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1巻
1-3
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「あ。飯食う? 腹減ってるよな、おまえ、ガッリガリだもんな」
めし、と聞いた途端、ぐうぅ~~と腹の虫が素直に鳴いた。
それを聞いたケモ耳少年がニカッと笑うと、鋭い犬歯が露わになった。
「っても、今日はスープだけにしとけって言われてる。あんまいっぱい食わしてやれないけど」
「ううん、嬉しい。ありがと」
素直に礼を言って微笑むと、少年は物珍しげなものを観察するようにじぃっと僕を見つめた。
きょろりとした大きな目は黒に近い青。耳とお揃いの色をした髪の毛はつんつんとあちこち無造作に跳ね上がっている。
背丈も同じくらいだろうか。僕が着ているものと似たシャツに身を包んでいるけれど、貧相な僕とは違い、しっかりとした体つきだ。
よく見ると、ズボンの腰のあたりからフサフサとした尻尾が揺れている。
――そうだ。彼は狼獣人の『アンル』。小説の中では詳しい描写がなかった脇役だけど、この屋敷でヴァルフィリスの召使いのようなことをしていたはずだ。
確か作中では、ヴァルフィリスに犯され尽くした『トア』を介抱する役回りだった。とはいえ、僕は犯されるどころか気持ちよくイかせてもらっただけだし、こうして着替えをさせてもらった上に清潔なベッドで寝かせてもらえるなんて、想像していた世界観とずいぶんイメージが違う。
――僕があの時バトルを挑めなかったから、ちょっとずつ内容が変わってるのかなぁ……
腕組みをしてうーんと唸っていると、ベッドの縁にアンルが腰を下ろした。前のめりで両手をつき、ふたたびじっとこちらを見つめている。
「ふーん、たいして美味そうなやつには見えないけどなぁ。ガリガリだし、顔色も悪いし」
「え?」
「それに、ヴァルを殺しに来たってわりにはマヌケづらだ」
言い返したいけれど言い返せるほどの元気もないので、僕は曖昧に「ははは」と笑った。
するとアンルはふっと前触れもなく部屋から出ていってしまった。かと思うと、今度は両手で木製ボウルのようなものを大事そうに抱えて戻ってきた。
深さのあるボウルの中には、湯気の立つクリームシチューのようなものがたっぷりと満たされていた。僕は目を輝かせ、すぐさまそれを受け取る。
「た、食べていいの?」
「もちろん。野菜のミルク煮だよ」
「うわ、いい匂い。いただきます……!!」
口にした瞬間、滋養のある甘みとぬくもりが口の中いっぱいに広がってゆく。
ころりとしたものはじゃがいものような食感と味がする。青菜のようなもの、にんじんにしては赤すぎる根菜らしきものが軟らかく煮込まれていて、涙が出るほどに美味かった。
目を閉じてゆっくりと咀嚼し、呑み込む。
すると胃のあたりからじんわりと熱が生まれ、全身のすみずみにまで力が漲ってゆくようだった。こうして食事をして初めて、自分がひどい空腹を抱えていたのだと気がついた。
孤児院での食事はいつも粗末なものだった。乾いて硬くなったパンになけなしの野菜を茹でたスープが主な食事だ。スープといっても味はなく、栄養なんてほとんどなかった。
こんなに美味しいものがこの世にあるなら、孤児院の子どもたちにも食べさせてやりたかったな……と、切なくなる。
「あ、あのさ」
「ん? なに」
「あの人……、も、こういう料理を食べるのかな?」
本当は『どうして僕の血を吸っていないのだろうか』と尋ねたかったのだが、なんとなく気まずくて話題を変えた。
「あの人って? ヴァルのこと?」
「う、うん……」
「いや、あいつは食わないよ。食べようと思えば食べられるらしいんだけど、あいつにはそんな必要ないからな」
「必要がない……なるほど」
「ワインは好きみたいだぞ? 地下にいーっぱい溜め込んでやがるから」
「ワインかぁ」
やはり赤ワインが好きなのだろうか……などと考えていると、アンルはじっと僕の目を覗き込み、少し控えめな調子で「それ、うまいか?」と尋ねてきた。
迷わずこくこく頷き、「美味しい! すごく元気でる」と笑うと、アンルは照れくさそうに鼻の頭を掻いて言った。
「へへ、嬉しいもんだね。おれが作ったものをさ、美味しいって食べてもらえるのって」
「本当に美味しいよ。村での暮らしは貧しかったから、こんなに贅沢なスープは初めてなんだ」
「そっか、じゃあ明日は腹いっぱいになるまでたくさん食べろな!」
アンルは、さっきよりもひときわ明るい笑顔でニカッと笑った。そして、ゆっくり噛みしめるようにスープを食べ進める僕を、飽きる様子もなく見守る。
胃が柔らかく温まってくると、ようやくひと心地がつく。僕はアンルに試しに質問をした。
「きみは、この屋敷にいつから住んでるの?」
「えーと、ここで冬越えをするのは何回目かな。……うーん……五回目くらい?」
「だいたい五年くらいってことか……。それまではどうしてたの?」
そうして身の上を聞かれることに慣れていないのか、アンルは青褐色の目を何度か瞬き、僕を探るようにじっと見つめた。だが、さして問題ないと思ったのか、あっさりとここへ来るまでのことを話してくれた。
この世界においても、半獣人はかなり珍しい存在であるらしい。
数世代前に人間と番ったものがいたため、こうして時折アンルのような半獣人型の個体が現れるのだという。
かつて狼族は、獣の形をしていても人語を話し、強く賢い種族だった。しかし世代が進むにつれて知能は下がり、ただの獣となりつつあるという。
そんな中、アンルは半獣の状態で生まれた。
鋭い爪と強い牙を持つ獣体の仲間たちの中で、人の肉体を持った幼いアンルがうまくやっていけるわけがなく、いつも仲間たちからいじめられていたらしい。野生の世界において弱者は強者の餌食となるのが自然の摂理だからだ。
「母さんが生きてる間は守ってもらえたんだけど、死んじゃって、おれは群れから追い出されちゃったんだ。しばらくはなんとかひとりでやってたんだけど、でっかい狼どもに見つかってさ。食われそうになってたところをヴァルに助けてもらった、ってわけ」
「へぇ、そうだったのか」
「強いんだぜー、あいつ。普段は普通の人間みたいな格好してるけど、手からこんーんな鋭い鉤爪生やしてさ、おれを食い殺そうとしてたやつらをばったばったと追い払ってさ!」
「か、鉤爪……」
「生き残るには強いやつのところにいたほうがいいだろ? ヴァルはおれを殺す気なんてなさそうだったし、行くとこないなら好きにしていいっていうから、ここに住んでんの」
そう語るアンルの表情はあっけらかんとして明るい。
勝手な想像だけど、狼にも人間にも交われないアンルは、深い孤独や卑屈さみたいなものを抱えているんじゃないかと想像していた。
だけどアンルはけろっとして「大人になってからは、夜だけ狼の姿になれるんだ。毎晩お嫁さんになってくれそうな子を探しに行くんだけど、なかなかうまくいかなくてさー」とぼやく。
同年齢ほどに見えるアンルがもう番いを探していると聞いてびっくりしてしまった。とはいえ、狼の成長は人間に比べて段違いに早いはずだから、狼としての本能が番いを求めるのは理解できる。
――前世の僕は二十歳になっても、好きな人ひとり見つけられなかったけどなぁ……
男性社会で、ガチガチに凝り固まった固定概念が蔓延るあの町で生き延びるためには、本当の自分を押し殺さねばならなかった。
誰かを好きになることもできなくてずっと苦しい想いを抱えていたけれど、本当は誰かを好きになってみたかった。
なんの取り柄もない自分にとって、それはあまりにも高望みだと思う。
だが、叶うのならば、ただひとりの誰かに愛されたいと望んでいた。
前世の自分を思い出して虚しくなる。アンルがどこにも属せない孤独な狼獣人かもしれないと勘違いしかけたのは、僕自身のよるべのなさを勝手にあてはめようとしただけだ。
「逞しいね、アンルは」
何気なく手を伸ばし、アンルの頭をぽんぽんと撫でてみる。
するとアンルは耳をピッと立ててやや驚いた顔をしたあと、ぴょんと後退った。そして大きな目を見開いて僕をじっと見据える。
――あっ、まずい。これじゃ、前触れなくセクハラしてくるオッサンたちと全然変わらないじゃないか……!
僕はすぐさまがばりと頭を下げ、謝った。
「ごめん! いきなり触られたら嫌だよね、ごめん!」
「いや……別に。ちょっとびっくりしただけだし」
「本当にごめん。耳とかしっぽとか、ふわふわで可愛いなぁと思って、つい……」
アンルはまたびっくりしたように目を丸くした。
気に障ったのかとヒヤリとしたが、そういう雰囲気ではなさそうだ。
アンルはよく日に焼けた頬をぽっと朱色に染め、満更でもなさそうな顔でふさふさのしっぽを照れくさそうに撫でている。
「可愛い? おれ、可愛いの?」
「う、うん。毛並みが綺麗で、モフッとしてるから……」
「ふーん、へぇ、そうなんだ。ふーん……」
そんな褒め方をされて嬉しいのかどうかわからなかったが、ひゅんひゅんと軽快に揺れるしっぽの様子を見るに、不機嫌にはさせなかったようだ。
表情豊かなアンルを見ていると、柴犬のコロの姿を思い出す。前世の僕に癒やしを与えてくれていたコロの笑顔(?)やふさふさの毛並みを思い出し、いつしか自然と微笑んでいた。
「僕はトア。よろしく」
「あ、うん。おれ、アンル」
名乗ったあと、アンルはすっくと立ち上がり、空っぽになっていたボウルをひょいと僕の手から引き取った。
「ま、今日はゆっくり休めよな。熱、下がってないんだし」
「ああ……うん。ありがとう」
「あと、あいつを殺したいなら好きにすればいいよ。どーせトアの手には負えないだろうけど」
「えっ。な、なんでそれを知って……」
その問いには答えず、アンルは横顔でにっと笑い、そのまま部屋から出ていった。
ひとりになると、なんだか急に身体がずっしりと重く、だるさを感じる。
アンルが言うように、高熱が出ているようだ。
「はぁ……」
横たわり、気だるいため息をつきながら天井を見上げる。
ここはとても静かで、物音ひとつ聞こえてこない。普段、ヴァルフィリスやアンルはどこで過ごしているのだろう。この屋敷の中で生活しているのだろうか。
吸血鬼といえば、夜行性。
きっと昼間は、真っ暗な地下室で棺桶のベッドとかで寝ているに違いない……ぼんやりそんなことを考えていた僕の脳裡に、ふと不穏なものがよぎる。
――そういえば、これまで生贄としてここへ連れてこられてきた子どもたちはどうなったんだろう。
この静けさ。ここに大勢の人間が存在している気配はない。
十年に一度の頻度で、ここには僕のような『生贄』の子どもたちが送り込まれてきたはずなのに、この屋敷に住み続けている様子はない。それはつまり……
「まさか、あいつが子どもたちの血を吸い尽くして、殺した……? とか?」
口にしてゾッとする。僕はぶるりと震え上がり、自らを抱きしめるようにして両腕をさすった。
そうだ、昨日も言っていたではないか。『捧げられた獲物は、ありがたく頂戴しておかないと失礼かな』と……
さらにゾッとして、毛布をかぶってベッドの中に丸まった。
この震えは恐怖によるものなのか、それとも発熱によるものなのかはっきりしないけれど、今はとにかく寝たほうがいい。
頭の中でぐるぐると思考を巡らせていたせいで、余計に熱が上がってしまったのかもしれない。熱をこもらせた頭は痛いし、関節も痛い。……それに、やっぱり寒い。
「うう……しんど……」
少し眠って、これからのことはあとで考えよう。
ひんやりとした手の感触を額に感じる。
こんなふうに優しく触れてくれる人は祖母だけだった。熱を出して眠る僕のそばで繕いものをしながら、何度もこうして額に手を置いていた。まるで、僕がちゃんと生きているかどうか確認するように。
逆の立場になった時、僕はいつも祖母に申し訳なさを感じていた。ここまで育ててくれたのに、町の人たちとうまくやっていけない自分が情けなかった。
ゲイであることも、申し訳なくて言えなかった。
恋人のひとりでも紹介できたら、祖母を安心させてあげられたかもしれない。けれど、それも最期まで叶わなかった。
――ごめん……ごめん……
記憶が感情を呼び覚まし、閉じたまぶたから涙が溢れる。
目の奥が熱くて、鼻の奥がツンと痛い。
嗚咽で呼吸を乱しながら、僕は何度も何度も、祖母に謝った。
「うう、うっ……ばあちゃん、ごめん……」
「だれがばあちゃんだ」
上から降ってくる声の低さにひゅっと息を呑む。
同時にぱちっと目を開くと、揺れて霞んだ視界の中に美しい緋色の瞳がふたつ。
「ばっ……!? ばば、ヴァルフィリス……!?」
驚きとともに飛び出た声は掠れている。起き上がろうとしたけれど身体は重く、僕はぱくぱくと無様に口を開け閉めしかできなかった。
燭台と暖炉の灯りでほんのり橙色に染まった部屋の中に、襟元の詰まった白シャツと黒いベストを身につけたヴァルフィリスがいる……!
この状況は危険だ。危険すぎる。ヴァルフィリスはきっと、熱を出して弱った僕の血を奪いにやってきたに違いない。すぐにでも、ベッドから這い出してここから逃げなくては……!!
だが、発熱のせいでまったく身体に力が入らず、もぞりと腕で身体をわずかに浮かせるだけで精一杯だ。
するとヴァルフィリスは柳眉を微かにひそめ、起き上がりかける僕の肩をベッドに押し戻す。
「なにやってる。おとなしく寝てろ」
「い、いや、だって……!! あんた、ここになにしに来たんだよ……っ」
「なにしに? なにをしに来たと思う?」
「ひぃ……」
ニヤリと唇を半月状にしならせて、ヴァルフィリスが邪悪な笑みを浮かべた。
細められたまぶたから覗く真紅の瞳が、言いようもなく不吉に見える。
とうとうその時が来てしまったのだ。
きっとこれから、ヴァルフィリスは身動きの取れない僕を押さえつけて吸血行為に及び、そのまま――……!!
しかし、ヴァルフィリスは枕元の木製チェストの上に置かれた洗面器に浸されていた布をキュッと絞って僕の額の上へ置いた。
ひんやりと濡れた布が額から熱を吸い上げる。心地いい感触に思わず「ほぅ……」とため息が漏れた。
――冷たくて気持ちいい…………って、そうじゃなくて!! うそだ。ヴァルフィリスが看病!? そんなキャラじゃないだろ!?
「なな、なん、なんで……なにやってんだよ、あんた……っ」
「うるさい、黙れ」
混乱のあまりあわあわと口を開け閉めする僕を黙らせ、ヴァルフィリスは僕の耳の下あたりを軽く押した。まるで、扁桃腺に腫れがないかどうか確認する医師のような手つきだ。
身動きの取れない獲物が目の前にいるというのに、表情にも猛々しさは一切感じられず、至って平静な様子である。
いったいどういうことなのだろう。小説の内容とはかけ離れた事象が起きていることに、僕は戸惑うばかりだった。
――わざわざここへ看病だけをしに来た? ……いや、いやいや、そんなことあるわけないよな。
やはり腹が減って、僕の血を吸うためにここまで来たに違いない。そう思うと急にバクバクバクと心臓が早鐘を打ち始め、込み上げてくる唾をゴクリと呑み下す。
ふと、ヴァルフィリスの紅い瞳がすいとこちらを向いた。ベッドの中でピンと全身が硬直する。
「お前、名前と歳は」
「え? あ……ええと、名前はトア。歳は、十八」
「十八か。孤児院から寄越されたんじゃないのか?」
「孤児院で育って、そのまま子どもたちの世話係としてそこで働いてた」
ヴァルフィリスはしげしげと僕の顔を観察したあとベッドの端に腰を下ろし、さらに質問を続けてくる。
「孤児院ではいったいどんな暮らしをしていたんだ?」
「……どういう意味?」
「お前の身体はボロボロだ。栄養失調で、身体の成長が年齢にまるで追い付いていない」
「えっ? ……まぁ、確かにそうかも」
「こんな死にかけのガキを俺のもとに送り込むなんて、毎度毎度、いったいどういうつもりなんだ」
考え込むように自らの顎を撫でながら呟いた最後の台詞は、ひとりごとのようだった。
僕は毛布の中からヴァルフィリスを見上げ、とつとつと最初の質問に答えてゆく。
「……確かに、孤児院の暮らしはひどかったよ。食事は粗末だったし、寝起きする場所も清潔とは言えなかった」
「ほう」
「病気になる子もいたけど、満足な治療を受けることもできずに死んでいくんだ。……けど、大人たちはさ、夜は普通に酒飲んでたり、町に遊びに行ったりするんだ。それがずっと許せなくて」
「……」
語っているうち、改めてこの世界の残酷な有様に胸が痛んだ。
前世の僕にとってはフィクションだったけれど、今ここに横たわる『トア』の肉体は疲弊し、衰弱している。
今、僕が体験していることは、この世界の中で培われてきた現実そのものなのだ。
「……なるほどね。しかし、そんな環境で育った割にはお前は学がありそうだな」
「まぁ……うん。孤児院の隣にある教会の書庫に古い本がたくさんあって、そこで本を読ませてもらえてたから」
「お前に文字を教える大人がいたのか?」
「うん、司祭様が生きてたから。僕が小さい頃は、孤児院だってまだましな環境だったんだ。……けど、司祭様が死んでから、だんだんおかしくなっていって」
司祭様はかなり高齢だった。背中は曲がり歩くのもつらそうだったけれど、僕の目をちゃんと見て、学ぶことを教えてくれた。司祭様が亡くなってから、僕たちの環境は悪いほうへ激変した。
大人たちは王都から支給される金を自分の享楽のために使うようになり、守り育てるべき子どもたちを便利な労働力くらいにしか思っていなかった。
しかもなにか不都合があれば、こうして子どもをやすやすと『生贄』として差し出すのだ。……まあ僕は、自分から進んでここへ来たわけだけど。
そんな語りを聞き、ヴァルフィリスは「そうか」と一言呟き、ゆっくりと首を振る。そしてじっと探るような目つきで僕を見つめた。
これまで見たことのない色をした瞳のせいか、無表情なせいか、僕に注がれる眼差しの意味がよくわからなくて緊張してしまう。
――え、なに。なんなんだろう、この沈黙は。まさか、話は済んだしそろそろ血でも吸ってやろうかとか考えてる……!?
「あ、あの!!」
「なんだ?」
「あ、あの……ええと」
毛布の縁を顔の下で掴んで、はくはくと口を開け閉めする僕を見下ろすヴァルフィリスは、怪訝そうな表情だ。
いたたまれなくなり、僕は昼間感じた疑問を思い切ってぶつけてみた。
「僕が気絶してる間、ど、どうして血を吸わなかったんだよっ!?」
「は?」
「だ、だだって、あんたは吸血鬼なんだろ……!? 目の前に気絶した少年がいたら、思わず吸いたくなっちゃうもんなんじゃ……!?」
「……」
――あ、あれ、無反応?
沈黙に耐えきれず疑問をぶつけてみたものの、ヴァルフィリスは呆れたような顔で沈黙したまま、じっと僕を見つめている。
まさか妙な地雷を踏んでしまったのだろうか。知らず知らずのうちにヴァルフィリスの逆鱗に触れて、このまま襲われてしまうのか――……!?
たらたらたらと、嫌な汗が全身から滲み出してくる。
すると、すっとヴァルフィリスが身を屈め、枕元に片手をついた。
ひとときたりとも僕から視線を外さないまま、指の長いしなやかな手をゆっくりと首筋に伸ばしてくる。
さり……と、爪の先で首筋の柔らかいところを思わせぶりに撫で上げられ、身が竦む。「ひぃぃ……」と悲鳴を漏らしながら、僕はぎゅっと固く目を瞑った。
「面白い、ずいぶんと残念そうだな。干からびるまで血を吸われたかったのか?」
「そ、そういうわけじゃなくて……!! 純粋に、なんでだろうって……!」
「それに、どうして俺が吸血鬼だと?」
「そ、それは……ええと」
『前世で読んだ本に書いてました』と言えるわけもなく、僕は苦し紛れに「ま、町で噂になってて……」と口にした。
ヴァルフィリスは「なるほどね」と小さく呟くと唇の片端を吊り上げ、牙をちらつかせながら艶然と微笑んだ。
「いいよ、どうされるのがいい?」
「へっ?」
「……痛いのと、気持ちイイの、どっちがいい? お前の望むようにしてやるよ」
「あ、あの、あああ」
「俺に吸血されたいんだろ? ……なぁ、トア」
「ひぁ………………っ」
内緒話を交わすように耳元で囁くヴァルフィリスの声は、低くて甘い。
ふっと吹きかかる吐息の色っぽさにあの日の興奮を思い出し、僕の顔は一瞬にしてトマトのように真っ赤になった。
耳から孕んでしまいそうなほどセクシーな声だ。
低く凄んでいるような囁き声なのに、どこか甘やかすような響きもあって腰にくる。
図らずもうっとりさせられ、ヴァルフィリスを見上げる目からへなへなと力が抜けてしまう。
誘われるまま、うなじを差し出してしまいかけたその時――……ヴァルフィリスが突然「ふはっ!! あっはははっ……!!」と噴き出し、高笑いを始めた。
肩を震わせて大笑いしているヴァルフィリスを、僕は涙目になりながらこわごわと見上げる。……なにがそんなに可笑しいのだろうか……恐ろしすぎる。
「ははっ、あはははは……っ!! この俺にそんなことを訊くやつ、初めてだよ」
「……へ」
「こんなに笑ったのはいつぶりだ? ふふっ……はぁ……はははっ、涙が出てくる」
そう言って白い指先で目元を拭うヴァルフィリスの姿は、あまりにも麗しい。
小説の中では笑顔の描写などほとんどなかったはずだが(凄んで微笑むような描写はあれど)、僕の目の前にいるヴァルフィリスは、ずいぶん表情豊かなようだ。
――若干……いや、かなり馬鹿にされてる感は否めないけど、この人も笑ったりするんだ……
なんとも言えない気持ちの狭間でふるふる震えていると、頭にぽんとヴァルフィリスの手が乗った。
「ま。とりあえず、今のお前に必要なのは十分な栄養と休養だ。俺を殺すのはそのあとにしろ」
「こ、殺……」
清々しい笑顔で物騒なことを言われ、ひゅんと肝が冷えてゆく。
本気な物言いではなさそうだが、ヴァルフィリスは今も僕に命を狙われていると思っているのだろう。
凄んで見せるべきか、しおらしくしておくべきか迷っていると、頭の上に置かれていた手がゆっくりと撫で下ろされる。その手のひらに慈しむような柔らかさを感じてしまい、僕はまた戸惑った。
だが、今度はぺちんと額に衝撃。軽くデコピンをされてしまった。
「痛った!!」と呻いて額を押さえていると、ベッドから立ち上がったヴァルフィリスがニヤリと悪い笑みを見せてくる。
「それにな、この俺に吸血してもらおうなんて百万年早いんだよ」
「へっ」
「まずはせいぜい肥え太れ。美味そうな身体になったら考えてやってもいい」
「こ、肥え太れだぁ……!? 人を家畜みたいに……っ」
「そんなに騒ぐと熱が上がるぞ。じゃあな」
目を細めて意地の悪い笑みを見せたあと、ヴァルフィリスは踵を返して部屋を出ていった。
……なんだか、想像していたよりもずっと、あの人はくせ者な予感がする。
† † †
ぬくぬくとしたベッドで適切な食事を与えられる満ち足りた生活が、その後一週間ほど続いた。
主に僕の世話を焼いてくれていたのはアンルだ。毎日スープやパンを届けてくれ、時折湯に浸した布で僕の身体を拭いてくれた。
生まれてこの方こんなにも丁寧な世話を受けたことがなかったため、僕はことあるごとに「ありがとう、ありがとう」と涙ぐみながらアンルを撫でさせてもらった。
すると「な、なんだよ子ども扱いすんなよっ!」とツンとした顔を見せるものの、アンルの小麦色の頬はほんのりと赤く染まっていて、ピンと上を向いた尻尾はふりふりと揺れている。
そういう反応を見るにつけ、アンルにも甘えん坊な一面があるのかなと想像し、僕はひそかにほっこりしていた。
夜になると熱が上がって呼吸が苦しくなったりもしたけれど、アンルのおかげで体調は目に見えて良くなった。
やがて、昼間はすっかり元気になって歩き回れるようになった頃。
僕は起き上がり、椅子に引っ掛けてあった服に着替えることにした。
現代でいうコットン素材のような、柔らかな生地でできたシャツだ。使い込まれて柔らかくなった生成りのシャツに袖を通し、分厚くごわっとした素材でできたズボンを穿く。
なめした革で作られた焦茶色の靴の靴紐をきゅっと縛って、久しぶりに自分の足で立ち上がった。
「わぁ……いい天気」
少し曇った窓ガラスの向こうに広がるのは、真っ青な空。
突き抜けるように青く晴れ渡った空の色は、かつて見上げていた日本のそれよりもずっと濃く、眩しい気がした。
どうやらここは一階のどこかであるらしい。窓からは真っ白な雪に覆われた森の樹々と、屋敷を囲う鉄柵が見える。
初めてここへ来た日は“牢獄”を連想したけれど、鉄柵は鉄格子のように無骨ではなかった。蔓草が絡みついたような瀟洒なデザインである。
「あ! トア、起きてんじゃん!」
今日もノックなしにドアが開いて、アンルが勢いよく部屋に入ってきた。
こうして立った状態で比べてみると、やはりアンルと僕はほとんど同じ背丈だった。
「おはよう、アンル」
「おはよ! トア、顔色良くなったな。毛艶もましになったんじゃない?」
「ははっ、毛艶って」
しゅばっと片手を上げて気持ちの良い挨拶をする笑顔は今日もすこぶる爽やかだ。アンルは挨拶というものを知らなかったのだが、教えてよかったと思う。
「いっぱい世話かけたね、ありがとう。今日から僕も家のことを手伝うよ」
「え、ほんと? やったね」
「洗濯とか、料理とか、全部アンルひとりでやってるんだろ? 僕、そういうの得意だからさ」
「まーね。といっても、ヴァルは飯食わないし、なんかしょっちゅうどっか行ってるから、おれ、ひとりぐらしみたいなもんだけどな」
「へぇ……そうなんだ」
ヴァンパイアの食事は血液だ。とはいえ、僕の血を一滴たりとも吸っていないのだから、『しょっちゅうどっか行ってる』間にどこかで誰かの血を吸って食事をしているのだろう。
イグルフのさらに東には王都があり、その周辺の街はとても賑やかで栄えていると聞いた。
きっとヴァルフィリスは、夜な夜な街へ出てセクシーな女たちと酒を飲んだりしているのだ。
あれだけの美貌を持つ男だ、酔っていい雰囲気になった相手を惑わせてエッチなことをしたり、その流れで吸血したりしているに違いない。
豊満な胸を強調したドレスを身に纏った美女を腕に抱き、その白い首筋に牙を立てるヴァルフィリスの姿をやすやすと想像できる。それは、あまりにも完璧なヴァンパイア像だ。
――よそで美女の血を吸えるなら、僕の血を欲しがる必要もないってことか。
つまり彼は気絶していたり、病気で臥せっている僕の血をわざわざ吸うまでもないのだ。そうなると、ヴァルフィリスとのバトルからの陵辱ルートは回避できたのだろうか……?
めし、と聞いた途端、ぐうぅ~~と腹の虫が素直に鳴いた。
それを聞いたケモ耳少年がニカッと笑うと、鋭い犬歯が露わになった。
「っても、今日はスープだけにしとけって言われてる。あんまいっぱい食わしてやれないけど」
「ううん、嬉しい。ありがと」
素直に礼を言って微笑むと、少年は物珍しげなものを観察するようにじぃっと僕を見つめた。
きょろりとした大きな目は黒に近い青。耳とお揃いの色をした髪の毛はつんつんとあちこち無造作に跳ね上がっている。
背丈も同じくらいだろうか。僕が着ているものと似たシャツに身を包んでいるけれど、貧相な僕とは違い、しっかりとした体つきだ。
よく見ると、ズボンの腰のあたりからフサフサとした尻尾が揺れている。
――そうだ。彼は狼獣人の『アンル』。小説の中では詳しい描写がなかった脇役だけど、この屋敷でヴァルフィリスの召使いのようなことをしていたはずだ。
確か作中では、ヴァルフィリスに犯され尽くした『トア』を介抱する役回りだった。とはいえ、僕は犯されるどころか気持ちよくイかせてもらっただけだし、こうして着替えをさせてもらった上に清潔なベッドで寝かせてもらえるなんて、想像していた世界観とずいぶんイメージが違う。
――僕があの時バトルを挑めなかったから、ちょっとずつ内容が変わってるのかなぁ……
腕組みをしてうーんと唸っていると、ベッドの縁にアンルが腰を下ろした。前のめりで両手をつき、ふたたびじっとこちらを見つめている。
「ふーん、たいして美味そうなやつには見えないけどなぁ。ガリガリだし、顔色も悪いし」
「え?」
「それに、ヴァルを殺しに来たってわりにはマヌケづらだ」
言い返したいけれど言い返せるほどの元気もないので、僕は曖昧に「ははは」と笑った。
するとアンルはふっと前触れもなく部屋から出ていってしまった。かと思うと、今度は両手で木製ボウルのようなものを大事そうに抱えて戻ってきた。
深さのあるボウルの中には、湯気の立つクリームシチューのようなものがたっぷりと満たされていた。僕は目を輝かせ、すぐさまそれを受け取る。
「た、食べていいの?」
「もちろん。野菜のミルク煮だよ」
「うわ、いい匂い。いただきます……!!」
口にした瞬間、滋養のある甘みとぬくもりが口の中いっぱいに広がってゆく。
ころりとしたものはじゃがいものような食感と味がする。青菜のようなもの、にんじんにしては赤すぎる根菜らしきものが軟らかく煮込まれていて、涙が出るほどに美味かった。
目を閉じてゆっくりと咀嚼し、呑み込む。
すると胃のあたりからじんわりと熱が生まれ、全身のすみずみにまで力が漲ってゆくようだった。こうして食事をして初めて、自分がひどい空腹を抱えていたのだと気がついた。
孤児院での食事はいつも粗末なものだった。乾いて硬くなったパンになけなしの野菜を茹でたスープが主な食事だ。スープといっても味はなく、栄養なんてほとんどなかった。
こんなに美味しいものがこの世にあるなら、孤児院の子どもたちにも食べさせてやりたかったな……と、切なくなる。
「あ、あのさ」
「ん? なに」
「あの人……、も、こういう料理を食べるのかな?」
本当は『どうして僕の血を吸っていないのだろうか』と尋ねたかったのだが、なんとなく気まずくて話題を変えた。
「あの人って? ヴァルのこと?」
「う、うん……」
「いや、あいつは食わないよ。食べようと思えば食べられるらしいんだけど、あいつにはそんな必要ないからな」
「必要がない……なるほど」
「ワインは好きみたいだぞ? 地下にいーっぱい溜め込んでやがるから」
「ワインかぁ」
やはり赤ワインが好きなのだろうか……などと考えていると、アンルはじっと僕の目を覗き込み、少し控えめな調子で「それ、うまいか?」と尋ねてきた。
迷わずこくこく頷き、「美味しい! すごく元気でる」と笑うと、アンルは照れくさそうに鼻の頭を掻いて言った。
「へへ、嬉しいもんだね。おれが作ったものをさ、美味しいって食べてもらえるのって」
「本当に美味しいよ。村での暮らしは貧しかったから、こんなに贅沢なスープは初めてなんだ」
「そっか、じゃあ明日は腹いっぱいになるまでたくさん食べろな!」
アンルは、さっきよりもひときわ明るい笑顔でニカッと笑った。そして、ゆっくり噛みしめるようにスープを食べ進める僕を、飽きる様子もなく見守る。
胃が柔らかく温まってくると、ようやくひと心地がつく。僕はアンルに試しに質問をした。
「きみは、この屋敷にいつから住んでるの?」
「えーと、ここで冬越えをするのは何回目かな。……うーん……五回目くらい?」
「だいたい五年くらいってことか……。それまではどうしてたの?」
そうして身の上を聞かれることに慣れていないのか、アンルは青褐色の目を何度か瞬き、僕を探るようにじっと見つめた。だが、さして問題ないと思ったのか、あっさりとここへ来るまでのことを話してくれた。
この世界においても、半獣人はかなり珍しい存在であるらしい。
数世代前に人間と番ったものがいたため、こうして時折アンルのような半獣人型の個体が現れるのだという。
かつて狼族は、獣の形をしていても人語を話し、強く賢い種族だった。しかし世代が進むにつれて知能は下がり、ただの獣となりつつあるという。
そんな中、アンルは半獣の状態で生まれた。
鋭い爪と強い牙を持つ獣体の仲間たちの中で、人の肉体を持った幼いアンルがうまくやっていけるわけがなく、いつも仲間たちからいじめられていたらしい。野生の世界において弱者は強者の餌食となるのが自然の摂理だからだ。
「母さんが生きてる間は守ってもらえたんだけど、死んじゃって、おれは群れから追い出されちゃったんだ。しばらくはなんとかひとりでやってたんだけど、でっかい狼どもに見つかってさ。食われそうになってたところをヴァルに助けてもらった、ってわけ」
「へぇ、そうだったのか」
「強いんだぜー、あいつ。普段は普通の人間みたいな格好してるけど、手からこんーんな鋭い鉤爪生やしてさ、おれを食い殺そうとしてたやつらをばったばったと追い払ってさ!」
「か、鉤爪……」
「生き残るには強いやつのところにいたほうがいいだろ? ヴァルはおれを殺す気なんてなさそうだったし、行くとこないなら好きにしていいっていうから、ここに住んでんの」
そう語るアンルの表情はあっけらかんとして明るい。
勝手な想像だけど、狼にも人間にも交われないアンルは、深い孤独や卑屈さみたいなものを抱えているんじゃないかと想像していた。
だけどアンルはけろっとして「大人になってからは、夜だけ狼の姿になれるんだ。毎晩お嫁さんになってくれそうな子を探しに行くんだけど、なかなかうまくいかなくてさー」とぼやく。
同年齢ほどに見えるアンルがもう番いを探していると聞いてびっくりしてしまった。とはいえ、狼の成長は人間に比べて段違いに早いはずだから、狼としての本能が番いを求めるのは理解できる。
――前世の僕は二十歳になっても、好きな人ひとり見つけられなかったけどなぁ……
男性社会で、ガチガチに凝り固まった固定概念が蔓延るあの町で生き延びるためには、本当の自分を押し殺さねばならなかった。
誰かを好きになることもできなくてずっと苦しい想いを抱えていたけれど、本当は誰かを好きになってみたかった。
なんの取り柄もない自分にとって、それはあまりにも高望みだと思う。
だが、叶うのならば、ただひとりの誰かに愛されたいと望んでいた。
前世の自分を思い出して虚しくなる。アンルがどこにも属せない孤独な狼獣人かもしれないと勘違いしかけたのは、僕自身のよるべのなさを勝手にあてはめようとしただけだ。
「逞しいね、アンルは」
何気なく手を伸ばし、アンルの頭をぽんぽんと撫でてみる。
するとアンルは耳をピッと立ててやや驚いた顔をしたあと、ぴょんと後退った。そして大きな目を見開いて僕をじっと見据える。
――あっ、まずい。これじゃ、前触れなくセクハラしてくるオッサンたちと全然変わらないじゃないか……!
僕はすぐさまがばりと頭を下げ、謝った。
「ごめん! いきなり触られたら嫌だよね、ごめん!」
「いや……別に。ちょっとびっくりしただけだし」
「本当にごめん。耳とかしっぽとか、ふわふわで可愛いなぁと思って、つい……」
アンルはまたびっくりしたように目を丸くした。
気に障ったのかとヒヤリとしたが、そういう雰囲気ではなさそうだ。
アンルはよく日に焼けた頬をぽっと朱色に染め、満更でもなさそうな顔でふさふさのしっぽを照れくさそうに撫でている。
「可愛い? おれ、可愛いの?」
「う、うん。毛並みが綺麗で、モフッとしてるから……」
「ふーん、へぇ、そうなんだ。ふーん……」
そんな褒め方をされて嬉しいのかどうかわからなかったが、ひゅんひゅんと軽快に揺れるしっぽの様子を見るに、不機嫌にはさせなかったようだ。
表情豊かなアンルを見ていると、柴犬のコロの姿を思い出す。前世の僕に癒やしを与えてくれていたコロの笑顔(?)やふさふさの毛並みを思い出し、いつしか自然と微笑んでいた。
「僕はトア。よろしく」
「あ、うん。おれ、アンル」
名乗ったあと、アンルはすっくと立ち上がり、空っぽになっていたボウルをひょいと僕の手から引き取った。
「ま、今日はゆっくり休めよな。熱、下がってないんだし」
「ああ……うん。ありがとう」
「あと、あいつを殺したいなら好きにすればいいよ。どーせトアの手には負えないだろうけど」
「えっ。な、なんでそれを知って……」
その問いには答えず、アンルは横顔でにっと笑い、そのまま部屋から出ていった。
ひとりになると、なんだか急に身体がずっしりと重く、だるさを感じる。
アンルが言うように、高熱が出ているようだ。
「はぁ……」
横たわり、気だるいため息をつきながら天井を見上げる。
ここはとても静かで、物音ひとつ聞こえてこない。普段、ヴァルフィリスやアンルはどこで過ごしているのだろう。この屋敷の中で生活しているのだろうか。
吸血鬼といえば、夜行性。
きっと昼間は、真っ暗な地下室で棺桶のベッドとかで寝ているに違いない……ぼんやりそんなことを考えていた僕の脳裡に、ふと不穏なものがよぎる。
――そういえば、これまで生贄としてここへ連れてこられてきた子どもたちはどうなったんだろう。
この静けさ。ここに大勢の人間が存在している気配はない。
十年に一度の頻度で、ここには僕のような『生贄』の子どもたちが送り込まれてきたはずなのに、この屋敷に住み続けている様子はない。それはつまり……
「まさか、あいつが子どもたちの血を吸い尽くして、殺した……? とか?」
口にしてゾッとする。僕はぶるりと震え上がり、自らを抱きしめるようにして両腕をさすった。
そうだ、昨日も言っていたではないか。『捧げられた獲物は、ありがたく頂戴しておかないと失礼かな』と……
さらにゾッとして、毛布をかぶってベッドの中に丸まった。
この震えは恐怖によるものなのか、それとも発熱によるものなのかはっきりしないけれど、今はとにかく寝たほうがいい。
頭の中でぐるぐると思考を巡らせていたせいで、余計に熱が上がってしまったのかもしれない。熱をこもらせた頭は痛いし、関節も痛い。……それに、やっぱり寒い。
「うう……しんど……」
少し眠って、これからのことはあとで考えよう。
ひんやりとした手の感触を額に感じる。
こんなふうに優しく触れてくれる人は祖母だけだった。熱を出して眠る僕のそばで繕いものをしながら、何度もこうして額に手を置いていた。まるで、僕がちゃんと生きているかどうか確認するように。
逆の立場になった時、僕はいつも祖母に申し訳なさを感じていた。ここまで育ててくれたのに、町の人たちとうまくやっていけない自分が情けなかった。
ゲイであることも、申し訳なくて言えなかった。
恋人のひとりでも紹介できたら、祖母を安心させてあげられたかもしれない。けれど、それも最期まで叶わなかった。
――ごめん……ごめん……
記憶が感情を呼び覚まし、閉じたまぶたから涙が溢れる。
目の奥が熱くて、鼻の奥がツンと痛い。
嗚咽で呼吸を乱しながら、僕は何度も何度も、祖母に謝った。
「うう、うっ……ばあちゃん、ごめん……」
「だれがばあちゃんだ」
上から降ってくる声の低さにひゅっと息を呑む。
同時にぱちっと目を開くと、揺れて霞んだ視界の中に美しい緋色の瞳がふたつ。
「ばっ……!? ばば、ヴァルフィリス……!?」
驚きとともに飛び出た声は掠れている。起き上がろうとしたけれど身体は重く、僕はぱくぱくと無様に口を開け閉めしかできなかった。
燭台と暖炉の灯りでほんのり橙色に染まった部屋の中に、襟元の詰まった白シャツと黒いベストを身につけたヴァルフィリスがいる……!
この状況は危険だ。危険すぎる。ヴァルフィリスはきっと、熱を出して弱った僕の血を奪いにやってきたに違いない。すぐにでも、ベッドから這い出してここから逃げなくては……!!
だが、発熱のせいでまったく身体に力が入らず、もぞりと腕で身体をわずかに浮かせるだけで精一杯だ。
するとヴァルフィリスは柳眉を微かにひそめ、起き上がりかける僕の肩をベッドに押し戻す。
「なにやってる。おとなしく寝てろ」
「い、いや、だって……!! あんた、ここになにしに来たんだよ……っ」
「なにしに? なにをしに来たと思う?」
「ひぃ……」
ニヤリと唇を半月状にしならせて、ヴァルフィリスが邪悪な笑みを浮かべた。
細められたまぶたから覗く真紅の瞳が、言いようもなく不吉に見える。
とうとうその時が来てしまったのだ。
きっとこれから、ヴァルフィリスは身動きの取れない僕を押さえつけて吸血行為に及び、そのまま――……!!
しかし、ヴァルフィリスは枕元の木製チェストの上に置かれた洗面器に浸されていた布をキュッと絞って僕の額の上へ置いた。
ひんやりと濡れた布が額から熱を吸い上げる。心地いい感触に思わず「ほぅ……」とため息が漏れた。
――冷たくて気持ちいい…………って、そうじゃなくて!! うそだ。ヴァルフィリスが看病!? そんなキャラじゃないだろ!?
「なな、なん、なんで……なにやってんだよ、あんた……っ」
「うるさい、黙れ」
混乱のあまりあわあわと口を開け閉めする僕を黙らせ、ヴァルフィリスは僕の耳の下あたりを軽く押した。まるで、扁桃腺に腫れがないかどうか確認する医師のような手つきだ。
身動きの取れない獲物が目の前にいるというのに、表情にも猛々しさは一切感じられず、至って平静な様子である。
いったいどういうことなのだろう。小説の内容とはかけ離れた事象が起きていることに、僕は戸惑うばかりだった。
――わざわざここへ看病だけをしに来た? ……いや、いやいや、そんなことあるわけないよな。
やはり腹が減って、僕の血を吸うためにここまで来たに違いない。そう思うと急にバクバクバクと心臓が早鐘を打ち始め、込み上げてくる唾をゴクリと呑み下す。
ふと、ヴァルフィリスの紅い瞳がすいとこちらを向いた。ベッドの中でピンと全身が硬直する。
「お前、名前と歳は」
「え? あ……ええと、名前はトア。歳は、十八」
「十八か。孤児院から寄越されたんじゃないのか?」
「孤児院で育って、そのまま子どもたちの世話係としてそこで働いてた」
ヴァルフィリスはしげしげと僕の顔を観察したあとベッドの端に腰を下ろし、さらに質問を続けてくる。
「孤児院ではいったいどんな暮らしをしていたんだ?」
「……どういう意味?」
「お前の身体はボロボロだ。栄養失調で、身体の成長が年齢にまるで追い付いていない」
「えっ? ……まぁ、確かにそうかも」
「こんな死にかけのガキを俺のもとに送り込むなんて、毎度毎度、いったいどういうつもりなんだ」
考え込むように自らの顎を撫でながら呟いた最後の台詞は、ひとりごとのようだった。
僕は毛布の中からヴァルフィリスを見上げ、とつとつと最初の質問に答えてゆく。
「……確かに、孤児院の暮らしはひどかったよ。食事は粗末だったし、寝起きする場所も清潔とは言えなかった」
「ほう」
「病気になる子もいたけど、満足な治療を受けることもできずに死んでいくんだ。……けど、大人たちはさ、夜は普通に酒飲んでたり、町に遊びに行ったりするんだ。それがずっと許せなくて」
「……」
語っているうち、改めてこの世界の残酷な有様に胸が痛んだ。
前世の僕にとってはフィクションだったけれど、今ここに横たわる『トア』の肉体は疲弊し、衰弱している。
今、僕が体験していることは、この世界の中で培われてきた現実そのものなのだ。
「……なるほどね。しかし、そんな環境で育った割にはお前は学がありそうだな」
「まぁ……うん。孤児院の隣にある教会の書庫に古い本がたくさんあって、そこで本を読ませてもらえてたから」
「お前に文字を教える大人がいたのか?」
「うん、司祭様が生きてたから。僕が小さい頃は、孤児院だってまだましな環境だったんだ。……けど、司祭様が死んでから、だんだんおかしくなっていって」
司祭様はかなり高齢だった。背中は曲がり歩くのもつらそうだったけれど、僕の目をちゃんと見て、学ぶことを教えてくれた。司祭様が亡くなってから、僕たちの環境は悪いほうへ激変した。
大人たちは王都から支給される金を自分の享楽のために使うようになり、守り育てるべき子どもたちを便利な労働力くらいにしか思っていなかった。
しかもなにか不都合があれば、こうして子どもをやすやすと『生贄』として差し出すのだ。……まあ僕は、自分から進んでここへ来たわけだけど。
そんな語りを聞き、ヴァルフィリスは「そうか」と一言呟き、ゆっくりと首を振る。そしてじっと探るような目つきで僕を見つめた。
これまで見たことのない色をした瞳のせいか、無表情なせいか、僕に注がれる眼差しの意味がよくわからなくて緊張してしまう。
――え、なに。なんなんだろう、この沈黙は。まさか、話は済んだしそろそろ血でも吸ってやろうかとか考えてる……!?
「あ、あの!!」
「なんだ?」
「あ、あの……ええと」
毛布の縁を顔の下で掴んで、はくはくと口を開け閉めする僕を見下ろすヴァルフィリスは、怪訝そうな表情だ。
いたたまれなくなり、僕は昼間感じた疑問を思い切ってぶつけてみた。
「僕が気絶してる間、ど、どうして血を吸わなかったんだよっ!?」
「は?」
「だ、だだって、あんたは吸血鬼なんだろ……!? 目の前に気絶した少年がいたら、思わず吸いたくなっちゃうもんなんじゃ……!?」
「……」
――あ、あれ、無反応?
沈黙に耐えきれず疑問をぶつけてみたものの、ヴァルフィリスは呆れたような顔で沈黙したまま、じっと僕を見つめている。
まさか妙な地雷を踏んでしまったのだろうか。知らず知らずのうちにヴァルフィリスの逆鱗に触れて、このまま襲われてしまうのか――……!?
たらたらたらと、嫌な汗が全身から滲み出してくる。
すると、すっとヴァルフィリスが身を屈め、枕元に片手をついた。
ひとときたりとも僕から視線を外さないまま、指の長いしなやかな手をゆっくりと首筋に伸ばしてくる。
さり……と、爪の先で首筋の柔らかいところを思わせぶりに撫で上げられ、身が竦む。「ひぃぃ……」と悲鳴を漏らしながら、僕はぎゅっと固く目を瞑った。
「面白い、ずいぶんと残念そうだな。干からびるまで血を吸われたかったのか?」
「そ、そういうわけじゃなくて……!! 純粋に、なんでだろうって……!」
「それに、どうして俺が吸血鬼だと?」
「そ、それは……ええと」
『前世で読んだ本に書いてました』と言えるわけもなく、僕は苦し紛れに「ま、町で噂になってて……」と口にした。
ヴァルフィリスは「なるほどね」と小さく呟くと唇の片端を吊り上げ、牙をちらつかせながら艶然と微笑んだ。
「いいよ、どうされるのがいい?」
「へっ?」
「……痛いのと、気持ちイイの、どっちがいい? お前の望むようにしてやるよ」
「あ、あの、あああ」
「俺に吸血されたいんだろ? ……なぁ、トア」
「ひぁ………………っ」
内緒話を交わすように耳元で囁くヴァルフィリスの声は、低くて甘い。
ふっと吹きかかる吐息の色っぽさにあの日の興奮を思い出し、僕の顔は一瞬にしてトマトのように真っ赤になった。
耳から孕んでしまいそうなほどセクシーな声だ。
低く凄んでいるような囁き声なのに、どこか甘やかすような響きもあって腰にくる。
図らずもうっとりさせられ、ヴァルフィリスを見上げる目からへなへなと力が抜けてしまう。
誘われるまま、うなじを差し出してしまいかけたその時――……ヴァルフィリスが突然「ふはっ!! あっはははっ……!!」と噴き出し、高笑いを始めた。
肩を震わせて大笑いしているヴァルフィリスを、僕は涙目になりながらこわごわと見上げる。……なにがそんなに可笑しいのだろうか……恐ろしすぎる。
「ははっ、あはははは……っ!! この俺にそんなことを訊くやつ、初めてだよ」
「……へ」
「こんなに笑ったのはいつぶりだ? ふふっ……はぁ……はははっ、涙が出てくる」
そう言って白い指先で目元を拭うヴァルフィリスの姿は、あまりにも麗しい。
小説の中では笑顔の描写などほとんどなかったはずだが(凄んで微笑むような描写はあれど)、僕の目の前にいるヴァルフィリスは、ずいぶん表情豊かなようだ。
――若干……いや、かなり馬鹿にされてる感は否めないけど、この人も笑ったりするんだ……
なんとも言えない気持ちの狭間でふるふる震えていると、頭にぽんとヴァルフィリスの手が乗った。
「ま。とりあえず、今のお前に必要なのは十分な栄養と休養だ。俺を殺すのはそのあとにしろ」
「こ、殺……」
清々しい笑顔で物騒なことを言われ、ひゅんと肝が冷えてゆく。
本気な物言いではなさそうだが、ヴァルフィリスは今も僕に命を狙われていると思っているのだろう。
凄んで見せるべきか、しおらしくしておくべきか迷っていると、頭の上に置かれていた手がゆっくりと撫で下ろされる。その手のひらに慈しむような柔らかさを感じてしまい、僕はまた戸惑った。
だが、今度はぺちんと額に衝撃。軽くデコピンをされてしまった。
「痛った!!」と呻いて額を押さえていると、ベッドから立ち上がったヴァルフィリスがニヤリと悪い笑みを見せてくる。
「それにな、この俺に吸血してもらおうなんて百万年早いんだよ」
「へっ」
「まずはせいぜい肥え太れ。美味そうな身体になったら考えてやってもいい」
「こ、肥え太れだぁ……!? 人を家畜みたいに……っ」
「そんなに騒ぐと熱が上がるぞ。じゃあな」
目を細めて意地の悪い笑みを見せたあと、ヴァルフィリスは踵を返して部屋を出ていった。
……なんだか、想像していたよりもずっと、あの人はくせ者な予感がする。
† † †
ぬくぬくとしたベッドで適切な食事を与えられる満ち足りた生活が、その後一週間ほど続いた。
主に僕の世話を焼いてくれていたのはアンルだ。毎日スープやパンを届けてくれ、時折湯に浸した布で僕の身体を拭いてくれた。
生まれてこの方こんなにも丁寧な世話を受けたことがなかったため、僕はことあるごとに「ありがとう、ありがとう」と涙ぐみながらアンルを撫でさせてもらった。
すると「な、なんだよ子ども扱いすんなよっ!」とツンとした顔を見せるものの、アンルの小麦色の頬はほんのりと赤く染まっていて、ピンと上を向いた尻尾はふりふりと揺れている。
そういう反応を見るにつけ、アンルにも甘えん坊な一面があるのかなと想像し、僕はひそかにほっこりしていた。
夜になると熱が上がって呼吸が苦しくなったりもしたけれど、アンルのおかげで体調は目に見えて良くなった。
やがて、昼間はすっかり元気になって歩き回れるようになった頃。
僕は起き上がり、椅子に引っ掛けてあった服に着替えることにした。
現代でいうコットン素材のような、柔らかな生地でできたシャツだ。使い込まれて柔らかくなった生成りのシャツに袖を通し、分厚くごわっとした素材でできたズボンを穿く。
なめした革で作られた焦茶色の靴の靴紐をきゅっと縛って、久しぶりに自分の足で立ち上がった。
「わぁ……いい天気」
少し曇った窓ガラスの向こうに広がるのは、真っ青な空。
突き抜けるように青く晴れ渡った空の色は、かつて見上げていた日本のそれよりもずっと濃く、眩しい気がした。
どうやらここは一階のどこかであるらしい。窓からは真っ白な雪に覆われた森の樹々と、屋敷を囲う鉄柵が見える。
初めてここへ来た日は“牢獄”を連想したけれど、鉄柵は鉄格子のように無骨ではなかった。蔓草が絡みついたような瀟洒なデザインである。
「あ! トア、起きてんじゃん!」
今日もノックなしにドアが開いて、アンルが勢いよく部屋に入ってきた。
こうして立った状態で比べてみると、やはりアンルと僕はほとんど同じ背丈だった。
「おはよう、アンル」
「おはよ! トア、顔色良くなったな。毛艶もましになったんじゃない?」
「ははっ、毛艶って」
しゅばっと片手を上げて気持ちの良い挨拶をする笑顔は今日もすこぶる爽やかだ。アンルは挨拶というものを知らなかったのだが、教えてよかったと思う。
「いっぱい世話かけたね、ありがとう。今日から僕も家のことを手伝うよ」
「え、ほんと? やったね」
「洗濯とか、料理とか、全部アンルひとりでやってるんだろ? 僕、そういうの得意だからさ」
「まーね。といっても、ヴァルは飯食わないし、なんかしょっちゅうどっか行ってるから、おれ、ひとりぐらしみたいなもんだけどな」
「へぇ……そうなんだ」
ヴァンパイアの食事は血液だ。とはいえ、僕の血を一滴たりとも吸っていないのだから、『しょっちゅうどっか行ってる』間にどこかで誰かの血を吸って食事をしているのだろう。
イグルフのさらに東には王都があり、その周辺の街はとても賑やかで栄えていると聞いた。
きっとヴァルフィリスは、夜な夜な街へ出てセクシーな女たちと酒を飲んだりしているのだ。
あれだけの美貌を持つ男だ、酔っていい雰囲気になった相手を惑わせてエッチなことをしたり、その流れで吸血したりしているに違いない。
豊満な胸を強調したドレスを身に纏った美女を腕に抱き、その白い首筋に牙を立てるヴァルフィリスの姿をやすやすと想像できる。それは、あまりにも完璧なヴァンパイア像だ。
――よそで美女の血を吸えるなら、僕の血を欲しがる必要もないってことか。
つまり彼は気絶していたり、病気で臥せっている僕の血をわざわざ吸うまでもないのだ。そうなると、ヴァルフィリスとのバトルからの陵辱ルートは回避できたのだろうか……?
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だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
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