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第五章 千珠、死す
四、発動
しおりを挟む海を見渡すことのできる小高い丘の上に、十人の陰陽師達が広い円をなして座っている。
各々が座った場所の下には、大きな円陣とともに術式が描かれていた。半円状に張られた大きな防御結界の中で、皆があぐらをかいて固く手印を結んでいる。
意識を集中させ、皆の呼吸を合わせ、霊気の波動を重ねて。これから、巨大な封印術を発動させる。
舜海は円陣の中から、波飛沫に袴の裾を濡らしながら海を眺める千珠の白い背中を見つめた。陰陽師衆から少し離れた場所で、波の打ち付ける崖っぷちに立つ千珠の姿を。
ばたばたと激しくはためく白い狩衣、長い銀髪。
嵐が呼ぶ荒々しい風が吹き荒び、暗く重たげな曇天と荒れ狂う灰色の海の織りなす壮大な大自然の風景を背に、ぽつんと佇む千珠の姿が、今はとても大きく見える。
「皆、準備はいいね」
風春の声に、皆が顔を上げ、頷いた。
舜海も気を引き締めるように千珠から目を離し、頷いた。佐為が、不敵に微笑む。
「始めよう……!」
風春が、目を閉じて術式の詠唱を始めた。
するとすぐに、ぼんやりと地に描かれた文字が光を湛え始める。
歌うように涼やかな風春の声とともに、陣からふわりと風が生まれ、皆の衣を浮き上がらせる。
まるでその地全体を浄め、染み渡るように響く風春の声。その声を背後に聞いていた千珠も、耳に感じる心地良さに目を閉じた。
この地に宿るすべての神と精霊を力を、風春が呼び起こす。それも、優しく、丁寧に。
円陣の中は光に満ちていた。
荒れ果てた大地を、蘇らせるような暖かい薄黄金色の光が、円陣から少しずつその範囲を外へと広げていく。
しかしそれを切り裂き闇色で塗りつぶすように、雷燕が襲いかかってきた。
結界の中だけは未だに黄金色に輝いているが、その外の世界はまるで夜暗のように真っ暗になった。吹きすさぶ冷たい風が、潮を巻き上げて吹きつけてくる冷たさに、千珠は少しばかり目を細める。
千珠は叢雲の柄に手をかけ、ゆっくりと剣を抜く。
身の丈ほどもある、長く細身の刀身が、千珠の妖気を吸って大きく鼓動した。
どくん……どくん……!
あまりの神気の強さに膝を折りそうになったが、何とか耐えた。じっとそのまま柄を握り締めていると、神気と妖気が混じり合い、まさに刀身一体となっていくように身体に馴染む。
どくん……どくん……!
黒い風が、千珠を逆巻いて空へと吹きあげる。
突如、雷燕の大きな翼が頭上に現れた。
まるで黒い羽を広げた天の使いのように、大きく優美なその姿から、禍々しい憎しみの妖気が溢れだしている。
雷燕は冷たい瞳で千珠を捉えると、まっすぐに千珠に向かって急降下してきた。千珠は両手で刀を構えると、雷燕を見上げて歯を食い縛り、衝突の瞬間に備える。
――殺す殺す殺す!!!
雷燕の無言の殺意が、針のように千珠に突き刺さる。しかし千珠は動じなかった。
もう、迷うものか。
俺はお前のようにはならない……!!
二人の妖気がぶつかった。
強大な妖気が反発しあい、暴風が辺りを滅茶苦茶にかき乱していく。
陰陽師衆は、術を守ることに集中しなければならない。どんな風が襲ってこようが、どんな波が襲ってこようが、この術を止める訳にはいかないのだ。
舜海も、必死だった。
千珠を助けるためには、いち早くこの術式を完遂させる必要がある。
気を送れ、集中しろ……!
この国を、千珠を、大切な絆を、守るのだ……!!
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本当にありがたく思います。
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