じゃ。それも、お豆から出来ておる」
「わきょくのひちょはー、おみゃめら、しゅきにゃの?」
「うむ。ご飯とお豆があれば、生きていけるらしいぞ」
「ええー? にゃんごろーには、むり……」
お味がどうとかではなく、食感が新鮮なようで、にゃんごろーは次から次へとお豆腐を掬っては、お口の中に放り込んでいく。食事を再開した長老は、また適当なことを言って、ナナばーばに睨みつけられた。
「ルドル。何も知らない子ネコーに、あまり適当なことを教えないでちょうだい? にゃんごろー、和国の人間には、確かにご飯とお豆の調味料が欠かせないけれど、それだけで生きているわけではないのよ? それくらいに大好きというだけで、他にも美味しいものがたくさんあるのよ」
「おー。ほかにょも、しりちゃーい。たべちぇみちゃーい」
「まかせてちょうだい。たっくさん、美味しいものを食べさせてあげますからね」
「長老にもー」
「……………………」
子ネコーの中で、故郷である和国の印象が悪くならないようにと、ナナばーばは割と必死に弁明を始めた。にゃんごろーは、「美味しいものがたくさん」というセリフにあっさりと食いついて目を輝かせる。ナナばーばは、簡単に釣られてくれた子ネコーの可愛い要望を、ドンと胸を叩いて請け負った。長老もちゃっかり便乗したが、こちらはさらっとスルーされた。
「ちゅりはー、ワッキャメー♪ んー、んぐんぐ…………。うん、あんみゃり、くしゃっぽくにゃいねぇ」
「うむ。海に生えている草じゃからな。海の味じゃ」
「うみのあり…………。んー、うん。くにくにしちぇる。こりぇも、おもしろーい。きにいっちゃー」
長老が「ワカメは海の草」などと説明するから、にゃんごろーは雑草を齧った時のような味を想像していたようだ。青臭い味がしないことを不思議がっていると、長老がまた雑な説明をする。間違ってはいないし、その通りでもあるのだが、和国組は揃って微妙な顔つきになった。なんとなく、その説明だと、「ワカメ=和国の海の味」だと子ネコーが勘違いするのではないかと心配になったのだ。
そうだけど、そうではないのだ。
肝心の子ネコーはと言えば、お味よりも、やはり食感が気になるようで、お食事というよりは遊び半分で、ワカメをズルズルくにくにして、実に楽しそうだ。
そのまま、長老の適当な説明は忘れ去ってほしいと和国組は願ったが、子ネコーの頭の中に、その情報はしっかりとインプットされていた。
食いしん坊な子ネコーは、たとえワカメを遊びながら食べていても、食に関する情報は一片たりとも逃さないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-
いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、
見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。
そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。
泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。
やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。
臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。
ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。
彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。
けれど正人は誓う。
――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。
――ここは、家族の居場所だ。
癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、
命を守り、日々を紡ぎ、
“人と魔物が共に生きる未来”を探していく。
◇
🐉 癒やしと涙と、もふもふと。
――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。
――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました
朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。
魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。
でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる