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8.昼食と報告
クルト様のエスコートで執務室の中の扉から休憩室に入り椅子のところまで行くと、バトンタッチしたリオルが椅子を引いてくれた。クルト様って貴族出身とかなのかな。いつもエスコートの流れがすごくスマートだ。て言うか僕男なんだけどね!? エスコートは気遣いだからやめろとは言わないけど。
さ、気を取り直して。今日の昼食は何だろう。お腹すいた。
飲み物はいつも通り葡萄ジュースで薄めたたワイン。もしくは冷やした紅茶。飲める生水は貴重なのです。水は煮沸しただけではまだ完全に安全じゃなくて、紅茶にすると茶葉によくない成分(?)が吸着されて安全になるとかいう話で。何それって感じ。濾過的な工程なのかな?
お風呂の水は川から引いた水だからここではそれ程貴重でもないらしいんだけど(もちろん絶対飲んじゃダメだし、庶民にとっては貴重な事に変わりはない)、飲み水は飲んだらお腹を壊してしまったのです。シクシク。そこまでリアリティ追求しなくていいのに。なので僕が飲める様にするには手間がかかるので。ゲームなのに厳しい。ちなみに料理用の水は茶葉の代わりの味のしない草を使うらしい。こっちの方が紅茶よりお高いんですってよ! そりゃみんな一旦貴族とかのところにお世話になるしかないよね。この世界で日本人が急に平民として生活するの、無理だよ。因みに神殿では庶民にそういう処理した水を売って、コホン、お配りして僅かな献金をいただいているみたいです。もちろん神殿は赤字価格で。水魔法で出した水は飲めるけど、魔石は高価だし多量に出せる程魔力効率のいい魔道士はエリートだしで、やっぱり高価との事。ここの神殿でも非番の魔道士が交代でアルバイト代わりに安価で(もちろん善意)水を出して溜めてくれているらしいのだけれど、全然足りないみたい。
閑話休題。
待ちに待った昼食は、生野菜をすっぱいソースであれこれしたものと、カブ(?)をオリーブオイルでソテーして胡椒をふったもの、ズッキーニと薄切りハム?のピンチョス。それからヴルストと言った方がいい様な立派なハーブ入りソーセージ、テリーヌっぽいやつといつも出る謎の多量の味付きマッシュポテトに何らかのポタージュスープ(色的にほうれん草かブロッコリー?)に知らないお魚のパイ、そしてあとからデザートが出る。テーブル中央のかごにはちょっと固いパン。これがねー、どうにも硬くて中だけ食べて外側はいつも残しちゃう。ごめんなさい。でも日本人にはきついんだって。他のリベル達も絶対みんな残してるはず。
昼食は一気に配膳する形らしいのでいつも昼食時はテーブルがいっぱいだ。今日のテーブルクロスは白地に黄色のお花の刺繍の縁取り。多分だけど、朝に、調薬室の大きなガラス扉から見えた黄色い花を、僕が可愛いって、気に入ったって言ったから。リオルの気の利き方がやばい。柄のストックの量凄そう。細かな気遣いが嬉しくてニヤついてしまう。
今僕不審者顔してなかった? 大丈夫そ?
因みにテーブルに飾られるお花も、香りの少ない小ぶりの白い小さい花。これも数日前に部屋に飾ってあって褒めたやつ。部屋に飾られる花達も、匂いの強い花とか大ぶりの派手目な花は、一輪とか他の花に混ぜて少しだけ、とかしか飾られなくなってきたから、好みが早速把握され始めている。
食材はよく分からなくても、味は大体美味しい。結構大味な感じだけど、料理の種類はわけ分かんないくらいいつも多国籍なので、今の所飽きはきてない。偶に中華っぽいのが出る日は心の中でお祭り騒ぎだ。
残念ながら日本食は出ません。どうして。
ユグ様もこんなに日本人ばっかりとは思わなかったんだろうなー。世界人口からしたら今や日本人はちょっとになっちゃったからね。
ふう。ご馳走様でした。お腹いっぱいだけどれどこれからデザート。デザートなら全然入る。今日は何かな。ワクワク。
ここでは晩餐にはデザートは付かないものらしいので、これが一日一回のお楽しみだ。お茶の時間は軽めの甘さ控えめバター控えめクッキーとか、小麦粉味のマカロンのクリーム無しみたいなやつとかしかお茶請けは出ないからね。あんまり甘味!て感じじゃない。
あ! きたきた。調理担当の神官さん達。食器を片付けに来た調理担当の方達に今日も美味しかったありがとうと言うと、デザートを大きめに取り分けてくれるのだ。嫌らしい小技を使ってすみません。でも美味しかったのも本当ですよ!
これもね、最初は片付けはクラウスさんとリオルがしてたんだよ。でも何回目かから調理部門の方達が来てくれる様になった。何故かは知らない。
おお、今日のデザートはベイクドチーズケーキだ! やったー! 添えられたベリーのジャムも最高。嬉しい。やっぱり大きめに切り分けてくれた。ふっふっふ。センキューセンキュー。
早速いただきましょう。あーん、おいし。そのままでもチーズの味が濃くて美味しい。添えられたジャムも甘酸っぱくて、口に含むといい香りがふわと香って。何の果物か知らないけど。というか、デザートだけは現代にそう引けを取らない気がする。
何気なく目を正面に向けるとクルト様と目が合った。すぐ逸らすのは感じが悪いのでにっこりしておく。クルト様とは今日以外にも数度食事をご一緒した事はあるけれど、クルト様は甘いものがそんなに好きじゃないらしくいつもデザート無しだ。美味しいのにね。
かるーく社交辞令的に勧めた事もあるけれど、僕を茶請けにお茶で一服しているから間に合ってるとの事。は? って感じ。冗談かと思えば本気で言っていて。当然困惑する僕。紫の瞳(ユグ様と同じな事はみんなは知らない)と虹色に淡く輝く美しい黒髪は見飽きる事はない、との言。もしかして口説かれてる!? って思ったけど自意識過剰だった。どっちもユグ様由来じゃん。やっぱただのユグ様効果でした。
こうしてると不思議だなと凄く感じる。地球だと聖職者って、清貧であれ、とかの心構えみたいなのがあった筈だけど、此処では見る影もありません。何もかんもやたら豪華だし。下品ではないのだけどね。そもそもここ自体どこの宮殿ですかって感じだから、って、あれ? それはあの宗教もか。ならあんま変わんないのかな。
満足感のあるチーズケーキを食べ終わり、お茶でさっぱりする。午後からは何をしようかしら。
「それで? 何か進んだか?」
食べ終わるの待ってくれていたのだろうクルト様に問われハッと気がついた。そう言えばポーションを作ってみた事、言ってなかったよ。上司(?)にはしっかりホウレンソウをしなければ。
「すみません。伝え忘れてしまっていました。午前中にレシピの確認が済んだので、試しに低級ヒーリングポーションを作ってみたら成功したんです。僕の鑑定では良品と出たんですけど、よければ鑑定スキルをお持ちの方にも確認してもらいたくて。使えそうなら量産する事も出来ますし」
目を見張ったクルト様が勢い込んで答えてくれた。
「っそうか。良品であればどれ程助かるか。出回っているのは低級から上級まで不良ギリギリの粗悪品ばかりなんだ。一度の戦闘で使用出来る上限があるから直ぐに交代要員と入れ替えなくてはならず、討伐を断念したこともあってな・・・。騎士の命を優先させようとするとどうしてもな・・・・・・」
ため息をつく憂い顔の美形メガネは眼福ですね。じゃなくて。中々に追い詰められている状況っぽい。
「そう言う事なら量産しましょう。ある程度スキルレベルが上がったら、中級ヒーリングポーションもレシピはあるので作れるでしょうし。それに試してみたい事があるんです。その後は、その上のランクはおそらく素材が倉庫にはないので、採取に行かなければならないと思いますが。けれど図鑑で目ぼしいものを見つけたので、スキルレベルさえ上がればそう難しい事でもないでしょう」
「ああ、それはまた、なんとも頼もしい事だ・・・・・・。ありがとうユーリ。こちらにきてくれて心から感謝する。騎士団に代わって礼を言わせてくれ」
お礼の言葉は重かった。僕が思っているより、危険性がずっと高いのかも知れない。ユグ様は気負わないでと仰っていたけれど、無理だよ。特にクルト様には初めからずっとお世話になっているのだし、力になりたい。
この世界の仕組みでは、司教以上の称号は悪人には授かる事が出来ないので、クルト様が少々策略家だったとしても問題には思わない。むしろ余りに善良過ぎては、宗教の総本山の実務の取りまとめなんて無理なんじゃないかな。そんな事を考えるのは、クルト様が多分わざと、警戒しろと言っているかの様にそういった雰囲気を偶に匂わせてくるから。警戒する練習? みたいな?
でも今の言葉には真実がこもっていて。それはハッキリと感じた。これが演技ならもう何も分からないや。というかそもそも、こちらも回数をこなさいとスキルレベルは上がらないだろうし、使ってくれる先があるなら願ったりだ。なんせ素材は支給されるから僕にとってはタダなのに消費分小遣いは入ってくるというなんかずるい構図になっている。只でさえ贅沢させて貰っているのにね。
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