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発売記念番外編『たまには外でデートしよう』
〈3〉
「ん、んっ……ンっ……ふ……っ」
後部座席に荷物を置こうとしたところで、そのままシートに押し込まれた。いきなり押し倒されて初めは驚いたけれど、彩人に触れたいという想いは壱成も同じだ。熱いキスを受け止めながら、壱成は彩人の首に腕を絡める。
薄暗い地下駐車場の奥まったスペースとはいえ、時刻はまだ昼過ぎだ。
普段ならばまっとうに働いている真っ昼間に、こんなふしだらなことをしているなんて……と、快楽に染まりつつある頭の片隅で、理性がちくちく小言を言う。
だが、時折唇を離し、こちらを見つめる彩人の熱い瞳に射抜かれてしまうと、弱い。普段は穏やかな彩人の瞳に、微かにゆらめく雄じみた光。そうして本能のままに求められ、欲してもらえることが嬉しくてたまらない。
だが、ここは公共の場。百貨店の地下駐車場だ。
後部座席の窓はスモークガラスだが、左右に他の車は停まっているし、いつ誰が覗き込んでくるかもわからないような危うい状況である。いつまでもこんなことをしていていいわけがないのだが…………ふさわしくない状況だからこそ、若干盛り上がってしまっている自分もいて……。
——だ、だけど、ダメだ……!! こんなの、ダメだ……もし見つかったら、色々ダメだっつーの……!
「彩人……っ、こら、待てっ……ん、っ……ん、ぁ」
「……ん、分かってる。キスだけにする」
「ン、っ……その、キスがおまえはっ……キスがエロい、からっ……ぁ、あっ……」
キスだけと言ったそばからするりとシャツの中に手が忍び込み、脇腹から上へ上へと指が這い上がってくる。その指先はすぐに壱成の敏感な尖りを見つけ出し、さらりと淡く、いやらしいタッチでそこを撫で転がすのだ。
「エロいって思ってもらえんのすげー嬉しい。俺とチューすんの……好き?」
「す……好きに、きまってるけど……! だから余計ここじゃだダメだって言ってんだろっ!」
「ごめん、壱成がすげー可愛いこと言うから、なんかもう我慢できなくなっちゃって」
「が、がまんしろよっ……ぁ、う……、っ、ちくびさわんなっ……!」
と、声を抑えつつ大騒ぎするけれど、彩人は一向にキスを止める気配がない。
柔らかな弾力のある唇で壱成のそれを塞ぎ、軽く音を立てて吸っては離し、歯列を割って舌を口内へと忍び込ませてくる。
大きく口を開かされ、上顎や頬の裏の粘膜を甘やかされるように愛撫されてしまうと、トロトロと身体が脱力してしまう。
狭い車内で密着し、巧みな彩人のキスに翻弄されるうち、だんだん頭の芯までぼうっとしてきた。
——あぁ……きもちいい……。どうしよ……こんなとこで、こんなとこなのに……もう、すげぇエッチしたい……
と、あってはならない方向に思考は傾きかけるけれど、崩壊寸前の理性も頑張っている。
胸元を弄ぶ彩人の手首を掴み、壱成は力の入らない目で彩人を見上げた。
「ば、ばかっ……っ……きっ、キスだけ、っていったろ……」
「これ以上しないから。……壱成、もうちょっとだけ」
「んっ……も、ばか、やめろって、ぁ……ン」
少し寂しげで、甘えを含んだ眼差しをくらってしまうとまた、弱い。
壱成が隙を見せた途端にまた深く唇を覆われて、熱く濡れた舌を絡め合ううち、彩人が色香たっぷりの吐息が漏らした。
その声を聞かされるだけで、壱成の腹の奥はきゅんと物欲しげにひくついて、無意識のうちに腰が動いてしまう。
その甘い嘆息で、雄々しいピストンで壱成を抱く彩人のセックスを思い出してしまうのだ。
「は……あやと……っ……ぁ、ん、ぁ」
「……かわいい、壱成。すげぇエロい顔してんじゃん」
「ば、ばかやろう……っ、こんなキスされたら、そーなるに決まってんだろーが!」
息も絶え絶えになりながら必死で文句を言う壱成の唇の端から、とろりと唾液が伝う。彩人はそれを舌の腹で舐め取ると、赤い唇を吊り上げて妖艶に微笑んだ。
そして、壱成のジーパンの膨らみをぐっと強めに揉みしだく。
「ぁっ……! ァっ……や、待てってば……!」
「もう硬いじゃん。……気持ちいい?」
「ぁ、ぁっ……もむなバカっ!」
「だって、こんな気持ちよさそうに腰振られたらさぁ……」
「ん、やっ……ぁ、あん……っ」
やめろやめろと口では言うが、正直イキたいというのが本音である。勃たない性器にあれだけ悩まされてきたというのに、今や彩人にキスをされ、ちょっと性感帯を可愛がられるだけでこの有様だ。
——だけど、だけど、こんなとこで本番を致してしまうわけにはいかないだろ……!!
と、なけなしの理性が声を大にして騒ぐので、壱成は彩人のがしっと肩を掴み、快楽を拭い去るように声を上げた。
「だめ、だめだって……!! 挿れんのはだめだってば!!」
「ん? 挿れんの……って?」
「…………ん?」
「あ、ごめん。フェラか手でしよっかなって思ってただけだけど、ナカ、欲しかった?」
「えっ………………」
彩人の思いのほか冷静な声に、壱成はあっという間に我を取り戻した。
そして、彩人がしようとしていたことと、壱成が望んでいたふれあいの度合いに大きな開きがあることを理解し……かぁぁぁぁと、羞恥のあまり顔が真っ赤に茹で上がる。
「あ……えーと……」
「いや俺も、さすがに最後まですんのはダメだよなって。家まで我慢しよっかなと思ってたけど……壱成、ここでしてーの?」
「………………いや、あの、それは……そんなことは……」
たらたらたらと、変な汗が出る。綺麗な瞳でじっと見つめられることにいたたまれなくなり、壱成はサッと両手で顔を覆った。
やがて、彩人がたまりかねたように噴き出した。
が、すぐさま笑うのを堪えるように拳で口を覆って、彩人はひょいと身体を起こす。
「ふっ……くくっ……ふはっ……ちょ、っ……壱成、」
「わっ…………わ、わ、笑いたきゃ笑えよ!! べ、べつにそんなっ……こ、こんなとこでエッチしたいなんて俺だって思ってないし……っ!!」
「いや、そんな照れなくてもだいじょぶだって……っ、ふふっ……ふっ」
「くっそ……も……恥ずかしい。何言ってんだ俺……ああ~~……」
「まあまあ気にすんな。壱成ってさー、見かけによらず結構スケベだよな~」
「くっ……」
真っ赤になりながら、壱成もようやく身体を起こす。すると、涙目になりながら吹き出すのを堪えている彩人と目が合って……また、いたたまれなくなった。
そのまますーっとあさっての方向へ目線をやる壱成の肩を彩人にひょいと抱かれ、ちゅっと頬にキスされる。
「大丈夫大丈夫。俺、壱成のそういうとこもすげー好きだよ」
「う、うるさい……もうほっといてくれよ……」
「何言ってんだよ、帰って続きしよーぜ♡」
「……し、しねーよもう。恥ずかしくて死にそうだよ! 迎えもあるし!!」
「中途半端に熱くさせちゃったお詫びだって。夕方まで結構時間あんじゃん? 気持ちいいこといっぱいしような♡」
「く、くそ……」
彩人はもう一度壱成にチュッとキスをして、運転席へと移っていった。
壱成も赤面したままのろのろと助手席に収まり、ちらっと彩人のほうを見やった。器用に狭い駐車スペースから車を出しながら、彩人は小さく鼻歌を歌っている。
とんだ恥ずかしい勘違いをやらかしてしまったが、彩人が笑っていてくれるのなら、まぁいいか……という気分になってしまう。
窓を開けると、春先の柔らかな風が涼やかに車内に吹き抜ける。後ろへ後ろへと流れてゆく景色の中に、開きかけの桜の木々を見つけた。
それは彩人も同じだったらしく、信号待ちをしながら「あ、桜」と言い、眩しげに外を眺めて微笑んでいる。
「こんなとこに桜並木あったんだ。満開になったらすげー綺麗そう」
「うん、そうだな」
ひとりだった頃はただただ過ぎてゆくだけだった季節。
だが、彩人と空と出会ってからは、そのひとつひとつが鮮やかな色彩を放ち、楽しい思い出がひとひらずつ着実に積み重なってゆくのを感じる。
そのたびに幸せを噛み締めるのは、きっと自分だけではないだろう。……なぜだかはっきり、そう確信することができる。
——こうやって、一緒に過ごす季節がどんどん重なっていくんだよな……
「……よし! 次は花見だ。空くん連れて遊びにこようぜ」
「おっ、花見! いいなそれ、絶対楽しいやつ」
「ははっ、だろー?」
清々しい春の青空のもと。
桜並木の中、爽快に車を走らせる彩人の横顔を見つめていると、壱成の表情も自然と綻ぶ。
今年の春もきっと、幸せな笑顔の溢れる季節になるに違いない——と、壱成は思うのだった。
『たまには外でデートしよう』 おしまい♡
【お知らせ】
光栄なことに、本作のコミカライズが決定致しました✨
書籍版は本日発売、電子書籍版は一か月ほど経ってからの配信となります。
なにとぞなにとぞ、今後とも『スパダリホスト』をどうぞよろしくお願い致します!
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