異星界で。

蜜りんご

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第2章 骨と絨毯と地球

第48話 チュウチュウ・サイレン

『大いなる揺らぎが起きそうだ!』

 ――――と、天チュウさんたちがこぞって伝えてくれたのは、まだ夜も明けきらない、早朝も早朝のことだった。

 ぐっすりお休み中だったわたしは、絨毯部屋をぐるりと取り囲んだ天チュウさんたちのチュウチュウサイレンに起こされた。

 チュウウウウウウウッ! チュウウウウウウウッ!

 って、語尾が高くなっていく甲高い大合唱は、まさしくサイレンだった。
 じ、地震かっ!?――――って飛び起きると、星導師せいどうし三人組は、身支度を整えて絨毯部屋を出て行くところだった。
 殿のエイリンが、わたしを振り返って素っ気なく言った。

「天チュウたちが大きな揺らぎを感知したようです。あなたは、まだ寝ていていいですから」

 エイリンは、わたしの返事も待たずに部屋を出て行った。
 ヒヤンとした目つきと声色だった。
 気遣いからの言葉じゃなくて、「いても役に立たないんだから、来なくていいです」という意味なのは、明白だった。
 カチンとはきたけれど、実際、その通りではあるんだよね。
 とはいえ、さすがにこの状況で、意地汚くも二度寝を決め込むほど図太くはない。
 わたしは、とりあえずお着替えだけして、みんなを待つことにした。
 柔らかい素材のワンピースっぽいパジャマをルーシアにもらったのだ。
 色は淡い紫で、シンプルだけど、なかなか可愛い。
 手持ちの服は、もらったパジャマと元から来ていたセーラー服の二着だけだけど、宇宙の海に浸けるだけで生地を傷めずに簡単にお洗濯できちゃうので、まったく問題なし。しかも、宇宙式お洗濯は乾燥させる必要もないから、すっごくお手軽なんだよね。
 宇宙は滅びの象徴なんだけど、その事実とは裏腹に、とっても便利な一面もあるんだよ。
 いや、それも含めて滅びの象徴なのかな?
 ほら、人類の堕落を誘う的な意味で…………。
 揺らぎを排除するんじゃなくて、活用するとか、やっぱり危険思想なのかな?
 洗剤も乾燥機もいらない宇宙式洗濯機って、すっごい便利だと思うんだけど。
 あ、でも。故障して宇宙が溢れちゃったりしたら、マズいか。
 大人がいない時に、溢れ零れた宇宙で子供が溺れちゃったりしたら、骨だけが残されちゃう事件が起きちゃうかもだよね?
 ほら、子供って好奇心旺盛だから、魂状態でフラフラとどこかへ遊びに行って、そのまま迷子になっちゃいそうじゃない?
 でもって、発見した親が、魂迷子状態の骨を引き上げて受肉させたら、別人の魂が宿っちゃったりする可能性もあるってことだよね?
 体は自分の子どもなのに、中身は別人とか…………。
 いや、人ならまだしも、動物の魂だったりしたら、いわゆる狐憑き状態ってことじゃない?
 え、こわ…………。
 うん、やっぱり、ナシだね。
 目先の便利さだけに囚われちゃいけないよね、うん。

 しょうもないことを考えながら、もそもそとお着替えを終えて、わたしは正座待機する。
 星導せいどう教会への加入の意思はお伝え済みだし、教会側も受け入れオッケーとは聞いているけれど、まだ正式に加入が決まったわけじゃないからね。
 決まったところで、わたしは鍵使いじゃないから、三人と一緒に揺らぎ対策のお仕事が出来るわけでもないし。
 うん。今は待機で、ルーシアからの指示を待とう。
 朝ごはんとかは、天チュウさんたちが用意してくれるから、絨毯部屋の中でわたしが出来ることはないしね。

 それにしても、明日にはもう出発なのに、最終日の翌日で、大仕事が入るなんて。
 もしかしたら、今回はルーシアも一緒に宇宙へ出かけて、わたしはお留守番かもしれないな。
 ちょっと不安だけど、覚悟は決めておこう。
 ググっとお腹に力を込める。
 その時、視界の端に水晶の卵が映った。
 絨毯カゴで保護されている水晶の卵。
 あの子を保護した時も、大事件というか、大揺らぎだったよね。
 揺らぎの象徴かと思った水晶龍さんは、我が子だけでも救いたかったお母さんで、最終的には卵のために揺らぎを封じる星界の蓋となって、卵と絨毯星界を救ってくれた。
 そうなるように導いたのは、癪に障るけれどエイリンだった。
 鍵使いって、みんなあんな感じなのかと思ったけれど、後で聞いたら、エイリンが特別に特殊な鍵使いらしい。
 若手の中では、レイジンは正統派鍵使いのエースで、エイリンは特殊系鍵使いすぎて秘蔵っ子扱いになっているんだって。
 シリアスなノリで、ギャグマンガみたいな鍵技を繰り出してたからなー。
 納得ではある。
 たぶん、唯一無二系鍵使いなんじゃない?
 神様クラスの揺らぎの時に絶大な威力を発揮する鍵使いだって、レイジンは言っていた。
 ルーシアは、常識にとらわれない方法を迷わず実行できるところがすごいのよって褒めていたなぁ。
 癪ではあるけれど、羨ましくはない。
 たとえ、わたしに鍵使いの才能があったとしても。
 その路線は、その路線だけは目指したくない。

 レイジンやルーシアの補助が出来るようなお仕事があればいいんだけどなぁ。
 本音を言えば、エイリンのポジションに成り代わりたいけれど。
 いや、特殊技能的な意味じゃなくて、あくまでポジ的な意味で。
 レイジンとわたしとルーシアの三人で組んで鍵使いのお仕事が出来たらいいのになー、と夢を見ている。
 そんなの無理だってことは、わたしだって分っているよ?
 でも、夢ぐらいは見させて欲しい。
 現実的には、四人目の新メンバーとしてチームの仲間に入れてもらうことすら厳しいだろうしなぁ。
 実際には、わたしは教会本部で雑用係が、いいところだよなー。
 その雑用すらちゃんとこなせるのか不安なんだけど。
 絨毯には乗れるようになったけど、とりわけ絨毯使いが上手いわけでもない並みレベル? まあ、安全運転ではあるから、急ぎじゃないお使いとかなら、出来るかなぁ?

 正座を保ちつつも、思考は緊張感を失っていった。
 水晶龍の事件を思い出したから、ではある。
 神話級の大揺らぎを何とかしちゃった正統派エースと特殊系秘蔵っ子がそろっているわけだし、きっと今回も何とか解決するのだろう。
 それに、ルーシアだってエースに次ぐ実力の持ち主だって、エイリンが熱く語っていた。
 だから、きっと。
 この三人がいれば、大丈夫。
 エイリンを含めるのは癪ではあるけど、実力的には信頼できる。
 レイジンとルーシアも、認めてるんだし。

 ああ、それにしても。
 レイジンってば、正統派若手鍵使いのエースなんだよ?
 すごいよね?
 だから、異星界へ消えた鍵の捜索なんて重要任務を任されたんだろうけれど。
 やっぱり、こう。
 好きな人が認められているのって、嬉しいよね?

 ………………………………。

 や、やばい。顔がほてってきた。
 さすがに、緊張感失いすぎ。
 でも、でもな。
 恋する乙女的には、それこそが最重要事項だからな。

 初デート……は、一応、成功した……と言っていいと思っている。
 でも、その後は、特になんもできてなかったりする。
 でもでもでも!
 骨浴おそろいを確かめ合ったことで、二人の仲は確実に進展した気がする!
 恋愛的な意味でも!
 脈ありっていうかっ!
 なんか、前よりも気にかけて話しかけてくれるようになったしっ!
 だ、だから!
 それだけでふわふわしちゃって、わたしの方からは、次なる恋愛的一手を仕掛けられないでいるっていうか!

 あー、もう、もう、もうっ!

 今、ちび絨毯を座布団代わりにしていたら、確実にふわふわ浮き上がってるよ!
 てゆーか、このままだとっ!
 デカ絨毯が、浮き上がっちゃうかも!

 うくっ。ううっ。お、落ち着け!
 落ち着いて、わたし!
 さすがに、それはマズい!
 みんなは、お外で真面目にお仕事しているんだからっ!
 し、鎮まらないと!
 深呼吸! 深呼吸!

「ステラ! 起きている? すぐに着替えて…………って、ああ、着替えてくれていたのね? ありがとう。それなら、話が早いわ。すぐに来てちょうだい」
「…………ふわあっ…………は、はははは、はいっ!」

 大きく息を吸い込んだところで、ルーシアがジャクッと絨毯壁を開けて顔を覗かせた。
 わたしがお着換え済みなのを確認すると、早口でまくし立てて、またジャッといなくなった。
 驚きのあまり、くしゃみを我慢しつつ辛うじて返事をしたみたいになったけど、たぶんルーシアは、それを聞く前にいなくなっていた。
 それは、よかった……んだけど。

 さっきまでの、浮ついてふわついた気持ちは、きれいさっぱり霧散していた。
 ルーシアは、ひどく焦っているみたいだった。
 ざわり、と不安が胸の奥を撫でていく。
 でも、ひるんでいる場合じゃない。
 呼ばれたということは、何かわたしにもできるお仕事があるってことなんだろう。
 なら、行かなきゃ。
 だって、わたし、決めたんだもん。
 みんなの仲間になるって。

 パン!――――と両方のほっぺを叩いて気合を入れ、わたしは。
 みんなと合流するために、絨毯部屋の外へと向かった。

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