抗オメガフェロモンの開発に至った経緯と僕らの関係性についての考察

餡玉(あんたま)

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エピローグ

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その後僕らは、正式に親の了承を得て番つがいとなった。
 まだお互い大学生同士だが、大学のそばでの二人暮らしを認められ、ラブラブで楽しい毎日を送っている。

「おい、そろそろ起きろ! いつまで寝てんだよ!」
「うう……今起きる。起きるって……」
「まーた夜中まで論文読み漁ってたのか!? いい加減にしろよ、遅刻ばっかしてたら単位落とすぞ!」
「わかってるよ……」

 容赦無く布団を剥がして僕を叩き起こしてくるのは槇だ。朝からバイオレンスですごく可愛い……。もっと優しく起こしてほしい気がしなくもないけれど、不摂生をしている僕が悪いのだから文句は言えない。

 槇は無事、第一志望の医学部に合格した。
 そして僕も、槇と同じ大学の理学部に通っている。

 例のネックガードは学会で広く認められ、開発者としての僕の名前はほうぼうでずいぶんと有名になっているらしい。大学生という身分ではあるが時折学会などに招かれることもあり、僕は忙しい日々を送っている。

 大学入学前に番となったため、槇はもうネックガードをつけてはいない。僕の噛み痕がくっきりと残るうなじを隠すことなく、堂々と大学生活を送っている。

 表情はぐっと明るくなり、瞳には槇本来の利発さと知性がキラキラと宿っている。勉強はさすがに大変そうだが、槇はもう、ヒートへの不安や恐れを感じてはいないようすだ。

 忙しい毎日を活発に過ごす槇と過ごしていると、僕まですこぶる元気が出る。

「早く食えよ。樹基も朝一から講義だろ?」
「ああ、うん……ふぁ~、ねむい」
「まったく……頭いいのに生活力ないんだからなぁ、樹基は」

 そう言って、ダイニングテーブルの向かいで頬杖をつく槇の表情はとても優しい。口調はきついが、僕を見つめる槇の瞳には愛おしげな光が揺らめいていて、すごく可愛いのだ。

「ところでさ……樹基」
「ん?」

 ビシバシ僕の尻を叩いて朝の支度を急かしていた槇が、急に頬を赤らめ口ごもっている。その可愛い顔に……僕は察するものがあった。

「たぶん……そろそろヒートなんだ。……お前も授業の振替、申請できる?」
「ああ、ああ! もちろんだ! 講義前に教務課に寄るよ。槇はもう申請したのか?」
「……うん、した」
「そ……そうか。うん、わかった……うん、うん……」

 この大学では、オメガの学生がヒートで大学を休む際、その期間の講義をあとから動画で受け直すことができる。パートナーのアルファも振替が可能で、とてもありがたい制度なのだ。それに……それに……。

 ——ふう~……今から興奮してちゃダメだ。これから大学なんだからな……!!

 淫らで可愛い槇の姿を思い出してしまい、じゅわりと股間が熱くなってしまった。それをごまかすべく、もりもり朝食を食べ進めていく僕を見て、槇が呆れ顔で苦笑した。

「わかりやす……。昔はぜんぜんお前の気持ちわかんなかったのになぁ」
「そうか?」
「とりあえず、大学行く前にソレはなんとかしろよな。俺、先に出ないとだし」
「うっ。うん……いってらっしゃい」

 股ぐらを熱くしていることが、槇にはすっかりバレているようだ。恥ずかしいことこの上ない。てきぱきと家を出る準備をしている槇はあんなにも美人で格好がいいのに、僕ときたら……。

 相変わらず気持ち悪さの抜けない自分にため息をついていると、玄関に向かいかけていた槇がくるりと踵を返して戻ってきた。

 そして、流れるように僕の唇にキスをして——……いたずらっぽく微笑んだ。

「……俺もヒートまで我慢できない。今夜帰ったら、エッチしよ」
「えっ……!?」
「じゃ、遅刻すんなよ」

 もう一度軽くキスしたあと、槇は爽やかな笑顔を残して部屋を出ていく。まだ槇のぬくもりが残る唇に指先で触れると、自然と笑みがこみ上げてきた。

 なんて可愛いことをしてくれるのかと幸せを噛み締めるうち、眠気もだるさもすべてきれいに吹き飛んでしまう。
 玄関の姿見に映るのは、前髪を短く切り、伊達眼鏡を外した僕の顔だ。鏡の中の自分を見つめながら、僕はきちんと襟を正した。

 よし、今日もめいっぱい頑張ろう。
 


 おしまい♡
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